6話 成長とチートスキル
「よし!」
目標は決まった。
レベル10。
こうなったら、そこまでひたすら敵を狩る!
とは言っても。
前回のザリガニ戦で俺は学んだ。
この世界で調子に乗った奴から死ぬ。
だから――。
強そうな奴からは逃げる!
弱そうな奴は食う!
これだ。
完璧な作戦。
「生き残るためなら卑怯とは言わせない!」
そもそも俺はミニルーパーだ。
騎士でも勇者でもない。
正々堂々なんて知るか。
俺よりデカい奴を見つけたら岩陰に隠れる。
小さい魚を見つけたら《毒手》。
水生昆虫を見つけたら《丸呑み》。
危なそうなら即逃走。
そんな生活をしばらく続け――。
【レベルが上がりました】
【ミニルーパー Lv8 → Lv9】
【HP】45/45
「よし!」
レベル9!
あと一つ!
この調子ならすぐレベル10――。
…………。
と、思っていた時期が俺にもありました。
「上がらねえ……」
全然上がらない。
レベル8から9までは割とすぐだった。
なのに。
9になってから、明らかにレベルが上がりにくくなっている。
虫を食べる。
上がらない。
小魚を倒す。
上がらない。
また虫を食べる。
上がらない。
「経験値足りてないのか?」
ゲームでもレベルが上がるほど必要経験値が増える。
多分、この世界も同じなんだろう。
となると。
もう少し強い敵を倒す必要がある。
「でもなぁ……」
強い奴。
怖いんだよな。
こないだ死にかけたし。
そんなことを考えながら水底を進んでいた――その時。
ピクッ。
何かいる。
水の揺れ。
それも。
覚えがある。
「…………」
岩陰。
二本のハサミ。
硬そうな身体。
「またお前か」
アメリカザリガニ。
……多分。
異世界の生物にアメリカもクソもない気がするけど。
俺の中ではもうアメリカザリガニでいい。
前回。
俺をHP2まで追い込んだ強敵。
あの時は本当に死ぬと思った。
でも。
今の俺は違う。
レベル9。
HP45。
《防御》もある。
《水の女神の加護・小》もある。
何より、一度戦っている。
相手の動きは分かってる。
「よし」
こいつで――。
「レベル10にしてやる!」
ザリガニがこちらに気づく。
ハサミを持ち上げた。
やる気満々だ。
「今回はこっちから行くぞ!」
まずは先制!
《水中遊泳》。
さらに水の女神の加護。
前より確実に速くなった俺の一撃を――。
「食らえ!」
《毒手》!
からの!
「《挟む》!!」
手を突き出す。
ザリガニが動く。
スカッ。
「…………」
あ。
避けられた。
「まだ素早さ10じゃダメですよねー!」
知ってた!
いや。
ちょっと期待したけど!
それに。
やっぱり最大の問題は――。
「手が短い!」
《挟む》が強くても当たらなきゃ意味ない!
こっちはこの小さい手で触らなきゃいけないのに、向こうはハサミだぞ。
リーチが違いすぎる。
だが。
「まあいい」
俺の真の強さは。
そこじゃない。
ザリガニが身体を反らす。
来る。
前にも見た。
あの高速突進!
「来い!」
ザリガニが一気に距離を詰める。
その瞬間。
「《防御》!」
身体が自動的に防御姿勢を取る。
そして同時に。
「《毒棘》!」
背中から紫色の棘が飛び出した。
バチン!
「っ!」
痛い!
まだ普通に痛い!
でも。
【HP】45/45 → 43/45
「……え?」
2しか減ってない。
「マジ?」
前回。
こいつの一撃でHPを11も持っていかれた。
尻尾も切断された。
それが。
たった2。
「強すぎるだろ《防御》!」
これならいける!
ザリガニのハサミには《毒棘》もしっかり刺さっている。
完璧。
このまま防御していれば勝手に毒が回る。
「ふははは!」
勝った。
これは勝ったぞ。
来い!
いくらでも攻撃してこい!
全部耐えて――。
「…………あれ?」
ちょっと待て。
俺。
防御中。
動けなくね?
ザリガニがハサミを振り下ろす。
バチン!
「いてっ!」
【HP】43/45 → 41/45
もう一発。
バチン!
「いてっ!」
【HP】41/45 → 39/45
さらに。
バチン!
「痛い!」
【HP】39/45 → 37/45
また。
バチン!
「ちょっ!」
【HP】37/45 → 35/45
さらにもう一発。
バチン!
「2、2、2、2、2って!」
やめろ!
ちょっとずつ攻撃すんのやめろ!
「お前ボス戦のプレイヤーかよ!」
防御力が高いと分かったからって、ひたすら殴ってくるんじゃない!
地味に痛いんだぞ!
だが。
攻撃の間隔が少しずつ長くなってきた。
「……お?」
効いてる。
毒だ。
《毒棘》の毒が回っている。
ザリガニの動きが目に見えて鈍くなってきた。
「お前も毒でキツいだろ?」
さっきまでの勢いがない。
ハサミの動きも遅い。
今なら。
防御解除!
「いまだ!」
一気に飛びつく。
そして。
今回は攻撃なんてしない。
俺にはもっと確実な方法がある。
大きく口を開ける。
「《丸呑み》!!」
バクン!!
「…………」
食った。
生きたまま。
「はは!」
どうだ!
前回は死にかけながら倒した相手だぞ!
