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13話 因縁のニシキゴイ

俺は昨日、決意した。


浅瀬から――深瀬へ進む。


この川がどこまで続いているのか。


この先に何がいるのか。


いつまでも浅瀬で小魚ばかり追いかけているわけにもいかない。


だが。


その前に。


どうしても決着をつけなければならない相手がいる。


そう。


「あの錦鯉だ」


転生したばかりの俺を襲った、あの巨大な魚。


あの巨体。


あの速さ。


そして何より――。


「……あの恐ろしい牙」


思い出しただけでも怖い。


何せ、俺の尻尾を食いちぎった相手だ。


あの頃の俺はレベル1。


逃げることしかできなかった。


だが、今は違う。


進化した。


毒も強くなった。


レベルも上がった。


「尻尾の仇……取らせてもらうぞ」


とはいえ。


いきなり突撃するほど俺も馬鹿じゃない。


今の俺には《鑑定・小》がある。


まずは敵の調査だ。


「あいつ、最初に俺が生まれた辺りにいたよな」


記憶を頼りに、川を泳いでいく。


…………。


……。


いない。


「どこ行ったんだよ」


魚なんだから移動するのは当たり前なんだけどさ。


なんとなく同じ場所にいると思ってた。


仕方ないので、探しながらスモールフィッシュやミニザリクラブを倒していく。


経験値はいくらあっても困らない。


そうして――。


一時間ほど経った頃。


水草の向こう。


ゆらりと。


大きな影が動いた。


「…………いた」


その瞬間。


身体が勝手に後ろへ下がった。


「…………」


情けない。


でも、仕方ないだろ。


俺は一度。


あいつに食われかけている。


頭では強くなったと分かっていても。


身体は、あの時の恐怖を覚えているらしい。


それに。


改めて見ると――。


「……でっか」


やっぱりデカい。


今の俺と比べても。


体長は軽く三倍。


いや。


下手したら四倍くらいある。


俺が少し成長したとはいえ、向こうからすればまだまだ小さい。


正面から見れば、あいつの口だけでもかなりの大きさだ。


その口には。


鋭い牙。


「……よく俺、あれから逃げられたな」


転生直後の俺。


マジで頑張った。


あんなもんに追いかけられてたのかよ。


「大丈夫。今日は戦わない」


まずは見るだけ。


今の俺には。


《鑑定・小》がある。


「《鑑定・小》!」


【ニシキゴイ】


色鮮やかな模様を持つ大型の魚系魔物。


気性が荒く、鋭い牙で獲物に襲いかかる。


鯉こくにすると美味しい。


【討伐難易度:D級】


「まんま錦鯉なんかい!」


ミニザリクラブとかスモールフィッシュとか、ちょっと名前変えてたじゃん!


なんでこいつだけそのままなんだよ!


あと。


「鯉こくにすると美味しい……」


やっぱり料理情報あるし。


もういい。


慣れた。


むしろ今回はありがたい。


倒したら食ってやる。


俺の尻尾の分までな!


そして。


肝心のステータスは――。


【種族】ニシキゴイ


【Lv】17


【HP】120/120


【攻撃力】61


【防御力】70


【素早さ】64


【魔力】44


【幸運】33


「…………」


強くね?


いや。


待て待て。


まず。


攻撃力61。


「攻撃力たっか!!」


そりゃそうですよね!


あの牙ついてるもんね!


俺の尻尾、一発で持っていったもんね!


そして素早さ64。


「速すぎだろ……」


俺が《猛毒手》で触ろうとしても、普通にかわされる可能性が高い。


防御力70。


HP120。


「タフすぎる……」


毒を入れたとしても。


倒れるまでかなり時間がかかる。


その間。


俺は攻撃力61のこいつに耐え続けなければならない。


そして。


もう一つ。


気になる数字がある。


「……魔力44?」


高くね?


