第二十二話 さらば商会、さらばシト
モナに事情を説明すると、彼女は一言「そうだったのね」と言い納得した。
「なあ、なにか食べ物って持ってるか?」
「干し肉があるけど、お腹空いてるの?」
「いや、もう1人捕まっている人がいてそいつのために」
そういうとモナは干し肉をいくつかくれた。
俺はそれをレオナに渡しに地下牢へ向かった。
「レオナさん、もう大丈夫です」
「本当ですか?」
「はい。そしてこれを」
「俺の仲間が持ってきてくれたものです、干し肉なんですけどとりあえず食べてください」
「ありがとうございます」
渡された干し肉を彼女か噛みしめるように食べた。
一応水も一緒に渡しておいた。
かなり空腹だったのか、渡した干し肉はあっという間に無くなった。
「お腹は少しは満たせましたか?」
「はい。ところでアルケウス様はお食事は?」
「まだ食べてないですけ、俺よりもあなたの方が危ない状態ですので」
「ありがとうございます」
「食べ終わったのなら、ここから出ましょうか」
「はい」
二人で出ようとしたとき、モナの声が聞こえてきた。
「ちょっとアルケウス!こっちにきて!助けて!」
なんだか冗談には聞こえなかった。
「申し訳ないけど、服はなかったからこれを羽織ってから来てください」
彼女にマントを貸してあげた。
俺より背丈の低い彼女なら、マントで全身を隠せるだろう。
急いで祈禱室に戻ると、モナは警備兵に武器を向けられ、騒ぎを聞きつけた人々が大勢押し寄せてきていた。
「貴様ら、この教会で何をしている!」
俺はここで何かあったかを説明した。
「そんなデタラメを信じられるか!」
まあそうなるよな。
吹っ飛ばされた教会の扉を抜けると、気絶した神父の近くに魔術士。
教会の奥から魔剣士がでてきたんだもんな。
はたから見れば、俺たちは教会を襲撃しているように見えるよな。
「アルケウス様、何かありましたか?」
レオナがマントを羽織って奥から出て来た。
「その子はなんだ?」
「一緒に囚われていた方です。よければほかの方も地下牢にいますので確認しますか?」
ほかの方と言ったが、すでに亡くなってしまった人達だけど…
地下牢に連れて行き、亡骸を見た警備兵はレオナの状態も考慮したのか、俺たちが被害者なのを認めてくれた。
気絶していた神父は拘束され、後日イニシ方国に移送されることになった。
「レオナ!」
群衆から彼女の名前を呼び、男が飛び出してきた。
茶髪に顎を覆う髭。
がっしりとした肉体を持つ男だった。
「お父様!」
二人は駆け寄り、お互いを抱き合った。
「心配かけおって!ギルドに捜索依頼まで出したんだぞ」
依頼?
ああそういえばCランクに捜索の依頼があったが、あれは彼女だったのか。
「君、娘を助けてくれて感謝する。なにかお礼をしたいのだが」
「俺は巻き込まれて、たまたま居合わせただけです」
「それでも救ってくれたことに変わりはない。名前は何というんだ?」
「アルケウスです」
「私はラグラ・コロニス、コロニス商会を営んでいる」
「今日はもう遅いから、明日私の店に来てくれ。そこで今回のお礼をさせてもらう」
「はあ…」
お礼か、まあ受け取っておくとしよう。
悪い人ってわけでもなさそうだしな。
帰る前にレオナが俺たちの方に来た。
「今回はありがとうございました、私の勇者様!」
「勇者ではないんだけど…」
レオナはフフッと笑うと父親と一緒に去っていった。
「勇者の正体隠したかったんじゃないの?」
「別に一言も言ってないんだけどな」
「そう。まあいいわ、私たちも帰りましょ」
「そういえば、ご飯食べたの?」
「いや?まだだけど」
「じゃあ夜も遅いし、私が作ってあげる」
「それ本気で言ってる?」
「料理ぐらい私もできるわ」
その後宿の厨房を借りて作ってくれたモナの料理は、案外美味かった。
だけど、いままでこいつの料理をしているところ見たことないんだけどな。
陰でモナがガッツポーズをしていたことを、彼は知らなかった。
―――
先日、あの商人の人に言われた通り、俺たちは商会の店に来ていた。
「昨日は娘を助けてくれたこと、本当に感謝している。そしてこれがそのお礼だ」
ラグラが指示を出すと傍に控えていた使用人が、宝石とかを持ってくるときのようなプレートに金貨が2枚置かれているものを持ってきた。
「それは君たちへのお礼の一部だ、受け取ってくれ」
「いいんですかこんなに。かなり多いようですが」
