リザードマン戦
カッタルイの城門を抜けて2時間程西に歩く。
後3日ほど歩けばリザードマンの領域に入る。
「ここまで来れば良いか」
俺達を見ているのがいつもの盗賊ギルドの構成員だと確認して、俺は少し本気を出す事にした。
「どうしました、ご主人様?」
サリスが不思議そうに聞く。
「予定を少し早めよう。3人とも俺が担ぐ」
ポルルを背中に乗せ、残り二人を左右の手で持ち上げる。
「高いです、主様」
「ポルル、しっかり捕まっていろ」
「はい」
「して、どうするのです?」
「もしかして、このまま走っていくの?」
サリスとニコルは俺がどう動くのか興味心身だ。
見せてやるとしよう。
「行くぞ!」
俺はそのまま一気に駆けた。
《風魔法》と《空魔法》の二重詠唱で時速500キロを叩き出す。
《風魔法》で前方に防壁を張ったため風の影響をほとんど受けない。
それでも凄い速さで流れる景色を見て、3人は言葉を失った。
一番大変だったのは両足を動かす事。
走っている風に見えないとからくりがばれる。
ニコルに俺が空を飛んでいると知られたくは無い。
高速移動までなら構わない。
高速移動なら平地以外は遅くなると考えるし、網を張るならそこに戦力を集中する。
空を飛べるとなると、公国の国防の切り札である地形が無効化される。
公国と言う小国がそれを我慢出来るか?
俺には答えが分からないが、最悪は想定しておく。
リザードマンの行動範囲から半日の所まで1日で到着した。
監視の男には悪いが、追いつく頃には全部終わっている。
相手の巣に夕方から夜に突っ込むのは危険だ。
今日はここで一泊して、朝一番から行動開始だ。
夕飯は俺が作った。
ニコルが作りたそうだったが、明日以降お願いする事で納得して貰った。
ポルルは何も言わずに理解していた。流石戦士の一族だ。
明日はリザードマンとの戦いだ。
腹痛で動けないなんてシャレにならない。
一流の戦士たるもの、ベストな状態を維持するため、装備のみならず食べものまで完璧に管理しないといけない。ここら辺を疎かにして早死にする者が結構いる。
妹は大丈夫だろうか? 安全な携帯食を考案すべきか? 綺麗な水は《水魔法》で出せるから良いが、遠征で手に入る食糧は日本ならゲテモノ扱いだ。
空魔法のスキルレベルが高ければ次元収納で時間を遅く出来るから、日持ちしやすい。各国に一定数あるアイテムボックスなら時が止まっているはずだから、更に長持ち出来る。
カッタルイに帰ったら情報を集めて、資金力にものを言わせて試作しよう。以前召喚された勇者が何も用意しなかったとは思えないし、調べれば何か出てくるかもしれない。無ければ石鹸同様、勇者の考えを再現した物として売り出せば素早く普及する。
早朝、太陽が昇るのと同時にリザードマンの巣に向かった。いつ戦闘になるか分からないので、全員歩きだ。俺が担いで魔法を連発すれば勝てると思うが、油断大敵だ。慢心して手傷を負うなど愚の骨頂。
1スキルポイントを使い《指揮》を取得した。王国に居た頃に基礎を習い、カッタルイに来てから参考書の類を読んでいたが、自力取得は出来なかった。ちょっと悔しい。これで後ろの3人の安全が買えるなら安いものだ。
「敵リザードマンの数は524人です。その内84人は子供なので積極的に攻めて来ないと思います」
サリスが精霊を通じて情報を集めてくれた。
この数なら一人で余裕だ。守りながらの戦いなんで、少し疲れるかもしれない。
「シャー!」
リザードマン6人に遭遇し、それが戦闘開始の合図となった。5人瞬殺し、1人はポルルに譲った。上手くストレスを発散させておかないと、巣の中央まで無計画に突っ込みそうだ。
