第二十四話 地獄と聖域
国境都市ワニングに滞在して2ヶ月が経過した。
ここで、依頼を受けて気づいたのだが、魔物の種類が変わった。
イニシ法国領ではアンデット系の魔物が多いのだ。
もちろん動物系や亜人系もいるが、どちらかといえばアンデット系の魔物の方が数が多い。
アンデット系、ゾンビやスケルトンといったタイプだな。
それにともなって戦い方も自然と変わった。
アンデット系に対しては、魔法が有効だ。
通常の斬撃とかだと効果が薄い。
魔力を纏えば倒せなくはない。
なので剣士よりも魔術師や魔剣士の方が強く出れる。
だからと言って剣士が役に立たないか、と言われるとそうでもない。
アンデット系は武器や防具を使う個体がいることが多い。
他の冒険者パーティと合同で依頼を行うことがたまにある。
バルドー王国領では、剣士は火力枠のような立ち位置だったのに対して、こちらではタンクのような立ち位置になっているのだ。
剣士が攻撃を抑えたり防具を破壊したりしてから、魔剣士や魔術師がトドメを刺しに行くって感じだな。
魔剣士はどちらの役割もこなせるが本職まではいかない。
俺たちのパーティは、魔剣士と魔術師だからか今の所苦戦はしていなかった。
さらに、稀なことではあるが、動物系の魔物がアンデット化することがある。
最近だと、グレイブ・ボアがアンデット化していた場面に遭遇したこともあった。
討伐自体はできたのだが、普通の個体とは全く違うタイプのように感じた。
腹の肉が無くなっていて骨が剥き出しとなり、顔も目が無かったりした。
通常の個体との一番の違いは、特徴でもある突進が追尾してくるのだ。
避けたとしても90度曲がって勢いを殺さずに追尾してくる。
ただ筋肉とかが無いからなのか、自慢の突進の威力は落ちていたりもした。
アンデット系の魔物の素材は、この辺りでは重宝されている。
武器や道具、防具に至るあらゆる物に使われているからだ。
さらに通常の個体よりも素材に保有されている魔力が多いのも理由の一つだとか。
まあ俺達には必要ないから、買ったことはないけどな。高いし…
―――
村を出てから、そろそろ一年が経つ頃か。
最近モナの様子がおかしい。
なんというか、距離が近い?ような気がする。
魔法の研究や訓練の際に、俺の意見を聞いたり、自分の意見を言ってくれたりすることが前と比べて明らかに多い。
宿でも複数の部屋だと宿代がかかるからと言って、一部屋しか借りないことも増えた。
一年近く居るからか、ようやく信頼されたのだろう。
「そろそろ、イニシ法国に向かわない?お金も余裕はあるでしょ?」
「たしかにな、少しゆっくり旅をしすぎたかもしれないな」
「最近は特に苦戦する魔物もいないし、私たちなら勝てるんじゃない?」
まだ魔族や魔族の住まう土地の生き物の強さが分からないから何とも言えない。
けどモナの言っていることも分かる。
最近これといって苦戦した魔物はいない。
Aランクの魔物にはまだ遭遇してないけど、このままの調子で行けば魔王と戦うまでには倒せるかもしれない。
「そうだな、そろそろ本格的に動くとするか」
―――
翌日、ワニングを出発した。
目指すはイニシ法国。
俺たちはついでに護衛の依頼を受けた。
商人の馬車の護衛だ。
なんとこの依頼、荷台に一緒に乗れるということで、今まで歩いてきた移動手段が今回は馬車となった。
ただし、魔物や盗賊などの襲撃から絶対死守という条件だった。
そこで合同で依頼を受けることになった。
俺たち魔断の集いとヘブンマークというAランクのパーティだ。
ヘブンマークは6人で構成されている法国お抱えのパーティらしい。
メンバー全員がAランク。
白を基調とした服で統一されている。
今回はそのうちの4人がそれぞれの馬に乗って参加している。
するとリーダーの男が話しかけてきた。
見た目はかなり若い好青年って感じだ。
「魔断の集いさん、今回の合同よろしくお願いします」
「こちらこそ、足を引っ張らないよう頑張ります」
「私たちは足なんて引っ張らないわよ」
「そうですね、あなたたちの実力は我々も認めているので存分に発揮していただければと」
「まあ、そういうことが起きない方がありがたいですけど…」
「ふふ、そのとおりですね」
「さて、再度陣形についての確認です」
護衛以来では陣形を組んで行うことが多い。
今回の陣形は、進行方向はヘブンマークが守り、後方は俺たちが守る。
襲撃があった際は、その方角の方が陣形の前になるそうだ。
つまり後ろから来た場合、俺たちが前となって対処しないといけないわけだ。
すぐに援護に行けるような配置にはなっているので決して二人だけで戦うわけではない。
初日はこれといったアクシデントはなかったが、二日目にそれは起きてしまった。
モナが魔力探知に後方から急速で接近してくる個体と前方で待ち構えてる魔物の集団を感知した。
グレイブ・ボアとアンデットの大群だった。
あの猪は後方から迫っている、つまり俺たちが対処しなくてはならない。
「お二方!後方はお任せしてもよろしいか?」
馬車に乗りながらの戦闘なんて初めてだったが。
「まかせてください!」
「ええ、大丈夫よ!」
戦闘準備に入り、
「モナ、いつもので行くぞ」
「ええ、ミスしてもカバーするわ」
俺は馬車の屋根上に移動した。
そしてすでにその姿が見えているまでに近づいてきているグレイブ・ボア。
体と剣に魔力を巡らせる。
剣にまとう属性は雷。
今回は馬車に近づけるわけにはいかない。
だから斬撃で攻撃する。
まだ射程の外…外…
入った!
