第三十話 敗北の先に見出すもの
目が覚めると、すでに日は落ちていた。
そして近くで焚火を焚いてくれているようだ。
体を起こし、ようやく焦点の合う視界で見えたのは…
うずくまっているモナだった。
「おはよう…」
とりあえず起きた時の挨拶をしてみた。
するとモナが顔を上げ俺を見た。
「アルケウス…目が覚めたの…?」
「えっと…俺はどれ位寝てたんだ?」
たしか、謎の男と戦って、俺はボコボコにされたんだったか?
それで気を失ったんだよな?
なんて考えていたら、モナが抱き着いてきた。
「半日よ…死んじゃったかと思ったわ…グスッ…」
そんなに寝ていたのか。
「なあ、いろいろ聞きたいんだが…」
「後で話すわよ…グスッ…」
俺は何となくモナの頭を撫でた。
理由はわからん。
なんとなくこうしてあげるのが良いと思ったからだ。
その後モナはしばらく俺の肩で泣いていた。
数分後、モナがようやくすすり泣くぐらいまで落ち着いた。
「もういいか?俺が気を失った後何があったのか聞きたいんだけど…」
「そうね、色々あったから順番に話すわ」
どうやら、俺が気を失った後シャーリーとモナもあの男に力の差を見せつけられたらしい。
完全なる敗北というやつだな。
今まで何度か、俺視点での最強が更新されることは何回かあった。
つい最近であれば、人ならシャーリー、魔物ならドラゴンゾンビだった。
だがあの男は、どちらも超えている。
それも圧倒的にだ。
モナの目から見ても、あの男は全く本気を出していなかったらしい。
「あの男、魔法すら使ってなかったのよね」
「それは魔力がないからだろ?」
「いいえ、たしかにあの時はなかったわ。だけどあなたたち二人が気を失った後、私は別の方法で分らされたわ」
まさか…
「あいつは魔力を持っているわ、それも途方もないほどの力を」
なんとなく予想はついていた。
だがどういうことだ?
モナの持つ加護の力は、視た相手の魔力量などを数値とかで具体的に見れる力のはず。
その力で一度は魔力ゼロと出ている。
なのに魔力を持っていた。
「ちなみにどれくらいだったんだ?」
「正直思い出したくもないけど……」
「私たちの魔力量、例えば私を100とするなら、あんたは70ぐらいよ。そしてシャーリーは10ってとこね」
「ほうほう」
シャーリーのやつやっぱり魔法の修業はサボってたんだな…
「あいつの魔力量幾つって出たと思う?」
こんな感じで言うんだし多く見積もって十倍の、
「1000とかか?」
「そんなんじゃないわ」
「計測不能って出たのよ」
計測不能…おそらくだが、モナの実力と離れすぎていると起きる現象なのだろう。
まさかそれほどの相手だったとは。
だがそうするとさっきの疑問がやっぱり引っ掛かる。
「そんな力、どうやって隠すんだ?俺たちが知らないだけで、そういう力を隠す魔法があるのか?」
「そんなもの無いわよ。そんなことできたら、魔術師はこぞって会得したがるわよ」
確かにな。
魔力を隠せて、モナの力や探知の魔法に引っ掛からないなら、魔術師はいくらでも奇襲とかができるもんな。
だが俺はそこである言葉が引っ掛かった。
「でもあいつ言っていたろ?『強さの世界が狭い』とかどうとかって」
「もしかしたら、人族が知らない魔法とかを魔族も含め、他種族は使ったりするんじゃないか?」
「可能性はゼロに近いわね」
「なんでそう言えるんだ?」
「魔族はさておき魔法ってね、意外と種族間で技術の共有がされているものなのよ」
そうなのか。
いままでほかの種族と関わったことないからな。
「もちろん特定の種族にしか使えないものもあるわ。エルフでいえば精霊を介した魔法とかがそうね」
「けどあいつ、魔法を使っていないだろ?」
「そう、だから分からないの。魔法は効かない、魔力の有り無しを自由にできる。まったく意味が分からない」
その部分に関しては、いったん置いておこう。
手がかりがない。
「そういえば、去り際に名前は聞けたわね」
「名前?」
「ゾルディって言っていたわ」
ゾルディか…
「それに、あいつ私たちを倒した後、全員を治療して、散らばった装備とかも集めて、今のこの状態を作り、私が目覚めるまで見守っていたのよ」
よく分らん奴だな。
本当にただ忠告をしに来ただけなのか。
目的がわからん。
「なあモナ」
「何?」
「そのゾルディは、なんだか先代の勇者について知っているような感じだったよな」
「そうね」
「200年以上は生きているってどういうことだ?」
「国王様から聞いていないの?」
勇者についてなんて、剣のことと魔王を倒せとしか聞いていない。
「先代とかについては何も聞いてないな。俺は5代目らしいがそもそも先代っていつ頃いたんだ?」
「正確にはわからないけど、250年ぐらい前ね」
そんなに前なのか。
「それより前は?」
「国王様から聞いた話だと、だいたい250年ぐらいの周期で召喚していたらしいわ」
ん?召喚?
