ポルル戦 前編
俺は上着をアルフレッドに手渡す。これが穢れると色々五月蝿い人がいる。貴族の証だったり家の誇りだったりする。下のシャツが泥だらけでも、洗濯するメイドが愚痴る程度だ。自分から戻りたく無い貴族生活に足を踏み入れた気分だ。それでも、妹のためには必要な事だ。
ポルルは軽くストレッチをしている。あの小さな体から攻撃を繰り出すのなら、全身をばねの様に使うはず。手数が多いスピードタイプを想定する。
もう少し事前調査をすべきだったか? 否。奴隷商に来て蛮族の少女と一騎打ちを想定するなんて不可能だ。
俺は強い。負けはしない。
『大丈夫?』
どうやら俺の不安を羽虫が感じたらしい。
我ながら情けない。
『問題無い』
『そう? 本気なら一撃でしょ?』
『まあ、そうなんだが……』
本気を出せばポルルは死ぬ。どの程度手加減すれば良い? 手加減をしすぎて負けないか? これは最後に生きているやつが勝者の戦いとは異なる。
相手を生かしたまま勝ち、尚且つ圧倒的な強さを魅せ付ける。そう、魅せる。派手なエフェクトとトークパフォーマンスが必要な見世物なのだ。
「負けない」
ポルルは本気だ。俺を殺す気で来る。
それでも、先手は譲ってやるしか無いか。
「いつでも良いぞ?」
俺は構えない。自然体だ。
ポルルが踏み込む。
一瞬で俺の前に来る。
左足が俺の首筋を狙う。
右腕でブロック。
威力はワイバーンの尻尾の3割程度か。
公国騎士なら腕が折れていた。
俺は当然無傷。青痣にすらならない。
この戦いが終わったらパンツを履かせよう。
丸見えだ。
次は足狙いか。
こけない様に注意しながら捌く。
足と見せかけて頭。
首を少し傾けて華麗に回避。
頭と足。上と下を手数に任せて狙うスタイルか。大きい相手には有効なスタイルだ。しかし、相手が悪かった。
ブロックされても両手足にダメージを蓄積させるのがセオリー。しかし、ポルルの方がダメージを受けている。
ステータス差が如実に現れている。
俺は《闘術》を解析して手に入れた。
ポルルはやはりスキル持ちか。ライの《剣術》を参考にするなら《闘術 4》はある。
意外だ。スキルは絶対的な力のはず。それなのにステータス差だけで押し切っている。意図的にポルルが一方的に有利なフィールドに立っているのに関わらずだ。《剣術》で《闘術》に対抗して押し切るなら普通だが……。
「ポルル、その技はもはや通用しないぞ」
《闘術》を手に入れた俺にはポルルの次の動きが手に取るように分かる。動体視力のみで対応していた時とは違う。ポルルの方は攻撃するたびに確実に両手足にダメージを負っている。
「くっ!」
ポルルが距離を空ける。
俺が追撃しないと理解しているのだ。
格上を倒す方法は一つ。
油断している内に必殺技を叩き込む。
「さて、お遊びは終わりか? まさかこの程度ではあるまい?」
ヒール役を演じる。経験が無い分、ボロが出ないか心配だ。
両手を広げ、一瞬、ボディーをがら空きにする。
流石に飛び込んでは来ないか。
ポルルは溜めの構えだ。
ポルルの右拳に光の粒が集まる。
《魔力可視》のおかげでそれの正体が魔力だと分かる。
蛮族は魔力を扱えないはず。
無意識で使っているのか?
想定される技は、俺がワイバーンに使った零距離魔法攻撃。
直撃は少し危ないか。
イブゲスが制止すべきか迷っていたので、目で止める。
邪魔は不要だ。
ポルルの溜めは終わっている。
動かないのは、この一撃で俺が大怪我負った場合の心配か。
まだまだ甘い。
「撃って来るが良い」
俺の言葉を受け、ポルルの覚悟が決まった。
皆、固唾を呑んで見守る。
ポルルの輝く拳が俺に迫る。俺は両腕を交差してそれを受ける。
俺は衝撃で吹っ飛ばされる。
壁に激突して、そのまま壁に埋まる。
安普請が!
皆の叫び声が聞こえる。
ポルルの追撃は無い。
肉体的に出来ないのだろう。
それに壁の中まで入ってくれば、機動力を失う。
『両腕は無傷だよ』
羽虫が教えてくれる。
咄嗟にウィンドバリアを張ったのだ。ノーダメージは当然の結果。
さて、どうするか。
ポルルはこれ以上の継戦は無理だ。
この状況を踏まえて、彼女の一族を支配下におくにはどうしたら良い?
やはり、あの技か。
ポルルのあの技は《闘術》スキルだ。しかし、やっていた事は魔力集めだ。
《魔力操作》と言うスキルがある。
ポルルは持っていない。持っていれば《スキル確認》で分かった。
これを取れば、再現出来る。
否、完成させられる。
ポルルの技は未完成だ。
代々技を継承して来たが、必要なスキルの知識が失われたのだろう。それでも再現出来ているのは蛮族の強さ故か。
スキル取得に1ポイント。俺は迷わずに取る。
ここは失敗出来ない。
ポルルの一族だけじゃない。
他の皆にも俺の強さを魅せる。
仕えるに相応しい王だと認めさせる。
俺はゆっくり立ち上がる。
時間にして10秒弱。
パンパン
俺はシャツの埃を振り払う。
「やれやれ、少し汚れたか」
心配していたギャラリーの顔が驚愕に変わる。
あの一撃を無傷。
普通は考え付かない。
サリスだけは知っていた風を装っている。視えているんだろう。
「……」
ポルルは無言だ。彼女も分かっていたはず。
しかし、それでも降参はしないか。
「中々面白い技だ」
俺は右腕を前に出し、《魔力操作》で魔力を集める。
《魔力可視》があるし、属性魔法は低くてもスキルレベル4はある。
光の粒では無く、光の激流が俺の拳から肘まで集まる。
「即席の見様見真似だ。少し荒いのは勘弁してくれ」
ギャラリーが言葉を失う。
妹がいれば、『お兄様、流石です』と言ってくれるのに。
流石のサリスも驚いている。
炎の様に揺らめいてるのは操作しきれない余剰魔力だ。俺が制御仕切れていない証なんで自慢するのは恥ずかしい。それでも視覚的なインパクトとしてはこっちの方が断然良い。
「これで分かっただろう? ポルル、おまえに勝ち目は無い」
「負けない!」
引かないか。
引けないか。
一族がもう良いと懇願する。
ポルルは無視する。
「良かろう。この一撃で決めよう」
ポルルは最後の一撃を放つ。
体はズタボロ。気力のみの一撃。
俺には届かない。
それは他ならぬポルル自信が一番良く分かっていた。
そして俺のカウンターが彼女の体を捕らえる。
ポルルの体が壁まで吹っ飛び、そこで止まる。
あの体重では貫通はしない。
接触時に大幅に力を抜いた。
血だるまになった肉塊が床に倒れる。
即死だけは回避出来た。
後は出たとこ勝負だ。
「して皆のもの、勝者は誰だ!」




