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12話 決心

「さて、と」


目の前には、先ほど倒したミニザリクラブ。


レベル2だった俺を、一気にレベル5まで引き上げてくれたありがたい存在だ。


そして何より。


こいつは美味い。


《鑑定・小》も言っていた。


しっかり下処理をして塩茹ですれば美味しい、と。


まあ、俺に塩なんてないけど。


「いただきます!」


《丸呑み》!


パクッ。


……。


…………。


「スキル追加は無しか」


ちょっと期待してたんだけどな。


前にミニザリクラブを食った時は《挟む》を覚えた。


だから今回も何かあるかと思ったが。


やっぱり《丸呑み》でスキルを獲得できるのは確定じゃないらしい。


同じ種類のやつから、何度もスキルを取れるわけでもないのかもしれない。


まあいい。


今回はそれ以上に収穫があった。


なんせ。


レベルが一気に3も上がったのだ。


「そういや、ステータスどうなった?」


《鑑定・小》!


【種族】ポイズンミニルーパー


【Lv】5


【HP】40/40


【攻撃力】1


【防御力】70


【素早さ】10


【魔力】18


【幸運】16


【スキル】


《丸呑み》


《猛毒手》


《水中遊泳》


《水中呼吸》


《猛毒棘》


《防御》


《挟む》


《鑑定・小》


《毒回復》


《毒散布》


《毒生成・小》NEW


【特典】


《神の悪戯》


《水の女神の加護・小》


《ジャイアントキリング》NEW


「おおおお!」


増えてる!


しかもスキルだけじゃない。


特典まで増えてる!


まずはスキルからだ。


《毒生成・小》。


【毒生成・小】


自身の体内で毒を生成することができる。


使用者の知識・イメージに応じて、任意の毒を生成可能。


「おお! なんかすごそう!」


作りたい毒を自分で作れるってことだろ?


今までの《猛毒手》や《猛毒棘》は、決められた毒を使ってる感じだった。


でもこれは違う。


自分で毒を作れる。


つまり。


めちゃくちゃ強い毒とか。


すぐに効く毒とか。


逆にゆっくり効く毒とか。


使い分けられるってことか?


「これ、かなり強いんじゃ……」


…………。


いや。


待てよ。


使用者の知識・イメージに応じて?


「俺、毒なんて全然知らないんだけど」


毒の知識なんてないぞ。


青酸カリとかフグ毒とか、そのくらいしか知らん。


そもそもフグ毒ってどうやって作るんだ?


知らん。


青酸カリも名前しか知らん。


「これ……持ち腐れない?」


せっかく強そうなスキルを手に入れたのに。


まさかの知識不足。


異世界に来る前に、もっと毒について勉強しておけばよかった。


……いや。


普通の大学生は、来世で毒生物になることを想定して勉強しないか。


「まあ、これは後で検証だな」


そして。


もう一つ。


むしろ今の俺にとっては、こっちの方が重要かもしれない。


《ジャイアントキリング》。


【ジャイアントキリング】


自身よりレベルが10以上高い相手を倒した者に与えられる特典。


戦闘時、相手とのレベル差に応じて自身のステータスに補正がかかる。


レベル差に応じて各ステータス+1。


「…………」


え。


「これ、ヤバくね?」


今回戦ったミニザリクラブはレベル12。


戦闘開始時の俺はレベル2。


ちょうど10レベル差。


つまり条件を満たしていたわけだ。


そして今後。


俺よりレベルが高い相手と戦えば戦うほど。


そのレベル差に応じて、ステータスに補正が入る。


「めちゃくちゃ有益じゃん!」


今の俺にぴったりだ。


だってこの川。


どう考えても俺より強いやつだらけだもん。


今まではそれが怖かった。


でも《ジャイアントキリング》があるなら。


格上との戦闘でも、多少は差を埋められる。


もちろん。


だからといって何にでも喧嘩を売っていいわけじゃない。


レベル差100とかあったら、補正があっても普通に死ぬだろうし。


そこはちゃんと考えないとな。


「でも、これから絶対役に立つぞ」


《毒生成・小》。


《ジャイアントキリング》。


進化してから、明らかに成長の幅が広がっている。


レベル5でこの強さ。


防御力なんて70だ。


「…………70?」


改めて見る。


攻撃力1。


防御力70。


「偏りすぎだろ俺」


どういうステータスしてんだよ。


殴っても弱い。


でもめちゃくちゃ硬い。


その硬い身体で攻撃を受けながら、相手を毒にする。


「完全に毒タンクじゃん」


でも。


嫌いじゃない。


むしろゲームをやっていた頃の俺なら、こういう尖ったビルドは大好きだ。


「よーし!」


テンションが上がってきた。


この調子でどんどん狩ろう!


レベルを上げて。


新しいスキルを覚えて。


もっと強い毒を手に入れて。


次の進化を目指す!


「行くぞおおお――!」


…………。


いや。


やめよう。


俺は泳ぎ出そうとした身体を止めた。


「今日はもういいな」


さっきまでミニザリクラブと戦ってたんだ。


レベルアップで身体は回復している。


疲労感もほとんどない。


それでも。


焦る必要はない。


俺はもう十分強くなった。


進化もした。


新しいスキルも手に入れた。


特典まで増えた。


だったら。


「今日は休もう」


こういう時に調子に乗って強いやつに突っ込む。


ゲームなら、それでもいい。


死んだらロードすればいいからな。


でも。


ここにはロードなんてない。


ゲームオーバーは、本当に終わりだ。


俺が欲しかったのは。


命懸けで戦い続ける生活じゃない。


川底でのんびり暮らす生活だったはずだ。


「……最近、戦ってばっかりだな」


まあ。


生きるためだから仕方ないけど。


俺はゆっくりと川底へ身体を沈めた。


今日は休む。


そして明日。


まずは《毒回復》。


今度こそ、ちゃんと検証しよう。


《毒生成・小》も試してみたい。


それからレベルも上げる。


そして。


俺は川の先を見る。


今まで俺が生活していた場所よりも。


さらに先。


水の流れが変わり。


底が見えないほど、深くなっている場所。


今までの俺なら。


絶対に近づかなかった。


何がいるか分からない。


あの巨大な魚より、もっと危険なやつがいるかもしれない。


でも。


今なら。


少しくらいは、進める気がする。


「明日から――」


もっと強くなろう。


そして。


あの深い場所へ行ってみよう。


この川が。


一体どこまで続いているのか。


まだ俺は。


何も知らない。

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