第二十一話 歪んだ信仰
「…丈夫……丈夫で…」
なんだ…?
だれかが呼んでる…?
「大丈夫ですか!」
「はっ!」
俺は何をしてた?というかなんで寝てたんだ?
状況が全く理解できない。
体を起こしてみるとそこは見るからに牢獄だ。
「大丈夫ですか?」
「ん?ああ、大丈夫だ」
首のあたりが痛むがまあ気にする程度でもない。
ここは何処で、なんで俺はここにいる?
「なあここは何処だ?」
「私もわからないです」
「そうか」
いったん整理しよう。
俺は確か、休みの日に町の構造と市場調査的なことをしてて、それから教会を見つけて…
なんでそこから急に牢屋に入っている状態になるんだ?
そしてなんで俺は下着しかない?身ぐるみ剝がされているこの状況…
まさか盗られたか?
ん?
ていうかさっきから俺誰と会話してんだ?
振り返るとそこには自分と同じような格好をした女性がいた。
「あ!すみません!」
いそいで振り返った。
「いえ大丈夫です。こんな状態なので仕方ないですし」
とはいってもその状態の女性は直視しちゃダメだろ。
俺は勇者、俺は勇者、俺は勇者、俺は勇者…
「俺っていつからここにいました?」
「つい数時間ほど前です」
「あなたはいつから?」
「おそらく2日程でしょうか」
「ここがどこかはわかりますか?」
「私にもわかりません、ここに入れられた地点で助かりませんので…」
どういうことだ?確かに出ることはできなくても誰かしら見回りとか来るだろ普通。
「見回りとか来ないんですか?」
「誰かが連れられてくるとき以外は来てないですね、私の次に来たのがあなたですけど」
つまり俺は、この地下牢の二人目の入居者というわけだ。
とりあず水でも飲んで落ち着こう。
土魔法で簡素なコップを作りそこに水魔法で水をそそぐ。
「水飲みますか?俺の魔法で作ったものですが」
「いただいてもいいんですか?昨日から何も飲んでいないので」
「飲んでない?じゃあ食事は…」
「食べてないです」
まさかこの牢獄飲食なしなのか?
彼女に水を渡すためにもう一度振り返った時に気づいた。
「あの、後ろの人たちは」
「すでに亡くなっています…」
「いずれ私たちもこうなるのでしょう」
さっきは一瞬しか振り向かなかったから分からなかった。
この牢獄にはすでに4人の人がなくなっている、亡骸もそのままの状態でだ。
死因はおそらく餓死だろう。
そしてこのままだと俺たちもこうなる未来の姿でもあった。
「どうにかして抜け出さないと」
彼女は半ば諦めている様子だが、俺は諦めない。
モナもいるしどうにかして脱出するしかない。
この牢獄は四方を石の壁に囲まれており、奥に上へ向かう階段がある。
牢獄はこの一つだけのシンプルな地下牢って感じだな。
いったいどこの地下なのかを調べるために魔力探知を使ってみた。
結果は、この地下牢なんと魔力の壁で全方位を覆われていた。
つまり外から中を、中から外を完全に見れない状態だ。
うん、どうしよう。
牢屋は魔法を使えばぶち破れそうだが、見張りが来た時に今装備とか無いから厄介だしな。
見張り…?
