8話 毒がすごい
「絶対食われねえからな!!」
《ポイズンミニルーパー》への進化を選んだ、その直後だった。
ドクン――。
「……ん?」
身体の奥が大きく脈打つ。
次の瞬間、全身が一気に熱くなった。
「熱っ!? な、なんだこれ!」
身体の内側から焼かれているような感覚。
進化だよな?
毒に進化するからって、毒で死んだりしないよな!?
慌てて身体を動かそうとする。
しかし――。
「……あれ?」
動かない。
手も足も、尻尾すら動かせない。
全身にまったく力が入らなかった。
「ちょっと待って。これヤバくない?」
ここ、普通に魔物がいる川なんですけど。
進化中に、あの牙の生えた鯉みたいな奴が来たらどうすんの!?
そんな俺の心配を無視して、進化は進んでいく。
熱とともに皮膚がムズムズし始め、やがて古い皮膚が少しずつ剥がれ始めた。
「脱皮……?」
古い皮膚の下から、新しい身体が押し出されていく。
痛くはない。
ただ、身体の内側から作り変えられているような感覚があって、めちゃくちゃ気持ち悪い。
「進化ってもっとこう……光に包まれてパァァァ! みたいな感じじゃないの?」
ゲームなら一瞬だぞ。
なんで俺の進化だけこんな生々しいんだよ。
それから、どれくらい経っただろう。
数分か。
それとも数十分か。
時間の感覚すら分からないまま待っていると、ようやく身体の熱が引いてきた。
恐る恐る手を動かす。
動く。
尻尾も――動く。
「終わった……?」
試しに泳いでみる。
問題ない。
どうやら無事に進化できたらしい。
「…………いや、危ねえだろ!!」
俺は慌てて周囲を確認した。
幸い、近くに危険な生き物はいない。
でもこれ、運が悪かったら普通に食われてたよね?
進化を選ぶ。
身体が動かなくなる。
敵が来る。
パクッ。
二度目の人生終了。
嫌すぎる。
「そういうの先に教えてよ! 神様たち!」
《神の悪戯》で見守ってるんでしょ!?
見てないで教えてくれよ!
というか――。
「水の女神も!」
加護までくれたんだから、もうちょっと面倒見てくれてもいいだろ。
宴会芸を上手くしてる場合じゃないって。
「……ん?」
水の女神。
水を司る女神。
そして現在の俺。
――ポイズンミニルーパー。
「俺、多分水汚すタイプの進化先だけど……大丈夫なのか?」
毒を撒く生物に、水の女神の加護。
相性最悪じゃない?
そのうち『私の水を汚すな!』とか言われて加護を没収されないよな?
「……まあ、それは今度考えよう」
今考えても分からん。
それよりも、せっかく進化したんだ。
まずは新しい身体を確認したい。
「…………よく見えねえ」
相変わらず視界はぼんやりしている。
自分の身体すら、はっきりとは見えない。
ただ、前より少し毒々しい色になった……気がする。
身体には斑点のような模様も増えている。
「多分、斑点ついてるな」
ポイズン感は出た。
多分。
そして大きさは――。
「…………変わってなくね?」
周りの石と比べても、ほとんど変わっていない気がする。
さすが《ポイズンミニルーパー》。
しっかりミニのままだ。
「まあいい。重要なのは中身だ」
見た目がほとんど変わらなくても、能力が強くなっていれば問題ない。
さっそく確認してみよう。
「ステータス!」
【種族】ポイズンミニルーパー
【Lv】1
【HP】13/13
【攻撃力】1
【防御力】25
【素早さ】1
【魔力】3
【幸運】5
【スキル】
《丸呑み》
《猛毒手》
《水中遊泳》
《水中呼吸》
《猛毒棘》
《防御》
《挟む》
《鑑定・小》
《毒回復》NEW!
《毒散布》NEW!
【特典】
《神の悪戯》
《水の女神の加護・小》
「…………待ってくれ」
何かがおかしい。
いや。
いろいろおかしい。
【Lv】1
「レベル1に戻ってる!?」
俺、さっきレベル10になったばっかりなんだけど!?
虫食って。
魚食って。
ザリガニと命懸けで戦って。
やっとレベル10まで上げたんだぞ!?
「進化したらレベルリセットされるタイプかよ!」
ゲームならよくある。
よくあるけど、実際に自分でやられるとかなりキツい。
しかも――。
【HP】13/13
「50から13!?」
減りすぎだろ!
進化前の四分の一くらいしかないじゃん!
