希少空間 中編
執事に案内され、長い通路を歩く。
「ここに来たのは何人だ?」
「この2000年でライ様を含めて4人です。1人は事故で迷い込んだので、招待状を受け取ったのは3人です」
《スキル希少》を持っているのが前提の一つだとすると、勇者システムを持っている異世界人の可能性が高い。
「どんなやつらだ?」
「招待状を持った最初の資格者は男でした。1000年前になりますか。死んだ恋人を生き返らす方法を求めていましたが、それは不可能な事。物別れに終わりました」
1000年前と言えば、エルフの絶頂期と魔王の奴隷にされた勇者の時代か。
「次の資格者は女性でした。確かルイ・カツダと名乗っていました。彼女は何も求めず、招待された事を面倒事と捕らえました。彼女も主様の提案を拒否しました」
漢字で書くと勝田類か? カッタルイ公国とも無関係では無かろう。帰ったら調べてみるか? 嫌、やぶ蛇かもしれない。妹に直接関係無いし、やめておこう。
そう言えば、ニュースで聞いた名前だ。数年前に失踪した姉が弟と無理心中を計ってクラスごと爆破した、とワイドショーを賑わせていた。誰の死体も発見出来なかった事が、センセーショナルな報道に拍車を掛けた。
結局真相は不明だが、これは俺と妹と同じパターンか?
弟の数年前に姉が白の者に呼ばれて、この世界で活躍した。強さを求めるなら《スキル希少》に手を出す可能性は高い。あくまで彼女が《スキル解析》を持っていた場合の話だが、有り得なくは無い。
「提案か。面倒事の間違いでは?」
「そうかもしれません。断っても問題ありませんので、気楽に聞いてください。主様は見た目とは裏腹に色々努力している方ですから」
資格者2人が断る程の事だ。相当な面倒事なのか提示された報酬が駄目だったのか。
俺が引き受ける可能性は低いと信じたい。だが神剣クラスの名剣でも報酬と提示されたら、考えを変えるかもしれない。
1000年前から提案が変わっていないなら、タイムリミットが無いのか。それだと気楽で良い。
それとも1000年経っていよいよ危なくなったか。
招待されなかった人物については何も教えて貰えなかった。
しばし無言で歩く。
左右には美術品を始めとした希少な物が展示されている。
この手のものには疎い俺の記憶頼りなので、大ハズレの可能性もある。
「主のコレクションか?」
「はい。主様は希少な物を収集するのが趣味なのです」
武器と防具は使ってこそと思うが、俺の物じゃないから何も言うまい。
「何か気に入った物はありますか?」
「本物なら、と思う物なら2、3」
執事が一瞬左の眉毛を上げるが、すぐに戻す。
「流石です。気付かれましたか」
「少なくても武器は全部レプリカだ。防具も8割方そうだ。絵画については専門外で分からん」
「素晴らしい洞察力です。防具も絵画も全てレプリカです」
専門家で無いと気付けないレベルのフェイクだ。専門家でも気付けるかどうか分からないレベルで完璧に再現されている。
スキルは無いが《剣術 8》の恩恵で刀剣類の知識だけはある。見るだけで真贋が分かるのは便利だ。剣そのものが完全なレプリカでも剣に宿っている力までは再現出来ていない。これが数打ちのアダマンタイトの剣ならレプリカの方が性能が上かもしれない。
この状態でもスキル経由の知識を保持出来ていると知れたのは大きな収穫だ。少なくても知識による判断は信用出来る。これが欠けていれば、そこに思考の落とし穴が出来ていたかもしれない。
大きな扉の前に着いた。
「ここか?」
「はい」
執事がドアを開ける。
中には何も無い。
執事が虚空からスクリーンを下ろしてきた。
最初の部屋でも出来たのでは、と突っ込まないで置こう。
たぶん、俺では理解出来ない様式美があるのだ。
黒白の画面に数字の無音カウントダウンが始まり、それが終わるとライオンの鳴き真似をしている何かが吠えた。執事の声に近いが、気のせいだろう。
そしてナレーターの声が聞こえた。これは初めて聞く声だ。
『世界は滅亡する!』
そうなのか。
しばらく沈黙が続く。
『世界は滅亡する!』
ふうん。
次は?
俺は執事を見る。
「リアクションを欲しているのです」
上映に見せかけて実はリアルタイムか?
「なんだってぇ」
気の抜けた声で言う。
『この浮遊大陸の動力源は大陸中央にある』
マップが表示される。綺麗な円形だ。
浮遊大陸だったのか。
中央はあくまで円形の中央。
俺が認識している大陸の南東に位置する。
浮遊大陸の南東は大きな海だ。
おかしい。
浮遊大陸の中央にするには場所が変だ。
「何故浮遊大陸の南東に海しか無いのか、気になりません?」
執事が言う。
「何か有ったのか?」
「陸地です」
執事の発言が本当なら、今ある大陸の1/3のサイズの陸地が海に沈んだ事になる。
『過去の地図を見せる』
ナレーターが予め準備していた様に古代の地図を投影する。
なんて事だ!
1/3じゃない。1/2だ。
カッタルイも南方の国家群も全部内陸にあっただと!
「魔王と勇者の戦いか?」
「その通りです」
滅びの黒龍は確かに桁違いの破壊力を持っていた。しかし大陸を海に沈めるほどの化け物では無かった。やはり魔王はこの遥か上を行く存在か。
「沈んだ大陸は置いておいて、本題の続きを頼む」
何事も無かった様にナレーターが続ける。
『大陸を浮かせる動力炉は度重なる過剰負荷を受け、崩壊寸前』
それは大変だ。
「放って置くとどうなる?」
「世界は滅亡します!」
執事が左眉毛を上げて宣言する。
「……」
そうか、そうか。
「世界は滅亡します!」
天丼か。
溜息も出ない。
「帰って良いか?」
神と人との感性にこんな差があるとは思わなかった。白の者だって神基準では有能になっているが、俺基準では不器用なドジっ子だ。
この神と執事も彼ら基準では大真面目なんだろう。神がスクリーンの後ろに居て、微妙にシルエットが見えたりするが、無視した方が良いんだろう。執事もアイコンタクトでそんな事を言っている。
「浮遊大陸が落ちたら大事です」
流石にまずいと思ったのか、執事が強引に本題に入った。
提案とは、浮遊大陸の落下を止めて欲しい、辺りか?




