第十一話 復興
生まれて初めて人を殺した。
まだ手にあの感触が残っている。
あの場面ではあれが最適解だっただろうが、それでもだ。
さらに言えば、どうやって殺したのかも分からないんだ。
あの時の俺と盗賊との間には、剣で攻撃するには明らかに距離が開いていた。
それなのに俺の無意識な攻撃は、奴の首を捉えたんだ。
ただがむしゃらに剣を振ったに過ぎない一撃で、人の首を、命を絶つ感触だけが明確に伝わった。
気持ち悪い……気持ち悪いい……気持ち悪い……
「しっかりしろ!アルケウス!」
「え…?」
「大丈夫?気をしっかり持って!」
「は…はい」
「シャーリーちゃんは無事、治療もうまくいったからいずれ目を覚ますはずよ。そしてここの消火は終わったわ。あとは今村の人たちが一生懸命消火をしているから手伝いに行くわよ。」
「彼女を担いでこれる?」
「わかりました」
「よし、じゃあ行くわよ」
そういって俺は震える足を何とか立たせて、気を失っているシャーリーをおんぶして村の中央に向かった。
着いたものの相変わらず全体で激しく燃えているこの状態、村人たちが消火活動をしているが焼け石に水だろう。
「ちょうどいい機会だから、上位魔法を見せてあげる」
「ここでですか?」
「こういう時だからこそよ、前に言ったでしょ?上位魔法は規模が大きすぎて普段は使いにくいって。こういう規模が広く、一方的に魔法が打てる場面じゃないと真価を発揮しないわ。」
「少し濡れると思うけどがまんしてね」
そういうと彼女は杖を強く握りなおした。
「『大地にめぐる水の精に呼びかける、そなたらの力を借り受け、わが力を媒介に、大地にもたらす粛清の力を降り注がせたまえ』」
「『アブソリュート・レイン』」
詠唱と同時に急にあたりが暗くなったかと思ったら、雨雲のような暗い雲が急に出現した。
そしてそれらは驚異的な速度でどんどん大きくなっていった。
彼女が魔法を発動させると同時に、雨が降り始めた、そして次第に強くなっていき、最終的にはスコールとも思えるほどの強い雨となった。
その勢いは見事に村の家々の炎を消していき、あっという間に村全体の消火が完了した。
魔法によって生成された雨雲が消えると同時に、目の前でヴィヴィが倒れた。
「先生!大丈夫ですか!」
「久しぶりに魔力切れを起こしたわ。火は消えた?」
「はい、見た限りはすべて消えてます」
「よかった、久しぶりに使ったけど、やっぱり魔力消費が半端なくて嫌いだわこの魔法」
「お疲れ様です」
「ええ、あなたもね、アルケウス。ちょっとここで休むわね」
そういって彼女は眠りに落ちた。
そんなところに村の人たちが集まってきた。
俺はその光景を見て安心したのか、俺の意識もそこで切れた。
―――
目を覚ますと、そこは見覚えのある天井。
ここは俺の部屋か。
時間は、もう夕方か。
ということは半日程寝ていたのか。
そこで部屋の扉があいた。
「アル、起きてたか」
「母さん」
カエルは部屋に入ってくるなり、いきなり抱き着いてきた。
「よかった無事で。本当によくやったな」
「母さん僕はケガとかはしてないから大丈夫。二人は?」
「二人なら、私たちの寝室に寝かせている、ヴィヴィは魔力切れで寝ている、シャーリーはおそらく気を失っている状態だ、外傷は見られないからひとまずは安心していい」
「あの母さん…いつまで抱き着いてるんです?」
「すまない。もう少しこのままでいさせてくれ」
そこから五分ほどして俺は解放された。
「そしたらまずことの顛末だが、盗賊20名の身柄はすでにバルドー王国に引き渡し済みだ、1名が死亡していた。村の被害については村長を含めた6名が死亡、家も焼けてしまっているがお前たちのおかげで村の財産には被害が出ていない」
6名、その中にはシャーリーの両親も…
「そういえば父さんは?」
「今村長代理で今回の後始末のためにバルドー王国にいるはずだ」
「母さん…」
「ん?どうした」
「実はその一人だけ死んだ盗賊は、僕が殺したんだ」
「ん?なんだと…」
「僕は人を殺したんだ。先生を守るため、無意識だったとはいえ、僕は人の命を奪ったんだ…」
俺の唯一の心残りはこれだ。
前世を含めると30年は生きている俺は、人生で人を殺めたことなんてなかったんだ。
「アル」
「お前が人の命を奪ったことは変わりようのない事実だ、だがその奪ってしまった一つの命で、いくつもの命をお前が救ったこともまた事実だ」
「生き物は生きていれば必ず他の命を犠牲にする。それは人も、動物も、植物も、魔物も、みな同じなんだ。母さんだって人を殺めたことは、何回もある」
「命を懸けた生存競争に、お前が勝っただけだ、悔いる必要はない」
「生きるとは、幾つもの命の上にいることなんだ」
それはそうかもしれないが、ただ俺は、
「それに」
「母さんは、他人の命を奪うことを何とも思わない盗賊より、お前が生き残ってくれたことのほうが嬉しい」
そういってまた抱き着いてきた。
バンッ!
