第八話 帰還と出会い
魔物討伐はこれといった犠牲もなく無事に完了した。
今は何をしているかって?
討伐したフォレスト・ハウンドを村に持ち帰る準備中さ。
村で解体して皮や肉に分けて村人に分配するんだとか。
今回討伐した数は全部で六匹、群れの規模としては少ないらしく、多い群れとかだと数十匹になるらしい。
今回はかなり早い段階で発見できたことが功を奏したとか。
それにしても前世を含め、初めて本能に従って生きる野生の生物と対峙したが、殺気を間近にしてやや押された自分とかなり冷静だった自分がいた。
強力な護衛が二人いるとはいえ、俺って実は怖いものに強かったのか?
まあそんなことは置いといて、家に帰ろう。
「アル、最後はよくヴィヴィを守ってくれた」
「そうね、油断していたとはいえ助かったわ。改めてお礼を言わないとね」
「しかしよくあの時の攻撃をはじけたな、正直あれは私でも間に合わなかった」
たしかに、あの時二人は完全に間に合わなかった。
俺も何が起きたのかは正直分からない、気づいたら体が動いていたんだ。
「というかヴィヴィ、今油断してたって言ったか?まさかまだ頭は寝ているのか?」
「寝てないわよ。ただ、一瞬油断しちゃったのは事実ね、ごめんなさい」
「ベテランの冒険者でも油断しちゃうことってあるんですね」
「しょうがないじゃない、先生としての威厳を見せなきゃって思ってたのもあるけど……」
「一番は、カエルとあの時以来の共同の依頼に行けたのが嬉しくて」
そこで急にヴィヴィが泣き出した。
「グスッ…ごめんなさい、年を取ると涙もろくなるのよ…グスッ」
「母さん、二人は昔同じ冒険者パーティだったんですよね。何があったの?」
「アルケウス、それは…」
「いやいい、ヴィヴィ。自分から話そう」
カエルは九年前まで冒険者をしていたらしい。
パーティ名は「ニュースター」、メンバーは四人、リーダーはカエルで、ヴィヴィもメンバーの一人だった。
パーティ樹立から二ヶ月でCランクに昇格、異例の速さだったらしい。
当時全員が20歳前後の若々しい新人冒険者がこの速さで昇格したのだから結構注目されていたそうだ。
さらに一年後、Bランクに昇格するための依頼で事件が起こった。
当時合同で依頼を受けていた他2パーティーに加え、カエルとヴィヴィ以外のメンバーが死亡。
伝えられていた魔物よりも上位の魔物に遭遇、当時Cランクの冒険者たちでは歯が立つわけもなく次々に惨殺されていった。
辛うじて討伐はできたものの、残ったのは二人だけだった。
異例の事件が起きたとはいえ、本来よりも上位の魔物を討伐した功績が讃えられ、二人はBランクへの昇格が認められたが、カエルはこれを拒否し冒険者を引退、その後故郷のオード村へ帰還、レイルと結ばれ今に至るというわけだ。
そんなカエルの過去の話を聞いていたら気づけばオード村が見えてきていた。
数時間ほどしか離れていないはずだが、なんだか久しぶりな気がする。
なんだ?入口にせわしい人物が…レイルか。
「おかえり、3人とも無事なようでなによりだよ」
「ああ、ただいま」
「アル、お父さんと先に家に帰ってなさい。私たちは報告とかにいってくるから」
「またね、アルケウス。今日は本当にありがとう」
「僕も、いい勉強になりました」
そう言って俺はレイルと先に帰宅することになった。
おそらく二人は、討伐完了の報告と魔物の解体とかをしに行ったんだろう。
「なあアル、最近の母さん雰囲気が変わったか?」
「どうして?」
「なんだか、昔の冒険者をやってた頃のような雰囲気を感じるんだ」
「たしかにそうかもね」
「そうか」
帰りの時に聞いた話的に、幼馴染のレイルは、冒険者をやめたカエルを献身的に支えてきたんだろう。「そうか」と言ったレイルの顔はなんだか嬉しそうだった。
「ところでどうだった?母さんたちの戦いぶりは」
「それはもうすごかったんですよ!」
「そうだろう?父さんが言ったとおりだったろう?」
今日の出来事を語りながら俺たちは帰宅した。
―――
次の日
いつものように特訓をする。
今日も午前はカエルと剣の特訓だ。
昨日実際の戦いを見て、冒険者のプロのレベルを思い知った。
いかに今の俺が未熟なのかを痛感した。
「アル、昨日実際の魔物討伐をみてどうだった?」