それを今回は――。
「生きたまま食ってやったわ!」
…………。
我ながらちょっと悪役っぽいな。
まあいい。
弱肉強食だ。
そして。
「やっぱりこいつ美味いな」
虫や小魚とは明らかに違う。
ザリガニ系は普通に美味しい。
今後見つけたら積極的に狙ってもいいかもしれない。
…………。
いや。
やっぱり安全に倒せそうな奴だけにしよう。
調子に乗るな俺。
しばらく待つ。
しかし。
「…………あれ?」
何も起きない。
捕食によるスキル獲得はなし。
「まあ、毎回手に入るわけじゃないか」
《挟む》はもう持ってるしな。
その時。
――♪
「!」
来た。
この音は――。
【レベルが上がりました】
【ミニルーパー Lv9 → Lv10】
「よっしゃあああ!!」
ついに!
レベル10!
やっぱりザリガニは経験値が多い。
前回も一気に3レベル上がったし。
多分こいつ、俺より元々かなりレベルが高いんだろう。
そして。
さらに表示が続く。
【レベルアップ条件を満たしました】
【スキル《鑑定・小》を獲得しました】
「…………」
え?
今。
なんて?
鑑定?
「鑑定!?」
来た。
ついに来た!
「これだよこれ!!」
異世界といったらこれだろ!
鑑定!
相手の正体。
能力。
アイテム。
もしかしたら弱点まで分かるかもしれない。
情報は力だ。
特に俺みたいに、見た目だけで相手の強さを判断して逃げるか戦うか決めてる奴にはめちゃくちゃ重要。
「これ、とんでもないチートスキルじゃないか?」
鑑定だけで異世界を生き抜いてるような奴だっている。
それくらい重要だ。
しかも俺は視界が悪い。
見ただけじゃ相手が何なのか分からないことも多い。
《鑑定》があれば、その弱点を補える。
「神様!」
初めてまともに感謝したいかもしれない!
宴会芸とか付けてる場合じゃなかったんだよ!
そして。
まだ終わらない。
【進化条件を満たしました】
【進化が可能です】
【進化先を選択できます】
「…………」
え。
「進化?」
一瞬。
意味を理解するのに時間がかかった。
そして。
「おおおおおおお!!」
来た!
来た来た来た!
ついに進化!
「ミニルーパー卒業できる!!」
今日でこの小さい身体ともお別れだ!
この短い手!
ブヨブヨの身体!
やたらデカい口!
……口は進化しても残りそうだけど。
とにかく。
俺は次の種族になれる。
「いや、待て待て」
進化先を見る前に。
まずはステータスだ。
ここまで来たんだ。
記念すべきレベル10。
確認しよう。
【種族】ミニルーパー
【Lv】10
【HP】50/50
【攻撃力】12
【防御力】55
【素早さ】10
【魔力】15
【幸運】11
【スキル】
《丸呑み》
《毒手》
《水中遊泳》
《水中呼吸》
《毒棘》
《防御》
《挟む》
《鑑定・小》NEW!
【特典】
《神の悪戯》
《水の女神の加護・小》
「防御力55……」
我ながら硬い。
転生直後なんて5だったのに。
11倍。
そりゃザリガニの攻撃も2ダメージになるわ。
でも。
今一番気になるのはステータスじゃない。
「《鑑定》だ」
使ってみたい。
ちょうどいい。
まずは一番身近なものを調べよう。
「俺!」
自分自身に意識を向ける。
知りたい。
俺は一体何なのか。
ミニルーパーとは何なのか。
「《鑑定》!」
【ミニルーパー】
この世界の温暖な水域に生息する小型の水棲魔物。
現在では絶滅の危機に瀕している。
愛らしい見た目から、ペットとして飼育されることもある。
唐揚げにすると非常に美味。
【討伐難易度:E級】
「…………」
…………。
「俺、めっちゃ弱いじゃん」
討伐難易度E級。
しかも。
「ペットって……」
俺。
ペット枠なの?
魔物ですら恐れられる側じゃないの?
飼われる側?
「というか唐揚げにすると非常に美味ってなんだよ!!」
いらねえだろその情報!
自分を鑑定して、自分の美味しい調理法知る奴いる!?
「…………」
いや。
待てよ。
温暖な水域。
小型。
絶滅危惧。
ペットとして飼われる。
「マジもんのウーパールーパーやんけ!」
ミニルーパーって名前の時点で薄々思ってたけど!
俺、本当にそういう系の生き物だったの!?
「はぁ……」
急に不安になってきた。
俺。
これからやっていけるのか?
ザリガニ倒して。
レベル10になって。
ちょっと強くなった気でいたけど。
世間的にはE級。
しかもペット。
おまけに美味。
「神様……」
転生させてくれたのは嬉しいよ。
それは本当に感謝してる。
でもさ。
「もうちょっと強い生き物でもよかったんじゃないですかね……?」
ドラゴンとか。
フェンリルとか。
せめてワニとか。
なんでウーパールーパーなんだよ。
しかも食ったら美味いらしい。
俺、この先人間に会ったら大丈夫?
ペットにされない?
唐揚げにされない?
「…………」
いや。
待て。
俺は目の前の表示を見る。
そこにはまだ――。
【進化が可能です】
【進化先を選択してください】
の文字。
「そうだ」
今の俺が弱いなら。
強くなればいい。
E級?
上等だ。
ペット?
今だけだ。
唐揚げ?
絶対にさせるか。
俺は進化できる。
ここから何にでもなれる――かもしれない。
「よし」
見てやろうじゃないか。
ミニルーパーの。
俺の。
初めての進化先を。
「進化先――表示!」
俺の目の前に。
いくつもの選択肢が浮かび上がった。




