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覚醒ブレイバー  作者: 阿門 甲斐吽


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【第3話】真紅の熱量と白銀の執行官


 肺(はい)が焼(や)き付(つ)くようだった。


 冷(つめ)たい雨(あめ)の湿気(しっけ)を含(ふく)んだ空気(くうき)を吸(す)い込(こ)むたびに、喉(のど)の奥(おく)が鋭(するど)く痛(いた)む。


 俺(おれ)たちは追(お)っ手(て)の監視(かんし)カメラや無人(むじん)ドローンを避(よ)けるように、幾(いく)つもの入(い)り組(く)んだ路地裏(ろじうら)を抜(ぬ)け、さらに深(ふか)い廃墟(はいきょ)の地下(ちか)へと潜(もぐ)り込(こ)んだ。


 リュウの肩(かた)に強(つよ)く支(ささ)えられながら、俺(おれ)の意識(いしき)は何(なん)度(ど)も遠(とお)のきそうになる。


 視界(しかい)の端(はし)が赤(あか)く点滅(てんめつ)し、まるで体中(からだじゅう)が異常(いじょう)な高熱(こうねつ)に侵(おか)されているかのように歪(ゆが)んで見(み)えた。


 体(からだ)の中心(ちゅうしん)に、まだあの赤(あか)い熱(ねつ)が執拗(しつよう)に残(のこ)っている。


 それは俺(おれ)を守(まも)る盾(たて)であると同時(どうじ)に、内側(うちがわ)から肉(にく)を焼(や)き、細胞(さいぼう)を突(つ)き破(やぶ)ろうとする未(み)知(ち)のエネルギーのようでもあった。


 自分(じぶん)の意思(いし)とは無関係(むかんけい)に加速(かそく)する赤(あか)い拍動(はくどう)が、周囲(しゅうい)の激(はげ)しい雨音(あまおと)よりも大(おお)きく、耳元(みみもと)でドクン、ドクンと不気味(ぶきみ)なリズムを刻(きざ)んでいる。


 このままでは自分(じぶん)が熱(ねつ)で溶(と)けて壊(こわ)れてしまうのではないか、そんな根源的(こんげんてき)な恐怖(きょうふ)が、冷(ひ)え切(き)った指先(ゆびさき)を微(かす)かに震(ふる)わせた。

 

「……ここまで来(く)れば、奴(やつ)らの追跡(ついせき)レーダーも届(とど)かないはずだ。この辺(あた)りは旧市街(きゅうしがい)の地下道(ちかどう)が複雑(ふくざつ)に重(かさ)なっているから、電波(でんぱ)が遮断(しゃだん)される」


 辿(たど)り着(つ)いたのは、かつて地下鉄(ちかてつ)の駅(えき)だった場所(ばしょ)だ。


 崩落(ほうらく)した天井(てんじょう)の隙間(すきま)から、地上(ちじょう)の灰色(はいいろ)の光(ひかり)が僅(わず)かに差(さ)し込(こ)むだけの、湿(しめ)り気(け)を帯(お)びた広大(こうだい)な暗闇(くらやみ)。


 かつては多(おお)くの労働者(ろうどうしゃ)が行(い)き交(か)ったであろうプラットホームには、今(いま)はただ機械(きかい)が死(し)んだような静寂(せいじゃく)と、長年(ながねん)放置(ほうち)された鉄(てつ)の錆(さ)びた臭(にお)いだけが漂(ただよ)っていた。


 リュウは俺(おれ)を硬(かた)いプラスチック製(せい)のベンチに横(よこ)たえると、素早(すばや)く小型(こがた)の端末(たんまつ)を操作(そうさ)し、周囲(しゅうい)に動体(どうたい)感知(かんち)センサーを設置(せっち)した。


 彼(かれ)の動(うご)きには無駄(むだ)がない。だが、その横顔(よこがお)には隠(かく)しきれない焦燥(しょうそう)と、親友(しんゆう)の体(からだ)を心配(しんぱい)する暗(くら)い影(かげ)が滲(にじ)み出(で)ていた。