【攻撃力】1
【素早さ】1
「こいつらも最初に戻ってるし……」
転生直後と同じじゃねえか。
せっかく上げたのに……。
「進化って強くなるんじゃないの?」
これじゃ退化じゃん。
……いや、待て。
【防御力】25
「高っ!」
レベル1で25?
最初のミニルーパーLv1の時は、防御力5だった。
つまり初期値だけなら五倍。
「これ、結構ヤバくない?」
HPだって最初は10だったのが13。
魔力は1から3。
幸運なんて1から5だ。
攻撃力と素早さは……。
「……見なかったことにしよう」
大丈夫。
多分。
きっと。
これから上がる。
それに、初期ステータスがこれなら伸び代もかなりありそうだ。
そして何より――。
「スキルだ」
進化前に持っていたスキルは、ほとんどそのまま残っている。
《丸呑み》。
《水中遊泳》。
《水中呼吸》。
《防御》。
《挟む》。
《鑑定・小》。
特典の《神の悪戯》と《水の女神の加護・小》も変わっていない。
「よかった……全部リセットじゃないんだな」
しかも。
二つのスキルが変化していた。
《毒手》が――《猛毒手》。
《毒棘》が――《猛毒棘》。
「猛毒……」
名前からしてヤバい。
前の《毒棘》ですら、格上だったザリガニを倒せたんだぞ?
それがさらに強力になった。
「どれくらい強くなったんだ、これ……」
ちょっと怖い。
下手したら触っただけで相手が死んだりしないよな?
そして、新しく増えたスキルが二つ。
まずは――。
【《毒回復》】
毒を受ける、または体内に取り込むことでHPを回復する。
毒性が強いほど回復量が増加する。
「毒で回復?」
普通、逆だろ。
毒ってHP減らすものだろ。
でも俺の場合は、毒を受ければ回復できるらしい。
「毒使う敵と戦ったら、むしろ回復できるってことか?」
これ。
かなり強くない?
そしてもう一つ。
【《毒散布》】
自身を中心とした一定範囲に微弱な毒を散布する。
散布範囲・毒性は能力の成長によって上昇する。
「範囲攻撃じゃん!」
今までの毒攻撃には弱点があった。
《毒手》は相手に触らなきゃいけない。
《毒棘》も基本的には近距離。
俺の素早さが低いこともあって、毒を入れるまでが大変だった。
でも《毒散布》なら――。
俺の周囲にまとめて毒を撒ける。
「しかも俺、《毒回復》持ってるんだよな……」
敵には毒。
俺は毒で回復。
さらに《防御》で耐えて、《猛毒棘》で反撃する。
「一人で範囲攻撃と回復まで賄えるの、強すぎない?」
攻撃力1。
素早さ1。
そんなもの、もうどうでもよく思えてきた。
俺。
殴って倒す生き物じゃないんだ。
耐えて。
毒を撒いて。
相手が弱っていくのを待つ。
「……完全に毒耐久型じゃん」
進化前からそんな感じだったけど、さらに極端になったな。
「これは要検証だ」
《猛毒手》。
《猛毒棘》。
《毒回復》。
《毒散布》。
どれくらい強くなったのか。
どのくらいの範囲まで毒を撒けるのか。
水中で使ったらどう広がるのか。
試したいことが一気に増えた。
「ふふふ……」
なんか楽しくなってきた。
「いつかこの辺一帯、全部毒にしてやるぜ……ぐへへ」
…………。
「なんてな」
さすがにそれはダメだ。
魚が全滅したら俺の飯がなくなる。
それに水の女神にも怒られそうだ。
「……やっぱり俺、この加護持ってて大丈夫か?」
まあ、今のところ消えてない。
多分大丈夫だろ。
多分。
ステータスが下がったのは残念だ。
HPは50から13。
攻撃力と素早さは1。
またレベル上げも必要になる。
でも。
レベル1で防御力25。
強化された二つの猛毒スキル。
範囲に毒を撒く《毒散布》。
毒そのものを回復に変える《毒回復》。
そして、今まで集めてきたスキルも全部残っている。
「これ……かなり強くなったんじゃないか?」
少なくとも。
最初に転生した時のミニルーパーLv1とは、全然違う。
ポイズンミニルーパー。
Lv1。
希少進化。
討伐難易度E級。
「よし」
まずは、この新しい力がどれくらい使えるのか。
「試してみるか!」
こうして俺は。
進化によって手に入れた新たな力の検証を始めることにした。




