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4話 初めての戦闘

「よし」


レベル5。


新しいスキルも手に入れた。


《毒棘》。


名前からして、どう考えても攻撃系だ。


これは検証するしかない。


前回、《毒手》はただ名前を叫ぶだけでは発動しなかった。


重要なのはイメージ。


毒の棘。


身体から鋭い棘が生えて、触れた相手に毒を与える。


そんな感じか?


「《毒棘》!」


その瞬間。


背中に妙な感覚が走った。


「お?」


一発でできた。


どうやら一度コツを掴めば、スキルの発動自体は難しくないらしい。


自分ではよく見えないが、背中から何かが突き出している感覚がある。


ぼんやりとした視界で身体を確認すると、背中から紫色っぽい小さな棘が何本も生えていた。


「なるほどな」


これ、自分から攻撃するというより。


相手が攻撃してきた時に背中を向ければいいんじゃないか?


俺は防御力が高い。


攻撃を受ける。


耐える。


その間に《毒棘》を刺す。


さらに《毒手》で毒を与える。


「……かなり戦い方が確立してきたぞ」


攻撃力は低い。


素早さも特別高くない。


なら、防御力を活かして相手の攻撃を耐えながら毒で削る。


タンク兼毒使い。


悪くない。


というか、今の俺にはこれしかない。


「そういえば……」


ステータスを見る。


【魔力】8


スキルを何度か使っているが、この数値が減っている様子はない。


「魔力減らないのね」


じゃあこれ何に使うんだ?


魔法?


もしかして俺、魔法とか使えるのかな。


ファイアーボールとか。


水の中でファイアーボール使えるのか知らんけど。


まあ、その辺は後で試そう。


今は新しい戦い方を試したい。


「よし!」


ちょっと怖い。


かなり怖い。


でも。


いつまでも虫とメダカばかり食べていても仕方ない。


「何か出てきたら、今度は逃げずに戦ってみるか!」


俺は獲物を探して泳ぎ始めた。


それから、一時間ほど経った頃。


「……ん?」


岩陰に何かいる。


今まで食べてきた虫より大きい。


メダカよりも明らかにゴツい。


目を凝らす。


二本のハサミ。


何本もの脚。


硬そうな赤黒い身体。


「ザリガニ……?」


いや。


どう見てもザリガニだ。


しかも、この見た目。


「絶対アメリカザリガニだろ」


異世界にもいるのかよ。


というか。


「…………」


めっちゃこっち見てる。


「なんだよ」


ザリガニがハサミを持ち上げる。


「やる気か?」


……。


待て。


落ち着け俺。


相手はザリガニだぞ。


こっちはレベル5。


スキルも5個ある。


防御力30。


毒まで使える。


勝てる。


多分。


「やってやるぞ」


とは言ったものの。


俺の武器を見る。


短い手。


「…………」


不安しかない。


なんで俺、こんなリーチ短いんだよ。


相手はハサミだぞ。


どう考えても向こうの方が長いじゃん。


いや。


ビビるな。


毒手を一発当てればいい。


毒が入ればこっちのものだ。


「やってやるぞ!」


俺は水底を蹴った。


《水中遊泳》のおかげで、以前よりずっと速く動ける。


一気に距離を詰める。


そして。


「おらぁ!」


短い手を思い切り伸ばす。


その瞬間。


ザリガニの身体が――。


バッ!


「え?」


反った。


俺の手が空を切る。


「避けた?」


いや。


今の動き。


「海老反り!?」


ザリガニだけど!


いやそんなこと言ってる場合じゃない!


「は、速すぎる!」


次の瞬間。


反ったザリガニが、その勢いのままこちらへ突っ込んできた。


「え?」


待て。


「海老反りしながら向かってくる!?」


速い速い速い!!


なんだこいつ!


「やば――」


避けられない。


なら!


「ぼ、防御!!」


身体を丸める。


直後。


バチン!!


「かはっ!?」


身体に衝撃が走った。


痛い。


いや。


「痛すぎる!!」


慌てて身体を確認する。


「……え?」


尻尾。


また。


なくなってる。


「また尻尾切られたぁぁぁぁ!!」


なんで!?


俺の尻尾、そんなに美味そうなの!?


ステータス!


【HP】12/23


「嘘だろ!?」


一発。


たった一発だぞ!?


HP半分近く持っていかれた!


「俺、防御力30あるんですけど!?」


それでこのダメージ?