剣を振り雷をまとった斬撃がグレイブ・ボアめがけて放たれた。
グレイブ・ボアの特徴である突進は急に止まれないし横にそれることもできない。
ゆえに攻撃は命中した。
雷の斬撃は相手をしびれさせ、強靭な外皮を無視して中を焼く斬撃。
体が痺れ、急に動けなくなったグレイブ・ボアは勢いを殺しながら転んだ。
「いまだ!」
「大地の牙」
地面から巨大な棘がグレイブ・ボアを串刺しにした。
そして馬車が止まった。
もうすでに目と鼻の先に、アンデットの大群が迫ってきていた。
「絶大なる力の奔流よ」
「お二方!もしお手が空いてましたら」
「その力を天より降らせ」
モナがなにやら詠唱を始めていた
「それは業火の雨と化し」
「手を貸していただけますか!」
「全てを灰燼に帰せ」
気づくと空が赤黒い雲で覆われていた。
このパターンまさか…
「みなさん、上空に注意してください!」
「地獄の雨!」
「まさか火の上位魔法か?!」
そうなのか、初めて見るなこの魔法…
て呑気なこと考えている場合ではない。
空の異変、火の魔法。
つまりこれは…
空を見上げると数多の火の玉がこちらに向かって降ってきていた。
「みな!私の近くに!」
「神の庇護の元、我の周囲に一切の立ち入りを禁ずる 聖なる力により我らの身を守る壁となる――聖域!」
ヘブンマークのリーダーが唱えたのは上位の結界魔法だ。
発動と同時に眩いドーム状の壁が展開された。
その奥でモナの発動した火の雨が魔物に降り注いでいった。
「なあ、いきなりそんなの発動させて大丈夫か?」
「相手の位置は分かっているから、大丈夫。それに、結界には一発も当たってないでしょ?」
そう言われると確かに当たっていない。
感心して傍観していると、燃え盛る炎の中から、幾つかの魔物が出て来た。
「おい、うち漏らしてるぞ」
「全部倒すなんて私言ってないわよ」
「魔断の集いの皆様ありがとうございます。あとは我々が」
結局撃ち漏らした数は十体にも満たなかった。
ヘブンマークはあっという間に魔物を制圧した。
「まさか、上位魔法をしかもあんな精度よく使えるとは思わなかったです」
「私たちは期待に応えられたかしら?」
「ええ十分すぎるほどに。魔法を剣から飛ばしていましたね、あれは一体」
「雷の魔法と俺のオリジナルです」
「雷の魔法、そういえば今は所在が不明なSランクの冒険者が同じように雷の魔法を使っていたらしいですが、それはあなたですか?」
はい?なんだそれ。
俺たちまだBランクだしそもそも雷の魔法も割と最近習得したばかりなんだが…
「それは僕ではないですね」
「まあそうですよね、10年程行方をくらましている方ですし、失礼しました」
初めてSランクの人物についてを聞けたな。
個にしか与えられないランク。
よほどの強さなのだろう。
なにせモナですら知らなかった雷の魔法を使うそうだからな。
「いつか会ってみたいですね」
「そうですね」
そして二日目の襲撃を乗り越え、三日目の昼にはイニシ法国に到着したのだった。




