第二十八話 危機からの回生
「シャーリー!」
倒れたシャーリーの元へ急いで駆け寄った。
息はあった。
だがかなり苦しそうだった。
熱もない。
いったい原因はなんだ?
さっきまであんなに元気だったのに。
「どいて!」
モナが治癒や解毒の魔法を掛けてくれた。
だが効果が無いように見える。
「効果がない…いったいどうして…」
「おーい!さっきの激しい音はここが原因か?」
どうやら俺たちの戦いの音を聞いて、近くにいた冒険者パーティが来たようだ。
「すみません!仲間を助けてくれませんか?」
「ん?どうした、そんなに慌てて…ちょっと見せてみろ」
駆け付けた冒険者がシャーリーのことを見ている。
「治癒や解毒は試したか?」
「ええ、だけど効いてる様子がないわ」
「お前たち何と戦ってたんだ?」
「ドラゴンゾンビだ」
「そうか…なら早くイニシ法国に戻れ、でないとこの子は死ぬぞ」
死ぬ?シャーリーが?なぜ…
「こいつはお前たちと戦った魔物の瘴気の影響を受けている。教会にある聖水を飲ませてやれ」
「わかりました」
俺たちは急いで荷物をまとめ、モナが荷物を持ち、シャーリーは俺が背負って行くことにした。
「あとの処理は任せな。お前たちパーティ名は?」
「魔断の集いです」
「わかった」
この際、手柄とかはどうでもいい。
横取りされようが知ったこっちゃない。
それよりも大事なのはシャーリーの容態を治すこと。
「モナ」
「任せて。途中で魔力が切れそうになったら走るわよ」
モナの転移魔術で帰り道を急ぐことにした。
短距離ワープのような魔法だが走るよりも圧倒的に速いことに違いはない。
だがいくらモナでも、ついさっきまで戦闘をしていたのだ。
魔力は当然のごとくもたない。
だが半分の距離までは来れた。
後は走る。
イニシ法国へ帰還した。
行きと比べれば、かかった時間はかなり縮まった。
俺は急いで教会へ向かった。
教会に入ると教皇コルニカスがいた。
「おや、どうされました?アルケウス様」
「ハア…こいつを…見てやってくれないですか…ハア…」
事の重大さに気づいたのか、教皇は急ぎ足できた。
「とりあえずこちらへ」
シャーリーを抱え、奥の安置室に案内された。
「これほどの瘴気…何と戦ったんですか?」
「ドラゴンゾンビです」
戦った相手を聞いた教皇は驚愕した顔をした。
そして何か迷っている様子だ。
「アルケウス様、大変申し訳ないのですが…」
まさか…治せないのか?
「これ程の瘴気となると…」
「治せないのですか…?」
「いえ治せる聖水は作れます。ただ、作れるのが私しかいないこと、そして金額も高額になることです」
「それはどれくらいですか」
「金貨8枚です」
金貨8枚だと?!
今のパーティの全財産ギリギリの金額だった。
でも、シャーリーの命には代えられない。
「大丈夫です。仲間の命には代えられませんから」
「わかりました。今から生成しますのでしばらくお待ちください」
そういって教皇は奥の部屋へ向かっていった。
なるべく急いでほしい。
シャーリーの容態は、明らかに倒れた当時よりも悪化している。
息苦しそうに呼吸している状態だ。
30分ほどして教皇は戻ってきた。
右手に持っているガラス状の入れ物に入っている液体、おそらく聖水だろう。
「お待たせいたしました。早速聖水を飲ませましょう」
「お願いします」
教皇は、シャーリーに持っていた聖水を飲ませ、再度寝かした。
「とりあえずはこれで大丈夫です、徐々に効いてきますので」
よかった。
ひとまずは安心だな。
だがいくつか聞きたいことがあった。
「教皇様、いくつか聞いてもよろしいですか?」
「なんでしょう」
「なぜこの聖水が金貨8枚もするのか、そしてどうやって作っているのかです」
「そうですね、落ち着いたらお話しようと思っていたので、お話ししましょう」
「まず作り方ですが、簡単に言うと、水に私の神力を込めています」
「神力?」
「はい。皆様が使う魔力とは若干異なる力です。詳細は私にもわかりませんが、瘴気などを浄化できます」
たしかになんとなくだが、前々から雰囲気が特殊な感じはしていたが、あれの正体はこれだったのか?
