14話 作戦と誤算
――テレレレッテッテーン!
【レベルが上がりました】
【Lv8→Lv9】
「よし!」
ついにレベル9。
あれからもスモールフィッシュやミニザリクラブを狩り続け、なんとかもう一つレベルを上げることができた。
さっそくステータスを確認する。
【種族】ポイズンミニルーパー
【Lv】9
【HP】70/70
【攻撃力】2
【防御力】112
【素早さ】20
【魔力】31
【幸運】25
「防御力112か……」
目標にしていた140には届かなかった。
それでも。
最初の防御力5を考えれば、とんでもない成長だ。
HPも70。
ニシキゴイの攻撃力は61。
もちろん単純に数字だけでダメージが決まるわけじゃないみたいだが、《防御》もある。
何発かは耐えられるはず。
そして。
今回のレベル上げで得たものは、ステータスだけじゃない。
むしろ。
こっちの方が大きかった。
「《毒生成・小》……これ、かなり強いぞ」
最初にこのスキルを手に入れた時。
正直、持て余すと思っていた。
自分の作りたい毒を作れる。
そんなこと言われても。
俺。
毒の知識なんてほとんどない。
だが。
実際に使ってみて、少しずつこのスキルの性質が分かってきた。
どうやら《毒生成・小》は。
俺が知っている毒物を、そのまま完璧に再現する能力ではないらしい。
重要なのは。
知識とイメージ。
例えば。
「塩酸」
俺は塩酸について詳しいわけじゃない。
化学式がどうとか。
濃度がどうとか。
正確な性質がどうとか。
そんな専門的なことは全然知らない。
でも。
危険。
触れたものを溶かす。
強い酸。
俺の中には、そういうイメージがある。
そして俺自身が、それを「毒みたいな危険なもの」として認識している。
そのイメージで《毒生成・小》を使ってみたところ。
生成できた。
ただし。
多分これは、本物の塩酸じゃない。
俺が頭の中で思い描いた。
「触れたものを溶かす毒」
それに近い何かだ。
「つまり……俺の認識が、そのまま毒の性質になるのか?」
もちろん。
何でもありというわけじゃない。
実際に試してみる。
実験台は。
俺の異世界生活ですっかりお馴染みとなった。
ミニザリクラブたちである。
「いつもお世話になっております」
俺は少し離れた場所から。
《毒生成・小》。
溶かす。
腐食させる。
硬いものを少しずつ崩す。
そんなイメージを強く持つ。
そして。
生成した毒を、水の流れに乗せる。
当然、ここは川の中だ。
放った瞬間から周囲の水に混ざってしまう。
だからなのか。
かなり薄まっている感覚がある。
それでも。
毒がミニザリクラブたちへ届くと。
「おっ……!」
甲殻の表面が僅かに変化した。
一気に溶けるわけじゃない。
少しずつ。
じわじわと。
表面が傷んでいく。
ミニザリクラブたちも明らかに苦しそうだ。
「効いてる!」
もちろん。
映画とかで見るような、触れた瞬間にジュワッと全部溶けるような威力はない。
そもそも俺は、本物の塩酸がどういうものか詳しく知らない。
加えて水中。
どんどん薄まる。
それでも。
硬い甲殻に影響を与えられる。
十分だ。
そして。
何より重要なのは。
「遠くから攻撃できる……!」
これまで俺の毒攻撃には、大きな弱点があった。
《猛毒手》。
強い。
でも触らないといけない。
《猛毒棘》。
これも強い。
でも相手に接近してもらう必要がある。
《毒散布》。
範囲攻撃にはなる。
でも毒自体は弱い。
その点。
《毒生成・小》は違う。
離れた場所からでも使える。
なら。
他の毒はどうだ?
