ポルル戦 後編
俺が勝利を宣言しては駄目だ。
ポルルの一族が負けを認めないと意味が無い。
一族のリーダーを決めるのは民だ。その民が認めなければ、如何に強くても民の心を繋ぎ止められない。
ポルルに変わるリーダーに相応しいか。
この戦いの本質はここにある。
さて、ポルルの一族の結論はどうだ?
「……ライ族長の勝利です」
一人が俺の勝ちを宣言した。
他の蛮族も次々と追随した。
皆泣いている。
「良かろう。これからは俺が族長だ!」
ここで勝利宣言。
戦いは終わった。
年長で手透きの少女がポルルの下に向かう。
「ポルル! ポルルゥ!」
必至に名を呼ぶ。
なんとか生きていて欲しいのだろう。
旧族長と新族長の戦いは旧族長の死を持って終わる。50代と30代の戦いと仮定するなら、古き魂を継承する宗教的な意味合いがあるのだろう。
しかしポルルは12歳。余りに幼い。
俺はポルルに近付く。少女が震えながらポルルを抱き寄せる。
止めを刺すと勘違いされたか?
「これを使え」
俺は神水の入った回復薬を取り出す。
「ワイバーンの巣にあった霊薬だ」
そう言う設定にしておく。ワイバーンの巣と同じ山にあったのは本当だ。
少女は一瞬躊躇するも受け取る。
ポルルの体に振り掛けると、見る見る傷が塞がった。
内部の傷を治すために飲ませようとするが、喉を通らない。
「貸せ」
俺が回復薬を口に含み、ポルルに口移しで流す。《風魔法 4》なら口内で風を発生させて、無理矢理流し込める。ばれない様に回復魔法を重ね掛けて、一気に治療する。
「ゲホゲホ」
どうやら目覚めたようだ。少女が抱き着いて涙ながらにポルルの名前を繰り返す。他の蛮族も周りに集まってきている。
危なかった。
少し治療が遅れたら本当に死んでいた。
『数日は安静にさせた方が良いよ』
『無論だ』
羽虫も喜んでいる。殺さないで済んで安堵しているみたいだ。
「何故、生かした」
助けた、では無く、生かした、か。
「ポルル、おまえは俺のものだ。勝手に死ぬな」
「……分かった、主様」
なんとか理解してくれたか。他と呼び名が違うが、今は気にしないでおく。
「さて、どうするか。族長になった事だし、奴隷に拘る必要は無いが……」
「そ、それは困ります」
イブゲスが取り乱す。困る理由があるのか?
「ライ様。解放に掛かる費用は全額当商会が持ちますので、今日の所は奴隷としてお持ち帰りください。お願いします」
フィネガンが割り込む。
ここで解放すると奴隷商が解放したと誤解される可能性があるのか。だから、一度俺の奴隷として世間が認知した後に解放して欲しいのか。
「旦那様、蛮族が自由だと法制局が動くやもしれません」
アルフレッドが補足してくれる。
自由にするにも俺の地盤固めが最初か。カッタルイの外に土地を持てば、そこに移せるが、新市街にいる間に解放すると面倒の種になるか。
「分かった。公国と話を付けるまでは奴隷でいてくれ」
「はい、ライ族長」
一族の者が異を唱えず従った。
「良し。では屋敷に帰るぞ」
「ライ様。馬車を手配いたします。料金は私が出しますのでご心配無く」
「そうか。それは助かる。そう言えば壁の修理代は払わなくては」
「それも結構でございます。場を用意したのは当商会ですから、後片付けはお任せください」
「分かった」
どうも人に知られず、一刻も早く屋敷に送り届けたいみたいだ。イブゲスでは無くフィネガンが仕切っているのも気になるが、商会内部の事は詮索しないでおこう。
元ポルルの一族の奴隷化が終了する頃には馬車が数台裏口に止まっていた。そのまま何事も無く、俺の屋敷に帰還出来た。
そこからが大変だった。
屋敷の前には不動産の男と、各種業者が待ち構えていた。ニコルも紛れ込んでいたので、側に呼びつけた。この人ごみだ。轢かれそうだ。
とにかく全員、敷地内の前庭に入れた。スペースが十分あったのと、業者の方が慣れていたのか、思ったほど混乱しなかった。
不動産に残り30,000Gの支払いをし、業者を紹介して貰う。
屋敷内部の調度品はアルフレッドに任せた。蛮族とサリス以外は奴隷になる前の身分を参考に必要な物を買う様に命じた。
俺の反対を他所に、俺は侯爵級に相応しい品々を買う事になった。メイリーズが伯爵級なので、その主人が一つ上で無いと格好が付かないためだ。
サリスはミルファと同じ男爵級の品々を用意し、個室を与える事にした。彼女には今夜じっくり話そうと耳打ちしておいたので、今は大人しい。生来の性分で大人しいのかもしれないが、こういう場で猫を被れるのは貴重だ。
ポルル達は本来は外で暮らし、風雨を凌ぐためにモンゴルのゲルみたいな家屋に住むらしい。裏庭の一角をポルル達に与え、大工にゲルの建造を依頼した。幸い、業者の一人が軍の遠征で南に行った時に建てた経験があった。
工房の建築も依頼したが、これは後回しとなった。多少の遅れは仕方が無い。錬金術士と妹は何故か厨房に連行されていった。純粋に手が足りないのだろう。
メイド部隊が屋敷の掃除を開始し、執事部隊が家具の配置をしている。ポルル達は人ごみを避けて、裏庭で屯している。
後は小物か。
「メイリーズはお茶会に出る前提で洋服と宝石類を揃えよ」
「畏まりました」
貴族用の衣服を扱う業者が居たので、とにかくメイリーズに押し付けた。ミルファとサリスにも何着か見繕うようにメイリーズに頼んだ。俺の衣服も選んでくれるらしい。お茶会なんて面倒事は嫌だぞ。
以前立ち寄った詫び錆びの無いの店から出張武具屋が来ていたので、門番の装備を揃えた。アダマンタイトの剣をあるだけ購入すると伝えたら15,000Gで在庫にある4本を買えた。
8本で1メイリーズ。足元を見られた気がする。背に腹は変えられないので了承した。
しかし金さえ積めば、気難しいドワーフの名工が作った名剣を売ってくれるのはありがたい。俺は強すぎて、剣の腕を他人に見せるのは困難だ。名工ともなれば、瞬時に《剣術》のスキルレベルを大凡見抜く。
日没まで掛かったが、大体150,000Gで全部揃った。後日20,000Gで貴族用の馬車と馬2頭が納品される事になった。
ワイバーンの売り上げ額の残高と近いのは偶然か? 商人同士の裏の繋がりを疑う。




