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破壊神と妹勇者  作者: 朝寝東風
第一章
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南の砦 前編

 次の昼前には砦に到着した。


 事情を察した人が多かったのか、予想より早い行軍だった。出発時の混乱が無ければもう少し早かったが、これでも混乱は少ない方だと将軍が言っていた。士気も練度も最低の輜重兵が順番通り一列に並んで歩くのはかなりハードルが高いらしい。


 見た目重視の行軍のおかげで、砦に着いた時には実際より大きな軍が来たと守備兵が思ってくれた。実際は主力騎士が蒸発しているのだが、砦を守る一般兵には関係が無い。守備兵を率いる騎士達は思う所があったが、顔に出すほど愚かでは無かった。


 ポルル達は砦から徒歩2時間辺りの所で別れた。西に向かって、湖沿いで待機するよう命じた。この辺のモンスターならポルルがいれば大丈夫だ。サリスの情報収集によると、脅威となる存在はいない。最悪、数日で俺が戻らなければ、カッタルイに帰還する様に伝えた。ポルルは渋ったがサリスが説得してくれると言っていた。


 砦中央にある広場で砦司令がクローディアを出迎えた。


「クローディア第1公女様のご到着!」


 この手のセレモニーを取り仕切る兵士が声を上げ、計った様に拍手喝采が沸き起こる。クローディアは人形らしく完璧な演技をしたが、その行動に心が篭っていない事は一目瞭然だった。最初の数日なら誰にも気付かれないだろう。


「公女様はお待ちしておりました。私は砦司令のヘイガルと申します」


 多少腹が出ているが、実力がありそうな中年がクローディアの気を引こうと礼儀正しく接する。その身なりからしてある程度成功した野心家だと窺い知れる。


 砦司令に就任する前は第2公子に上手く取り入っていた。将来の南方侵攻の本部とも言えるこの砦の司令官に任命されたのが彼の絶頂期。第2公子の野望が陰って来て、この砦が政治敵対者の流刑地に早変わりした。


 そうなると、彼は第2公子からも距離を置かれる様になる。今頃カッタルイでは第2、第3のヘイガルが上手く第2公子に取り入っているだろう。ヘイガルが欲しかった南方征伐軍の司令官の地位は決して手に入らない。


 それでも砦司令は要職だ。公国の南の守りを一手に引き受けている。今の地位に満足して、大過無く勤めを果たせば、彼とその家族の地位は高まる。


 それで満足出来る男なら良かった。


「ご苦労」


 クローディアが台本通りに答える。


「して、こちらは?」


「将軍代行のライだ」


 将軍が答える。他国人がクローディアの側近の位置に立っていれば目立つ。目立つ様に誰かが配置したのだ。


「他国人を将軍代行ですと! 正気ですか将軍?」


「当然だ」


 将軍がムスッとする。現場判断に口を出す管理職が嫌われるのは何処の世界でも同じだ。


「砦建物内への侵入は許可出来ません」


「何を言う! ライ将軍は第1公子直々に司令官に任命された男だ。砦司令程度が口出せる立場では無い!」


 将軍が声を張り上げる。その大声は砦中に響いた。


「何を言うか! この砦の責任者は私だ!」


 ヘイガルも負けじと怒鳴り返す。


 二人の間に火花が散る。


 このまま戦闘が始まるのでは、と思える一幕だ。双方の騎士達が臨戦態勢を取る。輜重兵と守備兵は見世物を楽しんでいる。上層部の権力争いなどいつもの事なのだろう。


 クローディアは相変わらず無表情だ。正体を知らなければ大物と誤解される。


 明確な階級制度が無く、更には指揮系統も違うため、どちらが上かは誰にも分からない。慣例に従えば、将軍とヘイガルは同格だが、砦内部の事ならヘイガルの意向が優先される。


 俺はメイドさんがでっち上げた書類によると将軍の上官に当たり、純粋な指揮官としてはヘイガルより上だ。それでも砦内部ではヘイガルの方が上かもしれない。意図的に慣例が無い身分を選んだメイドさんは結構良い性格をしている。


 残念ながら、俺が砦司令を任命出来る様な身分は無理だった。なんでも形あるものの指揮官の任命には公王の裁可が必要らしい。砦司令や表敬訪問部隊の将軍は無理だが、クローディア直属の傭兵将軍は可能。砦に永住するなら南方総督の身分を用意出来ると言われたが、全力で断っておいた。


 色々と問題がある制度だが、公国はベテラン軍人が足りない。現場判断で実力がある傭兵や流れ者に指揮権を与えて戦う事を想定している。建国当時には良く使われていたが、ここ最近では俺しかいないらしい。


「待て、二人共」


 俺が二人を止める。


「他国人が何か用か?」


 ヘイガルが睨み返す。


「俺は残った仕事が終わり次第、今日中に砦を出る予定だ」


 意図的に「俺」を使い、生まれが低く教養が無いように振舞う。


「なら、内部に入る必要は無いな! これでこの話は終わりだ!」


 ヘイガルが勝手に話を終える。将軍は何か言いたそうだが、俺が去る事のショックが大きいのか言葉が出ない。


 将軍だけショックを受けては可哀想だ。


 ヘイガルには白い目で見られる屈辱を与えてやろう。


「ヘイガルよ、アイテムボックスに預かっている荷物を取り出せば、俺の仕事は終わりだ。広場の一角を使わせて貰うぞ」


「勝手にしろ」


 言質は貰った。


 公国のために戦って死んだ騎士達の遺体を広場で野晒しにしろと言った砦司令の今後が実に楽しみだ。同格の将軍と火花を散らし、配下の信頼をも失えば、ヘイガルの取れる手は余り多くない。

投降前に仮眠する予定が、気付けばこんな時間になってしまった。

遅れて申し訳ない。

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