次にイメージしたのは。
麻痺毒。
もちろん、これも成分なんて知らない。
俺のイメージは単純。
身体を痺れさせる。
動きを鈍くする。
「そんな感じ!」
我ながら雑である。
それでも。
スキルは反応した。
毒を流す。
しばらくすると。
ミニザリクラブたちの動きが明らかに鈍くなった。
「おお……!」
ハサミの動きが遅い。
逃げようとしても、さっきまでの素早さがない。
成功。
なら。
もう一つ。
「神経毒……っぽいやつ」
神経毒が具体的にどう作用するのか。
知らん。
でも。
神経に作用する。
身体を動かせなくする。
強ければ命にも関わる。
そんなイメージはある。
それをできるだけ強く思い浮かべる。
《毒生成・小》。
毒を流す。
すると。
一匹。
また一匹。
ミニザリクラブたちの動きが止まっていく。
そして。
全滅。
「…………」
強い。
「これ、かなり強いな」
ただ。
同時に分かったこともある。
強い毒。
複雑な毒。
濃い毒。
そういうものを作ろうとすると。
明らかに身体が疲れる。
ステータス上では魔力31と表示されている。
ただ。
魔力31が、そのままMP31というわけではなさそうだ。
今までスキルを使っても、数字そのものが減ったことはない。
おそらく。
【魔力】は魔法を扱う能力そのもの。
そして。
それとは別に、俺の中に使える魔力の総量みたいなものがある。
……と思う。
「見えないから分かりづらいんだよな……」
ともかく。
《毒生成・小》は無限に使えるわけじゃない。
そして。
もう一つ。
俺のイメージが曖昧だと、出来上がる毒も曖昧になる。
逆に。
もっと具体的に。
もっと強く。
「こういう毒だ」とイメージできれば。
さらに強いものを作れるかもしれない。
「知識がそのまま強さにつながるタイプか……」
これ。
前世で毒の勉強してたやつが転生してたらヤバかったんじゃないか?
俺なんて。
塩酸。
麻痺毒。
神経毒。
その程度だぞ。
まあ。
今はこれで十分。
そして。
次。
《毒回復》。
こっちは。
もっとヤバかった。
色々試した結果。
どうやら。
取り込んだ毒が強いほど、HPの回復量も増えるらしい。
弱い毒なら少し。
強い毒なら、それ以上。
つまり。
「…………待てよ」
俺。
毒。
作れるよな?
《毒生成・小》。
そして。
毒を受ければ。
《毒回復》。
ということは。
試しに。
自分で弱い毒を生成。
それを身体へ取り込む。
すると。
身体の傷が。
少しずつ。
治っていく。
「…………」
マジか。
「自分で回復できるじゃん!!」
《毒生成・小》で毒を作る。
自分で取り込む。
《毒回復》でHPを回復する。
攻撃スキルだと思っていた《毒生成・小》が。
回復にも使える。
「この組み合わせ、強すぎない?」
ただし。
当然。
無限回復ではない。
毒を生成すれば、その分だけ疲れる。
強い毒なら、さらに消耗も大きい。
つまり。
俺の中に残っている魔力を使って毒を作り。
その毒を使ってHPを回復する。
感覚的には。
魔力をHPに変換しているようなものだ。
「それでも十分だろ!」
戦闘中。
HPが減る。
距離を取る。
毒を生成。
自分で取り込む。
回復。
そして再び戦う。
使える。
かなり使える。
ニシキゴイ戦でも、重要な手札になるはずだ。
ただ。
調子に乗って強すぎる毒を自分に使うのは怖い。
《毒回復》で処理できる限界を超えたらどうなるのか。
それは。
「試さなくていいな」
死んだら意味ないし。
そして。
最後。
《水魔法・小》。
こいつも色々試した。
水を集める。
押し出す。
流れを作る。
おそらくだが。
地上なら。
水を生み出したり。
水鉄砲みたいに飛ばしたり。
そういう使い方もできると思う。
でも。
ここは水中。
「微妙だな……」
周り全部水。
水の中で水を飛ばす。
当然。
抵抗が強い。
一応。
水流を起こして相手を押すことはできる。
動きを一瞬邪魔することもできる。
でも。
攻撃としては弱い。
しかも。
三発ほど使ったところで。
「はぁ……はぁ……」
めちゃくちゃ疲れた。
身体が重い。
「燃費悪っ!」
多分。
俺の魔力がまだ低いからだ。
今の魔力31。
対して。
ニシキゴイは44。
「やっぱあいつ、魔法使えるんじゃ……」
ビッグタニシですら魔力10で水魔法を使った。
なら。
魔力44のニシキゴイが、何か持っていてもおかしくない。
警戒は必要だ。
ただ。
《水魔法・小》の検証を続けているうちに。
一つ。
思いついた。
「……待てよ」
別に。
水魔法そのもので攻撃する必要なくないか?
