15話 ニシキゴイ戦
準備はした。
レベル9。HP70、防御力112。
《毒生成・小》《毒回復》《水魔法・小》の使い方も、ある程度分かった。
あとは――やるだけだ。
俺は川底すれすれを泳ぎながら、あいつがいた場所へ向かう。
水草の間を抜け、大きな石の横を通り過ぎる。
ここだ。
俺がこの世界に生まれて間もない頃、初めて死を覚悟した場所。
そして、尻尾を食いちぎられた場所。
流れに逆らいながら少し進むと、前方の薄暗い水中に大きな影が見えた。
「……いた」
ニシキゴイ。
俺の三倍、いや四倍近い巨体が、川底から少し離れたところをゆっくり泳いでいる。
身体を左右にくねらせるたび、大きな尾びれが水を押し出し、周囲の水草が揺れる。
あの巨体。
あの牙。
間違いない。
こいつだ。
あの時、俺の尻尾を食いちぎったやつ。
そう認識した瞬間。
俺の四本の短い足が、無意識に川底を掻いた。
身体が後ろへ下がる。
「…………」
怖い。
頭では戦えると思っている。
でも、身体が覚えている。
あの牙に噛まれた痛みを。
逃げても追いつかれた恐怖を。
それでも俺は尾を振り、下がった分だけ前へ泳ぎ直した。
「大丈夫だ」
あの時とは違う。
俺はもう、逃げることしかできなかったレベル1のミニルーパーじゃない。
「行くぞ」
まずは――。
「《鑑定・小》」
【ニシキゴイ】
【Lv】17
【HP】120/120
【攻撃力】61
【防御力】70
【素早さ】64
【魔力】44
【幸運】33
【討伐難易度:D級】
改めて見ると、とんでもない。
特に素早さ64。
俺は20。
単純な速さなら三倍以上。
そして俺はレベル9。相手は17。
レベル差は8。
「《ジャイアントキリング》……発動しないんだよなあ」
レベル差10以上が条件だから、レベルを上げた結果、逆に使えなくなってしまった。
「まあいい。その分、俺自身が強くなった!」
正面から殴り合う必要なんてない。
俺には毒がある。
ニシキゴイから距離を取ったまま、川底に四本の足をつける。
流れを感じる。
今は俺からニシキゴイの方へ、僅かに水が流れている。
使える。
《毒生成・小》。
身体の動きを鈍らせる。
痺れさせる。
そんな麻痺毒をイメージする。
そして――。
「《水魔法・小》!」
俺の前方の水がゆらりと動く。
自然な川の流れに、水魔法で少しだけ方向を加える。
そこへ生成した毒を乗せた。
「いけ!」
毒を含んだ水流が、ニシキゴイへ伸びていく。
だが、毒が届く寸前。
ニシキゴイがこちらを向いた。
尾びれを一度、大きく振る。
バッ!
巨体が横へ滑った。
「速っ!」
俺から見れば、ほとんど一瞬だ。
だが、全部は避けられていない。
尾びれの先が毒を含んだ水流に触れている。
すぐに《鑑定・小》。
【状態:微麻痺】
「よし!」
入った。
ほんの少し。
でも確実に効いている。
このまま毒を重ねる。
そう思った時だった。
ニシキゴイが身体を俺へ向けた。
同時に、その周囲の水が不自然に動き始める。
「……ん?」
鱗の表面を撫でるように水が流れ、頭から尾までニシキゴイの巨体を包み込んでいく。
川の流れじゃない。
こいつ自身が操っている。
「やっぱり魔法――」
最後まで言えなかった。
ニシキゴイが尾びれを振った。
一回。
それだけだった。
次の瞬間には、目の前にいた。
「は!?」
速すぎる!
水流を身体に纏って、水の抵抗を減らしているのか!?
考えている暇はない。
巨大な頭が真正面から迫る。
「《防御》! 《猛毒棘》!」
四本の足が反射的に川底を掴む。
頭を低くして身体を丸め、背中をニシキゴイへ向ける。
同時に背中から猛毒の棘が飛び出した。
直後。
ドゴッ!!
