密会 続編
「私の気配に気付くとは、ライ様はやはり凄いですなぁ」
暗闇でもシルエットが見える位置に輜重兵のおっさんが出て来る。
「リティーの少し後ろから来たのが見えたからな」
リティーは全然気付いていなかった。
俺も《魔力可視》が無ければ見落としていた。
気配を完全に殺して、周りの環境に溶け込んでいた。
場合によっては、真昼間でも彼を「見る」事が出来ないかもしれない。
「世間話をしに来たのではないのだろう?」
「はい。早速本題に入らせて頂きます」
雰囲気が変わった。
これがおっさんの仕事モードか。
「まずは名乗らせて頂きましょう。盗賊ギルド千人頭が一人、名無しの無人と言います。気軽におっさんとお呼びください。私の顔も名前も誰も覚えられませんから」
スキルか? それとも称号か?
おっさんの顔を覚えようとしても、何も記憶出来ない。
おっさんがおっさんだと理解出来るのに、詳細がぼやけている。
俺が考えていたより、恐ろしい男なのかもしれない。
「名乗りからして盗賊ギルドの上の方か。てっきり部外者には名乗らないものと思っていた」
「はい。名乗ってはいけないのです。ですが私は既に死兵。多少ルールを破っても粛清されるまでに命を落としています」
死兵か。
リティーと同じ様に死ぬ覚悟を決めるのが早すぎる。
公国の上層部と上級貴族はこんなやつらばかりなのか?
「千人頭は6人居りまして、盗賊ギルドのナンバー2です」
「これはとんでも無い大物が出て来たな」
「現役時代ならまだしも、一度引退した身。今ではしがないおっさんです」
「現役復帰とはまた災難だな」
「はい。復帰して最初の仕事が息子で後継者の千人頭の暗殺でした」
「何!?」
「ポルルの一族の件は息子の管轄。彼の死を持って許して頂きたい」
おっさんが頭を下げる。
そこまでするか!
そこまでしないといけないと公国が判断したか。
「分かった。一族には俺から話を付ける。必要なら、南方にいる一族の本流にも俺が口を利くと約束しよう」
ここまでされては、矛を収めるしか無い。
族長である俺の言葉なら一族は信じてくれる。
一族の本流はポルルの父親を始め、大人が多い。
俺の言葉が何処まで通じるか分からないが、やるしか無い。
「ありがとうございます。これで心置きなく黒幕を探し出して殺せます」
死兵と化して黒幕を討つか。
「そこまで覚悟を決めているのなら、俺の出る幕は無いかもしれないな」
「はい。ですが他の話はあります」
「例えば?」
「お連れの3人は砦に入れないでください」
ポルルは入れない予定だったが、残りの2人もか?
「ニコルとエルフもか?」
「ニコルは実力不足。エルフは高く売れます」
砦司令権限で接収を企むか。そうなったら、俺は砦司令を斬る。
黒幕を探すおっさんには悪影響か。
「分かった。3人には明日の行軍中に離脱して貰う」
「ありがとうございます。それと、クローディア様の表敬訪問は40日の予定になっています。相手が動くには十分な時間です」
「それだけあれば、裏は取れるだろう。土豪も動くのでは無いか?」
黒幕と土豪には何か関係がある。
40日もあれば、ある程度規模のある軍を動かせる。
「40日以内に集結出来る土豪が全部攻めて来たら、砦は落ちるでしょう」
暗に「救援に来て欲しい」と言っているのか?
「ご存知と思いますが、公国は土豪をグループ分けしています。資料にあった土豪はグループ2に属しています。そして砦司令はそのグループと頻繁に交流しています」
砦から徒歩で10日以内はグループ1、10日以上20日以内はグループ2。グループ9まであるが、多少なりとも交流があるのはグループ4の一部まで。グループ2以上は公国に取っては未知の領域となっている。
「準備等を含めると、最大で動けるのはグループ2の土豪までか」
「その場合、敵軍は5,000人を超えるでしょう」
グループ1は砦に近いこともあり、砦寄りの土豪だ。グループ2は程好く遠いため、好戦的。グループ2が全力で動けば板挟みになるグループ1もグループ2に同調するしか無い。
砦司令の仕事にはグループ2の懐柔も含まれている。そのため、山賊の一件が無ければ砦司令は実直に仕事をしている好人物に見える。真実は、ミイラ取りがミイラになった。それだけの事だ。
「砦司令は黒か」
「黒か無能かまでは分かりません。調べるのはお任せください。殺した息子に誓って、これ以上のミスは有り得ません」
おっさんがそこまで言うのなら、待つしかない。
黒幕と砦司令がどれほど深い関係なのか。
公国の情報部はクローディアの件は襲撃のち誘拐と考えていた。砦司令が一枚噛んでいるなら西から南ルートを通って南方に逃げられるルートが使えた。
存在感が薄いおっさんや未開地域に踏み込めるマイクの調査団が輜重兵として紛れ込んでいたのもこのためだ。騎士は皆殺しでも輜重兵は価値無しとして見逃される可能性が高かった。
しかし、黒幕の狙いはクローディアを殺す事だった。ゲラルドが欲を掻かなければ、黒幕の狙いは成功していた。たぶん黒幕は砦司令には誘拐と伝えておきながら、ゲラルドには殺害を命じていた。
公国は砦司令を使った黒幕の情報操作に完全に騙された。黒幕の狙いが不明だから殺害動機も未だ絞り込めない。砦司令すら捨て駒なのかもしれない。
「分かった。俺は関わる気は無い」
「私もリティー様の件は管轄外なので関わりません。ご安心ください」
本来の役割柄ではリティーを斬るのか。
「別に俺に関係は無かろう?」
「これは失敬。しかし未来の細君が悲しむのでは?」
「クローディア様と結婚すると思っていのか?」
「もはや確定でしょう」
「どうやったらそうなる?」
「これまでクローディア様の血筋や美貌を欲した者はおります。彼女の心からの笑顔を欲したのライ様だけです」
おっさんがにやりと笑う。
俺も笑い返す。
男二人に取っては、それだけで十分だった。
話が終わったので、俺は野営地に帰った。
テントに入って、考える。
おっさんの強さは本物だ。
一対一なら奇襲されても勝てる。しかしゲラルドの様な相手と戦っている最中に奇襲されたら、今の俺では手傷を負う。
この世には未だ見ぬ強者が思ったよりいるみたいだ。
レイラが目覚めたら、今一度スキルを確認し直そう。
妹以外にも守る者が増えるなら、それ相応の力がいる。




