7話 進化
俺の目の前に。
いくつもの選択肢が浮かび上がった。
【進化可能種】
《オオルーパー》
《シザースルーパー》
《マジックルーパー》
《リジェネルーパー》
《ポイズンミニルーパー》
「…………」
五つ。
「多くない?」
進化って普通、一種類じゃないの?
レベルが上がったら次の形態になって終わり。
そういうものだと思ってた。
でも。
これはどう見ても――。
「選べってことだよな?」
だったら。
さっそく手に入れたばかりのこいつの出番だ。
「《鑑定》!」
【オオルーパー】
【通常進化】
進化条件:Lv10到達
ミニルーパーの一般的な進化先。
身体が大型化し、基礎能力が全体的に向上する。
目立った特徴はないが、安定した成長が期待できる。
肉付きがよく、淡白ながら旨味が強い。
煮込むことで身が柔らかくなり、出汁にも強い旨味が出る。
【おすすめ調理法:鍋】
【討伐難易度:E+級】
「…………」
ん?
途中からおかしくなかった?
いや。
まず進化先としては普通に強そうだ。
身体が大型化。
全能力上昇。
しかも。
「ミニじゃなくなった!」
これ重要。
やっとこの小さい身体を卒業できる。
討伐難易度もE級からE+級。
「普通にいいじゃん」
安定して強くなるなら、これでも――。
【おすすめ調理法:鍋】
「…………」
いや。
待て。
「なんで俺の進化先に調理法書いてあんの?」
必要?
その情報。
俺が今知る必要ある?
しかも淡白ながら旨味が強いって。
「俺、美味いの?」
嫌だよ。
自分の食レポなんて見たくないよ。
……まあいい。
多分オオルーパーだけだろう。
ミニルーパーにも「唐揚げにすると非常に美味」って書いてあったし。
こいつは食用として認識されてる種族なのかもしれない。
「次行こう」
《シザースルーパー》。
「《鑑定》!」
【シザースルーパー】
【特殊進化】
進化条件:《挟む》の獲得・甲殻系魔物の捕食
前脚が硬質化したミニルーパーの特殊進化種。
発達した前脚で獲物を挟み、切断する。
近接戦闘能力に優れ、特に攻撃力が成長しやすい。
身が締まっており、加熱することで強い弾力が生まれる。
特に尾肉は食感がよく、揚げ物との相性がいい。
【おすすめ調理法:天ぷら】
【討伐難易度:E+級】
「…………」
おい。
「こいつも美味いの!?」
しかも天ぷら!
進化先の説明だよね!?
料理図鑑じゃないよね!?
「尾肉は食感がいいとか知りたくなかったよ!」
俺の尻尾だぞ!?
これから一生付き合っていく予定の尻尾だぞ!?
それを「揚げ物との相性がいい」とか言うな!
急に自分の尻尾が食材に見えてきたじゃん!
「…………」
なんだこの気まずさ。
自分の身体を見ながら料理を想像することになるとは思わなかった。
いや。
考えるな。
進化能力だけ見ろ。
シザースルーパー。
攻撃力特化。
俺に足りない部分を補える。
かなりいい。
それにしても条件は――。
《挟む》。
甲殻系魔物の捕食。
「絶対ザリガニじゃん」
あいつ食ったから進化先までザリガニっぽくなってる。
俺、このまま行ったら最終的に何になるんだ?
サンショウウオ?
ザリガニ?
「まあ、次!」
三つ目。
《マジックルーパー》。
これは名前からして期待できる。
「《鑑定》!」
【マジックルーパー】
【特殊進化】
進化条件:魔力10以上・複数のスキルを習得
体内の魔力器官が発達した特殊進化種。
身体能力は他の進化種にやや劣るが、魔力の扱いに優れる。
成長によって魔法を習得する可能性がある。
魔力を多く含んだ身は加熱すると独特の香りを放つ。
皮目を強く焼くことで香ばしさが増す。
【おすすめ調理法:塩焼き】
【討伐難易度:E+級】
「魔法!!」
来た!
これ!
こういうの待ってた!
異世界転生といえば魔法だろ!
