第二十五話 白に染まる世界と教皇
イニシ法国は、イニシ教発祥の地でもある宗教国家だ。
その外見は遠くからも分かるほど、まさに美しいという言葉が合う、白を基調とした建築物で構成されている。
イニシ教の総本山でもある大聖堂やギルド、王城といった建物だけが大きく目立つように建てられており、その他の建物は小さく、同じような規模で建てられている。
まるで権力を持つ者と持たざる者を視覚的に分るようになっているのだろう。
そういえば、城壁らしいものが見当たらないな。
ヘブンマークなら何か知っているだろう。
「ここはどうして城壁がないのですか?」
「それは国全体を常に結界が覆っているからです」
「結界ですか?」
「教皇様がプロテクターと呼ばれるもので結界を維持しているそうですよ」
「なんですかそれは」
「私も実物を見たことはないので噂程度のものですが、この国が建国するきっかけになったものだとか」
そんなもので結界を作成、維持しているのか。
イニシ教の教皇とはいったいどんな人物なんだろう。
「城壁がない理由は?」
「聖騎士がいるからです。結解は魔物の侵入を拒みますが、盗賊などは通してしまいます」
「ですが聖騎士は一人ひとりが強いので」
なるほど、盗賊をするやつもそれを分かっているから襲撃しないのか。
魔物は結界、人災は聖騎士で対応する。
見事に役割が分かれている。
「まあ、あくまで噂や自分の主観によるものなので、真に受けないでください」
そんな話をしながら入り口を通ると違和感を感じた。
言葉では表せないような違和感だ。
モナもそれは感じたらしく目が合った。
「今何か変わったような気がしたよな」
「おそらく結界を通ったのでしょうね」
依頼完了の報告をするためにギルドに向かった。
外観はまさに神聖さを前面に出したような、教会に近い外観だ。
報酬として金貨5枚を貰った。
Bランク下位の魔物が1、2枚と考えると妥当な金額だな。
ヘブンマークとはここでお別れだ。
初めてAランクパーティと一緒に依頼をこなしたが、彼らの実力は納得できつつも、この程度かという両方だった。
こう思えるということはつまり、俺たちの実力はAランクにも引けを取らないのでは?
その後恒例の宿を探していた。
本国はこの間までと比べると物価が安い。
最安の宿代が銅貨4枚。
バルドー王国と同じだった。
ただし、今の俺達にはお金がかなりある状態だ。
ということで実際に泊まるのは一泊銀貨1枚と銅貨8枚の所にした。
ほんの少しの贅沢だな。
イニシ法国にきて一週間がした頃、俺たちはギルドに呼び出された。
要件はイニシ教のトップ、つまり教皇が呼んでいるらしい。
特になにかやらかしたとかは無いはずだが、とりあえず行ってみることにした。
大聖堂、近くで見るとかなりの大きさと神聖さがあった。
今まで見ていた町の教会なんか比ではない。
周辺も教会の関係者であろう人たちと聖騎士が駐在していた。
そんなんか入口近くで掃除をしていた男が、俺の顔を見るなり去っていった。
どこかで見たような気もしたがとりあえずは気にしないでおく。
中に入ると外から見たときほどの壮大な祈禱室ではなかった。
やや広いぐらいの普通の祈禱室。
「すみません、教皇様にお呼び出しを受けたので参じました、冒険者パーティ魔断の集いです」
「お待ちしていました。教皇様は奥でお待ちです」
シスターに連れられ、俺たちは教会の深部へ連れられた。
祈禱室は一般向けであり、関係者しか入れないところがこの大聖堂では多くを占めていた。
資料室のようなところや、関係者の寝床らしきところなど様々だ。
俺たちはそんな深部で、いかにもな雰囲気の扉の前に来た。
「教皇様、お呼びになりました冒険者パーティ、魔断の集い様がお見えです」
「入っていただいて構いません」
すると中から優しい声がした。
シスターがどうぞというので俺たちはその部屋へ入った。
部屋の中は豪華ではなく、儀式などを研究しているかのような部屋だった。
「お待ちしておりました。魔断の集いのお二方」
教皇の見た目は前世のローマ法王のような純白の法衣を身にまとっていた。
50代ぐらいだろうか。
優しい顔つきをしていた。
「私は17代目の教皇になる、コルニカスともうします」
「どうも…」
「そう緊張なさらなくても大丈夫です、今日お呼びしたのは以前の事件についてです」
「以前と言うと?」
「シトと言う町で我が教徒が起こした件です」
そういえばそんなこともあったな…
「私は立場と教義上、頭を下げることが出来ないのですがどうか受け入れていただきたい」
「あの事件についての謝罪と感謝を」
とは言いつつも少しだけ、会釈程度ではあるがコルニカスは頭を下げた。
つまりそれだけのことを思っているのだろう。
「私たちは大丈夫ですけど、それをするのは本当に被害にあった人達にするのがいいのではないでしょうか?」
「え?俺も被害にあった当事者なんだけど?」
「あんたはいいでしょ、解決した人でもあるし」
そういうものなのか?
「あの神父はどうなったのでしょうか」
それは俺も気になる。
「彼は罰として、神父の座を剥奪し、今は一番下の見習いから再スタートさせています。ちょうど今日は聖堂前の清掃をしていたはずです」
あ!
そういえばあいつ、顔を見て逃げて行った奴がいたが、あいつ観たことあると思ったらこの前のやつか。
すっかり忘れてた。
「それにしても、噂は本当だったのですね」
「噂?」
「ええ、バルドー王国宮廷魔術師モナが冒険者をやっているとは」
「元です、いまは魔断の集いの魔術師ですので」
「そして勇者アルケウスよ」
え?なんで俺が勇者だって知っているんだこの人。
「なぜ自分が勇者だってことを知っているんですか」
「私は立場上、国同士の情報も入ってくる。そこで君の無事を毎日祈っているんだよ」
「だが君が勇者だという話を、一般からは聞かないのは隠しているのかい?」
「まあ、面倒ごとに巻き込まれたくないので」
「そうか、では私も他には漏らさないようにしておこう」
この人の立場は、この国の王と同等なのだろう。
だから俺が勇者だということが伝わっているのか。
「私も人と魔族の戦争が早く終わることを望んでいる。アルケウスよ、かならず魔王を倒してくれ」
「はい。必ず」
教皇との謁見は無事に終わった。
といっても謝罪を受けただけだが。
あの感じ、おそらく教皇は白だ。
組織が大きくなりすぎて末端の管理が滞っているんだろう。
「ねえ、なんか疲れたし今日は依頼は受けずに休みにしない?」
「そういえばモナが珍しく固い言葉を使ってたな」
「当り前よ、相手はイニシ教のトップなんだから。あなたと喋るときと同じ喋り方なんかしたら失礼よ」
「それもそうだな。休みにするのはいいが何するんだ?」
「そうね、せっかくだしこの国を見て回りましょ?気になるアクセサリーとかあるかもしれないし」
「そうか、じゃあおれは」
「あんたも来るのよ」
そういってモナは俺の手を引き、その日の午後はイニシ法国を観光した。




