第七話 初めての外の世界
俺がこの世界に転生してから早いもので7年の月日がたった。
5歳になってから始まった俺の一日のルーティーンとしてはこうだ。
朝起きて家族と朝食を取る、午前の訓練はヴィヴィとカエルの開いているほうから始める。
昼食は午前の特訓したほうで食べる。そして午後は午前でやっていないほうの特訓だ。
夕飯を食べ、寝る前に魔力量を上げるための自主練をする。最近は魔力が切れることが無くなってきているが。
たまにレイルから歴史のような知識面を教えてもらうこともある。
そうして訓練開始から2年がたったが、成長は実感している。
まず魔法、基本の魔法に関してはもう無詠唱で発動できるようになった。
リトル・フレイムのような応用系ももうできる。
上位魔法に関してはまだ教えてもらえてない。規模が大きすぎて危険だかららしい。
魔力量も今はウォータボールを一日40発ぐらいは打てるようになっていた。
剣や体力面に関して、今では外周を一周するのに20秒かからないでいけるし、十周程度であれば息も切らさない、魔力で強化すればもっと行けるが。
カエルとの打ち合いも、それなりの速度で打ち合える。まだ本気ではないのだろうが、始めた時と比べれば目に見えて違う。いろんな角度や、フェイントを入れてもあっさり捌かれてしまうが…
そんな感じでかなり充実している2年が経過していたある日だった、たまに発生する魔物討伐がカエルに依頼された。
「アル、そろそろ魔物との実戦を見せようと思っていたんだが、付いてくるか?」
「本当にいいの?邪魔にならない?」
「ああ、そのために今回はヴィヴィも連れていく予定だ。アルは実戦の見学をするだけだ」
であればいい機会なんじゃないか。
今までは安全な所での特訓だけだし、この世界の魔物を実際に見れる、実戦というのがどういう感じなのか、これは行くしかないだろう。
「じゃあ行くよ」
「よしっ!」
カエルがにっと笑った。
最近彼女は前のような暗い雰囲気が薄れて、明るい?情熱的?な雰囲気でいることが多くなっている気がする。
「じゃあ準備してからヴィヴィを連れて早速向かうぞ」
「準備はいったい何をすれば?」
「そうだな、現場まで数時間はかかるだろうから、食料と水、武器や薬といったところだな。ちょっと待ってろ」
そういって家に入っていった。
しばらくして家から出て来たカエルの格好は、赤いマントを羽織って、急所になるような箇所には鎧が装着されている、まさに冒険者の装いってかんじだ。
「待たせたな、これからヴィヴィを呼びに行くんだがその前にこれを」
そういってカエルから渡されたものは、真剣だった。
今までは木刀しか持っていなかったからか、実際の剣は持ってみるとかなり重かった。
「私が前に使っていた短めの剣だ。もし何かあったら、これを使って身を守るんだ。いいね?」
実際の現場ではなにが起きるか分からないからな、もしもの時のためだ。
大丈夫だ俺、こういう時のために特訓してきたんだろう。
俺は頷いた。
そうしてヴィヴィを迎えに家に寄った。
カエルが扉をノックすると、いかにも寝起きです状態の彼女が出て来た。
「ん~どうしたの~こんな時間に~」
「魔物が出没したという報告を受けたから討伐に向かうんだが、今日はアルを連れいていくんだ。だが私一人では見守ることができないから、お前にサポートを頼もうと思ってな。ついでに実戦での戦い方とかも見せてもよい頃合いだと思ってな」
「ん~そういうこと~わかったわ~ちょっと待ってて~」
「ハア…アル、少し待っていてくれ」
そういって二人は家の中に戻っていった。
なんかすごいふわふわした喋り方だな、寝起きすぎだろ。
と思っていたら。
ドン!…パシッ!
という騒がしい音が鳴り響いたり、「いつまで寝てる!」みたいな声も聞こえた…中で何があったかは聞かないでおこう。
しばらくしてやっと出て来た二人、ヴィヴィの服装はいつもと変わらないものだった。違う点があるとすれば、両頬が赤くなっていたことだな。
そうしてようやく俺たちは魔物討伐に向かった。
移動は基本徒歩、村や町に行くなら馬車とかを使うのだが、今回はそこまでの距離ではないらしい。
なんだかんだでしっかりと村の外に行くのは今回が初めてだ。
振り返るとなかなかの田舎だと改めて思った。しかしそれでいてのどかで平和な村でもある。
そういえば今回討伐する魔物について聞いていなかったな。
「母さん、今回討伐する魔物について聞いても?」
「ん?言ってなかったか。」
「フォレスト・ハウンドだ」
名前からして狼系の魔物だろう。こういう初めての時って、スライムとかゴブリンとかじゃないのか?