「リュウ、済(す)まない……俺(おれ)のせいで、お前まで危険(きけん)な目(め)に……」


「謝(あやま)るな。お前(まえ)があの出力(しゅつりょく)を出(だ)さなきゃ、今頃(いまごろ)俺(おれ)たちはあの発電所(はつでんしょ)の廃棄(はいき)場(じょう)で焼却(しょうきゃく)処分(しょぶん)されていた。それにしても、赤(あか)いブレイバーか。レジスタンス政府(せいふ)のデータベースにも、そんな熱(ねつ)反応(はんのう)を示(しめ)す個体(こたい)の記録(きろく)は存在(そんざい)しなかったはずだ!」


 リュウは照明(しょうめい)の落(お)ちた暗闇(くらやみ)で、手元(てもと)のライトを点(つ)けた。


 絞(しぼ)られた光(ひかり)が、俺(おれ)の右腕(みぎうで)をじっと照(て)らし出(だ)す。


 そこには電子(でんし)回路(かいろ)のような、あるいは皮膚(ひふ)の下(した)で高温(こうおん)の液体(えきたい)が流(なが)れているような赤(あか)いアザが、一定(いってい)の周期(しゅうき)で発光(はっこう)していた。


 触(ふ)れれば金属(きんぞく)をも溶(と)かす熱(あつ)さがあるはずなのに、俺自身(おれじしん)の感覚(かんかく)は冷(つめ)たい水(みず)の中(なか)にいるようだった。


 まるで、全身(ぜんしん)の熱量(ねつりょう)をすべてこのアザが強制(きょうせい)的(てき)に集約(しゅうやく)し、外部(がいぶ)へと放射(ほうしゃ)しようとしているかのように。


「旧(きゅう)時代(じだい)の文献(ぶんけん)では、ブレイバーの発光(はっこう)現象(げんしょう)は青(あお)……高(こう)エネルギーの安定(あんてい)した放出(ほうしゅつ)を意味(いみ)する色(いろ)だと記(しる)されていた。だが、お前(まえ)のは完全(かんぜん)に熱(ねつ)暴走(ぼうそう)の色(いろ)だ。ハルト、あの瞬間(しゅんかん)、お前(まえ)の中(なか)で何(なに)が起(お)きた? システムの不具合(ふぐあい)か?」


「分(わ)からない。ただ、あの起動(きどう)キーに触(ふ)れた瞬間(しゅんかん)、全(すべ)てを受(う)け止(と)めて、自分(じぶん)自身(じしん)を燃料(ねんりょう)にしてでも闇(やみ)を焼(や)き払(は)らわなきゃいけないって……そいつの生存(せいぞん)本能(ほんのう)がそう命(めい)じていたんだ」


 俺(おれ)は震(ふる)える拳(こぶし)を握(にぎ)り締(し)めた。


 対抗(たいこう)する手段(しゅだん)が欲(ほ)しかったのは事実(じじつ)だ。


 無力(むりょく)なまま消(き)されるのは耐(た)えられなかった。


 だが、実際(じっさい)に得(え)たこの力(ちから)はあまりに過剰(かじょう)で、暴力(ぼうりょく)的(てき)だ。


 強化(きょうか)外骨格(がいこっかく)を装着(そうちゃく)した兵士(へいし)を一瞬(いっしゅん)で蒸発(じょうはつ)させたあの物理(ぶつり)的(てき)な破壊(はかい)の感触(かんしょく)が、今(いま)も右腕(みぎうで)から神経(しんけい)を通(とお)って脳(のう)へと、鋭(するど)い電気(でんき)信号(しんごう)として伝(つた)わっている。


 その時(とき)、地下(ちか)の静寂(せいじゃく)を切(き)り裂(さ)くように、高周波(こうしゅうは)のアラート音(おん)が響(ひび)いた。


 リュウが腰(こし)のデバイスから、使(つか)い古(ふる)された通信(つうしん)機(き)を取(と)り出(だ)す。


 暗号(あんごう)化(か)されたデジタルノイズの向(む)こうから、冷静(れいせい)ながらも切迫(せっぱく)した女性(じょせい)の音声(おんせい)が流(なが)れてきた。


