表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/9

【第3話】真紅の熱量と白銀の執行官


 (はい)()()くようだった。


 (つめ)たい(あめ)湿気(しっけ)(ふく)んだ空気(くうき)()()むたびに、(のど)(おく)(するど)(いた)む。


 (おれ)たちは()()監視(かんし)カメラや無人(むじん)ドローンを()けるように、(いく)つもの()()んだ路地裏(ろじうら)()け、さらに(ふか)廃墟(はいきょ)地下(ちか)へと(もぐ)()んだ。


 リュウの(かた)(つよ)(ささ)えられながら、(おれ)意識(いしき)(なん)()(とお)のきそうになる。


 視界(しかい)(はし)(あか)点滅(てんめつ)し、まるで体中(からだじゅう)異常(いじょう)高熱(こうねつ)(おか)されているかのように(ゆが)んで()えた。


 (からだ)中心(ちゅうしん)に、まだあの(あか)(ねつ)執拗(しつよう)(のこ)っている。


 それは(おれ)(まも)(たて)であると同時(どうじ)に、内側(うちがわ)から(にく)()き、細胞(さいぼう)()(やぶ)ろうとする()()のエネルギーのようでもあった。


 自分(じぶん)意思(いし)とは無関係(むかんけい)加速(かそく)する(あか)拍動(はくどう)が、周囲(しゅうい)(はげ)しい雨音(あまおと)よりも(おお)きく、耳元(みみもと)でドクン、ドクンと不気味(ぶきみ)なリズムを(きざ)んでいる。


 このままでは自分(じぶん)(ねつ)()けて(こわ)れてしまうのではないか、そんな根源的(こんげんてき)恐怖(きょうふ)が、()()った指先(ゆびさき)(かす)かに(ふる)わせた。

 

「……ここまで()れば、(やつ)らの追跡(ついせき)レーダーも(とど)かないはずだ。この(あた)りは旧市街(きゅうしがい)地下道(ちかどう)複雑(ふくざつ)(かさ)なっているから、電波(でんぱ)遮断(しゃだん)される」


 辿(たど)()いたのは、かつて地下鉄(ちかてつ)(えき)だった場所(ばしょ)だ。


 崩落(ほうらく)した天井(てんじょう)隙間(すきま)から、地上(ちじょう)灰色(はいいろ)(ひかり)(わず)かに()()むだけの、湿(しめ)()()びた広大(こうだい)暗闇(くらやみ)


 かつては(おお)くの労働者(ろうどうしゃ)()()ったであろうプラットホームには、(いま)はただ機械(きかい)()んだような静寂(せいじゃく)と、長年(ながねん)放置(ほうち)された(てつ)()びた(にお)いだけが(ただよ)っていた。


 リュウは(おれ)(かた)いプラスチック(せい)のベンチに(よこ)たえると、素早(すばや)小型(こがた)端末(たんまつ)操作(そうさ)し、周囲(しゅうい)動体(どうたい)感知(かんち)センサーを設置(せっち)した。


 (かれ)(うご)きには無駄(むだ)がない。だが、その横顔(よこがお)には(かく)しきれない焦燥(しょうそう)と、親友(しんゆう)(からだ)心配(しんぱい)する(くら)(かげ)(にじ)()ていた。


「リュウ、()まない……(おれ)のせいで、お前まで危険(きけん)()に……」


(あやま)るな。お(まえ)があの出力(しゅつりょく)()さなきゃ、今頃(いまごろ)(おれ)たちはあの発電所(はつでんしょ)廃棄(はいき)(じょう)焼却(しょうきゃく)処分(しょぶん)されていた。それにしても、(あか)いブレイバーか。レジスタンス政府(せいふ)のデータベースにも、そんな(ねつ)反応(はんのう)(しめ)個体(こたい)記録(きろく)存在(そんざい)しなかったはずだ!」


 リュウは照明(しょうめい)()ちた暗闇(くらやみ)で、手元(てもと)のライトを()けた。


 (しぼ)られた(ひかり)が、(おれ)右腕(みぎうで)をじっと()らし()す。


 そこには電子(でんし)回路(かいろ)のような、あるいは皮膚(ひふ)(した)高温(こうおん)液体(えきたい)(なが)れているような(あか)いアザが、一定(いってい)周期(しゅうき)発光(はっこう)していた。


