ハーピー戦
湖のほとりで一泊した俺達は西に向かった。
俺と3人娘だけなら目的地に1日で着いたが、調査団と一緒のため3日は掛かる見通しだ。時間が掛かるなら、ついでだからと近隣のモンスターを狩る事にした。
最初の1日はゴブリンが多かった。調査団でも一対一なら余裕で対処出来た。
「実力なら騎士並みか」
俺がマイクに言う。
輜重兵に紛れていたとは言え、それを率いていたマイクはれっきとした騎士だ。調査団のメンバーは実力はあるが騎士では無いみたいだ。
「家柄と金です」
どちらかと言うと、金の問題だ。公国では家柄は金で買う。
騎士には一定以上の実力があれば誰でもなれる。
しかし騎士に叙任されるにはそれ相応のワイロが必要だ。
ワイロの額は家柄次第。
歴史ある良家の長男ならワイロは必要無い。親が騎士の場合も同様だ。
ワイロが必要なのは良家や騎士家の3男、4男。それと平民やスラム出身者。
ワイロを支払わないといけない人ほど金を持っていない。
「世知辛いな」
「ですが、この任務が成功すれば、全員晴れて騎士になれます」
功績があればスポンサーが付く。
この場合は第1公子だ。
彼が後ろ盾になるなら、ワイロは支払われたも同然。
第1公子なら簡単に全員を騎士に出来たが、功績無しの者を騎士に推薦すれば白い目で見られる。それが敵に不必要な攻撃材料を与えるかもしれない。
ある程度簡単で、ほぼ確実に成功する任務を与えるとは、公子も中々面倒見が良い。
こうやって自派閥の人間を増やしているのだ。
一番の政敵である第2公子が軍に強い影響を持っているのだから、軍の主力となる騎士は一人でも味方に欲しいはず。
「護衛任務の時よりやる気が高いのはそのためか」
「あれは輸送任務です」
「まったく、割りきりが良い男だ」
輜重兵とは言え、クローディアの護衛は仕事の内だ。輜重兵なんて役に立たないと言うのが一般的な見解だが、クローディアに万が一の事があれば責任を取らされていた。ここら辺はマイクと第1公子の間に密約があったのかもしれない。
2日目になるとモンスターが居なくなった。どうやら全部ハーピーの餌になっているみたいだ。
「予定より増えているかもしれない」
「それは困りました」
俺はマイクに注意を促しておく。
サリス経由で大体の数は分かっているが、明かす必要は無い。
3日目にはハーピーの勢力圏に入った。
「閣下、アーマードライノです!」
マイクが悲鳴に近い声を上げる。
固い皮膚が特徴的なサイだ。ハーピーの爪では傷つけられないので、ここら一帯の陸地を支配するモンスターとなった。
騎士が数人掛かりでも倒せない。ポルルでも無理だ。
「ピット、アイススピア」
《土魔法》で落とし穴を作り、落ちたライノを《水魔法》の槍で貫く。次元収納に入れて終わりだ。
「調査団、全滅する覚悟だったのですが……」
「足が遅い雑魚だ」
もう一歩で悟りを開きそうなマイクを無視して、サリスが見つけたアーマードライノを狩って行く。こいつらがいると採掘作業が出来ない。それに、こいつらの皮膚は重装歩兵の鎧としても使われているため、高値で売れる。
ライノの血の臭いでハーピーが数匹来る。6匹で1チームを形成しているのか。これなら勢力圏を拡大したのも分かる。こういう戦い方を指導出来るリーダーがいるのだろう。
「ウィンドシェイバー!」
俺は《風魔法》の刃を続けざまに2発撃つ。
最初の1発は回避された。回避した所に2発目が当たった。
「止め、刺す」
ポルルが走って行った。
即死か致命傷だが、念のために確実に息の根を止めておく。
「ハーピーは《風魔法》の軌跡が見えるみたいだ」
「本能的な部分が強いですから、2発撃てば撃墜出来ます」
俺とサリスでハーピーの攻略法を話し合う。
魔力の流れが本能的に分かるのはポルルと似ている。ハーピーはどうやら風属性のみなので、ポルルに比べるとかなり劣る。
マイクは「閣下、すごいです」を連呼するだけになった。
