表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
破壊神と妹勇者  作者: 朝寝東風
第一章
47/136

ささやかな意趣返し

 俺は公子に会った次の日に出発する予定だった。


 しかし、メイリーズに止められた。


 2日後に二重王国の伯爵嫡男とのお茶会があったためだ。


 流石に最初のお茶会をメイリーズ一人に行かせるわけにはいかない。


 俺は渋々出席する事にした。


 遠征は一人で行く予定だったのにサリスとポルルが参加を表明した。何処から聞きつけたのか、ニコルまで参加すると言い出す始末だ。


「ニコル、遊びじゃないんだぞ」


「主様の邪魔」


 ポルルが対抗心を燃やす。


「大丈夫です! 外の案内もばっちりです」


 リザードマン近くまでの地形を把握していて、自然の食材にも詳しいらしい。特に毒きのこが専門らしいが、それは食材なのか?


 「食材に関しては私の方が詳しいかと」


 サリスも負けじと参戦する。


 3人の言い争いを他所に考える。


 断りたい。


 と言うか一人で行きたい。


 しかし、この3人はそれぞれ何らかの事情を抱えている。手の届く範囲の方が楽が出来るか?


 特に、ニコルは俺の戦い方を盗賊ギルドに報告する可能性が高い。情報をコントロールするなら近くに居た方が安全だ。


 どうしたものか。


 仕方が無い。


 妹を守って戦う予行練習と考えよう。


「分かった。3人とも連れて行く。外でのケンカや張り合いは無しだ! いいな?」


「分かりました!」


 3人が勢い良く答える。


「アルフレッド、荷物の追加発注を頼む」


 アルフレッドに5人30日分の食糧を調達して貰った。それを次元収納に入れておいたので、手持ちの荷物は無い。野営用のテントも3つ買った。


 4人で行くとはいえ、何があるか分からない。最低限の予備は持ち歩かないといけない。俺が全部荷物を仕舞う所を見てニコルが驚いていた。ワイバーンの時は出すだけだったから実感がわかなかったのだろう。


 準備は出来たし、伯爵嫡男とのお茶会は何事も無く終わった。


 しょせんは顔合わせ。大事な話は無かった。それでもやらないと貴族社会で爪弾きになる。面倒だ。


 一つ予想外な話を聞けたので、帰り道でメイリーズと協議した。


「公子の妻から石鹸の話を聞いているとはびっくりした」


「話題自体は朝食の時に提供したのですが……」


 メイリーズは俺が公子と面倒な話をしている間にちゃっかりと石鹸の売込みをしていた。時期尚早では、と後で迫ったのだが、公子の妻と話せる機会なんてそう何度も無いから無駄に出来ない、と返された。


 メイリーズの言う事は正論だ。失敗した時のリスクがでかいが、俺の石鹸は以前の勇者が書いたもの扱いだ。勇者の案なら再現出来れば絶対大丈夫と言う安心感が世界中に蔓延している。


 この盲目的な勇者信仰は危険だ。そうなる様に教国などが仕込んでいる。だから国策のために勇者を洗脳したり、奴隷にしたり、子供を生ませたりする。


「まさか48時間弱で他国の貴族まで噂が広まるとはな」


「異常な速さです。帝国でも5日は掛かります」


 勇者関連の話題は素早く拡散される。


 それにしても公国の情報拡散は恐ろしく速い。王国だったら20日は掛かりそうだ。


 屋敷のメイドから漏れるのは想定していた。そのために日々試してもらっているし、少量ながら他の家のメイドへ横流しさせた。


「まさか公子一家が試すのを楽しみにしている、なんて話題が出るとは困った」


「注文数が大幅に増えそうです」


 下から漏れて口コミで少しずつ広がる予定が、上から漏れて見栄っ張り貴族が我先にと求める事態になりつつある。


「どうすべきか?」


「今は遠征に集中してください。一月の間にデータを出して需要を計算しておきます」


「分かった。急ぎすぎる必要は無い」


「はい」


 急ぐが、急ぎすぎてはいけない。


 妹のための石鹸がどうしてこうなった?


 遠征の日になった。


 晴天だ。


 まだ少し肌寒いが、雪は溶けた。


 後一月もすれば商人の往来が激しくなるし、それにあわせて山賊が北上してくる。山賊と言う追加戦力が無くなると、南方も少し大人しくなる。


 この状況だと、ポルル達の族長が公国に来るとすれば最短で二ヶ月後だ。夏前に土豪がもう一戦するなら四ヶ月後にまで延びる。俺としては王国に帰る8月中旬までには来て欲しい。


 観光案内所に寄り、ベリアに挨拶する。手続き上、ここからニコルを一月専属契約する形になっている。


「ライ様、ニコルをよろしくお願いします」


「分かった」


「この時期、気が早い山賊が北上するかもしれないので注意してください」


「遭遇したら返り討ちにしておく」


「お願いします」


 俺が遭遇する山賊はこことは無関係、という事か。実際はどうか分からないが、敵に容赦出来るほどの余裕は無い。


「それとベリア、これを受け取って欲しい」


 俺は一通の手紙をベリアに渡す。


「これは?」


 困惑するベリア。


「わぁ! もしかしてラブレターですか! いいなぁ」


 ニコルが期待通りに動く。


「ニコル!」


 ベリアが怒るも、どうすべき迷っている。


 十中八九ラブレターでは無いと知っているはず。


 何か重要な情報が入っているなら、読まないといけない。


 読むと言う事は受け取ると言う事。


 ニコルが黙っていれば同僚にばれずに済んだ。


 もう遅い。


「返事なら遠征から帰った時にでも。迷惑なら破り捨ててくれ」


 ベリアの憎々しげな視線を背に受け、飄々と建物から退出する。


 路上演劇の意趣返しとしては上々だ。


 ただ、ラブレター風の手紙で終わりだと思っていたらしめたもの。意趣返しの本命はその中身にある。


 それは俺とサリスが纏めたエルフの森での一件。呪われた奴隷兵と魔王の影の事は世界規模で対応をしないといけない問題だ。


 誰も触りたくない重要な情報だ。しかしこのまま闇に返せば帝国、引いては人族存亡の危機だ。対応に苦慮するのは間違い無い。


 ささやかな意趣返しだ。きっと楽しんでくれるさ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