「そうですね、母さんたちの強さを思い知りました。というかよく魔物を一撃で切れますね」
フォレスト・ハウンド、決してサイズは小さいというわけじゃない。それなりのサイズの生き物の首を一撃で断ち切っていたのだから。
「あの魔物は一個体はそんなに強い魔物じゃないんだ。あいつらは群れるとそれだけ脅威が増す魔物だ。もちろん個の強い魔物なんかは流石の私でも一撃は厳しくなる。そんな魔物は世界中にたくさんるんだ。辺境の土地に行けばたくさん見れるぞ」
「最後の一匹は、身体強化の魔法を先生が母さんに使ってたのは何でですか?」
「それは絶対に逃がさず、確実に仕留めるためだ。群れのボスとかは、他の個体よりも強い傾向がある。ましてや、群れて強くなるタイプの魔物であれば尚のこと逃がしてはいけないからね」
そう言われればたしかに、最後の一体はカエルの攻撃を一度とはいえ回避していたな。
「さすが、父さんが剣はBランクの上位に入るって言ってただけのことはあったね」
「その話はやめろ…母さんは元Cランクだ!」
なぜか未だにこれは認めないんだよな。
「コホン!さて、今日からは少しレベルを上げてより実践的なことをして行くぞ」
「はい!」
「いつものように木刀を持て、今日からは母さんも少し反撃したりするからな、防ぎきるように頑張るんだ」
ん?今何て言った?反撃してくるのか?本気で?
でもまあ、やるしかないか。
「こい!」
そう言われた俺は踏み込み、上段から一太刀を入れたが難なく防がれた。
つづけて右から、そして左から、あらゆる方向の連撃。
反撃をする?だったら反撃させないようにすればいい、そう思っていた。
カエルが俺の攻撃をはじいた状態から流れる様に、俺の右わき腹に一撃を入れてきた。
「ぐっ…!」
「反撃させないようにするのも確かに正解だが、まだアルと私の実力差では無理だ」
これでも、カエルは全力じゃないんだもんな。
この2年でかなり動けるようになったし、こうした早い打ち合いもできるようになったけど、まだまだか。
「どうした、もう終わるか?」
「いえ、まだやれますよ」
そういって再度仕掛ける。
激しい撃ち合い…俺の攻撃がはじかれる、来る!反撃の一撃が、だがこれは読んでいるからはじける!
しかし攻撃をはじくと、カエルはその勢いで回転、反対からもう一撃を入れてきた。
これは防げない、想定外の一撃。そう思った。
しかし俺の体はその一撃も防いだのだ。
攻防が止まった。
「今の一撃を防いだのはすごいぞ。よく反応した」
しかし俺はなぜ今のに反応できたのか全く分からない。
「どうした」
「今の一撃、反応できてなかったんです」
「どういういことだ?ちゃんと反応して防いでいたぞ?」
「なんというか、無意識に反射で反応したみたいな?」
「ふむ…反射でか」
「実は昨日の魔物の攻撃を防いだのも同じ感じで防げたんだ」
この感覚はこの世界に転生してから感じることが多い。
前にも言ったが、俺は剣なんてものは前世では持ったことすらないのにだ。
と、考えに耽っていたいたら、カエルが敷地の入り口の方を見ていることに気が付いた。
振り返ると村の子供であろう金髪の子が、興味津々な目でこちらを見ていた。
―――
・カエル視点・
先日の討伐依頼では、まさか我が子に親友を助けられるとは思わなかった。
あの攻撃にはさすがの私も一歩間に合わなかった。
それは気づくのに遅れたヴィヴィも同じ。
また仲間を守れないのか、そう思っていた。
しかしその一撃を、あろうことかアルが防いだのだ。
正直驚いた、防御に関してはまだ何も教えていないのに、初めて見る魔物に臆することなく剣を向けたのだ。
そのおかげで私は二人の間に戻る事ができた。
そして今、一回目こそ私の反撃を受けることができなかったアルが、二回目でそれを受けて見せた。
さらに少し意地悪をしようと追加の反撃も加えてみたのだが、これも受けきったのだ。
全力ではないとはいえ、これを7歳の子供がやってのけた。
本人は無意識だと言っていたが、それでもいい。
ヴィヴィも言っていたがこの子は教える前と教えた後で、劇的に動きが変わることがある。まるでその動きややり方を知っていたかのように思える。
この子は天性の才能を持って生まれた子なのかもしれない。




