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破壊神と妹勇者  作者: 朝寝東風
第一章
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閑話 エルフの森 前編

 エルフは23の集落に分かれて暮らしていた。場所は帝国の南、人族が踏み込めない大いなる樹海の中。通称エルフの森。エルフにとって暮らしやすい場所では無かったが、人族に駆逐されるより生存率が高い場所だった。


 長い歴史で、帝国との距離順に3つの集会が出来た。帝国からの距離が近い順にマナリス、ムールス、ザイドルが集会を束ねるリーダーをしていた。


 集会は《精霊姫》かその信任を受けた人物が代表を務めた。マナリス、ムールス、そしてザイドルの娘サリスが《精霊姫》だった。


 《精霊姫》とは古来より精霊と話が出来るエルフだ。その数は恐ろしく少なく、その立場は人族の政なら国王に相当する。《精霊巫女》の様に精霊の声を聞こえるだけの称号持ちも昔はいたが、現在はザイドルの集会に一人いるだけ。


 エルフは精霊魔法を使える者がほとんどだが、精霊の声までは聞こえない。そのため、一般のエルフは精霊の機嫌を損ねていないか、《精霊姫》に伺いをたてる。精霊無くして精霊魔法は使えず、《精霊姫》無くして精霊と意志の疎通は出来ず。


「人族がエルフの森に攻め込む準備をしている!」


 マナリスの妄言を真剣に取り合うエルフはいなかった。幾ら《精霊姫》とはいえ、非現実過ぎる。大方、精霊の冗談を真に受けたのだ、と言うのがもっぱらの解釈だった。


 ムールスとサリスはマナリスの言を信じようと精霊の話に耳を傾けたが、精霊はマナリスが嘘をついていると言うのみ。それを発表すれば、マナリスは自分の名誉のために他の集会に戦争を仕掛けるかもしれない。


 理由はどうあれ、エルフ同士で殺し合う真似は出来なかった。ムールスとサリスはエルフの未来を案じ、様子見をするしかなかった。


 ムールスは老齢でほとんど動けず、サリスは集会の代表では無い。ムールスが若ければ、サリスが代表だったら、より積極的にマナリスを牽制出来たであろう。


 その時は突然やってきた。人族の軍隊が集落の一つを奇襲して、エルフを皆殺しにした。マナリスが集会の兵力を結集して、瞬時に反撃して追い払ったが、死んだエルフは帰って来ない。


「帝国に報復するのです!」


 マナリスの言は勇ましかった。ムールスとサリスは明確に拒否した。マナリスが束ねる集会の長老達すら否定的だった。


 そんな中、帝国の兵がエルフの森外縁に布陣した。皆は戦が秒読み段階になったと腹を括った。


 3集会の代表が集まり、帝国相手に徹底抗戦を宣言するも、こちらから攻めない事に合意した。マナリスは大いに不満だと声を荒げたが圧倒的多数決でマナリスの願いは却下された。


 エルフが皇帝に伺いの使者を出すと、進軍の事を知らなかった皇帝は大いに慌て、すぐに兵を引かせると約束した。事実、兵の撤収は素早かった。これにはエルフ全員が肩透かしを食らった。


 犠牲は出たが、戦争にならず安堵していたエルフにマナリスが号令を掛けた。


「今こそ一つの国になり、暴虐な帝国に備えるのです!」


 マナリスがエルフ王国の建国を各集落に打診した。帝国から身を守るため、当然の行動だと主張した。


 エルフの全集落は明確に拒否した。前回は言葉を濁したマナリスの長老達も強く拒否した。これはマナリスが集会の代表に就任以来はじめての事だった。不可侵であるなずの《精霊姫》を代表の座から降ろす動きすら出て来た。


 過去の経験から、強すぎる力がよからぬものを呼び込むのを恐れた。そして力に取り付かれた者は、エルフに破滅を齎す。マナリスは危険な状態にあると、エルフが危惧した。


 エルフは力を持っていた時代があった。それこそ大陸統一すら夢物語では無い程度には巨大な版図を誇っていた。それを嫌った人族が勇者を派遣し、エルフの権力基盤を粉々にした。エルフの森に住む者達は奇跡的に生き延びた当時の末裔だ。


 日常が帰って来たと思われた矢先、集落の一つがまた人族に襲われた。マナリスは再度兵を率いて集落を救った。しかし、今回は違った。マナリスは救助の対価として臣従を求めた。反対した集落は人族の奇襲を受けた。


 マナリスは力付くで帝国近くの集落を支配下に置いた。ムールスとザイドルはマナリスを厳しく非難した。エルフ同士はお互いを疑わない事を美徳としているも、マナリスと人族になんらかの繋がりがあるのは明白だった。


 そんな中、人族はムールスが束ねる集会を襲った。マナリスの集落を超えないと攻め込めない立地であるにも関わらず、それは1000人規模の大部隊だった。


 ムールスが老体に鞭を打って、なんとか初戦で勝利をもぎ取った。その反動で昏睡状態に陥った。精霊と会話出来ても、とても戦える状態では無かった。


 そこにマナリスが現れた。ムールスに従う長老達は勝利を確信した。ここまでエルフ同士で殺し合う事は無かった。マナリスの行動は批判されるべきものだが、攻めて来た人族は本当に撃破していた。


 しかし、マナリスは人族と協力してムールス達に襲い掛かった。余りにも意外な行動にエルフ達は混乱した。なんとか体制を立て直すも、代表のムールスが昏倒していて、集落単位でしか動けなかった。


 それでも、エルフ達は勇敢に防戦した。しかし人族を盾にして攻め入るマナリスの軍に為す術が無く敗退する。ムールスさえ無事ならば、結果は違っていた。


 マナリスは正面きってムールスに戦いを挑んでも負けると知っていた。だから人族を捨て駒に昏倒するまで力を使わせた。ムールス無き集会など烏合の衆にすぎない。その割に被害が大きかったのだが、マナリスは気にする素振りすら見せなかった。


 ムールスだけは逃がそうとするエルフに人族が攻め寄せ、彼の首を取った。《精霊姫》の殺害はエルフ最大の禁忌。それを犯すとは、マナリスに従うエルフですら思っていなかった。


 ムールスの死で「嘆きの波」と言われる現象が発生した。ムールスの死体を中心にエルフ全員が一種の混乱状態に陥り、動ける人族に刈り取られていった。ムールスが束ねる集落はこうして敗北した。


 ムールスを助けるために援軍を率いて向かっていたザイドル軍も動けなくなった。結果、疲弊したマナリス軍を攻撃する事が出来なくなった。


 これも全てマナリスの作戦の内だった。ムールス戦の後、ザイドルと戦うのは下策。故にムールスの死を利用して時間稼ぎをした。マナリスの国にはムールスの様なカリスマ溢れる政敵は不要。ならば、その命すら最大限に活用する事にした。


 マナリスの配下となったエルフは恐怖したが、既に抗う事が出来なくなっていた。もはや後戻り出来ない深みに嵌ったエルフ達の最後の希望がザイドルだった。ザイドルがマナリスの暴走を止め、エルフを救ってくれる事を密かに懇願するしかなかった。

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