「母さん…おっここにいたのか」
レイルが帰ってきたようだ
「アルも無事だったか!」
そういってレイルも抱き着いてきた。
ああ…
この感覚は今まで経験したことないな。
そうか
これが親から子に向けられる、前世ではなかった、愛ってやつか。
―――
襲撃から3日がたった。
盗賊達は最近暴れまわっていたらしく、懸賞金が懸けられていたため、その報酬を俺の代理にレイル、そして冒険者であるヴィヴィが受け取ったが、二人はそれらをすべて村の復興支援に充てるそうだ。
ヴィヴィは翌日に目を覚ましたのだが、シャーリーがいまだに目を覚まさない。
外傷もなくただ気を失っているだけっていっていたが…
「んっ」
シャーリーがゆっくりと目を開けた。
「ここは…」
「目が覚めたかシャーリー!」
「アル君…?」
「ここは僕の家だよ」
「私…何をしてたんだっけ?」
まさか記憶喪失でもしたか?
「たしか…村に盗賊がやってきてそれを…」
「あ!あいつは?パパとママは?」
「お前のお父さんとお母さんなんだが…二人とも亡くなったよ…」
「え…?」
「多分だけど、あの時たどり着いた時にはもう…」
「う…うぇぇぇぇぇぇん」
彼女は大声で泣き出した。
当然だろう、まだ6歳だぞ。
そんな時に両親を殺されたんだ。
俺はそんな彼女をそっと抱きしめた。
泣いていい。
そう思いながら。
しばらく泣き続けていた彼女が、急に泣き止んだ。
「アル君、もう大丈夫」
「ん?そうか」
そういって彼女を離すと、彼女はすぐベッドから降りた。
「おい、本当にもう大丈夫なのか?」
「うん!泣ききったら、吹っ飛んだわ!」
「えぇ…」
こいつマジかよ。
本当に6歳か?そんな簡単に吹っ切れるの?
「パパが言ってたの、いつかはみんな死ぬって、だから死んじゃった物はしょうがない。生きているならめそめそしてられないわ!」
「そ…そうか…」
「ねえアル君」
「ん?」
「二人の仇を取ってくれてありがとう!」
この子はすごいな、俺はこんな簡単に人の死は受け止めれないな。
「それにしてもアル君はさすがだったね」
「なにが?」
「最初に戦った人たち、強くはなかったけどいっぱいいたでしょ?あたしの戦い方を庇うような動き方をしてたでしょ?それに、最後の強かった人にも勝っちゃったんでしょ?さすがだよ!」
「あれはたまたまだ、それにお前の方が俺より強いよ」
「またまた~」
これに関しては実際そうだ。
確かに俺は彼女のフォローをするよう立ち回ってたし、あの盗賊のボスみたいなやつも倒したが、あれは本当にたまたまだ。今でも何が起きたか分かっていないしな。
「ねえアル君、あたしこれからどうしよう」
「どうしようって…ああ、たしかにな」
「あたしここに住んでもいい?」
「そうだな…ん?今何て?」
「だから!ここに一緒に住んでもいい?」
「はい?それは…母さんと父さんに聞かないとだな」
この後二人にこのことを話したらなんとOKが出てしまった。
シャーリーは心底喜んでいた。
こうして襲撃にあってからいろいろあったが、村の方も報奨金で数か月程度で再建できた。
余ったお金で特別に我が家の改装兼増築が施され、シャーリーの部屋と将来のジルの部屋が増築された。




