3話 検証と目標
俺は、無事初めてのレベルアップに成功した。
死にかけた。
尻尾も食われた。
でも、とりあえず生きている。
それだけでも十分だ。
そしてレベルアップによって、俺のステータスにも変化があった。
能力値が上がり、新しいスキルまで増えていた。
ちなみに――。
【特典】
《神の悪戯》
――転生した者に贈られる特典。
数々の神に見守られる。
こいつには何の変化もない。
「……相変わらず意味分からんな」
神に見守られているらしいが、あの鯉に食われかけた時も助けてくれなかった。
見てるだけかよ。
まあいい。
今重要なのはこっちだ。
《毒手》
「毒手……?」
名前からして、手に毒をまとわせるとかそんな感じだろうか。
でも。
俺は自分の手を見る。
「……短っ」
改めて見ると絶望的に短い。
こんな短い手で毒攻撃できたところで意味あるのか?
相手に触る前に食われそうなんだけど。
まあ、考えていても仕方ない。
使ってみよう。
「《毒手》!」
…………。
何も起きない。
「毒手!」
…………。
「……毒手」
…………。
発動しない。
「なんでだよ!」
《丸呑み》は普通に使えたのに。
何か条件でもあるのか?
ゲームならMP?
いや、魔力は3ある。
そもそも使い方が違う?
「……イメージか?」
そういえば魔法が出てくるゲームや漫画だと、イメージが重要だったりする。
試してみよう。
手に毒を集める。
毒。
毒……。
毒……。
なんか身体の中にある毒っぽいものを、手の先に集める感じ。
そして――。
「《毒手》!」
その瞬間。
身体の中から何かが手へ流れていく感覚がした。
「お?」
よく見えない。
相変わらず俺の視界はぼんやりしている。
でも。
なんとなく。
「手、紫色になってる……気がする」
多分。
見えにくいから自信ないけど。
成功した!
「おお! できたじゃん!」
つまりスキル名を唱えるだけじゃダメ。
発動するイメージも必要ってことか。
これは覚えておこう。
問題は――。
「誰で試す?」
周囲には何もいない。
毒が効くのか確認したいのに、肝心の相手がいない。
自分に使う?
絶対嫌だ。
ということで。
俺は獲物を探すことにした。
――そして一日後。
「……いた!」
長かった。
やっと見つけた。
小さい魚。
俺と同じくらい……いや、少し小さいくらいか?
見た目は多分メダカ。
正確な種類なんて知らない。
なので今日からお前はメダカだ。
「よし……」
追いかける。
逃げるメダカ。
追いかける俺。
…………。
遅い。
「この短い手でどうにか……!」
必死に泳いで距離を縮める。
あと少し。
もう少し!
今だ!
「《毒手》!」
手の先に、あの感覚が集まる。
そのまま――。
ペチッ。
「当たった!」
めちゃくちゃ地味!
もっとこう、毒の斬撃とか出ないの!?
ただ手で触っただけじゃん!
しかし。
すぐに変化が現れた。
メダカの泳ぐ速度が落ちていく。
「お?」
明らかに遅い。
フラフラしている。
効いてる!
毒、効いてるぞ!
そして数秒後。
メダカの動きが止まった。
「…………」
死んだ?
その瞬間。
――♪
「お!」
来た!
【レベルが上がりました】
【ミニルーパー Lv2 → Lv3】
「よっしゃ!」
急いでステータスを確認する。
【種族】ミニルーパー
【Lv】3
【HP】16/16 13 → 16
【攻撃力】3 2 → 3
【防御力】14 10 → 14
【素早さ】3 2 → 3
【魔力】5 3 → 5
【幸運】3 2 → 3
【スキル】
《丸呑み》
《毒手》
【特典】
《神の悪戯》
「おー、いいじゃん!」
やっぱり俺は防御力が伸びやすい。
そして《毒手》。
これは使える。
直接戦ったら弱い俺でも、毒を与えて逃げ回れば格上を倒せるかもしれない。
……手が短すぎる問題はあるけど。
「そういえば」
目の前には、さっき倒したメダカが沈んでいる。
「こいつ食べたらどうなるんだろ」
腹も減っている。
いただきます。
「《丸呑み》!」
パクッ!
