ワイバーン商談 後編
「こいつだ。炎弾とファイアブレスを吐いてきた」
「魔法ですか!」
鑑定士が驚く。
「そうだ。こいつだけ何か違う」
応援として呼ばれた解体屋たちが必至に作業する。ワイバーンともなると解体は専門職に一任するようだ。胸の辺りに細かい切り傷が入った後、鑑定士が調査する。
「信じられませんが、魔法を発生する器官があります。ドラゴンにあるのと同系統と考えます」
鑑定士の一人が宣言する。
「なんと!」
フィネガンが驚く。ニコルは何が凄いのか理解すら出来ない。
フィネガンはすぐに計算に没頭する。幾らで売れるか。それに魔法発生器官は準戦略兵器だ。国への届出が必要になる。
全て知りながら、フィネガンに売った俺の評価はどうなるやら。商人、公国、王国、更にニコルから報告を受ける誰か。上も下も大騒ぎだ。
「ライ様、お売りになるのですか? 直接献上すれば爵位が手に入りましょう」
王国なら伯爵位は固い。公国なら多少無理をすれば侯爵位を狙える。
「売る。それにワイバーン程度で爵位など不要だ。ドラゴンでも狩ったら検討する」
フィネガンの心配を切り捨てる。実際、この程度の雑魚で爵位を貰って行動を制限されては困る。俺はもっと強いモンスターを狩らねばならない。
「分かりました。後処理はこのフィネガンが全てやります」
「頼む」
魔法ワイバーンはそのまま公国の軍部に引き渡される事となった。勝手に解体して軍部に睨まれたく無いからだ。
俺は予備の部屋と倉庫にワイバーン18体を出し、フィネガンの居る部屋に帰った。
「こちらが書類になります。軍部に提出する書類が一枚増えました」
簡単に目を通し、サインをする。アルドスタン王国子爵令息の捺印もおまけで押しておく。公国上層部の悲鳴が聞こえるようだ。賢いフィネガンは知らん振りを決め込んだ。
俺の預かり知らぬ所で準戦略兵器の所有を巡って公国と王国が暗闘を開始するだろうが、俺には関係が無い。
「今回の代金は200,000Gから300,000Gと想定しています。まずは前金として50,000Gを支払います。残りは4日後に全部用意します」
「わかった。それと4日後には奴隷商で奴隷を購入する予定だ」
「分かりました。綺麗所を用意する様にあちらに伝えておきます」
俺は無言で頷く。綺麗所はいらないが、ここは黙ってフィネガンの顔を立てておく。事前に宣言し、資金が閏沢なのも分かっている。外部の店からも一時的に借りて来るだろう。俺の必要としている奴隷があると良いのだが、こればかりは運だ。
店を出て観光案内所に向かう。
「ライ様、この道って?」
「ニコルの考える通りだ」
「そうなの」
不思議そうだが、今は無視だ。
「ニコル、案内所で噂を流してもらえる事は可能か?」
「どうだろう? 姉御ならやってくれると思う」
「姉御?」
「確か今の名前は、え~と、ベリア。そうベリアの姉御!」
今の、ね。明らかに裏の人間だと無自覚に明かすニコルの将来が少し心配になる。
「そうか。会えると思うか?」
「大丈夫。ライ様が来たら応対するって言っていた」
俺の正体を知っているのか。疑惑はあったが、これで確定だ。
それ以降は取り留めの無い話をしながら案内所に着く。入ったら、ベリアが受付で待ち構えていた。俺を二日前から監視しているあいつかあいつが先回りして報告したのだろう。
「ライ様、何かご入用ですか?」
「一つ噂を流して欲しい。規模はカッタルイの中」
「噂ですか。観光案内所は企業の宣伝を請け負っておりますので、それに準じた形なら可能です」
「それで良い」
「なお、公共陵辱に反する噂や粗か様に嘘だと分かる噂は法律で禁止されています」
「当然だろう。俺の依頼は嘘偽り無いものだ。一部始終をその目で見たニコルに確認すると良い」
「えっ? ぼ、僕が何か?」
ここで唐突にニコルに振る。フィネガンの時に同席させたのはこのためだ。
「これが書類になります。希望する噂の内容を記入してください。大抵の宣伝は50Gから承っています」
俺は記入した書類をベリアに渡す。
「白髪の男がワイバーンを数体納品した、と言う噂を流すのですか? これにどんな意味が?」
ベリアは実に良い混乱した顔をしている。これだけなら無価値。
「俺の名前は出ない様に頼む。それ以外はそれに書いた通りだ。納品の件はニコルが証人だ」
ベリアがニコルを見る。ニコルが頷く。
「分かりました。では50Gお納めください」
「釣りは不要だ」
そう言って10,000Gを置く。200倍の金額を見て、ベリアが固まる。
その隙に悪い笑顔をしたまま、ベリアの下を去る。去り際、ニコルにはお駄賃として1G渡しておく。
観光案内所を出た後、ベリアの悲鳴とも怒声とも聞こえる叫びが外まで聞こえた。
さて、盗賊ギルド。情報戦を始めよう。
『ねえねえ、何の意味があるの?』
『白髪の男はどれ位いる?』
『ハゲてない男なら結構いるね』
『そうだ。俺の流した噂では俺を特定出来ない』
あえて赤眼を指定しなかったのはこのためだ。人は信じたいものを信じる。
白髪の老人が倒したと思う者もいるだろう。白髪の老貴族が騎士団を率いて勇ましく戦ったと思う者もいるだろう。
噂が拡散すればするほど、精度が落ち、内容が捻じ曲がっていく。捻じ曲がった噂を元に自分の功績だと騒ぐペテン師も出てくる。真実しか語っていないこの噂が俺を探す各勢力の捜査をかく乱する。
これから楽しくなりそうだ。