俺の魔力15、やっぱり意味あったんだ!
今まで何に使うのか全然分からなかったけど、進化条件にもなってたのか。
「これいいな!」
火!
水!
雷!
遠距離からドーン!
今の俺に足りない遠距離攻撃が手に入るかもしれない。
……ただ。
【成長によって魔法を習得する可能性がある】
「可能性?」
今すぐ使えるわけじゃないの?
急に怪しくなってきたな。
そして。
【おすすめ調理法:塩焼き】
「…………」
やっぱり食うんだ。
魔法使えるんだぞ?
魔法生物だぞ?
塩振って焼くの?
「もうちょっとこう……神秘的に扱ってくれない?」
しかも。
皮目を強く焼くことで香ばしさが増す。
「具体的なんだよ!」
やめろ!
俺の焼き方を丁寧に解説するな!
なんか気まずいんだよ!
次!
「《鑑定》!」
【リジェネルーパー】
【特殊進化】
進化条件:身体の一部を複数回欠損・欠損状態から生存
高い生命力を獲得した特殊進化種。
傷の治癒能力が大幅に向上しており、失った身体の一部すら時間をかけて再生する。
HPと防御力が成長しやすい。
脂が適度に乗っており、濃い味付けとの相性がいい。
じっくり火を通すことで身がほぐれやすくなる。
【おすすめ調理法:蒲焼き】
【討伐難易度:E+級】
「再生!」
これは強い。
俺の防御力と相性が良すぎる。
《防御》で耐える。
《毒棘》で毒を入れる。
ダメージを受けても再生。
また耐える。
「めちゃくちゃしぶといじゃん」
しかも進化条件。
身体の一部を複数回欠損。
俺は今までの戦いを思い出す。
魚に尻尾を食われた。
ザリガニにまた尻尾を切られた。
手まで持っていかれた。
「俺、結構ひどい目に遭ってるな……」
というか。
「死にかけた経験まで進化条件になるのかよ」
でも。
そう考えると。
少しずつ分かってきた。
俺が何をしたのか。
何を経験したのか。
それによって進化先が増えている。
「なるほどな……」
…………。
ん?
何か忘れている気がする。
【おすすめ調理法:蒲焼き】
「忘れたかったんだよ!!」
なんで再生能力から蒲焼きに繋がるんだよ!
しかも脂乗ってるの!?
「俺の身体の脂情報とか俺に教えるな!」
本当に気まずい。
自分自身の料理方法を四種類も知る人生ってなんだよ。
前世でもこんな経験なかったぞ。
当たり前だけど。
「……次で最後か」
もう料理情報はいらない。
頼む。
最後くらい普通に能力だけ教えてくれ。
最後。
《ポイズンミニルーパー》。
名前からして明らかに他とは違う。
それに――。
【希少進化】
「希少種……!」
これ。
絶対なんかある。
「《鑑定》!」
【ポイズンミニルーパー】
【希少進化】
進化条件:《毒手》《毒棘》の獲得・毒による格上個体の討伐
複数の毒能力を獲得したミニルーパーが、極稀に進化する希少種。
体内の毒腺が異常発達しており、通常個体を大きく上回る毒を生成する。
保有する毒系スキルの効果が強化される。
成長に伴い、生成できる毒の種類・毒性が変化する。
毒抜きを行うことで非常に濃厚な旨味を持つ食材となる。
特に香味野菜との相性がよく、蒸すことで身の旨味を最大限に引き出せる。
【おすすめ調理法:香草蒸し】
【討伐難易度:E級】
「…………」
…………。
「希少種まで美味いの!?」
毒あるんだぞ!?
毒!
食べちゃダメな方向に進化したんじゃないの!?
「毒抜きすんなよ!!」
そこまでして食いたい!?
希少種だぞ!?
極稀にしかいないんだぞ!?
保護しろよ!
なんで料理しようとしてんだよ!
しかも香草蒸しって!