「ぐっ――!」
頭から突っ込んできたニシキゴイが背中へ激突する。
四本の足が川底から浮いた。
身体が水中へ投げ出され、そのまま流される。
一回。
二回。
川底に背中を打ちつけながら転がり、ようやく石にぶつかって止まった。
【HP 70→39】
「31!? 《防御》してこれ!?」
身体中が痛い。
防御力112だぞ!?
どんな突進してんだよ!
でも。
ただでは食らっていない。
ニシキゴイが身体を大きく振っている。
その横腹には、俺の《猛毒棘》が一本突き刺さっていた。
「入った……!」
《鑑定・小》!
【ニシキゴイ】
【HP 115/120】
【状態:猛毒・微麻痺】
「よし!」
これなら削れる。
ミニザリクラブを倒した時みたいに――。
【HP 111/120】
【HP 107/120】
「……あれ?」
遅い。
明らかに減り方が遅い。
体格差か?
それとも、こいつ自身が毒に強いのか?
分からない。
でも。
猛毒だけで倒せないなら。
「重ねる!」
俺は石の陰から身体を出し、尾を大きく振ってニシキゴイとの距離を詰める。
ただし、接近しすぎない。
「《毒散布》!」
俺の身体を中心に、弱い毒が水へ広がっていく。
透明な水の中だから目には見えない。
でも。
近づいてきたニシキゴイが、その範囲へ入った。
【状態:猛毒・微麻痺・弱毒】
「よし!」
少しずつ。
確実に削れている。
だが。
ニシキゴイは止まらない。
巨体をこちらへ向ける。
再び鱗の周囲を水流が包んだ。
「また来る!」
今度は真正面から受けない。
俺は川底を蹴るように四本の足を動かし、斜め横へ泳ぎ出す。
同時に――。
「《水魔法・小》!」
ニシキゴイの真正面へ、逆向きの水流を作る。
向こうの水流とぶつかった瞬間、ニシキゴイの頭が僅かに横へぶれた。
速度が落ちる。
「今だ!」
身体をひねる。
尾を振る。
一気に横から接近。
右の短い前脚を伸ばす。
《猛毒手》!
あと少し!
「届け!」
スカッ。
紫がかった俺の手の先を、ニシキゴイの鱗が通り過ぎていった。
「届かねえええ!!」
短い!
分かってたけど短い!
ニシキゴイが俺の横を通過する。
直後、大きな尾びれが目の前で振られた。
バンッ!
「うわっ!」
水圧だけで身体が横へ流される。
俺は慌てて足を広げ、川底に着地した。
やっぱり普通に追いかけても《猛毒手》は当たらない。
だったら。
もっと動きを奪うしかない。
《毒生成・小》。
今度はさっきより強くイメージする。
身体が痺れる。
筋肉が思うように動かない。
そんな毒。
「《水魔法・小》!」
生成した毒を水流に乗せる。
ニシキゴイは避けようと尾を振った。
だが。
さっきより遅い。
毒を含んだ水が巨体の半分ほどを包み込む。
【状態:麻痺・猛毒・弱毒】
「入った!」
ニシキゴイの尾びれの動きが僅かに鈍くなる。
効いてる。
このまま――。
その瞬間。
ニシキゴイが俺から少し離れ、大きく口を開いた。
「……え?」
口の前に水が集まる。
小さな渦になり。
一つの塊へ圧縮されていく。
「おい」
それ。
俺もやったぞ。
まさか――。
ニシキゴイが頭を振った。
水の塊が一直線に飛んでくる。
「うおっ!?」
俺も尾を振り、横へ逃げる。
でも遅い。
身体の半分が直撃した。
ドンッ!!
「がっ――!」
水圧に押され、身体が川底へ叩きつけられる。
【HP 39→25】
「水鉄砲まで使えんのかよ!!」
しかも俺のより強い!
「魔力44ずるいだろ! 俺なんて三発撃ったらヘロヘロだぞ!」
ニシキゴイは俺が起き上がるのを待ってくれない。
すでに身体へ水流を纏っている。
「やばっ!」
四本の足を川底につける。
逃げられない。
「《防御》!」
頭を下げ、身体を丸める。
直後。
ドゴッ!
