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申し訳ない気持ちで一杯のまま、俺たちの映画作りは再開した。
それと同時に、俺の作家活動も。
これまで書き続けていた映画のノベライズと、新たに始めた、小説家志望者の物語の二本立てだ。
瞬く間に時間は流れてゆき、その全てが順調に、信じられないほどに順調に進み、そして完結した。
映画も完成し、どちらの小説も終わらせることができた。
完成した映画だったのだが、小野寺のまたもや思いつきで、動画投稿サイトの自主制作映画コンクールに出品された。
俺は嫌だったのだが、「発表されない作品は無いのも同じ」という篠原の言葉を思い出し、渋々承諾した。
そして今日が、その映画コンクールの結果発表の日だ。
俺たちは俺のアパートに集まり、PCのモニターに釘付けになっている。
そこにはその結果がランキング形式で載っているのだが。
「圏外ってどういう事~?」
村主が目をバッテンにさせながら嘆く。
それもそのはず、俺たちの映画は、賞を取るどころかノミネートすらされていない。ただ、『その他応募作品』の項目に埋もれているだけだった。
「あんなに恥ずかしい思いしたのに~」
「まあ、仕方ないね」
「楽しかったからいいじゃない。結果が全てじゃないよ」
みんながみんな、思い思いの事を言い、篠原は黙っていた。
俺はといえば、脚本を叩かれてはいないかとビビっていたのだが、それすらなかった。つまり、評価するに値しない、と。
まあ、それでいいじゃないか。
これでこそ、俺の小説ってもんだ。
ごく一部の人が、楽しめればそれでいい。
大衆に認められなくても、たった一人でも、俺の小説を評価してくれる人がいれば、それでいいんだ。
そう思っていたところ、郵便配達のオッサンが、俺の部屋のポストに何かを投函した。
走り去るバイクの音を聞きながら、俺は郵便受けを確認する。
すると、『親展』の印が押された、やたらと分厚い茶封筒が、一通だけ届いていた。
「なに、何が届いたの?」
全員がその封筒に興味を示し、食いついてくる。
差出人を見れば、とある有名な出版社からだった。
「なんだろこれ」
封を開くと、束になった紙と、別に一枚の紙切れが入っているだけだった。
「えーっとなになに、『新人賞書類選考落選のお知らせ』だと……!?」
紙束のほうを見れば、それは俺が書いた『アパートから始めよう』の原稿だった。
「え、どういう事だよ、これ。全く身に覚えが無いんだけど!?」
ちょっと待てよ。応募した覚えもないのに、どうして新人賞落選の通知が来るんだ?
困惑していた俺をよそに、篠原紫だけがけらけらと笑っていた。
「あら、もう結果が来たの。随分早かったわね」
「お、お前か? お前の仕業なのか!?」
「仕業とは失礼ね。デビューする気のない作家様のために、私が代わりに応募しておいてあげたのよ。感謝なさい」
な、な、な、なんてことを……。余計な事しやがって! なにが感謝なさいだ。そういうのをな、小さな親切、大きなお世話って言うんだ。
「それにしても、書類選考落選なんて。……出版社も見る目がないわね」
「あああもう、どうしてくれるんだよ!」
「どうするもこうするも、これであなたも立派なワナビの仲間入りじゃない。良かったわね」
すると何故かみんな、笑顔で拍手しやがる。
「おめでとう! これからも頑張ってね」
「良かったな、ワナビになれて」
「おめでとう~、デビュー目指して頑張って~」
何が良かっただ!
何がワナビの仲間入りだ!
勝手なことしやがって!
ちくしょう、ちくしょう、ちくしょうちくしょうちくしょう!
とにかく俺は、こう叫ぶしかなかったね。
「俺は……、俺は……」
俺はワナビなんかじゃねぇ!
~おしまい~