第四十二話 闘技大会トーナメント その1
先日の闘技大会の予選が無事に終わり、今日から決勝トーナメントとなる。
その対戦相手を決める抽選をするため、予選を勝ち上がった選手が控室に集まっていた。
トーナメント戦での試合はルールとかは一切変わらない。
唯一変わるとしたら、それは対戦相手が一人しかいない、一対一の対戦になることぐらいだ。
その一点においては、昨日の試合よりもやりやすいと言える。
同時にそれは相手にとっても同じことを意味するわけだが…
「では皆様揃いましたので、早速トーナメントの抽選を始めさせていただきます」
「なお、くじを引く順番については我々のほうで事前に抽選で決めさせていただいてます」
あくまで公平にというわけだ。
「まずはアルケウス様です」
俺か。
いきなりは少し緊張するな。
くじを引くと2-2と書かれていた。
「これは?」
「はい二回戦の2番ですね」
どうやら俺は二回戦目になったらしい。
「続いてチタ様、こちらへ」
チタの結果は3-1だった。
つまり三回戦1枠目だ。
その後も続々とくじは引かれ、シャーリーは四回戦。
ヴァレリアが一回戦となった。
「続いてモナ様、こちらへ」
「嘘でしょ…」
モナが戦慄した表情になった。
まさか初っ端ヴァレリアに当たったか?
「はい、二回戦目ですね」
二回戦目ということは…
まさかの俺の相手となった…
抽選が行われた結果は以下の通りだ。
一回戦
ヴァレリア対マゴリ
二回戦
モナ対アルケウス
三回戦
チタ対アイエナ
四回戦
シャーリー対ダグス
まさかの初っ端からモナと戦うことになるし、勝ったとしても最悪の場合あのヴァレリアと当たる。
くじ運最悪だな…
結局昨日話し合った際にも、ヴァレリアに対しての有効な案は特に出なかった。
あの不死性をどう攻略するかなんか分かるわけがない。
結局俺の持論だが、負けを認めるまで攻撃を続けるとかしかないだろうな…
昨日と同じように、開幕は観客への説明と、トーナメントの割り当てが発表された。
流れはほとんど同じ。
そしてそのまま一回戦が始まるようだ。
ヴァレリア対マゴリ、マゴリは予選でシャーリーと共に勝ち上がった選手で大柄な獣人だ。
試合を見ても特徴はやはり人を軽々投げるほどの力だろう。
こいつも武器は持っていないからお互い素手による戦いだ。
「大変お待たせしました!これよりトーナメント一回戦を開始します!」
「うおおぉぉぉぉおおお!」
相変わらずの熱狂ぶりに少し気おされそうだ。
「一回戦目はリオン様直々に参加申し込みをされたヴァレリア選手、予選ではあのチタ選手との死闘を繰り広げたのは記憶に新しいでしょう!今回はどんな戦いを見せるのか!」
「対してはマゴリ選手は、予選Aグループで見せた怪力で相手を投げ飛ばすという戦い方で、Aグループの選手のほとんどを撃破しております!」
一対一の戦いになると選手解説のようなものが入るのか?
