第十二話 世界の選出
襲撃事件から2年がたった。
俺は今、シャーリーと手合わせをしている。
前々から言っていたが、彼女の剣の腕前はもはや俺を越したといっていい。
単純な打ち合いでは勝てなくなってきたんだ。
そこで俺は、ズルみたいに聞こえるかもしれないが、剣の攻防に魔法を混ぜるようにした。
最初こそ魔法の発動したタイミングで、体を強化している魔力にムラが出ていたが、今では完全にコントロールできるようになったのだ。
逆に言えばこれをしないとシャーリーに勝てなくなってきていた。
シャーリーは魔法の才能がない。
いまだに基本の魔法すら怪しい。
カエルと同じタイプだな。
「アル君、ズルいよ魔法なんか使って、正々堂々剣で戦ってよー」
「これが今の俺の戦い方なんだ」
「シャーリー、前にも言ったが世界には魔剣士と呼ばれるやつがいる。アルのように剣も魔法もできるやつはそれが最適解なんだ。逆にお前は今貴重な経験をしているんだぞ?すでにその稀な戦い方をするやつを相手に特訓してるんだからね」
俺の戦い方は、魔剣士と呼ばれているらしい。
ちょっとかっこいいな。グヘヘ
「そうだアル、今日の夕飯はちょっと特別だぞ」
「え?急にどうしたの?」
「忘れたのか?今日で10歳だろ」
あ!そういえばそうだったな。
完全に忘れてた。
この世界に転生してもう10年も経つのか、早いもんだ。
「父さんは、今日は帰ってくる?」
「できれば私も帰ってきてほしいとは思っているよ」
最近レイルは、王国に頻繁に呼び出されているらしく、数日以上家を空けることが多い。
なにをしに行ってるかは、カエルも知らないんだとか。
まさか、浮気?なんてことはないよな。多分…
結局夜になってもレイルは帰ってこなかった。
せっかくのお祝いってことで夕飯がいつもより豪華なのにな。
主食のパンに今日は蜂蜜が添えられ、スープにはいつもの野菜と普段別で用意される干し肉が入っている、そして干し肉に代わってのメインは大きなステーキだった。わあ素敵!なんてな。
「それにしても、前回と比べると賑やかになったね。なんせシャーリーとジルが増えたからね」
「私もいるでしょ~」
「先生はちょっと違う気が」
「らによ~これだれ長くいるんらから一緒でしょ~」
「先生酔ってる?」
「え~?酔ってませ~ん」
いやどう見ても酔ってるだろ。顔真っ赤だし。
「ヴィヴィは普段飲まないのに、こういう時だけ飲むんだよ。で、大体つぶれる」
「そんらころらいれす~」
「程々になヴィヴィ」
「は~~い」
この人のこんな一面初めて見たな。
皆もそれを見て笑っていた。
レイルも一緒だったらよかったのにな…
―――
10歳になってから一週間した。
レイルは未だに帰っていない。
いったい何をしているんだ?
ん?
なんだあの鎧をまとった集団は。
6人程が馬に乗ってこちらに向かってきた。
「失礼、少年。我々は王国の調査団なのだが、お父さんかお母さんはいらっしゃるか?」
「ええ、母さんがいますが…」
「では呼んできていただけるか?」
「はい、わかりました」
急に王国の調査団と名乗る奴らが来た。
レイルが王国で何かやらかしたのか?
とりあえずカエルを呼びに行こう。
「待たせた。王国の調査団とやらがうちに何用です?」
「失礼。我々はとある加護を持っている人物を探しており、全国を回りながらこの村に立ち寄らせてもらいました。すでに村の方々には協力してもらい調査も完了しています。外れに家が二軒あるということでこちらに参りました」
「そうですか。どうやって調査とやらを?」
カエルがそう言うと、一人の男が馬から降りた。
その瞬間、カエルが膝をついた。
「よい。私はそういうのを好まない」
どうやらお偉いさんらしい。
俺も膝をついておこう。
「母さん、この人は?」
「この国の第二王子、ザイン=バルドー様だ」
え!マジかよ。
この国の第二王子がなんでこんなところに来たんだ?