『リュウ、警告(けいこく)よ。即座(そくざ)にその座標(ざひょう)を破棄(はき)して。敵(てき)の熱(ねつ)探知(たんち)サテライトが君(きみ)たちを捕捉(ほそく)したわ。“執行官(しっこうかん)”が高(こう)機動(きどう)スラスターを使用(しよう)して急行(きゅうこう)している。対象(たいしょう)は発電所(はつでんしょ)で観測(かんそく)された未(み)登録(とうろく)の高熱(こうねつ)源(げん)……赤(あか)い光(ひかり)よ。上層(じょうそう)区(く)の治安(ちあん)維持(いじ)部隊(ぶたい)が全(ぜん)展開(てんかい)しているわ。君(きみ)たち何(なに)をしたの!?』


 リュウの表情(ひょうじょう)が一瞬(いっしゅん)で険(けわ)しくなった。


「執行官(しっこうかん)だと!?......計算(けいさん)が合(あ)わない……!奴(やつ)らの動力(どうりょく)炉(ろ)では、ここまで短時間(たんじかん)での移動(いどう)は不可能(ふかのう)なはずだ! たかがスラムの一(いち)区画(くかく)に、特殊(とくしゅ)兵装(へいそう)を投入(とうにゅう)するっていうのか!」


『科学(かがく)局(きょく)が異常(いじょう)な関心(かんしん)を示(しめ)しているのよ。理論(りろん)上(じょう)あり得(え)ない“赤(あか)”の波長(はちょう)を、彼(かれ)らは致命(ちめい)的(てき)なシステムエラーとして排除(はいじょ)する方針(ほうしん)を固(かた)めたみたい。奴(やつ)らはその波長(はちょう)を直接(ちょくせつ)追(お)っているわ。地下(ちか)にいても無意味(むいみ)よ、街(まち)全体(ぜんたい)に量子(りょうし)スキャンの網(あみ)が張(は)られたわ。生存(せいぞん)確率(かくりつ)は秒(びょう)単位(たんい)で低下(ていか)しているわよ』


 通信(つうしん)が強制(きょうせい)終了(しゅうりょう)された。


 リュウは激(はげ)しく舌打(したう)ちをすると、俺(おれ)の腕(うで)を強引(ごういん)に引(ひ)き起(お)こした。


「ハルト、立(た)て! システムの復旧(ふっきゅう)を待(ま)っている時間(じかん)はない。最新(さいしん)の兵器(へいき)がお出(で)ましだ。一般兵(いっぱんへい)の装甲(そうこう)なんてのは、ただの薄板(うすいた)みたいなものだが、次(つぎ)の相手(あいて)は別次元(べつじげん)だ」


 その言葉(ことば)と同時(どうじ)だった。


 地上(ちじょう)へと続(つづ)く階段(かいだん)の上(うえ)から、カツン、カツンと精密(せいみつ)な機械(きかい)のような規則的(きそくてき)な足音(あしおと)が響(ひび)いてきた。


 それは生身(なまみ)の人間(にんげん)のような不安定(ふあんてい)なリズムではない。


 最高(さいこう)水準(すいじゅん)の人工(じんこう)知能(ちのう)によって制御(せいぎょ)された、最適(さいてき)な歩行(ほこう)。


 一歩(いっぽ)、また一歩(いっぽ)と近(ちか)づくたびに、空気(くうき)中(ちゅう)の静電気(せいでんき)が高(たか)まり、肌(はだ)を刺(さ)すような緊張感(きんちょうかん)が地下(ちか)を満た(みた)していく。


 暗闇(くらやみ)の中(なか)から姿(すがた)を現(あらわ)したのは、特殊(とくしゅ)な合成(ごうせい)繊維(せんい)で作(つく)られた純白(じゅんぱく)のプロテクターを纏(まと)った一(ひと)人(り)の男(おとこ)だった。


 汚(よご)れきったこの地下街(ちかがい)にはあまりに場(ば)違(ちが)いな、光(ひかり)を反射(はんしゃ)する銀色(ぎんいろ)の装飾(そうしょく)。


 そいつは、一切(いっさい)の無駄(むだ)を削(そ)ぎ落(お)とした動作(どうさ)で歩(あゆ)み寄(よ)り、高性能(こうせいのう)な義眼(ぎがん)が発(はっ)する青(あお)い光(ひかり)で俺(おれ)たちを分析(ぶんせき)した。