「作るのに時間がかかったのは?」
「それについては申し訳ない。私は歴代の中でもこの力を扱える実力がないのでしょう。先代よりも時間がかかっています」
「次に、なぜ金貨8枚のような高額になるのかですが、国で決めていることそして今回のレベルの聖水は私しか作れないことです」
「他の聖職者さんでは作れないのですか?」
「はい。普通の魔力でも聖水は作れます。しかし今回はドラゴンゾンビ。この魔物の放つ瘴気を浄化できるものを魔力では作れないのです」
なるほどな、イニシ法国は創造神である創神を祀っている宗教、その国家でトップでもある教皇、その教皇しか使えない神の力を使って作られる最高級の聖水、というわけだな。
「ご納得いただけたでしょうか。これでも先代よりは安くさせていただいてます」
「幾らだったんですか?」
「金貨12枚です」
「高っ!」
おっと、つい口に出してしまった…
けど、先代よりも金貨4枚も下げてくれているのか。
「ドラゴンゾンビは討伐できたのですか?」
「なんとか…ってところです」
「その後はどうしましたか?」
「たまたま他の冒険者パーティがいたので、彼らに後を任せました」
「そのパーティは知り合いとかですか?」
「いえ…知らない方たちですね」
うっ…なんだか急に眠気が来たな。
「お疲れですか?私が見ておきますのでお休みになられては?」
「ならお言葉に甘えて」
激しい戦いの後に急いで戻ってきたんだ、疲れが急に来たんだろう。
ここで少し休むことにするか。
「アルケウス様、お仲間の方がお目覚めになりました」
その声で目を開けると、シャーリーも目を覚ましていた。
「シャーリー、体は大丈夫か?」
「うん、まだ本調子ではないけどね」
むしろ本調子に戻っていたら怖いけどな。
「とりあえず今日はこのまま安静にしてください」
「なら、俺はいったん戻ります。教皇様、今回は急いできたので聖水のお題を持っていません」
「ですので、明日こいつを迎えに来た際にお支払いします」
「それで大丈夫です。シャーリーさんのことはこちらにお任せください」
とりあえず無事なことは確定した。
いったん帰ろう。
「じゃあね、アル君」
「ああ。お前もしっかり休めよ」
「うん」
そうして教会を後にし、宿へ戻った。
部屋に入ると、荷物をそのままにしてモナは眠っていた。
まあ、こいつにも無理をさせてしまったよな。
俺は荷物の後始末をして、就寝した。
―――
翌日
昨日の疲労か、お昼近くまで寝込んでしまった。
とりあえずお代をもって再度教会に行った。
そして元気になったシャーリーを迎え、聖水のお代を教皇に渡した。
痛い出費だ。
俺たちの手元にはほとんどお金が無い状態だ。
呼び出しを受けたのでギルドに向かった。
「あ!魔断の集いのアルケウス様、お待ちしておりました」
「先日の調査依頼の件です」
なるほどこの件か。
そういえばあれからどうなったのか知らなかったからな。
「何かありましたか?」
「はい。まず原因解明とその討伐のお礼を言わせてください。ありがとうございます」
とはいっても、俺たち後始末とか何もしてないんだがな。
「実は今朝、教皇様がこちらまで足を運んでくださったんです」
「それどうして?」
「先日の件、他のパーティが解決したことで処理されていたのですが、大部分は魔断の集いの皆様によるものだとお伝えいただきました」
まさか、昨日のあいつら。
全部自分たちの手柄にしようとしたのか。
「ですのでギルドは依頼の貢献度の大部分が魔断の集いによるものと再度判断しました。そこで今回の報酬がこちらになります」
出された報酬は、金貨10枚だった。
聖水の元を取ることができた。
これは予想外。
「再度確認ですが、討伐した魔物についてお伺いしてもよろしいですか?」
「ドラゴンゾンビです」
「はい。確認ができました。こちらはお渡しします」
「そして今回の件で、魔断の集い及びメンバーのアルケウス様、モナ様はAランクに昇格させていただきます。おめでとうございます」
おお!
まさかのAランク昇格までついてくるとは。
ん?シャーリーは?
「あの、もう一人のメンバーは?」
「シャーリー様はつい先日Bランクに昇格されたばかりですので、許可が下りませんでした」
まあそうだよな…それはそうか。
「とりあえず更新は後日一緒に来た時で」
「はい。お待ちしております」
一旦は宿に戻ることにした。
先日宣言した通り、今日は休みにしよう。