リザードマンは沼地に生息し、多少道具が使え、群れる習性がある人型モンスターと認識されている。人族と共存は出来ず、顔を会わせるとほぼ無条件で殺し合いになる。
蛮族並みに知恵があれば、共存出来そうだ。過去に何回か試した記録があるが、全部失敗に終わっている。何故リザードマンがこれほどまでに人族を敵対視するのかは誰にも分からない。
公国はこの沼地が欲しい。しかしリザードマンを追い払う際に払う犠牲が大きすぎて二の足を踏んでいた。更にリザードマンが西のレッサードラゴン相手の壁として機能する事も期待されていた。
戦いの音を聞いたのか、リザードマンが大挙して押し寄せてくる。彼らに戦術の概念は無い。数の波状攻撃で敵を倒そうとする。沼地の中に隠れて毒槍で奇襲もするらしい。
50人殺してもまだ攻撃の手を緩めない。俺が疲労していると思っているのかもしれない。ポルルが肩で息しているので、ニコルに頼んで俺の後ろに引き摺っていかせた。
ここら辺が滞り無く出来たのも《指揮》のおかげだ。スキルが無ければ、ニコルをポルル回収のために前に出す、と言う選択すら考え付かなかった。その場合は俺がポルルを回収し、その隙を見逃さないで攻めるリザードマン相手に手傷を負っていた。
更に50人殺した。戦えるのは後200人か? このままだと再起も出来ない程の被害が出る。モンスターだから殺し尽くすのが正解なのかもしれない。とにかく向かって来るリザードマンは殺す。それ以外は出た所勝負だ。
「敵は依然迫って来ています」
サリスの話を聞き、俺も覚悟を決めた。
リザードマンに力の差を示す。そこで引くなら良し。引かぬなら滅ぼす。
「ファイアランス!」
炎の槍がリザードマン数人を貫通して黒焦げにする。それを同時に20本ぶっ放し、60人近くを焼き殺す。一流の《火魔法》の使い手なら同時に10本出せる。俺は高ステータスにものを言わせて5本を4回連続で出した。
これで戦士の半数は死んだ。敵の戦意は衰えず。
「くそっ!」
俺は悪態をつく。
公国とリザードマンの争いは生存圏を掛けての争いだ。どちらも引けない。滅びるまで戦うしかない。人である俺は公国の側に立っているが、この争いに興味は無い。俺の狙いは西のレッサードラゴンだ。リザードマンの巣が進路上にたまたまあっただけ。
「主様、下に!」
ポルルが沼を数箇所指差す。
「アイススピア!」
氷の槍が隠れていたリザードマンを串刺しにする。
もはや一方的な戦いだ。俺は最初からこうなると分かっていた。リザードマンもやっと気付いたみたいだ。時間稼ぎに切り替えたみたいだ。
「リザードマンの女子供が北上しています」
「分かった。逃げるなら追撃する必要は無い」
南で無くて良かった。南なら湖があり、水利権を巡って様々な勢力が争っている。北だと商人が使う道がある。そこを突っ切れば俺が死んだクレーターだ。クレーターまで逃げれば助かるだろう。再起出来るかは分からない。
戦いは昼過ぎまで続いた。回収出来たリザードマンの死体だけで264体。巣に居た戦闘能力がある者のほぼ全員だ。3メートル超のリザードマンキングなんてのも居た。騎士30人相当らしいが、俺が気付いた時にはその他大勢の死体の中にあった。
「リザードマンはこの辺りには一人も残っていません」
「分かった。ニコル、そっちはどうだ?」
ニコルにはポルルを護衛に巣を漁って貰った。
「駄目です。金目の物はありません」
人族の武具を奪って使うわりに金目の物が無いのは不思議だ。取引相手でもいるのだろうか?
「分かった。巣を焼き払い、今日は少し西に行った所で野営だ」
かくしてリザードマンとの戦いは終わった。公国がこの事を知れば、近く開拓団を送り込むだろう。沼の水抜きをすれば、農地として使え、南の湖を実効支配しやすくなる。