「見張りって、俺が来た時にしか来てないんですよね?」
「ええ、私が来てからはそうですね」
牢屋に餓死した遺体があるのを考えるに、ここは収監だけしてあとは放置されているのだろう。
であれば抜け出してもも問題はないだろう。
「ちょっとこの牢屋を抜け出して上の様子を見てきますね」
「え?そんなことできるんですか?」
「こう見えても冒険者なので」
「でも逃げたのがばれたら殺されるかもしれないです」
「このまま死ぬのを待つよりは、行動して死んだほうがましかと」
「私は何もお役に立てません」
「大丈夫です。俺に任せて待っていてください」
この牢屋の扉はカンヌキで固定されている。
格子の間から土魔法で棒状の物を形成し、カンヌキを上へ上げた。
施錠されていた扉が開き、静かに外へ出る。
「あの、あなた様のお名前を聞いてもいいですか?」
「アルケウスです。あなたは?」
「レオナと申します」
「レオナさん。待っててください必ずここから出してあげますので」
「お気をつけて」
亡くなってしまった人たちはどうしようもないけど、せめて生きている彼女は必ず救ってあげよう。
俺は勇者なんだから。
地上への扉を開けると、そこは人気のない物置のような部屋だった。
窓の様子から今は夜になっていた。
慎重に周りを確認、人はいない。
魔法で部屋を照らしていく。
食べ物とかがないか探してみるか。
結果から言おう。
食べ物は残念ながら無かった。
だが俺の装備は見つけた。
服も剣も防具もすべて置いてあった。
物置部屋の扉を開けると、そこは祈禱室だった。
「おや?どうやってあそこから出たのでしょう」
声のするほうを見ると、そこにいたのは教会の前で見た神父だった。
「お前か?俺をこんなところに監禁していたのは?」
「すべては神の思し召しですよ」
「いいのか?神である俺を襲ったっていうことは、神への冒涜となるが」
「世界の神は創神様のみです。あなたの偽りの神など存在しないのです」
あれ?バレてたってこと?
ここは素直に謝るしかないのか?
…いや、あの地下牢のことはいくら神を崇拝しているからって許されるものじゃない。
信託だろうが思し召しだろうが、人を殺してるんだ。
しかもこの感じ、あそこにいる人たちが初めてではないだろう。
「じゃああんたの信仰する神を受け入れない奴は排除していいと?」
「……」
沈黙か、それは肯定したってことだよな?
「このことはギルドに報告させてもらう」
「それは困りますので、あなたをここで排除しましょう」
神父が魔力を貯めだした。
こちらも魔力を巡らせる。
「主よ、我が願い、我が想いを聞き届けたまえ」
「は?」
ドンっと鈍い音を立てながら、俺は拳を神父の鳩尾に入れた。
う!という声をあげながら神父は気絶した。
え?こいつ何してんの?
あまりにも戦闘の素人すぎる。
敵の目の前で、魔法の詠唱を始めるとかアホなのか?
隙だらけすぎて…
バンッ!
と音を立て教会の入り口が吹き飛んだ。
「アルケウス!だいじょ…何してるの?」
モナが入ってきたのだ。
「えっと…これには理由が…」
「まさか教会の神父を殺しちゃったの?ああ、終わったわね」
「いや待て待て!俺さっきまでこいつに捕まえられて殺されそうだったんだけど?」
「冗談よ」
―――
・モナ視点・
今日は依頼を受けないお休みの日。
アルケウスは町を散策してくるって言って出ていった。
私はいつも通り、魔法の研究をしたりごろごろしたりして過ごす。
しかし異変が起きた。
日が沈んでもアルケウスが返ってこないのだ。
「街の散策ってそんなにかかるものなの?」
気になった私は彼を探しに行った。
しかし見つからなかった。
おかしい。
性格上何も言わずにどこかに行くような奴じゃない。
魔力探知を使って探してみる。
町全体をくまなく探すと、一ヵ所だけ不自然な場所があった。
それは教会だ。
この教会、なぜか地下に魔力を大量に帯びた部屋がある。
中を見られらないようにするのは別にたいして珍しくはない。
ただそういった場合、建物全体に施すのがほとんどだ。
そして私は今その教会の目の前にいる。
もう一度探知を使うと覚えの魔力と次第に高まっていく反応の二つがあった。
「見つけた」
扉を開けようとするもビクともしない。
「鍵がかかってる、当然よね夜だもの」
火球三つあれば確実に吹っ飛ばせるわね。
ボンッ!
中に入り見た光景は、アルケウスが神父を気絶させているところだった。
「アルケウス!だいじょ…何してるの?」
そう聞くとアルケウスが慌てたのですこし悪戯してみた。
さらに慌てた。
ちゃんとその後に冗談だってことは伝えた。
まあ、なにか変な事件に巻き込まれてたんでしょう。