 ()れれば金属(きんぞく)をも()かす(あつ)さがあるはずなのに、俺自身(おれじしん)感覚(かんかく)(つめ)たい(みず)(なか)にいるようだった。


 まるで、全身(ぜんしん)熱量(ねつりょう)をすべてこのアザが強制(きょうせい)(てき)集約(しゅうやく)し、外部(がいぶ)へと放射(ほうしゃ)しようとしているかのように。


(きゅう)時代(じだい)文献(ぶんけん)では、ブレイバーの発光(はっこう)現象(げんしょう)(あお)……(こう)エネルギーの安定(あんてい)した放出(ほうしゅつ)意味(いみ)する(いろ)だと(しる)されていた。だが、お(まえ)のは完全(かんぜん)(ねつ)暴走(ぼうそう)(いろ)だ。ハルト、あの瞬間(しゅんかん)、お(まえ)(なか)(なに)()きた? システムの不具合(ふぐあい)か?」


()からない。ただ、あの起動(きどう)キーに()れた瞬間(しゅんかん)(すべ)てを()()めて、自分(じぶん)自身(じしん)燃料(ねんりょう)にしてでも(やみ)()()らわなきゃいけないって……そいつの生存(せいぞん)本能(ほんのう)がそう(めい)じていたんだ」


 (おれ)(ふる)える(こぶし)(にぎ)()めた。


 対抗(たいこう)する手段(しゅだん)()しかったのは事実(じじつ)だ。


 無力(むりょく)なまま()されるのは()えられなかった。


 だが、実際(じっさい)()たこの(ちから)はあまりに過剰(かじょう)で、暴力(ぼうりょく)(てき)だ。


 強化(きょうか)外骨格(がいこっかく)装着(そうちゃく)した兵士(へいし)一瞬(いっしゅん)蒸発(じょうはつ)させたあの物理(ぶつり)(てき)破壊(はかい)感触(かんしょく)が、(いま)右腕(みぎうで)から神経(しんけい)(とお)って(のう)へと、(するど)電気(でんき)信号(しんごう)として(つた)わっている。


 その(とき)地下(ちか)静寂(せいじゃく)()()くように、高周波(こうしゅうは)のアラート(おん)(ひび)いた。


 リュウが(こし)のデバイスから、使(つか)(ふる)された通信(つうしん)()()()す。


 暗号(あんごう)()されたデジタルノイズの()こうから、冷静(れいせい)ながらも切迫(せっぱく)した女性(じょせい)音声(おんせい)(なが)れてきた。


『リュウ、警告(けいこく)よ。即座(そくざ)にその座標(ざひょう)破棄(はき)して。(てき)(ねつ)探知(たんち)サテライトが(きみ)たちを捕捉(ほそく)したわ。“執行官(しっこうかん)”が(こう)機動(きどう)スラスターを使用(しよう)して急行(きゅうこう)している。対象(たいしょう)発電所(はつでんしょ)観測(かんそく)された()登録(とうろく)高熱(こうねつ)(げん)……(あか)(ひかり)よ。上層(じょうそう)()治安(ちあん)維持(いじ)部隊(ぶたい)(ぜん)展開(てんかい)しているわ。(きみ)たち(なに)をしたの!?』


 リュウの表情(ひょうじょう)一瞬(いっしゅん)(けわ)しくなった。


執行官(しっこうかん)だと!?......計算(けいさん)()わない……!(やつ)らの動力(どうりょく)()では、ここまで短時間(たんじかん)での移動(いどう)不可能(ふかのう)なはずだ! たかがスラムの(いち)区画(くかく)に、特殊(とくしゅ)兵装(へいそう)投入(とうにゅう)するっていうのか!」


科学(かがく)(きょく)異常(いじょう)関心(かんしん)(しめ)しているのよ。理論(りろん)(じょう)あり()ない“(あか)”の波長(はちょう)を、(かれ)らは致命(ちめい)(てき)なシステムエラーとして排除(はいじょ)する方針(ほうしん)(かた)めたみたい。(やつ)らはその波長(はちょう)直接(ちょくせつ)()っているわ。地下(ちか)にいても無意味(むいみ)よ、(まち)全体(ぜんたい)量子(りょうし)スキャンの(あみ)()られたわ。生存(せいぞん)確率(かくりつ)(びょう)単位(たんい)低下(ていか)しているわよ』


