超えられない壁
野営しながら火の番をする。3人は疲れたのか、既に眠っている。無理も無い。本来なら2000人規模の軍で攻める場所を4人で潰したのだ。目に見えないストレスはかなりのものだ。
3人を守りながら戦った俺が一番疲れているはずだが、全然疲れていない。
『私のおかげね』
レイラは適当に無視だ。
やはり魔王と勇者は生物の作りからして根本的に違うのだろう。
俺はリザードマンとの戦いでレベルが3つ上がり、レベル18になった。ポルル達の強さはステータス化出来ないのでレベルアップは無い。多少強くなったはずだが、微々たるものだ。
もし最高効率でポルルを3年間鍛えたら、どれ位強くなるだろう。レベル10相当の強さになると思いたい。
そこまでしても、召喚された勇者なら一週間でポルルと並ぶ。二週間で完全に追い越す。
だからポルルを始めとした現地人を鍛えるメリットが無い。ポルルを留守番させたかったのもそのためだ。
確かに、強くなれば勇者と魔王以外の相手にぶつける事は出来る。しかし、その場合でも、俺が出たら相手を瞬殺出来る。
皮肉な事に戦えないメイリーズやニコルの方が俺の役に立つ。一人では手が回らない組織的な作業を委任出来るのは大助かりだ。サリスも呪いを解除して精霊魔法によるより高度な情報収集が出来る様になれば心強い。
そんな化け物じみた力を持つ勇者を王族達は洗脳したりして、支配下に置いてきた。その方法は簡単だ。一週間鍛えれば人族最強クラスになる。なら、その前に洗脳すれば良い。召喚してから3日以内が相手のタイムリミットだ。
完全に洗脳出来なくても、王族が味方だと刷り込めれば、後はじっくりやれる。前回と前々回は強攻策を取って失敗したと公国の図書館資料で読んだ。
1000年前の前々回は呪われた奴隷の首輪を無理矢理装着させたらしい。支配権を握った王族は勇者を意のままに操れると思った。しかし、操るためのマジックアイテムは魔王が上位権限を持っていた。その結果、首輪をはめられた勇者が魔王に操られ、人族は滅亡寸前まで行った。
『どんな状態だったの?』
『下級アンデッドみたいに徘徊しか出来なかったみたいだ』
他人の体を操るなんてそう簡単にはいかない。操った上で戦力として使う事は魔王ですら出来なかった。
『弱いね』
『基礎ステータスが高く、魔法などを固定砲台として放てば脅威となる』
『宿主様の魔法攻撃は怖いものね』
『それを20人前後でやれば、大軍すら滅ぼせる』
『そうなったの?』
『帝国を中心した人族軍100,000が数時間で壊滅したとある』
実数は50,000に近そうだが、数を盛るのは何処も同じだ。
『それって凄くない!?』
『凄いが、対処法が分かっていれば簡単に倒せる』
『そうなの?』
『少数精鋭による奇襲だ』
レベルが低く、実戦経験が乏しい相手だ。操られて動きがぎこちないなら、現地人の最強部隊を送り込めば倒せる。
『そんな精鋭いたの?』
『エルフがいた』
エルフの精鋭部隊が勇者を殺したり解放したりして、その功績でエルフの絶頂期となる。魔王が討たれた後、勇者が敵になって、エルフの栄光は露と消えた。
勇者はエルフに救われたのに、人族に諭され、エルフの敵になった。一説にはエルフがその勇者の恋人を殺した事を恨んでいたとある。
教国の権威が大幅に失墜し、近隣数国が独自の思想を持ってお世話係を派遣する制度が出来た。この制度は今も続いている。
勇者を操った首輪は魔王と魔王直属しか使えない呪いだったため、人の手で再現は不可能だった。再現出来ていれば、どんな悲劇が起こったか想像したくも無い。それを今はエルフが使っているのはなんとも皮肉な事だ。
500年前の前回はこの反省を活かすために奴隷を生贄にして勇者を召喚したらしい。俺の融合転生に近い形だ。奴隷だと言う強力な暗示と現代日本人の価値観がせめぎあって、半数が召喚と同時に廃人になった。廃人は子作り様にそのまま使われたらしい。
『私と出会う前の宿主様の状態!?』
『そうだ』
『宿主様だってまともに動けていたのが奇跡に近いのに、無差別にやれば失敗するに決まっているよ』
『数撃てば当たる』
『勇者ってそんな扱いで良いの?』
『まあな』
魔王を倒すには勇者「一人」がいる。言わば、残りの勇者はおまけだ。勇者六人パーティーが理想的だが、パーティーの内数名は現地人で代用出来る。
残った半数は奴隷化を受け入れたり、自力で暗示を解除したり、千差万別だった。資料には書いてなかったが、各国は本命の生贄で質を、その他大勢の生贄奴隷で数を確保したはず。本命は奴隷では無く王族に近い血筋の人間だと考える。
それに、白の者が《プロトブレイバー》を派遣していれば、召喚される勇者の数人に特別処理を施しただろう。俺がここにいるのも、召喚される妹を白の者が手厚く強化する事を期待しているからだ。
現在の二重王国の旧王族が全員殺され、カッタルイが建国されたのもこの召喚の後だ。この2件に何か関係がありそうだが、これも資料には何も載っていなかった。少なくても前者には《プロトブレイバー》の様な勇者では無い強者が関わっていると思う。
今回は懐柔策だと良いなと思うも、それは俺の希望的観測に過ぎない。白の者も人族がどういう召喚を企んでいるのか分からないと言っていた。やはり破壊神の復活が必要なのか? 今だ手掛かりすら無い状態だ。掴める藁すら無い状態では焦る事すら出来ない。
「ご主人様、そろそろ交代の時間です」
物思いに耽っていたら、サリスが起きて来た。
「分かった。何かあれば起こしてくれ」
サリスが半分寝ぼけているポルルを起こす。ここで戦えるのは俺とポルルだけなので、片方は起きていないといけない。
あれだけの戦闘があったのだ。野生動物やモンスターはこの近くには来ないだろう。来た所でサリスの情報網から逃れるすべは無い。
俺は自分のテントに入る。多少は寝た方が良いかと考え、目を瞑る。
翌朝、サリスが野草サラダ、ポルルが肉の丸焼きを朝食に作った。
「エルフ秘伝の味です」
「丸焼き作れる、良い嫁」
『毒じゃないよ』
二人が何か言っている。レイラの補足も虚しい。ニコルは静かに涙を流している。
ここでまともに料理が出来るのは俺だけなのか!?
妹に手料理を振舞うため、和風から洋風、更には中華まで修行したから当然だ。こっちに該当する食材があれば、ほぼ完璧に地球の味を再現出来る。
遠征時だけでは無く、日常の料理にも手を加えないといけないかもしれない。幸い、屋敷の料理人はおいしいものを作れる。レシピを何枚か書いてみよう。