今度は斜めから突き上げられた。
身体が浮き、ぐるりと一回転する。
【HP 25→12】
「ぐっ……!」
それでも。
さっきより軽い。
麻痺で勢いが落ちている。
毒は効いてる。
まだ戦える。
俺は尾を振って体勢を戻し、川底に着地した。
だが足が震えている。
あと一発。
まともに食らえば危ない。
「……まだだ」
俺には回復がある。
《毒生成・小》。
今度は自分に使う毒。
強すぎず。
でも《毒回復》が反応するくらいのもの。
生成した毒を自分の身体へ取り込む。
直後。
身体の奥がじわりと熱くなった。
傷口が塞がっていく。
【HP 12→27】
「よし……!」
回復成功。
でも。
「……きっつ」
身体が重い。
尾を一回振るだけでも疲れる。
《毒生成・小》。
《水魔法・小》。
さらに回復用の毒。
使いすぎた。
無限回復なんてできるわけがない。
「次は……無理だな」
残っている力は。
全部。
倒すために使う。
ニシキゴイを見る。
【HP 61/120】
「まだ半分あるのかよ……」
こっちはもう限界近いぞ。
ニシキゴイが身体をくねらせ、こちらへ泳いでくる。
さっきよりは遅い。
でも。
まだ俺より速い。
「くそっ!」
正面から来る牙を見て、俺は身体を下へ沈める。
頭のすぐ上を巨大な口が通過した。
牙が身体を掠める。
そのままニシキゴイの腹が頭上を通り過ぎ――。
大きな胸びれが目の前に来た。
「…………」
待てよ。
《丸呑み》。
今まで倒した相手を食うために使ってきた。
でも。
別に死んでなきゃ使えないなんて書いてない。
もちろん。
ニシキゴイ全部なんて飲み込めない。
俺の三倍以上ある。
でも。
「一部だけなら――!」
俺は川底を蹴り、上へ泳ぐ。
方向転換しようとするニシキゴイの胸びれへ。
口を思いっきり開いた。
「《丸呑み》!!」
ガブッ!
「んぐっ!?」
口いっぱいにヒレを咥える。
ニシキゴイが暴れた。
身体を左右に振り、俺を振り落とそうとする。
視界がぐるぐる回る。
「離すかあああ!!」
短い手もニシキゴイの身体に押しつける。
そして。
顎に力を込める。
ブチッ!
ヒレの一部が千切れた。
反動で俺の身体が後ろへ飛ぶ。
口の中には、食いちぎったヒレ。
そのまま――飲み込む。
【スキルの獲得はありませんでした】
「今くらいなんかくれよおおお!!」
命懸けで食ったんだぞ!
だが。
効果はあった。
ニシキゴイが泳ごうとする。
右。
左。
巨体が僅かに傾く。
傷ついたヒレのせいで、真っ直ぐ泳げていない。
麻痺。
猛毒。
弱毒。
ヒレの損傷。
全部が重なっている。
「遅くなってる……!」
これなら。
《猛毒手》を当てられる。
そう思った瞬間。
ニシキゴイが身体を俺へ向けた。
再び水流を纏う。
「まだやるのかよ……!」
俺も限界。
向こうも限界。
多分。
次で決まる。
俺は川底に腹をつけるように低く構えた。
身体が重い。
頭もぼんやりする。
水魔法なんて、あと一回使えるかどうか。
でも。
一回でいい。
《猛毒手》。
これを。
直接。
一発当てる。
それだけだ。
「だったら……全部使う」
身体の中に残っている力を《水魔法・小》へ注ぎ込む。
攻撃じゃない。
水鉄砲でもない。
ニシキゴイを止めるためだけの水流。
あいつが突っ込んでくる方向とは、真逆へ。
「来い……!」
ニシキゴイが尾びれを振る。
全身を水流が包む。
そして。
突っ込んできた。
「速っ……!」
麻痺している。
ヒレも傷ついている。
それでも速い。
巨大な口が、どんどん近づいてくる。
逃げない。
俺は四本の足を川底へ踏ん張り、正面からニシキゴイを見る。
そして。
「《水魔法・小》!!」
全力。
俺の前の水が一気に動く。
ニシキゴイの進行方向とは逆へ。
ドンッ!!
