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第41話 ソウコウ救出戦

 プレアデスは赤い月の上空にいる。

 艦長であり、最強の勇者であるソウコウが敵に取り込まれた。


 プレアデス艦内では、今後の対応について議論が交わされている。





「まず、これから俺たちはどうするべきかだが……」


 副長のサトシが乗員の意見を聞く。


「艦長は非常に強力な勇者です。まともにやり合って勝てる相手じゃない」


 西野はソウコウとの戦闘に消極的だ。


「では、見捨てるというのか? 赤い月はどうする?」


「赤い月の解放を諦めると言うのも一つの手ではあるかと……」


「しかし、それでは死んでいった者たちが報われません」


 アイラが若干興奮気味に異議を唱える。


「アイラ、感情論に走るな」


「……申し訳ありません」


「とはいえ、赤い月の解放は俺たちの戦いの大義ではある。しかし、その阻害要因としてソウコウ……いや、今はティターンだな。奴がいる」


「つまりは、ソウコウ様を何とかすれば、赤い月の解放は可能だということですね」


「そうだ、アイラ」


「サトシ、ソウコウを倒すことは本当に無理なんかの?」


「ベリアル、サーシャを中心として決死で挑めば無理じゃぁない。しかし、被害も大きいだろう。それに、ソウコウを倒したところでその瞬間にベリアルが乗っ取られたら一巻の終わりだ」


「それはそうじゃな」


「どうしたものか……」



「そうだ! はいはい!」


 一同が沈黙した中、突如ユウナが挙手した。


「どうした? ユウナ」


「敵は意識体なんでしょ? 私が何とかしようか?」


「できるのか?」


「艦長が意識を失いさえすればできるよ!」


「意識を失わせる……か、難易度高いのう」


「難度は高いがそれでソウコウを取り戻せるなら、そのアイデアに乗りたい。それに……」

 

 サトシはアイラをチラ見して続ける。

 

「方法さえ確立出来れば赤い月の民を救えるしな」


 アイラの表情が一瞬明るくなった。

 




 翌日、プレアデスは青い月に訪れた。

 ソウコウとの戦いを有利に進めるにはクローディアの手を借りる必要があるからだ。

 

「……と言うわけで、クローディアの力を借してくれないか、セーヤ」

 

 サトシはセーヤにクローディアの戦線投入を依頼した。

 

「状況は把握しました。ですが、姉にはこの星を守ってもらわなければならない」

 

「そうか……」

 

 サトシは落胆する。


「悲観する必要はないですよ。僕がソウコウさんの相手をしましょう」

 

「え? でもセーヤは青い月の王だろ?」

 

「えぇ。でも、ソウコウさんが敵になったとなれば青い月が再び侵略されるのは時間の問題です。この星の護りは姉に任せて、僕がソウコウさんを止めますよ」

 

「しかし、君は過去に一度、ソウコウに敗れている」

 

「見くびらないでください。僕が負けたのはソウコウさんの『運命』に負けたんです。今の彼はソウコウさんの身体を持っただけの存在に過ぎない。負けませんよ」

 

「判った。では改めてお願いする。セーヤ、俺達に手を貸してくれ」

 

 サトシは頭を深々と下げた。

 

「はい。喜んで」

 

 セーヤは微笑んだ。

 

 

 

 

 セーヤの旅支度が整った。

 セーヤの姉クローディアがプレアデスまで見送りに来た。

 

「ほんじゃ姉さん、行ってくるけぇ」

 

「うん、頑張ってき。 あ、そうじゃ。これ」

 

 クローディアは胸元から石でできた守りを取り出しセーヤに渡した。

 

「これ持って行きんさい。姉さんの幻楼げんろうを一回だけ使えるようにしといたけぇ」

 

「姉さん、助かるわ」

 

 セーヤは姉の守りを握りしめた。

 

「大丈夫。セーヤは負けんよ」

 

「ありがとう、じゃあ行ってくるわ」

 

 姉弟の別れを経て、プレアデスは再度赤い月に向かって飛んだ。

 

 

 


 ソウコウ(の身体を乗っ取ったティターン)とセーヤが対峙している。

 ティターンの背後には五千人を超える軍勢がいる。それに対し、セーヤは一人だ。プレアデスは上空で待機している。

 一人で戦うのはセーヤ自身からの依頼だった。

  

「性懲りもなくまた来たか!」

 

「ソウコウさん、酷いざまですね」

 

「貴様は青い月のセーヤか。知っているぞ、貴様はこいつに一度は負けている」

 

「黙れ下郎」

 

 冷たく言い放つとセーヤは剣を構えた。

 

 シュッ!