「本心だ、受け取ってくれ」
そこまで言うなら受け取らないのも失礼になるので受け取った。
記憶が正しければ、依頼はCランクの依頼。
報酬は多くても銀貨数枚とかだ。
そう考えるとかなり多い。
なんか申し訳なくなっちゃうな。
「そしてもう一つお礼があるが、これは受けるか受けないかは君たちに任せる」
「いったい何でしょうか」
「このコロニス商会は、主に魔物の素材から作る品を取り扱っているんだが、商会で所望する素材をギルドに依頼することがある。その依頼を君たちを優先して指名させてはくれないか?」
まじか。
それは願ってもないことだ。
指名の依頼は、本来よりも報酬が上がる。
それは依頼者が、指名する冒険者への信頼の証でもあるからだ。
「いいんですか?」
「君たちは最近噂の絶えないパーティ、『魔断の集い』だろう?無名の冒険者であれば、このようなことは言わない」
「お受けしましょう。その依頼」
「成立だな」
ラグラと固い握手を結んだ。
「ところで、依頼を受ける際になにか注意点とかあれば今のうちに教えてくれ。なるべくそれに合わせるようにしよう」
なんて寛大な人なんだろう。
ということでCランク以下なら一日に複数、Bランクは最短で一日時間がかかることを伝えた。
「ところでレオナさんは元気ですか?」
「ああ。特に悪いとところはない。まだ療養してはいるがね」
「お大事にとお伝えください」
「うむ」
そうして俺たちは商会を後にした。
いやしかし、まさか事件に巻き込まれたかと思ったらこんな待遇を受けれるようになるとは思わなかった。
臨時の収入もありがたい。
今日はこの後、昨日の件をギルドに報告しに行く。
ギルドに報告をしに行くと今後の対応について聞けることができた。
神父についてはイニシ法国へと移送される。
そこはイニシ教の総本山があるからそこで処罰されるらしい。
地下牢にあった遺体に関しては、関連人物が既に町にいないため、神父の罪を証明する証拠として一緒に送られている。
シトの町の教会はしばらく閉鎖されるものの、法国より別の聖職者が送られて来るそうだ。
度々起きていたらしい行方不明者、恐らくほとんどはあの神父によるもの。
俺と同じ様に、勧誘に失敗したら似たような手法で拉致監禁し、これは罰なのですとか言って食事も与えず殺していたんだと思う。
まあ、あくまで推測だけどな。
事件から4ヶ月、俺たちは商会の依頼を受けたりしてこの街に留まっていた。
懐に関しては、散財さえしなければしばらくは依頼を受けなくてもやっていけそうにまでなった。
そんな時に俺はラグラに呼ばれた。
「今日は一つ頼みがあって読んだんだ」
「わざわざ呼び出したということはそれだけ特別ってことですか?」
「そうだ」
「そろそろ商会の販売地をバルドー王国方面に伸ばそうと思っている。それに伴い我々はバルドー王国に移動することになった。そこで君たちには今後も手伝ってもらいたいと思っているんだ。よければ護衛の依頼もかねて一緒に来てくれないか?」
なるほど。
バルドー王国か。
俺たちの本来の目的地とは真逆だな。
「せっかくのお誘いですが、申し訳なです」
「なぜだ、今までより報酬は上げてもよいのだが」
「我々にも旅の目的があります。ラグラさんたちとは逆方向なんです」
いくら時間の期限がないとはいえ、そろそろ出発したいと思っていたからこの機を逃せない。
「そうか…そうであれば仕方がない。恩人たちに無理強いはせん」
「お世話になっていたのに申し訳ないです」
「それはこちらも同じだ。ところで君たちはどこへ向かっているんだ?」
「他言はしないと約束していただけますか?」
「ん?何か秘密でもあるならそうしよう」
「実は、自分勇者なんです。我々は魔王を倒しに向かうため旅をしています」
ラグラさんには秘密を明かしてもいいと思った。
まあこうしたほうが確実に断れる口実でもあると思ったけど。
この人は信頼してもいい、そう思ったからだ。
「ハハハハハ!そうか、まさか君が勇者だとは全く予想外だ」
「だが一緒にけない理由は納得した。その秘密公表される時が来るまで他言無用にすると誓おう」
「ありがとうございます」
次の日には俺たちは町を出た。
商会人たちが見送りに来てくれた。
最後にレオナが「さようなら私の勇者様」と言ってきたが、あの人には俺が勇者だなんて一度も言ってないのに、なぜずっと勇者様と呼んでいるのかは謎である。