水流を作る。
相手に向ける。
そこへ。
《毒生成・小》で作った毒を乗せる。
試しにやってみる。
《水魔法・小》。
小さな水流を作る。
そこへ。
《毒生成・小》。
毒を流し込む。
水流に乗った毒が。
狙った方向へ流れていく。
「…………」
できた。
「これだ!」
水魔法に威力はいらない。
毒を運べればいい。
今までは川の自然な流れに頼っていた。
でも。
《水魔法・小》を使えば。
ある程度なら。
自分で毒の流れる方向を決められる。
相手が離れていても。
毒を送れる。
相手が避けようとしても。
流れを変えられる。
「遠距離毒攻撃……完成じゃん!」
俺の中で。
戦い方が一気に組み上がっていく。
《防御》+《猛毒棘》。
相手の攻撃を耐えながら、カウンターで猛毒。
《毒生成・小》+《水魔法・小》。
離れた相手へ毒を運ぶ。
《毒生成・小》+《毒回復》。
魔力を消耗する代わりに、自力でHPを回復。
《毒散布》。
近距離なら弱毒を広範囲にばら撒いて継続ダメージ。
そして。
接近できた時の切り札。
《猛毒手》。
「…………」
俺。
ちゃんと戦えるようになってきてる。
最初は。
短い手でぺちぺちするしかなかったのに。
ちょっと感動する。
攻撃力2だけど。
「そこはもういいんだよ!」
俺は物理アタッカーじゃない。
毒タンクだ。
これでいい。
そして。
最後にもう一つ。
俺には。
格上と戦うための特典がある。
《ジャイアントキリング》。
ニシキゴイはレベル17。
俺は。
レベル9。
…………。
「ん?」
17引く9。
8。
《ジャイアントキリング》の発動条件。
レベル差10以上。
「…………」
もう一回。
17引く9。
8。
「レベル上げたせいで発動しなくなってるじゃん!!」
何やってんだ俺!
強くなるためにレベル上げしたのに!
格上用の特典、自分で潰してるじゃん!
レベル5の時に戦っていれば、差は12。
発動していた。
今は差8。
発動しない。
「いや……でも……」
落ち着け。
特典が使えなくなった代わりに。
俺自身が強くなった。
HP70。
防御力112。
魔力31。
新しい戦い方もできた。
だったら。
こっちの方がいい。
多分。
「……多分!」
そういうことにしておこう。
準備はした。
ステータスも上げた。
毒の使い方も分かってきた。
回復手段もできた。
水魔法の使い道も見つけた。
相手が魔法を使う可能性も考えた。
もう。
これ以上。
雑魚ばかり狩っていても仕方ない。
俺は川底を進み始める。
向かう先は。
決まっている。
俺の三倍。
いや。
四倍近い巨体。
鋭い牙。
HP120。
攻撃力61。
防御力70。
素早さ64。
魔力44。
討伐難易度D級。
そして。
俺の尻尾を食いちぎった。
因縁の相手。
ニシキゴイ。
「行くぞ」
あいつを倒す。
尻尾の借りを返す。
そして。
レベル10になる。
今度こそ。
浅瀬を卒業する。
「待ってろよ、ニシキゴイ」
俺は。
次のステージへ進むために。
因縁の相手が待つ場所へと泳ぎ出した。




