ワイバーン商談 前編
俺は次の日は図書館で過ごした。とにかく専門的な情報がいる。土地の価格とワイバーンの剥製の値段なんかを確認する傍ら、商売に必要な書類や審査に関してメモを取った。詳しい事は専門家を雇うが、無知では危険だ。
豚の中にいるかもしれない存在については空振りに終わった。特殊すぎて本に纏められていない。勇者と魔王についても真新しい情報は無かった。
公開されている世界地図を見た限り、詳細不明な場所が多すぎる。世界が球体なのは一般知識なのだが、東の海を進むと奈落に通じる大瀑布がある。落ちた者は勇者でも帰って来ない。
大きな滝か。球体なら滝にも底がある。滝が数千メートルあって、底が見えないだけか? 確認したいが、戻れないのが本当なら妹のためにならない。
しかし、滝の近くに島があれば占めたもの。誰も近付かないなら、隠れ家として最適だ。《空魔法》でテレポートを覚えれば大陸と行き来も楽に出来る。どうあっても最初は自力で到達しないといけないので面倒だ。
その日は昼飯を食べずに夕方まで本を読み漁った。
一晩ぐっすり寝た俺は朝一番でフィネガンの店に向かった。何故か店の前にニコルが屯している。
「おはようニコル」
「ライ様、おはようです!」
「仕事は?」
「今日はお休みです」
どう考えても嘘だが、まあ良いか。
「なら一緒に来るか? 俺の狩りの成果を見せてやる」
「はい!」
店に入ると、受付が用件を言う前に俺を3番の扉に誘導した。事前準備はしっかりしている。
「おはようございます、ライ様!」
多少寝不足そうなフィネガンが出迎えてくれた。恐らく人員確保に苦労したのだろう。最初の店にいた鑑定員がちらほら混じっている。どうやら他店から応援を呼んだみたいだ。
これで俺が嘘をついていたらフィネガンの信用問題になっていた。眠れないのが分からないでもない。やきもきさせた分、凄いのを見せてやるとしよう。
「さて、小物から行くとする」
俺はゴブリン、コボルト、オーク、ウルフ系、なんか良く分からない植物系複数を次元収納から取り出す。それを見て鑑定士が忙しく動く。
俺は椅子に座り、当面の鑑定が終わるのを待つ。ニコルは菓子を摘んでいる。
「次からは毒を持っていたり、大きかったりするから気をつけてくれ」
マンティコア、ジャイアントリザード、3メートルのオーガ、4メートルのミニジャイアント、5メートルのエティン等の重量級を次々に出す。エティンは一体出すだけで部屋が埋まって凄い非効率的だ。
「ライ様、大きいです」
「大半はデカイだけだ。マンティコアは猛毒があって、倒すのに苦労した」
『そうだよ! 駄目な宿主様が直撃を受けて可憐な妖精がどんなに苦労したか』
羽虫は無視だ。
数が300体を超えた辺りでフィネガンが後何体あるのか聞いてくる。
「そうだな。後30体程度だ」
「そうですか。それにしても凄い戦果です」
フィネガンが感心したように言う。
「そうなの?」
ニコルは実感が無いみたいだ。
「凄いのです。最後の方のモンスターは、公国の騎士団長でも一人では倒せないものばかり。一体ならまだしも、これだけの数を相手取るのは並大抵の手錬では不可能です」
フィネガンがニコルに説明する。最後のを見たらド肝を冷やすぞ。
残すはワイバーン20体のみ。
「フィネガン。ラスト20だ。最後の一つ以外は全部同種だ」
それを聞いた鑑定士は安堵の溜息をつく。何せ普段は見かけないレアモンスターの山だ。他所から来た鑑定士も含めて良い経験になったはず。この数を見た後では、当分鑑定なんてしたくないかもしれない。
別室にいる解体屋は尚更だ。
皆の視線が集まる中、俺はワイバーンを取り出す。翼の関係で部屋には多くても2体が限界だ。それに貴族に売るなら美術的価値が大事だ。無理に2体を一緒の部屋に入れたくは無いだろう。
「ワ、ワイバーン!」
フィネガンが驚愕の声を上げる。他の皆は声すら出ない。
「しょせんは空飛ぶトカゲだ」
俺は自信満々に言う。現時点で戦闘能力のみなら一般人の頂点に立っているからこそ言える台詞だ。
「は、ははは。ライ様は凄過ぎます」
フィネガンがなんとか言葉を続ける。その後は鑑定士に猛撃を飛ばして鑑定を急がせる。同時に解体屋にも細心の注意を払って解体する命令を出す。
「ライ様、申し訳ありません。ワイバーンとなると鑑定にかなり時間が掛かるかもしれません」
「そうか。フィネガンが良いのなら、ワイバーンを全部出して、支払いは後日でも良い。予想額の数割を今日頂ければ是非も無し」
フィネガンがしばし考える。
「ではそうしましょう。今すぐ契約書と納品書を用意します」
「分かった。それと1体だけ違うのを先に鑑定してくれ。俺もこいつの正体が気になっている」
丁度最初のワイバーンが終わり、丁重に解体部屋に運ばれた。
俺は魔法ワイバーンを取り出す。