 無言でセーヤは斬りつける。その斬撃はティターンの脇腹にきれいに入った。

 

「くっ!」

 

 脇腹から流れる血を押さえ、後方に飛び退けるるティターン。

 

「全軍に命ずる、この男を殺せ!」

 

 魔道士部隊が一斉に火炎魔法を放ち、歩兵部隊が斬りかかる。

 しかし、セーヤはそれを最小限の動きで避ける。いや、避けているのではない、当たらないのだ。

 

「なるほど……『奇跡魔法』か。因果を操り、必然を偶然で上書きするらしいな」

 

「……」

 

 セーヤは無言のままティターンに近づく。

 

「しかし! ソウコウは貴様を倒した!」

 

 ティターンが長剣を振りかざす。

 

「食らうがいい! 極大雷撃魔法ライトニングボルト!」

 

 セーヤの全身を雷撃が襲う。眩しい光が若武者を包んだ。 

 

「ハハハハ! どんどん強くするぞ!」

 

 雷撃はなお強くなる。業火と雷撃の中、セーヤは呟いた。

 

「……勇者の身体は乗っ取れても、運命までは乗っ取れてはいないようだな」

 

 なおも自分に向かって歩くセーヤにティターンは焦りを覚えた。

 

「『偶然』躱した程度で得意気になるな!」

 

「『偶然』じゃない、因果に紡がれた『必然』だ」

 

「訳のわからないことをっ!」

 

「そして、それを更に覆す。それが……」

 

 セーヤは剣を逆手に持ち替え、その柄でティターンの顎を砕いた。

 

「『運命』だ」

 

 ティターンはその場に倒れた。

 

 

 倒れたティターンを抱え、転送魔法の護符の封印を切る。セーヤとティターンはプレアデスに転送された。

 

 

 

 

「やった! ありがとうセーヤ!」

 

 ユウナがセーヤに抱きつく。

 

「いや、僕は出来ることをやっただけです。ここからはあなたの仕事だ」

 

「うん! 頑張るね! じゃぁティターンやっつけてくるよ!」

 

 軽く返事をするとユウナはソウコウの意識世界に飛び込んだ。

 

 

 

 

 ソウコウの意識の中――。

 そこには澄み渡った空に広い草原があった。

 小川が流れている。

 

 地平まで続く草原の真ん中にソウコウは立っていた。

 

「艦長の中、気持ちがいいね」

 

 屈託のない笑顔を浮かべるユウナ。

 

「そうか? ありがとう」

 

 微笑み返すソウコウ。

 

 

「……でも、あなた……

 

 艦長じゃないでしょ?」

 

 

 ソウコウの顔色が変わり、その顔は黒く滲み始める。やがて顔は崩れ、黒いアメーバのような塊に変貌した。

 

「艦長、起きて。あなたはまだ生きている」

 

 青空は赤黒く染まり、草原は流血の大地に変わる。地平の果には巨大な火柱が立ち上る。

 

「これがホントの艦長の世界なんだね」

 

「あぁ、そうだ……俺は血の中にいる」

 

 いつの間にかユウナの傍らにソウコウが立っていた。その目は哀しみに満ち、血を流している。

 

「じゃぁ、あれは誰だかわかる?」

 

 ユウナがアメーバ状の物体を指差す。


「ティターン……斃すべき敵……」

 

「そう。あなたの中に巣食う敵」

 

 ソウコウは血に濡れた長剣を構え、ティターンを一斬りのもとに斃した。

 

「艦長、また後でね」

 

 ユウナはソウコウの意識をあとにした。

 


 

 

 ソウコウが目を覚ます。

 砕けた顎と斬られた脇腹は回復系魔道士が治療したが、まだ痛みは残る。

 

「いててて……」

 

「お帰り、艦長」

 

 最初に視界に入ったのは優しく微笑むユウナだった。

 

「おう……、ただいま……」

 

 

 

 

 ティターンを倒したことで、赤い月の奪還作戦には決着がついた。

 残った敵兵については仮の肉体としてベリアルが組成魔法で作った肉人形が充てがわれた。

 

「セーヤ、今回は本当に助かった。ありがとう」

 

 ソウコウはセーヤに礼を言った。

 

「ハハ、この貸しは高くつきますよ。

 あ、そうだ。これを差し上げます」

 

 セーヤは懐から石でできた守りを取り出した。

 

「これは?」

 

「姉さんの幻楼が込められている守りです。今後何かの役に立つかもしれません」

 

「ありがたく頂くぜ」

 


「ソウコウさん、これで赤い月星団は解放されたけど、これからどうするんです?」

 

「そうだなぁ、どうする? サトシ」

 

「俺?」

 

 サトシはまさか自分に話が振られるとは思っていなかったので面食らった。

 

「えーと、そうだなぁ……正義の味方でもやるか?」

 

「正義の味方か。いいな、ソレ」

 

 プレアデスの艦内に笑い声がこだました。


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