「低層(ていそう)住民(じゅうみん)が保持(ほじ)するには、過大(かだい)なエネルギーだな。その異常(いじょう)波長(はちょう)の赤(あか)……速(すみ)やかにデリートする必要(ひつよう)がある」


 男(おとこ)が右腕(みぎうで)のハードポイントをこちらへ向(む)けると、内蔵(ないぞう)されたリニア機構(きこう)が高速(こうそく)で作動(さどう)し、空気(くうき)を切(き)り裂(さ)く音(おと)とともに超硬(ちょうこう)質(しつ)のワイヤーブレードが射出(しゃしゅつ)された。


 磁場(じば)によって自在(じざい)に軌道(きどう)を変(か)え、標的(ひょうてき)を正確(せいかく)に切断(せつだん)する特殊(とくしゅ)兵装(へいそう)。


 科学(かがく)の粋(すい)を集(あつ)めて作(つく)られた、執行官(しっこうかん)の冷酷(れいこく)な牙(きば)だ。


 彼(かれ)から発(はっ)せられる計算(けいさん)し尽(つ)くされた殺気(さっき)に、俺(おれ)の足(あし)が本能(ほんのう)的(てき)に震(ふる)え始(はじ)める。


「リュウ、下(さ)がっていてくれ……こいつは、俺(おれ)が対応(たいおう)するしかないんだ」


 俺(おれ)は床(ゆか)に転(ころ)がっていた鉄(てつ)パイプを武器(ぶき)として構(かま)えた。


 体(からだ)は細胞(さいぼう)レベルでのオーバーヒートにより悲鳴(ひめい)を上(あ)げている。


 腕(うで)の紋様(もんよう)は今(いま)や限界(げんかい)まで赤(あか)く輝(かがや)き、周囲(しゅうい)の空気(くうき)を陽炎(かげろう)のように揺(ゆ)らしていた。


 だが、目前(もくぜん)の圧倒的(あっとうてき)な戦力(せんりょく)差(さ)が、俺(おれ)の精神(せいしん)を無理矢理(むりやり)に覚醒(かくせい)させる。


 怖(こわ)い。


 逃(に)げたい。


 それでも、守(まも)ると決(き)めた場所(ばしょ)を放棄(ほうき)することだけは、もう二(に)度(ど)としないと誓(ちか)ったんだ。


「効率(こうりつ)が悪(わる)い。その制御(せいぎょ)不能(ふのう)な熱量(ねつりょう)が、どこまで理論(りろん)に基(もと)づく力(ちから)に対抗(たいこう)できるか……実験(じっけん)といこう。無価値(むかち)な個体(こたい)の終焉(しゅうえん)をな」


 執行官(しっこうかん)が左手(ひだりて)のコンソールを操作(そうさ)する。同時(どうじ)に、空中(くうちゅう)に浮遊(ふゆう)していた数機(すうき)の攻撃(こうげき)ユニットから、目(め)にも止(と)まらぬ速(はや)さでレーザーが照射(しょうしゃ)された。俺(おれ)は奥歯(おくば)を噛(か)み締め(しめ)、右腕(みぎうで)に意識(いしき)を集中(しゅうちゅう)させる。


「うぉぉぉぉぉ!」


 叫び(さけび)とともに、右腕(みぎうで)から噴出(ふんしゅつ)した圧倒的(あっとうてき)な熱波(ねっぱ)が、持(も)っていたパイプを一瞬(いちしゅん)でプラズマ化(か)させ、巨大(きょだい)な光(ひかり)の剣(けん)を作(つく)り出(だ)した。


 迫(せま)り来(く)るレーザーを、俺(おれ)は必死(ひっし)に薙(な)ぎ払(はら)う。


 激突(げきとつ)の瞬間(しゅんかん)、駅舎(えきしゃ)全体(ぜんたい)を揺(ゆ)るがすほどの物理(ぶつり)的(てき)な衝撃(しょうげき)が発生(はっせい)し、堅牢(けんろう)なコンクリートの壁(かべ)がドロドロに融解(ゆうかい)した。