「常に群れで行動して、人里の家畜を襲うのよ。オード村のような所からするとかなり生活を脅かす魔物だから、存在が確認されると優先的に駆除されるのよ」
つまり村人の生活を脅かす存在なのか。
群れで行動するということは、今回の討伐対象は一体とは限らない。二人がいるとはいえ慎重に行動しよう。こういう時に取り乱すようではこの先やっていけないだろうからな。
そうして道中、気が付けば人の手が加えられてないような雰囲気がしてきた頃に、スライムに出くわした。
が、最弱の魔物であることはこの世界でも変わらないらしい。
あっという間にヴィヴィの魔法「ファイアボール」で撃退されてた。
スライムは脅威ではないが、魔術師がいない初心者の冒険者などは苦労するらしい。
理由は、物理的な攻撃だと、体の色とほぼ同色な核を破壊するのが難しいらしい。カエル曰く慣れれば大丈夫だとか。
魔法ならその核ごと倒すだけだから楽ということだ。
スライムはとくに素材としてもあまりうまみはないとのこと。
皮とか肉とか何も無いもんな、あいつ。
村を出発して1時間ほどした。
ようやく目撃のあった森に着いた。
ここでカエルからいくつかの注意点を言われた
・絶対に二人のそばを離れないこと
・勝手な行動はしないこと
・もし二人が助からないような場面になったら全力で逃げること
まさに死と隣り合わせの現場を経験している人からの注意事項、重みのある言葉だ、しっかり守らないとな。
そうして俺たち三人は森に足を踏み入れた。
森に入ると雰囲気がガラッと変わったのがわかる。
配列は前衛にカエル、後衛にヴィヴィ、そして間に挟まる形で俺がいる状態。前から、後ろから来ても俺を守ってくれる配置だ。
人の手が加わっていない森は、草木が生い茂っていて視界が悪い。ましてや相手は狼系の魔物、いつ奇襲されてもおかしくない。
「止まって」
カエルが唐突にそう言った。
「ヴィヴィ」
「うん。魔力探知を使うわね」
魔力探知、以前教えてもらった魔法。
自身の周りの魔力を視る、生物は草木よりも魔力を多く保有しているから、この魔法で探知し場所を把握するらしい。
一見便利そうな魔法だが万能ではない。
例えばこの魔法、建物に使うと壁を透視して視ることができるが、それ対策に壁に大量の魔力を与えると見えなくなったりするし、魔力濃度の高い土地とかだと見えにくいといった弱点がある。
「4…いや5体前方で待ち構えているわね」
「どのあたりだ?」
「右に3、左に2よ」
「なら右を私が、左の2体をヴィヴィが」
「まかせて」
「アル、これから実際に魔物との戦闘に入る。森に入る前に言った注意を忘れず、私とヴィヴィの戦い方をよく見ておくんだ。いいね?」
もちろんだと言わんばかりに俺は頷いた。
「じゃあ…行くよ!」
「マジック・トラッカー」
ヴィヴィがそう唱えると光のようなものが茂みのほうへ飛んで行った途端、カエルがものすごい速さで右側にいる魔物群に突っ込んだ。
そして茂みごと切り裂いたと思ったら一匹目の首をすでに断っていた。
何てスピードと正確さなんだ。
遅れて二匹目と三匹目がカエルに攻撃を仕掛けた、カエルは難なく二匹目の攻撃を躱し、三匹目の攻撃の勢いを使って二匹目に当てさせた、体の体勢を崩した魔物たちの隙を見逃さないカエルは二匹の首に一太刀をいれ両断した。あっという間だった。
「お母さんを見るのもいいけど、こっちの魔法も見なくていいの?」
そういわれた俺はヴィヴィの方を見た。
彼女の周りにつららのようなものが2つできていた。
「アイスニードル」
発射された魔法は魔物の額を貫いた。
そこで気づいた、左の魔物は土柱のようなもので固定されていた。
いつの間にそんな魔法を発動させたんだ?
「いつの間に…」
「前に教えたでしょ?魔法の発動の際に詠唱とかは言わないほうがいいって。今回は広々な森だからカエルに当てる心配はないからね」
たしかに前にそんなこと言っていたな
ササッ…
ん?なんか今後ろで、
振り返った俺が視界の端で捉えたのは、ヴィヴィの背後から攻撃を仕掛けるフォレスト・ハウンドの姿が。
ヴィヴィも一歩遅れて気づいたようだが、間に合わない。
どうする…どうする…どうする!!
キンッ!
ふと気が付くと、俺は右手で剣を抜き、魔物の攻撃をはじいていた。
そして無意識で左手が空を切った。まるで二本目の剣を持っているかのように。
「よくやった!アル!」
カエルが俺と魔物の間に割って入ると同時に攻撃をした。
しかし相手も後ろに飛ぶことでこれを回避した。
「ヴィヴィ恐らく奴が群れのボスだ」
「そうね。油断しちゃったわ。ありがとうアルケウス」
「締めるわよカエル、『フィジカルブースト』『スロウ』『ロックバインド』」
魔物は魔法を回避しきれず拘束された、次の瞬間にはカエルによって岩もろとも頭から尾にかけて一閃。
「ふう。これで終わりだな」
「ええ。もう周りにはそれらしい魔力反応はないわね」
あまりにも短い、体感にして一分程度かそれぐらい、そんな時間で命のやり取りが終わった。
あまりにも密度の高い戦闘だった。