俺はいったいどういう風に言われるのか、ちょっと楽しみだな。
「それでは第一回戦、闘技開始です!」
毎度のごとく魔法が炸裂し、闘技が始まった。
まず仕掛けたのはマゴリだった。
自身のこぶしで次々に岩を破壊し、それをヴァレリア目掛けて投げた。
だがそれらの攻撃はすべて弾かれた。
幾つかの投擲を経て、マゴリはこの攻撃が無意味だと知ったのか今度はヴァレリアに掴みかかった。
お互い正面で両手を握り合う構図になる。
「ほう?俺と力比べでもする気か?」
自信の表れとも言えるヴァレリアの発言は偽りではなかった。
力の強そうな見た目でいえば、マゴリはまさに力がある見た目…というか実際には力があるマゴリがいとも簡単に押され、挙句の果てにはそのまま持ち上げられ投げられた。
「俺の力が通用しないだと?」
「あたりまえだろ。お前如き弱者の力で、俺に勝てる気でいたのか?」
力比べをしたのは当人だから、実際にどれくらいの力だったのかは分からない。
それでも、見て明らかなマゴリがいとも簡単に力比べで負けた事実はある。
「うおおおぉぉぉおお!」
マゴリが再度攻撃するも躱され、腹部へ強力な一撃を受けて吹っ飛んだ。
岩にぶつかり吐血するも、まだ立ち上がろうとしている。
「ほう?思ったよりは頑丈だな。だがそれだけだ」
その通りとしか言いようがない。
衝撃から考えても、まともに食らったらひとたまりもない攻撃を食らって、マゴリはまだ立ち上がろうとしている。
ただそれだけの事なのだ。
攻撃は当たらず、自慢であろう力でも負けている。
誰が見ても明らかだろう。
マゴリに勝機はないと。
「俺はこれでもAランク冒険者なんだ、こんなあっさり負けてたまるか!」
再びヴァレリアに向かうマゴリだが…
「どうでもいいわ、そんなこと。お前が俺より弱いことに変わりはねえ!」
今度は顔面に一撃。
吹き飛ばされ、そのままマゴリは動かなくなった。
会場がざわめき、救護班のような人々が駆け付けた。
結果は生きていた。
「この闘技の勝者はヴァレリア選手です!」
歓声が上った。
あまりに一方的な試合だった。
モナに勝ったら次に当たるのがあいつになるのか…ハハハ…
一回戦が終わり、フィールドの修繕が着々と進められている。
終わり次第次の闘技が始まるとのことで、俺とモナはすでに準備を済ませていた。
「こうして戦うのは初めて会った時以来か?」
「そうね、あの時は負けちゃったけど、今回は私が勝つから」
「俺だってあの時よりも成長してる。そう簡単に勝てるとは思わないでくれ?」
何て言ってみたが、手の内はお互いに分かっているはず。
俺がモナに勝つ条件はたった一つ。
モナが知らない戦い方で隙を突くことだ。
「お互い様ね」
「二人とも頑張って!」
シャーリーと当たるには決勝に進まないといけない。
「お二方、大変お待たせしました。修繕が完了したのでこちらへどうぞ」
いよいよ再戦の時か…
「皆様大変お待たせしました!これよりトーナメント二回戦に移りたいと思います!」
「まずは選手紹介、モナ選手です!皆様もおわかりでしょう、彼女は人族の魔術師でありAランクの冒険者です!予選では圧巻の魔術を披露し、あっという間に闘技の勝利を収めました!」
簡潔だがいい紹介だな。
さて俺は?
「続いてアルケウス選手、彼もまた人族です!モナ選手と同じパーティに所属しています!予選で見せた華麗な戦術をここでも見せてくれるのか期待しましょう!」
そんな華麗だなんてよしてくれよ。
とまあ、優越に浸るのはここまでにしよう。
もうすぐ開始の合図が鳴る…
「それでは第二回戦、闘技開始です!」
開始の合図が炸裂した。
俺は真っ先にモナに詰め寄った。
いくら近接戦闘ができるとは言え、俺の方に分があることに違いはない。
モナが魔術師でありながら、近接においても後れを取らない理由は、短距離転移魔法によるものが大きい。
モナに以前教えてもらった転移魔法の条件、それは視界に写る場所に転移するということ。
転移先の視界さえ無くせば勝てる。
モナの背後、左右に土魔法で壁を作り正面を俺の体で覆う。
前に戦った時に勝った戦法だ、逃げ道はない。
しかしモナは自分の足元に土魔法で足場を形成し逃れた。
「やっぱり同じ方法は効かないか」
「私だってあの時と同じではないのよ」
まあ、物は試しでやっただけだ。
一応想定通りではある。
「次はこっちから行くわよ」
そう言い放ったモナが、杖を掲げるた。
モナの周りに火球が生成されていく。
「またそれか?」
「いいえ、ちょっと違うわ」
モナが上を見ろと言わんばかりの仕草をした。
「まじかよ…」
上を見上げると、10本ほどの氷柱が俺に向かって形成されている。
それらはすぐに発射された。
ぎりぎりで回避が間に合った。
息をする間もなく火球も飛んできた。
氷柱を盾にするも、俺の隠れた氷柱に飛んできたのは一発だけだった。
氷柱が解けて、あたりが湿った。
いったい何のつもりなのか…
「この魔法、食らったことないわよよね?」
突然体が痺れ、動けなくなった。
「ぐっ!」
これは、雷魔法か!
