第十九話 牙と昇格
3ヶ月…Cランクへ昇格出来るようになるまでに掛かった時間だ。
何でこんなに時間が掛かったかって?
依頼の失敗とかしまくったからだよ。
主に街中の手伝い系はうまくいく機会の方が少なかった気がするが、まあいい。
「明日ようやくCランク昇格のための試験を受けれるぞ」
「まさかこんなに掛かるなんて思わなかったわ」
まったくだ。誰かさんのせいとは言わないけどね?
「そこでなんだが、明日Cランクに昇格出来たらこの国を出るつもりだ、お金も旅ができるぐらいには余裕が出て来たしな」
「ついに国を出るのね」
「ところで今更気づいたんだが、お前城にいた頃に給料とか無かったのか?」
そういえばだが、モナは元宮廷魔術師だったんだからその時の給料とか沢山持ってるんじゃないのか?
「あるわよ」
「じゃあそれ使えば、この国にこんな長居する必要なかったんじゃ?」
「実は…忘れちゃったのよ」
「え…?」
「国王様に城への立ち入り禁止されちゃったから、取りに行けなかったの!」
モナはたまに変なところでドジを踏む。
翌日、ギルドにCランクに昇格したい旨を伝えた。
昇格の仕方は試験形式で、内容はCランク以上の魔物の討伐だ。
つまり、最も簡単な相手だとホブゴブリンでもいいってこと。
ちょっと簡単すぎる気もするがギルドが言っているのだからよしとする。
俺たちは初めての依頼の時に行った森に行くことにした。
理由は距離が近いのと広大ゆえにいろんな魔物がいるからだ。
王国の東にあるこの森は、大陸の中央に位置する場所に広がる森で、外側には弱い魔物が住み着いていて、中央に向かっていくと次第に強い魔物に遭遇するようになる。
なのでいつもより森に深く入らないといけないわけだな。
そこで、モナが魔力探知を使いながら探すことに、強い反応があったら教えてくれるらしい。
「待って、強い反応を見つけたわ」
森に入ってからしばらくしてモナが見つけたらしい。
さてどんな魔物なのか、
「こっちに向かってる…?」
「アルケウス!避けて!」
モナが叫んだ瞬間、右方向からとてつもない勢いと衝撃で木々をなぎ倒しながら何かが突っ込んできた。
俺は反射で防御の姿勢をとった。
「魔力障壁!」
モナが発動した魔力の壁が俺と突っ込んできたやつとの間に展開されたが、俺はその壁もろとも吹き飛ばされた。
痛ぇ。
吹き飛ばされる感覚ってこういう感じなんだな。
モナのおかげ致命傷はおろか、ケガすらないようだった。
立ち上がって吹っ飛ばしてきた相手を見た。
グレイブ・ボア
大きな体を持ち、巨大化した2本の象牙が特徴。
Cランクの魔物でありながらBランク下位の魔物にも引けを取らない魔物。
その理由は俺が今受けた突進力。
おそらくモナが守ってくれてなかったら死んでいたかもしれない。
とんだ大物に出くわした。
体長は5メートル程か?
すぐさま魔力を体に巡らせ剣を抜いた。
油断は死を意味する相手だ。
「身体強化」
モナが強化魔法をくれたようだ。
魔物は魔法発動と同時に、標的を俺からモナへと切り替えた。
同時に横っ腹へ攻撃するチャンスであった。
そのタイミングを俺は見逃さずに攻撃をした。
切れはした。切れはしたけど肉が固い!
薄皮一枚程度しか切れてない。
魔物はそんな一撃を気にしていないのか、モナへ突進していった。
「モナ!」
「大丈夫です」
気づくとモナは俺の左にいた。
「え?お前今なにしたの…」
「あとで教えるから。今は魔物に集中して」
「おっおう」
そういえば模擬戦の時も似たようなことあったな。
魔物は木に突進してすでに振り返っていた。
さらにもう一度こちらに突進する気が満々だな。
「ねえ、作戦があるんだけどいい?」
「どんな作戦?」
「私があいつを完全に足止めするから、あんたは全力の一撃を叩き込んで」
「信じていいんだな」
「私を誰だと思ってるの?」
「じゃあ頼む!」
全力の一撃、失敗すれば後がない。
モナが魔法で気を引いているうちに、体に巡らせる魔力を増大させ剣にも流す。
急に剣が重くなった気がするが、この重さの攻撃を直撃させれば確実に倒せる確信があった。
「準備出来たぞ!」
「わかったわ!」
魔物が俺を急襲したときと同じ突進でモナへ向かった。
「土壁!」
魔物は目の前に現れた土の壁に追突。
壁は壊れることなく魔物の動きを止めた。
「氷の縛鎖!」
魔物はさらに足を氷漬けにされ完全に動きを止めた。
「今よ!」
まってました、と言わんばかりに魔物の真横に滑り込んだ。
「うおおぉぉぉお!」
重い剣を魔物の横っ腹めがけて思い切り切り上げた。
魔物の体は分断された。
鳴き声一つ上げずに魔物は絶命した。
「やったわねアルケウス。ところであんたの剣どうしたのそれ」
そう言われ、重くて切り上げた勢いのまま地面に置いてしまった剣を見ると、剣の形状が変わっていた。
その見た目はまるで狩りをするゲームの大剣を連想するサイズになっていた。
俺の剣ってこんなだっけ?