もう少し調査団に見せ場を用意しても良いが、これは俺の仕事だ。調査団は調査団で金鉱脈の発見と言う大事な仕事がある。モンスターは俺が倒すで問題無いはず。
ハーピーの巣とも言える場所に辿り付く。上空には300匹を超えるハーピーが飛んでいる。俺達を見つけて襲ってくるやつもいるが、ポルルが投石で撃ち抜いている。
「数が多い!」
マイクがそう言いながら弓を取り出す。
「テンペスト!」
俺が《風魔法》の奥義の一つである台風もどきを巣の中央に展開する。
テンペストより放たれる衝撃波がハーピーを膾切りにする。
普通のハーピーより一回り大きい固体を確実に始末する。こいつらがリーダー格で、こいつらさえ始末すれば普通のハーピーが残ってもさしたる脅威では無い。
「20匹ほど生き残ったか」
範囲外に居たハーピーをどうするか。
「ご主人様、後はお任せを」
サリスが弓を引き、遠くにいるハーピーを鴨撃ちする。
「ポルル、負けない!」
ポルルも負けじと近くにいるハーピーを投石で撃ち抜く。
「私達の仕事は?」
矢の射程外なのか、マイク達は手持ち無沙汰だ。
「無い」
調査団には悪いが、騎士程度の力しか無いのなら、俺達がよほど接待プレイをしない限り、彼らに出る幕は無い。
大人しくニコルを見習って薬草採取でもしていれば良い。彼らのプライドがそれを許さないのだろう。ニコルがシレッと毒きのこを採取しているので、後で焼却しておこう。
「終わったぞ。俺はハーピーの死体を集めてくる。マイクは金鉱脈を探せ。ちなみに、あっちに400メートル行った所に何かありそうだ」
俺は指示を出して、後片付けを開始する。金鉱脈の場所と大凡の埋蔵量は《土魔法》で調べた。大した量は無いが、ゆっくり掘れば50年以上は鉱山町が賑わうだろう。第1公子が望むほど公国の財政には寄与しないだろうが、プロパガンダ次第で化けるかもしれない。
しばらくすると調査団が歓声を上げた。
「見つけた! 見つけたぁ!」
マイクが一番喜んでいる。今は祝福しておいてやるか。
「おめでとう。これでマイクも任務完了だ」
「閣下、ありがとうございます」
「して、これからどうする?」
「キャンプを張って増援を待ちます」
「増援?」
「閣下が報告書を第1公子に渡せば、後は公子がやります」
「分かった」
しかし、そうなるとモンスターが多い地で調査団が野営する羽目になる。全滅の危険が高い。それに彼らを狙うのは何もモンスターだけでは無い。
仕方が無い。
ここは恩を売っておくか。
「なら俺が陣地を作って、ついでに近くのモンスターを狩って置く」
「よろしいので?」
「増援が来て、調査団が全滅していたのでは話にならない」
俺はそう言って《土魔法》で壁を作る。カッタルイの屋敷より少し大きい面積を囲む。陣地の中に簡素な石造りの家を4つ建てる。これで風雨と上からの攻撃に対応出来る。
壁には階段をくっつけたので、陣地内部から壁の上に登れる。高さのアドバンテージがあれば、矢がより遠くに飛ぶ。
「閣下、既に砦です」
狩り残す弱いモンスターや人族100人相手なら篭城して勝てる。手の内を見せ過ぎずに作れるのはこの辺りが限界だ。
「後は木造の門を追加すれば大丈夫だろう」
「門は調査団にお任せください!」
流石に何かやらないと気が済まないと思って、意図的に門だけは残しておいた。俺がやった方が早くて堅牢なんだが、ここは調査団に任せる。
「分かった。俺はモンスターを狩る事に集中する」
鉱山砦と任命された陣地を拠点に3日ほど狩りに集中した。アーマードライノが一番多かったが、他には保護色で風景に紛れるカメレオンドレイクが数匹居た。ワイバーンより少し手強い程度なので相手にすらならない。マイクは「幻のモンスターだ!」と騒いでいたが、大したことは無い。
「閣下、何から何までありがとうございます!」
「これからカッタルイに真っ直ぐ帰る。増援は10日以内に来るだろうから、それまでしっかり防御を固めておけ」
「はっ!」
マイクと調査団を残し、俺と3人娘は帰路についた。