俺の周りを濡らして感電させるための…
電流の痛みと痺れで思考が回らない。
「さて、動けない状態のあんたはここからどうするのかしら?」
そういいながら近づいてきた。
「いつもの驚かされる発想でもあるかしら?」
「このまま負けを認めるのもいいんじゃない?」
俺との距離は数歩程度だった。
「なあ……モナ……」
「なあに?」
「ダメじゃないか…」
「自分で蒔いた種を自分で拾っているぞ」
「何を言って…」
一瞬雷光が走る
「ぐっ!」
モナが近づく、つまりそこは先ほど俺がやられた範囲内。
俺は自分もろとも雷魔法を放った。
影響を受けにくいよう体には守る用の魔力を大量に巡らせてある。
モナも同じことはしているだろうが、急なこの戦法は予想してないだろう。
案の定一瞬だけ体が硬直しているから、その隙を突く。
だがまだ完全に回復していなくて剣が握れない。
だから体で行く、モナへタックルするんだ。
互いに痺れたからではうまく動かすことはできない。
そのまま二人で倒れた。
モナに覆いかぶさる俺の体に、二つの小さくも柔らかい感触がたわった。
一瞬気まずい空気が流れた。
何とかして体を起こすと赤面したモナの顔が見えた。
「すっ…すまん」
「なにがよ…」
「えっと…その…」
ズキッっとし痛みが胸の内を走った。
今のはいったい?
「お二方共、大丈夫でしょうか?」
「とりあえずこのことはいったん後で、闘技の続きをしましょ」
「おっ…おう…そうだな」
痺れは完全に解けたわけじゃないが、幾分かマシになった
お互いに距離を取った。
「お二方ともまだい行ける様子です!では再開してください!」
アナウンスと同時にモナとの距離を詰めた。
魔術師は距離が開いているほど有利になるからな。
それはモナも分かっているから、多種多様な魔法で妨害してきた。
岩を動かして地形を変えたり、火球や氷柱で攻撃してきたりしたがすべて回避し、反撃として水と風を合わせた斬撃を放つ。
不可視の攻撃は見事命中した。
水をまとっているから切れはしないが、のけぞらせることはできる。
「見えない斬撃!」
追撃の斬撃を放ったが、動かしてきた岩で防がれた。
だがそのおかげで向こうから俺は見えなくなった。
モナは一度に二つまでしか魔法を同時に扱えないかつ、モナの加護の力はあくまで目に捉えていないと発動しない。
じゃあどうするか…
予想通りモナは、足場を高く積み上から俺を捉えようとした。
だがすでに俺はモナの作った足場の根元にいる。
足場の岩を切り崩し、落下してくるモナへ水をまとった剣で攻撃し吹っ飛ばした。
壁に当たり崩れるモナへトドメの一撃。
壁に剣を突き立てた。
「どうする?まだやるか?」
「いいえ、私の負けよ」
「モナ選手の降参により、第二闘技はアルケウス選手の勝利となります!」
「うおおおぉぉぉぉおおお!」
大歓声が上がった。
「最後の予想してたの?」
「まあそうするしかないと思ったからな」
「流石ね」
控室に戻ると何やら注目を浴びていた。
「二人ともお帰り!すごい戦いだったね!」
「なあシャーリー、なんでみんなこっちを見てくるんだ?」
「結構盛り上がってたんだよ、かなり派手な戦いだったからね」
まあ、盛り上がってることにあれこれ言うつもりはないけどさ…
「ところでモナ、なんだあそこで油断しちゃったの?」
「あっあれは…アルケウスに勝てる機会でちょっと浮かれちゃたのよ」
「へぇー、なんか可愛いね」
「うるさい!」
実際あそこで油断してくれてなかったら負けてたよな俺。
「なあモナ、あの時はその…すまなかった」
「ん?何がよ」
「ほらあの…お互い倒れこんだ時にさ…」
すると思い出したのか、モナの顔が少し赤くなった。
「いいのよ別に気にしてないから」
「そうか…ならよかった」
「え?なになに?何があったの?」
それにしてもあの時走った胸の内の痛みはいったい何だったのだろうか…
モナは確かに可愛いけど、あの時のはなんか違うものだった。
分らん…