 通信(つうしん)強制(きょうせい)終了(しゅうりょう)された。


 リュウは(はげ)しく舌打(したう)ちをすると、(おれ)(うで)強引(ごういん)()()こした。


「ハルト、()て! システムの復旧(ふっきゅう)()っている時間(じかん)はない。最新(さいしん)兵器(へいき)がお()ましだ。一般兵(いっぱんへい)装甲(そうこう)なんてのは、ただの薄板(うすいた)みたいなものだが、(つぎ)相手(あいて)別次元(べつじげん)だ」


 その言葉(ことば)同時(どうじ)だった。


 地上(ちじょう)へと(つづ)階段(かいだん)(うえ)から、カツン、カツンと精密(せいみつ)機械(きかい)のような規則的(きそくてき)足音(あしおと)(ひび)いてきた。


 それは生身(なまみ)人間(にんげん)のような不安定(ふあんてい)なリズムではない。


 最高(さいこう)水準(すいじゅん)人工(じんこう)知能(ちのう)によって制御(せいぎょ)された、最適(さいてき)歩行(ほこう)


 一歩(いっぽ)、また一歩(いっぽ)(ちか)づくたびに、空気(くうき)(ちゅう)静電気(せいでんき)(たか)まり、(はだ)()すような緊張感(きんちょうかん)地下(ちか)満た(みた)していく。


 暗闇(くらやみ)(なか)から姿(すがた)(あらわ)したのは、特殊(とくしゅ)合成(ごうせい)繊維(せんい)(つく)られた純白(じゅんぱく)のプロテクターを(まと)った(ひと)()(おとこ)だった。


 (よご)れきったこの地下街(ちかがい)にはあまりに()(ちが)いな、(ひかり)反射(はんしゃ)する銀色(ぎんいろ)装飾(そうしょく)


 そいつは、一切(いっさい)無駄(むだ)()()とした動作(どうさ)(あゆ)()り、高性能(こうせいのう)義眼(ぎがん)(はっ)する(あお)(ひかり)(おれ)たちを分析(ぶんせき)した。


低層(ていそう)住民(じゅうみん)保持(ほじ)するには、過大(かだい)なエネルギーだな。その異常(いじょう)波長(はちょう)(あか)……(すみ)やかにデリートする必要(ひつよう)がある」


 (おとこ)右腕(みぎうで)のハードポイントをこちらへ()けると、内蔵(ないぞう)されたリニア機構(きこう)高速(こうそく)作動(さどう)し、空気(くうき)()()(おと)とともに超硬(ちょうこう)(しつ)のワイヤーブレードが射出(しゃしゅつ)された。


 磁場(じば)によって自在(じざい)軌道(きどう)()え、標的(ひょうてき)正確(せいかく)切断(せつだん)する特殊(とくしゅ)兵装(へいそう)


 科学(かがく)(すい)(あつ)めて(つく)られた、執行官(しっこうかん)冷酷(れいこく)(きば)だ。


 (かれ)から(はっ)せられる計算(けいさん)()くされた殺気(さっき)に、(おれ)(あし)本能(ほんのう)(てき)(ふる)(はじ)める。


「リュウ、()がっていてくれ……こいつは、(おれ)対応(たいおう)するしかないんだ」


 (おれ)(ゆか)(ころ)がっていた(てつ)パイプを武器(ぶき)として(かま)えた。


 (からだ)細胞(さいぼう)レベルでのオーバーヒートにより悲鳴(ひめい)()げている。


 (うで)紋様(もんよう)(いま)限界(げんかい)まで(あか)(かがや)き、周囲(しゅうい)空気(くうき)陽炎(かげろう)のように()らしていた。


 だが、目前(もくぜん)圧倒的(あっとうてき)戦力(せんりょく)()が、(おれ)精神(せいしん)無理矢理(むりやり)覚醒(かくせい)させる。


 (こわ)い。


 ()げたい。


 それでも、(まも)ると()めた場所(ばしょ)放棄(ほうき)することだけは、もう()()としないと(ちか)ったんだ。


効率(こうりつ)(わる)い。その制御(せいぎょ)不能(ふのう)熱量(ねつりょう)が、どこまで理論(りろん)(もと)づく(ちから)対抗(たいこう)できるか……実験(じっけん)といこう。無価値(むかち)個体(こたい)終焉(しゅうえん)をな」


 執行官(しっこうかん)左手(ひだりて)のコンソールを操作(そうさ)する。同時(どうじ)に、空中(くうちゅう)浮遊(ふゆう)していた数機(すうき)攻撃(こうげき)ユニットから、()にも()まらぬ(はや)さでレーザーが照射(しょうしゃ)された。(おれ)奥歯(おくば)()締め(しめ)右腕(みぎうで)意識(いしき)集中(しゅうちゅう)させる。