【条件を満たしました】
【スキル《水中遊泳》を獲得しました】
「…………え?」
今。
何か出たよな?
ステータス!
確認する。
【スキル】
《丸呑み》
《毒手》
《水中遊泳》NEW!
「マジか!」
試しに泳いでみる。
スイッ。
「おお!?」
速い!
今まで水の抵抗に逆らって無理やり進んでいた感じだったのに、身体が自然に水を掴んでいる。
短い手足の動かし方まで、なんとなく分かる。
「これ……食べることでもスキル手に入るのか?」
もしそうなら。
敵を倒す。
レベルが上がる。
倒した敵を食べる。
そいつの能力を獲得する。
「……ぶっ壊れじゃないか?」
俺、実は当たり転生なのでは?
一瞬そう思った。
しかし。
自分のステータスを見る。
【攻撃力】3
「…………」
弱っ。
現実を思い出した。
そもそも敵を食べるには、その敵を倒さなきゃいけない。
俺はさっき、メダカ一匹倒すのにも毒頼りだった。
強い敵の能力が欲しくても、その敵を倒せなければ意味がない。
「こんなんじゃ強い敵食べられないじゃん……」
でも。
方法はある。
「毒手で弱らせてから食うか」
卑怯?
知らん。
こっちは攻撃力3だぞ。
正々堂々戦ってたら死ぬ。
それから。
俺は周囲の小さな生き物を狙い始めた。
虫を見つける。
「《丸呑み》!」
パクッ!
…………。
何も起こらない。
「あれ?」
食べれば必ずスキルを獲得できるわけではないらしい。
別の生き物を発見。
今度は《毒手》で仕留める。
「食らえ!」
ペチッ!
「《丸呑み》!」
パクッ!
――♪
【レベルが上がりました】
さらに。
【スキル《水中呼吸》を獲得しました】
「おお!」
ステータス!
【種族】ミニルーパー
【Lv】4
【HP】20/20 16 → 20
【攻撃力】4 3 → 4
【防御力】20 14 → 20
【素早さ】4 3 → 4
【魔力】6 5 → 6
【幸運】4 3 → 4
【スキル】
《丸呑み》
《毒手》
《水中遊泳》
《水中呼吸》NEW!
【特典】
《神の悪戯》
「…………水中呼吸?」
いや。
「俺、最初から水中で呼吸できてなかった?」
意味あるのか、これ。
…………。
まあいい。
取れただけマシだろう。
それから俺は、小さな魚や水生昆虫を見つけては狩り続けた。
毒を与える。
逃げる。
弱ったところを仕留める。
そして食べる。
なんとも地味な戦い方だ。
でも。
生き残るためなら何でもいい。
そして――。
【レベルが上がりました】
【ミニルーパー Lv5】
「よし! やっとレベル5!」
さらに。
【スキル《毒棘》を獲得しました】
「毒棘?」
また毒!?
俺、完全に毒属性キャラになってない?
ステータスを確認する。
【種族】ミニルーパー
【Lv】5
【HP】23/23
【攻撃力】6
【防御力】30
【素早さ】7
【魔力】8
【幸運】6
【スキル】
《丸呑み》
《毒手》
《水中遊泳》
《水中呼吸》
《毒棘》NEW!
【特典】
《神の悪戯》
「防御力30……」
最初は5だった。
それがもう30。
攻撃力は相変わらず低いけど、少なくとも転生直後とは比べ物にならない。
《水中遊泳》のおかげで泳ぐのも速くなった。
《毒手》もある。
さらに《毒棘》とかいう新しい攻撃手段まで手に入れた。
「いい感じじゃん」
この調子なら、もう少し大きな生き物にも対抗できるかもしれない。
あの鯉は――。
「……まだ無理だな」
思い出しただけで尻尾が痛くなる気がする。
でも。
いつか。
絶対にあいつを倒す。
そして食ってやる。
どんなスキルが手に入るのか、今から楽しみだ。
転生した時はどうなることかと思ったけど。
レベルを上げて。
スキルを集めて。
少しずつ強くなっていく。
なんだ。
こうしてみると――。
「ちょっとゲームみたいで楽しいかもな」
この時の俺は。
まだ知らなかった。
この川で、俺がどれだけ弱い存在なのかを。




