狂った人形姫 中編
俺が長考している間、メイリーズは動かず笑みを浮かべている。
考える時間を与えてくれるのには感謝だ。
俺が選ぶ未来を知っている。
だが、それに辿り着くには時間が掛かる。
だから待つ。
釈迦の手の上で踊らされる、とはこんな感じか。
どうも釈迦が数人いる感じがして堪らないが、今はメイリーズに集中だ。
メイリーズは鐘で俺が鐘撞きだ。
俺が叩けば、その強さに応じて鳴る。
俺が叩かなければ、勝手に鳴りまくる。
一言で言えば、はた迷惑な存在だ。
俺がメイリーズの目的に反しない限り、メイリーズを従える事は出来る。意のままに操れると思い込み、自滅した者の数は計り知れない。
とはいえ、メイリーズは目的のためなら平気で俺を魔王に売ったり、浮遊大陸を海の底に落とす。目的を成すためなら、如何なる犠牲も厭わない。それ故、狂ったとか壊れたなんて言葉で語られる。
言わば、俺に従う方が目的が達成される可能性が高いと常に思わせなければ、俺自信が目的のための犠牲となる。メイリーズがどういう基準で損得を計算するのかは分からない。
『レイラ、何か分かるか?』
『出来が良いなら、何処かの神がバックドア仕込んでいるよ』
『候補は?』
『光、闇、叡智、賭博かな』
賭博の神がいたなんて初耳だ。
メイリーズがいつ主を裏切るかは賭けの対象としては面白い。
『闇以外なら大丈夫か?』
『大帝国の復活は嘘じゃないと思うよ』
『闇の可能性は低いか』
大帝国の復活は大帝都の奪取が絶対条件だ。
浮遊大陸の動力とモンスター創造の魔法陣がある。
これまでの歴史から見て、闇の勢力は大帝都を人の手から遠ざけたい。
『いっそ《光魔法》で浄化してみたら?』
『これ以上内面を弄るのは怖い』
数日でサリスにあれだけの罠が仕掛けられていたのだ。20年弱ずっと調律されていたと言うのなら、どんな罠が仕掛けられているか考えるだけでも恐ろしい。
いつまでも待たせるわけにはいかない。
悩んでも結論なんて出ない。俺の目的と妹の幸せを中心に考える。
メイリーズは妹が召喚されるまでなら最強の味方だ。浮遊大陸のために大帝都奪還を伝えれば、ここ数年の忠誠心は天元突破する。南方を支配して、新帝国樹立関係も勝手にやってくれる。
メイリーズは妹が召喚された後に最凶の敵になるかもしれない。大帝国と妹には関係が無いが、俺が妹を優先すればメイリーズの不興を買う。不興を買っても妹を優先するのがシスコンだ。
待てよ。
……最悪、異世界転移で地球か俺と妹が住める世界に逃げるか?
この世界の命運は妹の幸せの前では重要では無い。
途中離脱が出来るから、そう気負う事は無いじゃないか!
そう思うと、なんか気が楽になった。
「大帝国の復活。その願い叶えてやる」
俺が格好良く言い放つ。
「流石はライ様、いえ皇帝陛下」
「俺が皇帝か?」
「《光魔法》を使えるならば当然です」
「分かった。だが戴冠はまだ先だ」
「早い方が良いのですが?」
「俺には俺の目的がある。それが終わらない限り戴冠は難しい」
「目的とは?」
「妹が勇者として召喚される」
言うか迷ったが、こうなってしまっては、妹を大帝国復活に絡めるのが最善だ。
妹の安全確保の重要性を説いておいた。
「だから無駄な学園に通うのですね」
メイリーズは全てを察した。
「戴冠は出来ないが、早い内に大帝都を奪還したい」
動力炉の話はしなくても良いだろう。
この件はメイリーズには関係無い。
「南方の土豪を片付ける事になります。お覚悟はよろしくて?」
「当然だ」
俺は躊躇無く答える。
土豪は女子供まで全て根切りにする。
それがメイリーズの考えだ。
恭順の意を示す土豪は助けたいが、エルフと同様に皆殺しにする大義名分はこちらにある。公国を狙う黒幕は魔王と繋がっている。それに従う土豪には容赦は出来ない。
「分かりました。他に何か隠し事はありませんか?」
「……」
冷や汗が出る。
隠し事があるのはばれている。
何を隠しているかは知られていないはず。
「ライ様?」
「内緒だが《王権》の称号を持っている」
皇帝になるなら、これが有るか無いかで国の有り方が変わる。
メイリーズなら絶対有り難がる。
「ライ様、答えるまで3秒の硬直がありました。後2つありますね?」
胃が痛い。
怖すぎるぜ、メイリーズ。
これを完全制御出来るとか自惚れたやつはどんな神経をしていたんだ?
『宿主様より遥かに弱かったから、この子の術中に嵌っているのを認識出来なかったんだよ』
レイラが謎の励ましをしてくれる。
メイリーズも神もどきだ。
人では持て余すか。
「《光の従属神/妖精の小神》の称号もある。今言えるのはこれだけだ」
ここで主導権を取り戻す。
全てを明かす必要は無い。
流石に小神だと知れば少しは驚くだろう。
「今夜はそれで納得しておきます」
「驚かないのか?」
驚くだろう、普通は?
魔王を除けば超絶レアな存在なんだぞ!
「あの動物を見た後では、この事で驚くのは不可能です」
「サークか?」
何処からどう見ても立派な白馬だ。
「皆、馬では無いと知っています。その上で、私が知らない新種となれば、《創造》系スキルの産物の可能性が高いです。生命を創造出来るのは小神からです」
「すなわち、俺が言う前からほとんど全てばれていた、と?」
「ご明察です」
嫌味にしか聞こえない。
とは言え、ここまで手も足も出ないで圧倒されたのは、こっちに来て始めてだ。
今は味方なのがせめてもの救いか。