「お二人とも、膝なんか私につかなくていい。それに今回はこちらから急にお願いを申し上げに来たのだから」
「では」
彼女はそう言って立ち上がった。
相変わらず切り替えが早い。
俺も立つか。
そこで俺はこの王子の顔をはっきりと見た。
美しい、そんな言葉が似あうような金髪に、まさに美男子みたいな顔つきだった。
「この調査は我が王国に伝わる秘術をもって行わせていただく。その際は一人ひとり行う。機密性保持のため調査する際に土壁で隔離させていただくがよろしいか?」
「ええ、それは構いませんが、ここにいる全員ですか?」
「できれば」
「この家には私と子供が3人います。主人は今そちらの王国にるはずですので不在ですが。」
「かまいません」
「わかりました。ご協力します」
「ありがとうございます!」
そういって調査とやらが始まった。
まずはカエル、そしてまだ幼いという理由でジルも一緒に調査をすることに。
少しして二人が解放された。
見た感じは特に何もなさそうだな。
次にシャーリーが行った。
彼女も少しして解放された。
こちらも問題等はなさそう。
そして最後に俺が呼ばれた。
俺は魔法で作られた即席の机といすが用意され、待っていた王子の向かいに座った。
「緊張とかはしなくて大丈夫ですからね、ただ魔法で診るだけですので」
「緊張とかは特にしてないのでご心配なく」
「おや?随分強い心の持ち主のようだ。フフ」
「お名前をお伺いしても?」
「アルケウス・クロニカです」
「よろしく、アルケウス君」
「では早速始めます」
そういって彼は魔力を貯めだした。
「『加護鑑定』」
初めて聞く魔法だな、ってそれはそうか。
王家に伝わる秘術って言ってたもんな。
「アルケウス君」
お?もう終わったのか、ずいぶん早いな。
「はい」
「君は加護を持っています」
そういえばさっきも加護って言ってたが何のことだ?
「あなたは『勇者の加護』を持っています」
「へ…?」
「あなたはこの国の5代目の勇者なのです」
「はあ!?」
本当に驚いた。
俺が勇者?加護を持ってる?なんの冗談だ、そんな片鱗一度もないぞ!
騒ぎを聞きつけたカエルたちが駆けつけてきた際、周りの護衛と一悶着が起きたがカエルがあっという間に制圧してしまったので、王子がしかたなく他言無用で家族間にのみ、このことが共有された。
みんなが驚いていたが、俺も驚いたんだから当然だろう。
「アルケウス君、君今いくつだい?」
「つい先週10になったばかりです」
「10か」
「陛下!まさかこの子をお連れになるつもりですか」
カエルが俺と王子の間に庇うように入ってきた。
「いえお母さま、さすがにそれはしませんが…では5年後、15歳になったら王国に来てもらえませんか?」
15か…この世界ではもう成人する年だ。
「アル、どうする」
「うーん」
「無理して行く必要はないぞ?」
「陛下、幾つか聞いてもいいですか?」
「ああ」
「俺のこの力は、他にも持っている人はいるんですか?」
「いない、世界で君だけの力だ」
「俺はこの力で何をすれば?」
「具体的なことはこの場では言えない、ただ君のその力は世界を救う力といわれるものだ」
俺が世界を救う?そうは言うがそんな力は持ってもないんだがな。
でも世界を救う力か、面白そうだな。
「わかりました。やりましょう」
「おお!本当か?礼を言うぞアルケウス君!」
そう言って王子は俺の手を両手で握り激しく上下させてきた。
5年後か…
「では5年後、我が王国で君を待っているよ、アルケウス君」
「はい、ではまた」
王子たち一行は、そう言って帰っていった。
そしてその日の夜、レイルが久しぶりに帰ってきた。
そこで俺は今日の一連の出来事と加護について聞いてみることにした。
「父さん、実は今日俺が勇者の加護っていうものを持っているってことがわかったんだ」
「そうか、勇者の…はい?!」
そりゃあ驚くよな、みんなも驚いていたし。
「なるほどな、帰れた理由はそれか」
「それで聞きたいんだけど、加護ってなに?」
「加護っていうのは、生まれ持った特異な体質や力のことを言う。例えば生まれた時から周りの人よりも火魔法の扱いや出力が違うみたいなやつだ」
まさしく異世界にありがちな生まれ持っての特別な力的なやつだな。
勇者の加護っていったいどんな力なんだ?