こんなの重いわけだ。
しかし再度剣を握ると、元の剣に戻ってしまった。
その後何度か試したものの、剣の形は一度も変わることはなく、なぜ変わったのかの原因は分からないままとなった。
グレイブ・ボアの戦利品は牙を二本とも持ち帰ることにした。
帰り道にモナにあのことを聞いてみた。
「なあ、模擬戦の時もそうだったけど、どうやって俺の背後や今日みたいに左に来たんだ?」
「転移魔法よ、短い距離なら一瞬で移動できる魔法よ」
「へえー。それって遠くには行けないのか?」
「できなくはないけど、私が使っているのは目視できる範囲内に移動できるものなの。長距離になると魔法陣とか使わないと無理ね」
どうやら模擬戦で俺に負けた時は、後ろを俺の壁に阻まれ目の前はモナ自身の魔法に阻まれたことで逃げる場所を失ったのが敗因なんだとか。
逃げ道をなくす目的であの時はそうしたが、たまたまかみあったんだな。
無事に帰還しギルドに報告をしに行った。
「魔断の集い、アルケウス様、モナ様、お帰りなさいませ。今日の試験の成果はおありですか?」
そう言われた俺たちは二つの牙を提出した。
「これは?」
「グレイブ・ボアの牙です」
「え?!確認します」
「本当にグレイブ・ボアの牙ですね。こんな大物よく討伐できましたね」
「当然でしょ。なにせ勇んぐっ!」
「さすがに強敵でしたがなんとか…」
「お疲れさまでした、試験は無事合格です。魔断の集いはCランクに昇格になります。おめでとうございます。ではカードの更新を行うのでご提示を」
「んんー!」
「あっごめん」
モナの口から手を放し、俺たちはカードを渡した。
「少々お待ちください」
「(ねえ、なんでさっき止めたの?)」
「(前に言ったろ?目立ちたくないって)」
「(あ!そうだったわね、忘れてた)」
それにしてもどうにもこの周りの冒険者たちが俺たちを見る目、好きじゃないんだよな。
プライドが高いのか、新人の俺たちが気に食わないのか陰口を言っている。
喧嘩なら喜んで買うぞ?なにせこっちにはあのモナ様がいるのだからな。
って、更新ってこんなに遅いもんだっけ?
「大変お待たせしました。お二人のカードをお返しします」
「ありがとうございます」
「そしてこちらが討伐報酬です」
・報酬 金貨1枚
「グレイブ・ボア一匹でこれですか?」
「はい、あの魔物は正直Bランクでもよいとギルドは思っているそうなので」
そうですか
「最後に一つお知らせが」
「なんでしょう」
「魔断の集いについて今あることで審議をさせていただいてるのですが、本日中に結果が出なそうなので、明日またお越しください」
「審議って僕たちなにかやらかしたとかですか?」
「いえいえ、そんなマイナスなことではなく、プラスのことですのでご安心を」
「そうですか分かりました」
なにを審議しているのかは気になるが、また明日くればいいそうなので今はいいだろう。
さて、ついにCランクに昇格できたということで貰った報酬で今夜はモナと少し豪華なディナーを堪能した。
次の日の早朝、俺たちは南の城門から出立した。
東から真っ直ぐ行けばいいと思っていたが、昨日の森の奥には山脈がある。
登れなくはないらしいんだが、頂上にはドラゴンがいるとかいないとか。
北から、ドワーフの領土を超えて龍族の領土から海を越える方法もあるらしいが、現実的ではないとか。
なので山脈の南にイニシ法国という国があるのでそこを抜けていくルートにした。
あれ…なんか忘れてる気がしたけど、まあいいか。
―――
・ギルドの受付嬢視点・
最近、活躍度合のすごいパーティがあります。
「魔断の集い」というパーティです。
あのモナさんが所属しているパーティ、と言ってもメンバーは二人なんですが。
結成から僅か3ヶ月という短い期間でCランク昇格試験への挑戦が認められたんですから。
しかもなんとその試験で討伐してきた魔物がグレイブ・ボア!
Cランクの魔物ではありますが、その攻撃性や破壊力からBランクでもいいのではないかと声の上がる魔物です。
私にはわかります。
モナさんの実力であっても、あの魔物を一人では厳しいでしょう。
ということはメンバーのもう1人、アルケウスさん。
この人の実力もあっての成果ということです。
そのために私は、「魔断の集い」は飛び級してBランクに上げてもよいのではとギルドに相談しました。
結果は承諾。
「魔断の集い」は晴れてBランクになれました。
そしてその結果を伝えるために私は、あのパーティを待っています。
朝……昼……夕方……受付終了……
「いやいつ来るんですか!」
「どうしました?」
「ねえ今日『魔断の集い』ってギルドに来た?」
「あれ先輩聞いてないんですか?」
「何が?」
「あのパーティ、今朝この国を出たらしいですよ」
「…へ?」
国を出た…?
「忘れたんじゃないですか?」
「なにやっとんじゃ!ボケェ!!!!」