「……信(しん)じがたい。生体(せいたい)ユニットからこれほどの物理(ぶつり)出力(しゅつりょく)が出(だ)せれるのか!」


 リュウが背後(はいご)で驚愕(きょうがく)の声(こえ)を漏(も)らす。


 だが、俺(おれ)に精神(せいしん)的(てき)な余裕(よゆう)は欠片(かけら)もない。


 一撃(いちげき)を防(ふせ)ぐごとに、全身(ぜんしん)の毛細血管(もうさいけっかん)が破裂(はれつ)しそうなほどの負荷(ふか)がかかっている。


 視界(しかい)は灼熱(しゃくねつ)の赤(あか)に染(そ)まり、心拍(しんぱく)数(すう)は致死(ちし)域(いき)に達(たっ)して脳(のう)を掻(か)き回(まわ)していた。


 執行官(しっこうかん)は、わずかに機械(きかい)の義眼(ぎがん)をおさえ焦点(しょうてん)を調整(ちょうせい)した。


 それは驚(おどろ)きというよりは、未知(みち)のバグを発見(はっけん)した時(とき)の論理(ろんり)的(てき)な不快感(ふかいかん)に近(ちか)い反応(はんのう)だった。


 彼(かれ)は右足(みぎあし)の電磁(でんじ)アンカーを床(ゆか)に固定(こてい)する。


 今度(こんど)は肩部(けんぶ)から、小型(こがた)ミサイルが自動追尾(じどうついび)モードで発射(はっしゃ)された。


「ハルト、回避(かいひ)に専念(せんねん)しろ! 直撃(ちょくげき)すれば蒸発(じょうはつ)するぞ!」


 リュウの指示(しじ)に即座(そくざ)に反応(はんのう)し、俺(おれ)は横(よこ)へ跳(と)んだ。


 直後(ちょくご)、さっきまで俺(おれ)がいた地点(ちてん)をミサイルが粉砕(ふんさい)し、地下施設(ちかしせつ)の床(ゆか)に巨大(きょだい)なクレーターを作(つく)った。


 俺(おれ)は空中で(くうちゅうで)姿勢(しせい)を制御(せいぎょ)し、赤(あか)い光(ひかり)を纏(まと)った拳(こぶし)を地面(じめん)に叩(たた)きつける。


「燃(も)え尽(つ)きろぉ!」

 

 俺(おれ)の咆哮(ほうこう)に呼応(こおう)し、接触(せっしょく)地点(ちてん)から高密度(こうみつど)の熱(ねつ)エネルギーが放射(ほうしゃ)状(じょう)に広(ひろ)がった。


 接近(せっきん)する無人(むじん)機(き)を焼(や)き払(はら)いながら、熱波(ねっぱ)は執行官(しっこうかん)へと迫(せま)る。


 地下駅(ちかえき)の暗闇(くらやみ)が、その瞬間(しゅんかん)だけは核(かく)融合(ゆうごう)の中心(ちゅうしん)のような白濁(はくだく)した赤(あか)に塗(ぬ)り潰(つぶ)された。


 衝撃(しょうげき)の余韻(よいん)が冷(さ)めぬ中(なか)、俺(おれ)は激(はげ)しく喘(あえ)ぎながら床(ゆか)に膝(ひざ)を突(つ)いた。


 意識(いしき)を維持(いじ)するだけで脳(のう)のヒューズが飛(と)びそうだ。


 だが、砂塵(さじん)が晴(は)れた先(さき)に立(た)っていたのは、物理的(ぶつりてき)な損傷(そんしょう)を一切(いっさい)感(かん)じさせない、無傷(むきず)の執行官(しっこうかん)の姿(すがた)だった。


 彼(かれ)の周囲(しゅうい)には、高周波振動(こうしゅうはしんどう)による空気(くうき)の壁(かべ)が展開(てんかい)されており、俺(おれ)の熱(ねつ)を力学的(りきがくてき)に逸(そ)らしていた。



(第(だい) 4話(わ)に続(つづ)く)



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