俺みたいな現地の人間じゃないのか?
まあ中身…魂はこの世界の人間じゃないんだけどさ。
「だから今回召喚するとき、召喚されなくて城中で大騒ぎだったんだから」
それは初耳だな。
俺は5代目の勇者。
ということは初代って、単純計算で1000年前になるな。
「歴代の勇者についてはほとんど謎。いつ頃いて、そいつの年齢、容姿、戦い方。そういう情報が何一つないの」
普通そういうのって語り継がれてたりしないもんかね?
「分かっていることは、剣についてと、魔王に負けていることだけね」
「次にゾルディに会えたらその時に聞くのがいいだろうな」
「そうね」
先代について知っているなら少しは教えてほしかったが。
けど、立場がどうとも言っていた気がする。
そのあたりもなにか関係してくるのだろうか…
「ねえ、今後のことなんだけど。私たち、このまま魔王を倒しに行く?」
ゾルディは、今のままでは無駄死にすると言って忠告してきた。
その忠告を無視して先に進むかについてもかまわないとも言っていた。
しかし、俺たちは三人がかりで一方的な敗北、全滅してしまった。
ならば本当にこのまま行ってよいのだろうか…
「モナはどう思う?」
「私?そうね……一度出直してみてもいいかもしれないわね」
「理由を聞いても?」
「私たちは、人族での指標でしか見てきていない。他種族からすれば、私たちレベルなんて弱い部類かもしれない。そう思わされたことかしらね」
たしかにな。
モナの言うことはごもっともだ。
事実、人族ではないゾルディに完敗している。
この世界の他種族間での交流はめったに見られない。
まったくないわけでもないが、人族の領域で他種族を見る機会は少ない。
「そうだな。他の種族について知るいい機会かもしれないな」
ここまでの道のりを今一度戻ることにはなってしまうが、仕方がない。
戻ろう。
「早速明日から、来た道を戻ることにはなるが、一度バルドー王国に向かうか」
「そうね。そうしましょう」
「ところでシャーリーは?」
「嘘でしょ…あんたの隣でずっと寝てるわよ」
え?
振り返ると確かにシャーリーは寝ていた。
全然気づかなかったな…
「まだ一度も起きてない?」
「起きてない」
シャーリーの様子的にも、俺と同じで問題はなさそう。
綺麗な寝息もたててるし。
グウゥ~
腹の虫が鳴ってしまった…
「ご飯食べる?一応まだ残ってるけど」
「これモナが作ったのか?」
渡されたのは肉入り野菜スープのようなものだった。
「そうよ、感謝して食べなさい」
美味い…
時間をかけて煮込んだのだろう。
うま味が出ている気がする。
「美味しいよ」
「当たり前でしょ」
普段の旅道中でも作ってくれないかなぁ…
「どうやって作ったんだ?」
「イニシ法国を出る前に買い込んどいたのよ。道中でもおいしいもの食べたいから」
「でも大体いつも時間ないから作れないだけで…」
なら今後は、休む場所を早めに決めるとするか。
おいしい食事はやる気にもつながるしな。
普段からやる気がないわけではないからね?




