希少空間 後編
浮遊大陸が落ちたら大変だ。しかし、俺には関係が無い。
「俺は飛べる」
今の俺なら数百人を船に乗せて抱えられる。
大陸が落ちてから残った陸地に着陸すれば良い。
「陸地がなくなったら世界は大変な事になります」
もしかして、浮遊大陸が最後の陸地?
「俺は異世界転移が出来る」
実は出来るんだ。やった事が無いから失敗する可能性はある。
ただ、異世界の座標が分からないから、何処に出るか分からない。
人が住めない宇宙空間や恒星のど真ん中も有り得る。
滅びの黒龍と一緒に浮遊大陸の端までテレポートして、一緒に落下。テレポートで浮遊大陸に帰還出来なければ、異世界転移する予定だった。幸いレイラが目覚めたんで、こんな博打を打たないで済んだ。
ナレーターはこの会話を無視して続ける。
『数日前の滅びの黒龍の一撃が致命傷』
俺に責任を被せたいのか?
『しかし、まだ手遅れでは無い』
ペチペチ
神がスクリーンを後ろから叩いている。
映像が歪む。
俺は執事を見る。
執事は首を振る。
見なかった事にしよう。
『動力炉をスペアと交換するだけで1000年は持つ!』
ワァァァ!
何処からかファンファーレが鳴る。
俺の真横から聞こえる。
SE担当は執事か。
神基準では真面目なんだ。なんだよな?
「具体的には何をやらせたいのだ?」
「浮遊大陸が1000年落ちない様にして頂きたい」
「方法は?」
「お任せします」
「……」
俺にメリットはあるのだろうか? 動力炉の交換すら必要無いのか。たぶん交換がもっとも簡単に依頼達成出来る方法なんだろう。
「報酬は前払いです。失敗してもペナルティーはありません」
成功すると思っていない。
それ処か本当に取り掛かるとすら思われていない。
これでは、ここに来て出来の悪い喜劇に付き合った参加賞だ。
「前に来た資格者に同じ提案をしたのか?」
「はい。そして断られました」
だろうな。ペナルティー無しの前払いなんて逆に胡散臭くて怖い。
「報酬は見せて貰っても良いのか?」
「もちろんです。前回の資格者も見てから断られました」
パチン!
執事が指先を鳴らすと4つの光の玉が出て来た。
ゴゴゴッ
数秒遅れで台座が地面から生えてきた。
順序が逆では、と突っ込んではいけない。
「この4つの知識から1つを選んでください」
1の玉が「素人でも分かる、地球に異世界転移する方法」だ。これを選ぶと地球の座標が分かりそうだが、自力で見つけられるから無価値だ。
2の玉が「妨害マニア必携! 勇者召喚を出来なくする裏技」だ。妹がこの世界に来るのを止められそうだが、それでは妹に会えない。シスコン的にはNGだ。
3の玉が「これで妹の将来もばっちり~試練攻略早見表付き~」だ。俺の妹をピンポイントで狙い打ったのは見事だが、妹に危険が迫るなら俺が力付くで排除するだけだ。
4の玉が「神様監修=浮遊大陸を10ステップで救う方法=」だ。「白の者のセクシーブロマイド付き」と小さく書いてある。……これをどうしろと?
「報酬が悪いとか言われなかったか?」
一応言っておこう。
「前回の資格者もそう言っておられました」
ワザとやっているのか?
それは無いだろう。
神が数少ない接触チャンスを棒に振るとは思えない。
危機は本物で、対策も本気で考えている。
ただ、俺とは感性に致命的なズレがあるだけだ。
事の本質を見切らねば!
「報酬は確実に本当の情報なんだな?」
「神の名に誓って」
嘘は無い。
ここで嘘を付けば神は零落するだろう。
流石にそこまで自己犠牲の塊には見えない。
どっちかと言うと自己中を拗らせた悪ガキだ。
「……分かった。貰える物は貰って置こう。俺は4の玉を選ぶ!」
これ以上問答を繰り返しても時間の無駄だ。
彼らが提供してくれる情報は打ち止めだろう。
笑えないコントに付き合うのは思ったより疲れる。
4の玉がふわふわと俺の下に飛んで来た。そして俺に吸収された。
「うぐっ!」
頭に激痛が走ると同時に必要な情報が手に入った。
情報量が多い。果たして全部覚えていられるか?