ビッグタニシでも魔力10だった。


俺だって、今の魔力はそこまで高くない。


なのに。


こいつ。


44。


「もしかして……こいつも魔法使えるんじゃないか?」


ありえる。


いや。


この世界に魔法が存在する以上。


むしろ警戒した方がいい。


あの頃は必死に逃げていたから、牙で噛みついてくることしか分からなかった。


でも。


あいつが本気を出していたとは限らない。


「近接攻撃だけでも強いのに、魔法まであったらヤバいだろ……」


ますます今戦うべきじゃない。


それに。


俺は現在レベル5。


向こうは17。


レベル差12。


「……《ジャイアントキリング》の条件には入ってるな」


レベル差10以上。


今戦えば、補正が入る。


それでも。


俺はあの巨体を見る。


三倍から四倍の体格差。


攻撃力61。


素早さ64。


そして。


未知の魔法。


「…………やめとこ」


勝てる可能性がある。


それと。


今戦うべきかどうかは別だ。


ゲームでもそうだった。


ボスを見つけたからって、すぐに挑む必要はない。


準備できるなら。


準備してからぶっ倒せばいい。


俺はそっと水草の陰へ戻る。


逃げではない。


戦略的撤退である。


「よし」


目標を決めよう。


俺の一番の強み。


防御力。


ニシキゴイの防御力は70。


なら。


「あいつの二倍くらいまで防御力上げるぞ!」


目標。


140。


そこまで上げれば。


攻撃力61の噛みつきにも、かなり耐えられるはずだ。


俺の戦い方は単純。


耐える。


毒を入れる。


そして。


相手が死ぬまで耐える。


そのためには。


硬ければ硬いほどいい。


こうして。


俺のレベル上げ生活が始まった。


スモールフィッシュ。


《猛毒手》。


パクッ。


ミニザリクラブ。


《防御》。


《猛毒棘》。


パクッ。


またスモールフィッシュ。


パクッ。


「……俺、最近ずっと同じもの食ってんな」


まあいい。


経験値のためだ。


そんな生活を続けていた時だった。


川底を進んでいると。


見慣れないものを発見した。


のそのそ。


のそのそ。


丸い殻を背負った何かが、ゆっくりと移動している。


「……タニシ?」


ただし。


でかい。


普通のタニシとは明らかにサイズが違う。


ということで。


「《鑑定・小》!」


【ビッグタニシ】


水底に生息する大型の貝系魔物。


非常に動きが遅い。


泥抜きをしないと、まともに食べられない。


【討伐難易度:E級】


「まともに食べられないって……」


相変わらず食う前提なんだな、この鑑定。


ステータスも見てみる。


【種族】ビッグタニシ


【攻撃力】6


【防御力】18


【素早さ】1


【魔力】10


【幸運】2


「弱っ」


素早さ1。


転生したばかりの俺じゃん。


なんか親近感湧いてきた。


まあ。


これなら余裕だろ。


そう思って近づいた瞬間。


ビッグタニシの周囲の水が、不自然に動いた。


「ん?」


水が集まっていく。


そして。


ブワッ!


「うおっ!?」


突然の水流に押し流された。


身体が後ろへ飛ばされる。


「なんだ今の!?」


痛くはない。


ダメージもほとんどない。


ただ、身体の自由を一瞬奪われた。


もう一度近づく。


すると。


ブワッ!


「またかよ!」


再び押し戻される。


…………。


待て。


こいつ。


魔力10。


まさか。


「水魔法!?」


魔法!


ついに出た!


異世界らしいやつ!


今まで毒だのザリガニだの魚だのばっかりだったけど!


ちゃんと魔法あるんだ!


「すげえええ!」


ブワッ!


「だから邪魔!!」


感動してる場合じゃなかった。


水中だからなのか、威力自体は大したことない。


ただ。


とにかく近づきにくい。


「地味にうぜえな、こいつ!」


とはいえ。


相手は素早さ1。


何度か水流に押し戻されながらも。


少しずつ距離を詰める。


そして。


「捕まえた!」


《猛毒手》!


ぺちん。


…………。


しばらくして。


ビッグタニシの動きが止まった。


「よし!」


さて。


問題はここからだ。


鑑定には書いてあった。


泥抜きをしないとまともに食べられない。


…………。


でも。


食べたら、何か手に入るかもしれない。


「……仕方ない」


覚悟を決める。


《丸呑み》!


パクッ。


…………。


「まずっ!!」


泥!


泥の味しかしない!


「鑑定正しかったわ!!」


なんで俺、忠告されてるのに食ったんだよ!


その瞬間。


【スキル《水魔法・小》を獲得しました】


「…………」


え?


今。


なんて?


【スキル《水魔法・小》を獲得しました】


「水魔法きたあああああ!!」


マジか!


さっきこいつが使ってたやつじゃん!


ついに俺にも魔法が!


泥水みたいなタニシを食った甲斐があった!


「《水魔法・小》か……」


どこまで使えるのかは分からない。


さっきみたいに水流を起こすだけなのか。


それとも。


もっと色々なことができるのか。


その時。


ふと思い出した。


「……そういや俺、《水の女神の加護・小》持ってるじゃん」


水の女神の加護。


そして。


水魔法。


「これ、めちゃくちゃ相性いいんじゃないか?」


加護の効果には、水辺での行動への補正があった。


もしかしたら。


水魔法にも何か影響があるかもしれない。


「これは絶対検証だな!」


《毒生成・小》。


《毒回復》。


そして。


《水魔法・小》。


試したい能力がどんどん増えていく。


その後も狩りを続けた。


スモールフィッシュ。


ミニザリクラブ。


時々ビッグタニシ。


ちなみに。


「タニシはもう食わん」


まずい。


本当にまずい。


そして。


――テレレレッテッテーン!


レベル6。


さらに。


――テレレレッテッテーン!


レベル7。


そして。


――テレレレッテッテーン!


【レベルが上がりました】


【Lv7→Lv8】


「来た!」


さっそくステータスを確認する。


【種族】ポイズンミニルーパー


【Lv】8


【HP】62/62


【攻撃力】2


【防御力】100


【素早さ】17


【魔力】29


【幸運】24


【スキル】


《丸呑み》


《猛毒手》


《水中遊泳》


《水中呼吸》


《猛毒棘》


《防御》


《挟む》


《鑑定・小》


《毒回復》


《毒散布》


《毒生成・小》


《水魔法・小》


【特典】


《神の悪戯》


《水の女神の加護・小》


《ジャイアントキリング》


「防御力100!」


ついに三桁だ。


最初のミニルーパーだった頃。


俺の防御力は、たったの5だった。


それが今では。


100。


「二十倍か……」


硬くなったなあ、俺。


だが。


まだだ。


目標は140。


ニシキゴイの防御力70の二倍。


「あと40……」


もう少し。


あと少しレベルを上げれば。


あいつとの決着に挑める。


しかも。


今の俺には《水魔法・小》まである。


次に戦う時。


あいつがどんな魔法を使ってくるのかは分からない。


それでも。


前とは違う。


今度は。


俺にも戦うための力がある。


俺は遠くにいる、巨大な影を思い浮かべた。


俺の三倍。


いや。


四倍近い巨体。


あの時。


俺はお前から逃げた。


尻尾を食われて。


必死に逃げることしかできなかった。


でも。


次は違う。


「待ってろよ、ニシキゴイ」


今度は――。


「俺がお前を食ってやる」

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