「加護は人だけじゃなく、動植物や、魔物、はたまた建物や武器にいたるあらゆる物が持つ可能性のあるものだ。原因は判明してない、ものすごく謎が深い力だ。持っている存在が極端に少ないってのも原因を解明できない理由の一つでもある」
「勇者の加護ってどんな力なの?」
「わからないんだ。唯一わかってるのは、その力を歴代の勇者が持っていたことだけだ」
そうか、さっき例に出してくれたような単純なものだけではないのか。
勇者の加護、その力に関しては何もわからないならこれから先、いつか解明できるだろう。
といっても今の所その恩恵を受けている気はしないけどな。
―――
・レイル視点・
少し前、昔所属してた研究チームから手を貸してほしいと連絡があった。
今までこんなことがなかったから一大事なのかと思ったんだ。
まあ一大事ではあった。
現在、というよりは「現在も」なんだが、人族と魔族は昔から領土争いを続けている。
しかし膠着状態でもあった。
それを見かねた現在の国王が、状況を打破すべく勇者を召喚しろと命を下したそうだ。
正直僕は反対だった、歴代の勇者は皆魔王の元まで進軍したが、全員が敗北し戦線を元に戻されるのだ。
たしかに召喚される勇者は、文献通りなら全員がものすごい強さだったのは間違いない、だがそれでも一度も勝利したことがない。
それほど魔王という存在は強大なのだ。
だが国王の命は、決定事項だ。
勇者召喚の魔法陣の研究と作成のために僕は再び戻されたのだろう。
まあそうなるだろうとは思っていたから、家でそれなりの研究等はしていたが。
最近家に帰れていない、家族の顔が見たいよ。
もうすぐアルが10歳になるころだよな、帰れるといいな…
しかしそんな願望は叶うはずもなく、アルの10歳の日に召喚をすることになってしまった。
さっさと終わらせておさらばしたい…と思っていたんだが、召喚は結果的に失敗に終わった。
僕たちは何度も魔法陣や召喚の手順とかを見直した。
しかし原因は判明しなかった。
なぜだ?どこもおかしいところはない。
召喚の魔法自体は正常に発動しているのに、草どころか何も召喚されないのだ。
まずい、このままでは研究チーム全員がそろって処刑されるなんてこともあり得る状態だ。
翌日、僕は国王にこのことを包み隠さず報告した。
案の定国王は大激怒した。
「陛下お待ちを、可能性なら見つけました」
「ほう?貴様ら無能な学者の可能性だと?遺言として聞いてやろう」
このジジイと思ったが、我慢だ
「召喚に失敗した際、魔法陣や術にはなんら間違いは見受けられませんでした。そこで生じた可能性ですが、過去に召喚された勇者はみな『勇者の加護』を持っていました。であれば今回召喚される勇者もそれを持っているはず。それが召喚されないということは答えはひとつ」
「”既にその加護を持って生まれたものが存在する”という可能性にたどり着きました」
「ほう?だが可能性であろう?そんなことのために昨日の一日を使っていたわけではあるまいな?」
「そ…それは」
「もういい!貴様ら全員処刑だ、無能な学者チームなどいらん」
終わった…母さん…アル…シャーリー…ジル…ごめん父さん帰れないかも…
「お待ちください!父上!」
そういって手を挙げたのは、第二王子のザイン=バルドー様だった。
「なんだ?ザイン」
「父上、今の内容の可能性は十分にあり得る話です。加護というのは同じ時に二つ存在しないというのを皆知っております。そして正常に作動しても召喚されないのであればその可能性が最も高い」
「で?じゃあどうするんだ?」
「私自ら探しに行きましょう」
「そうか。では猶予は半年だ、それまでに見つからなかった場合、学者共は処刑だいいな?」
「かしこりました。父上」
助かったのか?いやしかしある意味半年の余命みたいなものだな…ハハ…
その後、第二王子から直々に「大丈夫、必ず見つけるから」と言われた。
流石時期王位を継ぐ可能性が最も高いと言われるだけのことはあるなと思ったよ。
それから一週間ほどして、戻ってきた王子に無事見つけられたといわれた時の安堵感は今後味わえないだろう。
一月ぶりに家に帰ったら、息子から勇者の加護を持っていたことを聞いたときは、驚きもあったが疲れとなんとなく納得のいく感情が混ざっていたよ。