「なんかこいつだけちょっとオシャレだし!」
鍋。
天ぷら。
塩焼き。
蒲焼き。
香草蒸し。
「…………」
俺は五つの進化先を見つめる。
どれに進化しても。
美味しい。
「俺、どうなっても美味しいじゃん……」
嫌すぎる。
強くなりたい。
進化したい。
でも。
進化するたびに美味しくなる必要ある?
「この世界、俺に厳しくない?」
しかも全部違う調理法。
どんな進化をしても、その進化に適した料理が用意されている。
怖い。
この世界の食文化が怖い。
「……もういい」
料理のことは忘れよう。
大事なのは進化だ。
改めて。
俺は五つの選択肢を見る。
《オオルーパー》。
レベル10に到達したことで現れた通常進化。
《シザースルーパー》。
ザリガニを食べ、《挟む》を獲得したことで現れた特殊進化。
《マジックルーパー》。
レベルを上げて魔力を伸ばし、複数のスキルを習得したことで現れた特殊進化。
《リジェネルーパー》。
何度も身体の一部を失いながら、それでも生き残ったことで現れた特殊進化。
そして。
《ポイズンミニルーパー》。
《毒手》を覚え。
《毒棘》を覚え。
格上だったザリガニを毒で倒したことで現れた希少進化。
「これ……」
ただレベルを上げればいいんじゃない。
「俺が今まで何をしてきたかで、進化先が変わってるのか?」
何を食べたか。
何を覚えたか。
どう戦ったか。
どんな状況から生き残ったか。
その全部が。
進化先に繋がっている。
「…………」
面白い。
ゲーマーだった頃の俺なら。
こういうシステム――。
「大好物だわ」
もし最初に別の生き物を食っていたら?
もし毒じゃなく攻撃力を伸ばしていたら?
もしもっと魔力を伸ばしていたら?
今ここに表示されていない進化先もあるんじゃないか?
「これ、進化先めちゃくちゃあるだろ……」
俄然楽しくなってきた。
そして。
今の俺には五つの選択肢がある。
オオルーパーなら、バランスよく強くなれる。
シザースルーパーなら、足りなかった攻撃力を補える。
マジックルーパーなら、魔法を使える可能性がある。
リジェネルーパーなら、高い防御力に再生能力まで加わる。
どれも強そうだ。
正直。
「全部欲しい」
でも。
一つだけ。
明らかに異質なものがある。
《ポイズンミニルーパー》。
希少進化。
しかも俺が今まで頼り続けてきた毒能力を、そのまま強化できる。
「…………」
ただし。
【討伐難易度:E級】
「そこなんだよなぁ……」
他の四つ。
E+級。
ポイズンミニルーパー。
E級。
「なんで希少種が一番弱いんだよ!」
いや。
今より弱くなるわけじゃない。
同じE級だ。
でも。
進化だぞ?
しかも希少種だぞ?
「希少種って強いって意味じゃないの!?」
そしてもう一つ。
こいつには重大な問題がある。
ポイズンミニルーパー。
「ミニ取れてねえじゃん!!」
進化だぞ!?
今日でこの小さい身体卒業じゃなかったの!?
他の奴はオオとかシザーとかマジックとか付いてるのに!
なんで俺だけミニ続行なんだよ!
「強力な毒が使えます」
うん。
「希少種です」
最高。
「でも小さいままです」
…………。
「討伐難易度もE級です」
…………。
「ハズレじゃないよね?」
不安になってきた。
でも。
希少種。
極稀にしか現れない。
そして何より。
ここまで俺が生き残るために、一番頼ってきたもの。
それは――。
毒だ。
攻撃力が足りないなら毒。
素早さで負けるなら毒。
《防御》で耐えながら毒。
格上相手にも毒。
最初のザリガニを倒せたのも毒のおかげだ。
「…………」
だったら。
俺が伸ばすべきなのは。
これだろ。
俺は《ポイズンミニルーパー》の文字を見つめる。
「決めた」
【《ポイズンミニルーパー》へ進化しますか?】
【YES/NO】
「YES!」
その瞬間。
俺の身体が――。
熱くなった。
「…………あ」
進化が始まる直前。
ふと一つだけ思い出した。
【おすすめ調理法:香草蒸し】
「絶対食われねえからな!!」