「あの妖精に任せれば必要な情報を適時参照できるでしょう」
執事が言う。
レイラの存在込みでこの話を持って来たか。
食えないやつらだ。
「おまえの主、性格悪いと言われていないか?」
ガンッ!
スクリーンに何かぶつかった音がする。
「はい。性格が災いして信者数0です」
少ないとは思っていたが0だったとは。
「それでは力が無く、世界への干渉も出来ないな」
「まったくです。《スキル希少》が最後の希望なのです」
「まあ、頑張ってくれ」
他人事だから適当に流そう。
「何故4の玉を選んだか聞いても宜しいですか?」
執事から質問するとは珍しい。
「構わないが、何か気になる事があるのか?」
「はい。私は主様と些細なゲームをやっております」
4つの褒美を用意する。神が1つ。執事が3つ。執事の褒美は神が指定した方向性の中から自由に決められる。執事の褒美が選ばれたら執事は自由になって、神の世話役から解放される。神が勝てば、執事は継続して神の世話をする。ノーゲームの場合は次の資格者が来るまで現状維持。
俺が最初にゲームを遊んだ資格者らしい。
「方向性は、俺がもっとも必要としている情報か?」
「!! ご名答です。知っておられたら、何故選ばなかったのですか!?」
この神、性格が悪い。
「おまえの敗因は二つ。一つは妹に関する事は俺だけで出来る」
シスコンの力を舐めたのが運の尽きだ。
魔王の除いたら、たぶん最強たる滅びの黒龍すら妹愛のみで撃破したのだ。
「なんとっ!」
執事の左眉毛が上がる。
「一つは可能性を確定した事だ」
「確定?」
執事が不思議そうに言う。
流石に理解し辛いか。
「俺は本当に地球に転移出来るか分からない。未だ分からない」
「だったら!」
1の玉を選べば良かった、と言いたいのだろう。
「だが、地球転移は可能だと分かった。神の名で誓ったのだ。嘘偽りは有り得ない」
飛行機が出来るまで人は空を飛べないと思われていた。
実例が発見出来なかった地球転移に幾ら労力を裂けば良いか迷っていた。
だが「出来るか分からない」が「絶対可能」になったのだ。
後は俺の力で足りないピースを発見するだけだ。
「そんな……」
執事は左眉毛を降ろす事も忘れて放心している。
神は性格が本当に悪い。
3つ目の敗因は「最初から出来レースだった事」だ。これは言っては可哀想か。
褒美が「破壊神を解放する方法」や「危ない幼女ハーレムの裁き方」だったらそちらを選んでいた。これらは必要だがもっとも必要では無い。そしてこの手の問題には落下する浮遊大陸同様、十全に時間を掛けられない。
時間を掛けられないからこそ、神のヒントが役に立つ。浮遊大陸の件も神が道筋を立てなければ、絶対に達成不可能だった。
達成しようとすれば最低3つの国が潰れて、その実行者は全人類の敵認定される。唯一敵では無くて英雄扱いされる方法も巻末のおまけに書いてあった。武力で世界統一なんて俺が死ぬ前に出来るのか?
ガンガンガン!
「開けなさぁぁい!」
レイラの声がする。
時間を掛けすぎたか。
「そろそろ帰った方が良さそうだ」
「ライ様、お帰りは先程入った扉を開けたらすぐです」
あの長い回廊を渡らなくて良いのか。
て事は、神はコレクションを自慢したかっただけ?
レイラが切れるまでの時間稼ぎ?
「分かった。短い間だったが色々面白かった」
神は性格がどうしようもなく悪いし、執事も苦労をしているフリをしながら結構楽しんでいる。
人生で一回は付き合っても良いかと思える組み合わせだ。
執事がお辞儀をする。
スクリーンの後ろで神が手を振っている。
何処までが演技なのやら?
俺はドアを開ける。
そこには眩しい光しか無かった。
俺が居た部屋は既に無い。
そして女性と思えるシルエットが見えたと思ったら、俺の意識が無くなった。