こいつ強すぎるだろ!


逃げる?


いや。


もう一度あの速度で追われたら逃げ切れる保証がない。


だったら――。


「やるしかない!」


ザリガニが再びこちらを向く。


ハサミを構える。


怖い。


でも。


こっちにはまだ切り札がある。


「《毒手》!」


今度は攻撃を当てることだけに集中する。


ザリガニが動く。


俺も動く。


ハサミが身体をかすめる。


そして。


俺の短い手が――。


ペチッ。


「よし!」


当たった!


相変わらず地味!


でもこれでいい!


ザリガニが距離を取る。


動きを見る。


「……効いてる」


明らかに遅い。


さっきまでの異常な速度がない。


毒が回っている!


「いける!」


そう思った瞬間。


ザリガニが再び突っ込んできた。


「まだ来んの!?」


避ける?


無理だ。


だったら。


受ける。


俺の防御力は30。


きっと耐えられる!


そしてこいつには、もう一つ試していないスキルがある。


俺はザリガニに背中を向けた。


「《毒棘》!」


背中から紫色の棘が飛び出す。


来い。


来い!


「耐えてみせる!」


バチン!!


「ぐあっ!!」


【HP】12 → 7


「いっっってぇ!!」


身体が抉られる。


痛い。


本当に痛い。


でも。


「……耐えた!」


そして。


ザリガニのハサミには、俺の《毒棘》が刺さっている。


「当たった!」


ザリガニの動きがさらに鈍くなる。


効いてる。


《毒手》と《毒棘》。


二つの毒が効いている!


でも。


俺も瀕死だ。


HP7。


次の攻撃をまともに食らったら危ない。


いや。


待て。


さっきのダメージは5。


なら。


「あと一発は耐えられる!」


計算上は。


多分。


きっと。


頼むからクリティカルとか出すなよ!


ザリガニがこちらを向く。


明らかに動きは鈍い。


それでも、まだ戦う気らしい。


「来い!」


俺も覚悟を決める。


逃げない。


ここで倒す。


「おおおおお!!」


ザリガニが突っ込んでくる。


俺は再び背中を向ける。


「《毒棘》!!」


バチン!!


【HP】7 → 2


「――ッ!!」


意識が飛びそうになる。


でも。


耐えた。


「耐え……切った……」


俺の棘も刺さった。


これで三回。


毒は十分入ったはず。


そう思った直後。


違和感に気づいた。


「あれ……」


手の感覚がない。


見る。


「…………」


ない。


「手……切られた……?」


さっきの一撃。


身体だけじゃない。


片方の手まで、ハサミで切断されていた。


やばい。


HP2。


尻尾なし。


片手なし。


身体もボロボロ。


もう動けない。


「……これ」


本当に。


死ぬ。


ザリガニの姿がぼやける。


ただでさえ悪い視界が、さらに暗くなっていく。


身体に力が入らない。


ああ。


この人生も終わりか。


いや。


ルーパー生か。


短かったな。


転生して。


虫食って。


メダカ食って。


最後はザリガニ。


「……平凡に生きたかったよ、神様」


川の底でゆっくり過ごしたかっただけなのに。


なんで命懸けでザリガニと戦ってるんだろう。


「ザリガニに勝てると思った俺が……バカでした……」


意識が遠のいていく。


ザリガニも、もうほとんど動いていない。


でも。


俺も動けない。


あと少しだったのにな。


せめて。


あと一撃――。


その時。


――♪


「…………え?」


聞き覚えのある音。


頭の中に鳴り響く。


これは。


まさか。


【経験値を獲得しました】


【レベルが上がりました】


【レベルが上がりました】


【レベルが上がりました】


「…………は?」


その瞬間。


身体の奥から凄まじい力が溢れ出した。


HPが回復していく。


抉られた身体が塞がっていく。


遠のいていた意識が、一気に戻る。


目の前を見る。


そこには。


完全に動かなくなったザリガニがいた。


「……勝った?」


毒だ。


最後に刺した《毒棘》。


あれが効いたんだ。


そして。


【ミニルーパー Lv5 → Lv8】


「三レベル……?」


一匹倒しただけで?


つまり。


こいつ。


俺が思っていたより、遥かに格上だったってことか。


身体は回復した。


俺は生きている。


そして目の前には、自分より遥かに強かった獲物。


「…………」


これ。


食ったら――。


何が手に入るんだ?

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