二つの水流がぶつかった。
川底の砂が舞い上がる。
俺の身体も後ろへ押される。
四本の足が少しずつ滑る。
「ぐっ……!」
止まらない。
当然だ。
向こうは魔力44。
俺は31。
しかも俺は、もうほとんど力が残っていない。
それでも。
「止まれ……!」
足が滑る。
一歩分。
後ろへ。
ニシキゴイが迫る。
「止まれ……!」
さらに後ろへ押される。
頭が痛い。
身体の中が空っぽになっていくような感覚。
もう魔力が残っているのかすら分からない。
それでも。
全部だ。
ここで全部使う。
「止まれえええええええ!!」
麻痺。
猛毒。
弱毒。
傷ついたヒレ。
そして。
俺の全魔力。
全部が重なった。
ニシキゴイの尾びれが激しく水を掻く。
それでも。
少しずつ。
動きが鈍くなる。
俺の目の前。
あと少し。
そして。
ついに――。
止まった。
ほんの一瞬。
ほんの一瞬だけ。
でも。
それで十分だ。
「今だ!!」
俺は川底を蹴った。
尾を思いっきり振る。
正面からニシキゴイの頭へ飛び込む。
右の短い前脚を伸ばす。
《猛毒手》!
「届け!」
あと少し。
数センチ。
届かない。
「っ――!」
ここまで来て!
俺はもう片方の前脚を伸ばした。
「《挟む》!!」
ニシキゴイの口元。
上顎の端を両方の短い前脚で挟む。
掴んだ。
そのまま前脚を曲げる。
自分の身体を無理やり引き寄せる。
「うおおおお!!」
ニシキゴイが頭を振る。
俺の身体が左右に振り回される。
それでも離さない。
短い腕が震える。
あと少し。
俺は身体を捻り、右手をニシキゴイの開いた口へねじ込んだ。
「届――けええええ!!」
触れた。
鱗じゃない。
口の中。
柔らかい部分。
「《猛毒手》!!」
全力で。
直接。
猛毒を叩き込む。
「入ったあああああ!!」
その直後。
ガブッ!!
「――っ!!」
ニシキゴイの口が閉じた。
鋭い牙が俺の胴体に食い込む。
【HP 27→8】
「ぐっ……!」
痛い。
身体が潰される。
反射的に逃げようと足を動かす。
でも。
ニシキゴイは離さない。
俺の胴体を咥えたまま、頭を振る。
だったら。
俺も。
離れない。
「《鑑定・小》……!」
【ニシキゴイ】
【HP 28/120】
【状態:猛毒・麻痺・弱毒】
減ってる。
今までより明らかに速い。
口の中へ直接《猛毒手》を入れた。
効いてる。
「死ね……!」
ニシキゴイが身体を大きく捻る。
牙がさらに深く食い込んだ。
【HP 8→4】
「ぐっ……!」
視界が暗くなる。
足が動かない。
尾にも力が入らない。
回復。
《毒生成・小》。
毒を作って。
《毒回復》を――。
…………。
何も起きない。
「出ない……」
もう。
力が残っていない。
毒を作れない。
水魔法も使えない。
《防御》の姿勢すら取れない。
ニシキゴイの口から抜け出すこともできない。
残っているのは。
HP4。
それだけ。
【ニシキゴイ HP17/120】
「まだ……17……」
早く。
頼む。
毒。
早く回れ。
【HP 12/120】
ニシキゴイの尾びれの動きが弱くなる。
でも。
牙はまだ俺の身体に食い込んでいる。
【HP 7/120】
「あと……ちょっと……」
俺のHPは4。
向こうは7。
ニシキゴイが最後の力を振り絞るように、顎へ力を込めた。
ミシッ。
身体が軋む。
【HP 4→2】
「――っ!」
死ぬ。
次。
もう一度噛まれたら。
本当に死ぬ。
また。
こいつに。
食われる。
「ふざ……けんな……」
ここまで来たんだ。
レベル1。
HP10。
攻撃力1。
素早さ1。
何もできなかった。
逃げることしかできなかった。
尻尾を食いちぎられた。
ザリガニに殺されかけた。
手だって失った。
それでも生き残った。
毒を覚えた。
進化した。
魔法まで覚えた。
ここまで。
来たんだ。
「俺は……ただ、ゆっくり生きたかっただけなのに……」
なんで魚一匹相手に。