「うぉぉぉぉぉ!」


 叫び(さけび)とともに、右腕(みぎうで)から噴出(ふんしゅつ)した圧倒的(あっとうてき)熱波(ねっぱ)が、()っていたパイプを一瞬(いちしゅん)でプラズマ()させ、巨大(きょだい)(ひかり)(けん)(つく)()した。


 (せま)()るレーザーを、(おれ)必死(ひっし)()(はら)う。


 激突(げきとつ)瞬間(しゅんかん)駅舎(えきしゃ)全体(ぜんたい)()るがすほどの物理(ぶつり)(てき)衝撃(しょうげき)発生(はっせい)し、堅牢(けんろう)なコンクリートの(かべ)がドロドロに融解(ゆうかい)した。


「……(しん)じがたい。生体(せいたい)ユニットからこれほどの物理(ぶつり)出力(しゅつりょく)()せれるのか!」


 リュウが背後(はいご)驚愕(きょうがく)(こえ)()らす。


 だが、(おれ)精神(せいしん)(てき)余裕(よゆう)欠片(かけら)もない。


 一撃(いちげき)(ふせ)ぐごとに、全身(ぜんしん)毛細血管(もうさいけっかん)破裂(はれつ)しそうなほどの負荷(ふか)がかかっている。


 視界(しかい)灼熱(しゃくねつ)(あか)()まり、心拍(しんぱく)(すう)致死(ちし)(いき)(たっ)して(のう)()(まわ)していた。


 執行官(しっこうかん)は、わずかに機械(きかい)義眼(ぎがん)をおさえ焦点(しょうてん)調整(ちょうせい)した。


 それは(おどろ)きというよりは、未知(みち)のバグを発見(はっけん)した(とき)論理(ろんり)(てき)不快感(ふかいかん)(ちか)反応(はんのう)だった。


 (かれ)右足(みぎあし)電磁(でんじ)アンカーを(ゆか)固定(こてい)する。


 今度(こんど)肩部(けんぶ)から、小型(こがた)ミサイルが自動追尾(じどうついび)モードで発射(はっしゃ)された。


「ハルト、回避(かいひ)専念(せんねん)しろ! 直撃(ちょくげき)すれば蒸発(じょうはつ)するぞ!」


 リュウの指示(しじ)即座(そくざ)反応(はんのう)し、(おれ)(よこ)()んだ。


 直後(ちょくご)、さっきまで(おれ)がいた地点(ちてん)をミサイルが粉砕(ふんさい)し、地下施設(ちかしせつ)(ゆか)巨大(きょだい)なクレーターを(つく)った。


 (おれ)空中で(くうちゅうで)姿勢(しせい)制御(せいぎょ)し、(あか)(ひかり)(まと)った(こぶし)地面(じめん)(たた)きつける。


()()きろぉ!」

 

 (おれ)咆哮(ほうこう)呼応(こおう)し、接触(せっしょく)地点(ちてん)から高密度(こうみつど)(ねつ)エネルギーが放射(ほうしゃ)(じょう)(ひろ)がった。


 接近(せっきん)する無人(むじん)()()(はら)いながら、熱波(ねっぱ)執行官(しっこうかん)へと(せま)る。


 地下駅(ちかえき)暗闇(くらやみ)が、その瞬間(しゅんかん)だけは(かく)融合(ゆうごう)中心(ちゅうしん)のような白濁(はくだく)した(あか)()(つぶ)された。


 衝撃(しょうげき)余韻(よいん)()めぬ(なか)(おれ)(はげ)しく(あえ)ぎながら(ゆか)(ひざ)()いた。


 意識(いしき)維持(いじ)するだけで(のう)のヒューズが()びそうだ。


 だが、砂塵(さじん)()れた(さき)()っていたのは、物理的(ぶつりてき)損傷(そんしょう)一切(いっさい)(かん)じさせない、無傷(むきず)執行官(しっこうかん)姿(すがた)だった。


 (かれ)周囲(しゅうい)には、高周波振動(こうしゅうはしんどう)による空気(くうき)(かべ)展開(てんかい)されており、(おれ)(ねつ)力学的(りきがくてき)()らしていた。



(だい) 4()(つづ)く)



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