こんな命懸けてんだよ。
でも。
ここまでやったんだ。
「だから……せめて、お前には勝たせろ……!」
【ニシキゴイ HP3/120】
あと3。
ニシキゴイの顎が、もう一度動く。
【HP 2/120】
俺のHPも2。
「早く……!」
【HP 1/120】
ニシキゴイが最後の力で口を閉じようとする。
牙が身体へ食い込む。
そして――。
【ニシキゴイ HP0/120】
…………。
顎の力が消えた。
俺の身体を挟んでいた口が、ゆっくり開く。
俺はそこから力なく抜け落ちた。
川底へ。
ぽすっ。
腹から落ちる。
そのすぐ横に。
ニシキゴイの巨体も沈んできた。
ドサッ、と川底の砂が舞い上がる。
「…………」
動かない。
俺は四本の足を川底につけたまま、しばらくその巨体を見ていた。
本当に。
もう。
動かない。
「……勝った?」
俺の尻尾を食いちぎった。
あのニシキゴイ。
D級。
俺は――。
【種族:ポイズンミニルーパー】
【討伐難易度:E級】
「…………」
E級。
俺はまだ。
E級だ。
なのに。
「D級……倒した……?」
一人で。
誰にも助けてもらわず。
自分で覚えたスキルを全部使って。
毒を作って。
魔法を使って。
ヒレに噛みついて。
最後はHP2まで追い込まれて。
それでも。
勝った。
「俺……E級でD級倒したぞ……」
じわじわ。
実感が湧いてくる。
「……すげえ」
いや。
これ。
普通に。
「俺、すげえじゃん!!」
四本の足で川底を踏ん張る。
尾を思いっきり振る。
身体がぴょこんと浮いた。
着地。
もう一回。
ぴょこん。
「勝ったあああああああ!!」
嬉しい!
めちゃくちゃ嬉しい!
尻尾の仇を取った!
格上を倒した!
しかも。
E級の俺が。
D級を!
「ざまあみろおおおお!!」
どうだ!
俺の尻尾は美味かったか!
こっちはこれから、お前を全部食ってやるからな!
その瞬間。
――テレレレッテッテーン!
「……お?」
【レベルが上がりました】
【Lv9→Lv10】
身体が一気に熱くなる。
胴体に残っていた噛み傷が塞がる。
傷ついた皮膚が元に戻り、動かなかった足にも力が戻ってくる。
HPも全回復。
俺はその場で尾を振り、身体を確かめるように一周泳いだ。
痛くない。
動く。
生きてる。
「生き返るううううう!!」
HP2だったんだぞ!
あと一回噛まれてたら死んでたからな!
そして。
目の前に、もう一つ表示が現れた。
【進化条件を満たしました】
【Lv10到達】
【進化が可能です】
「…………来た」
進化。
前回と同じ。
レベル10に到達したことで、再び進化が可能になった。
「次の進化……!」
どんな進化先が出る?
今回。
俺はD級を倒した。
水魔法も使った。
毒も使った。
《丸呑み》まで戦闘に使った。
俺の進化先は、今まで何をしてきたかで変わる。
だったら。
この戦いも。
絶対に影響しているはずだ。
「見てえ……!」
今すぐ進化先を確認したい。
でも。
その前に。
俺は隣に沈んでいるニシキゴイへ顔を向けた。
「…………」
鯉こくにすると美味しい。
《鑑定・小》には、そう書いてあった。
「鯉こくにはできないけどな」
味噌もない。
鍋もない。
火もない。
でも。
食わないという選択肢はない。
こいつはレベル17。
D級。
しかも、水魔法まで使っていた。
戦っている最中にヒレを少し食った時は何も手に入らなかった。
でも。
今度は。
全部だ。
「何か出るだろ……!」
新しいスキル。
新しい能力。
そして。
もしかしたら。
食べることで、新しい進化先まで増えるかもしれない。
俺はニシキゴイの頭の横まで泳ぐ。
近くで見ると、本当にデカい。
さっきまでこれと戦ってたのか。
我ながらよく生きてる。
俺はその身体へ口を近づけた。
そして。
大きく開く。
「尻尾の分まで――いただきます」
今度は。
俺が。
お前を食う番だ。
「《丸呑み》――!」




