第十話 誕生と損失
シャーリーが妹弟子になってから1年ぐらいたった。
彼女の成長スピードは凄まじい。
去年の俺にやや劣るレベルまで来ているんじゃないのかってぐらいだ。
今では俺の打ち合いの相手は殆どが彼女とだ。
まだ負けたことは今のところないがもう一年したらその可能性が大いにあり得るぐらいだ。
ちなみにカエルは最近特訓に参加していない。
そのわけは…なんと家に兄弟ができました!パチパチパチ!
今はお腹がしっかり大きくなっている。
というわけで、妊娠中のカエルは流石に特訓には参加できない。
とは言いつつ、しっかり窓からこちらの様子を見てはいたんだけどね。
そしてついに待望の兄弟が誕生した!
性別は男の子だった!
名前は「ジル・クロニカ」と名付けられた。
自分ではない赤ん坊を、こうもしっかり見たのは初めてだな。
なんかこう…命の神秘さみたいなのを感じた。嘘じゃないからね?
一応俺と同じ転生者じゃないかを確認したが、恐らく大丈夫だ。
日本語とか喋ってみたが、まったく無反応だった。
純粋なこの世界の俺の弟ってわけだ。よかったよかった。
ジルが生まれてから生活が少し変わった。
カエルがジルに付きっきりなので、レイルと協力して家事をやったりするようになった。
シャーリーとの特訓では、カエルが遠くから見守りながら指導はしてくれるが、実際の手合わせの相手はシャーリーと引き続き行う。
あとは、魔物討伐の依頼が来たときは、カエルが行くことができないので、毎回ヴィヴィと二人で向かうようになった。
最近の俺の朝のルーティンは、起きたらまずゆりかごで寝ているジルの顔を拝むことから始まる。
生まれたばかりの頃は、不思議な気持ちが強かったが、3ヶ月たった今はとても愛らしく思える。
今後どういうふうに育つのだろう。生意気なタイプかな、お兄ちゃんをリスペクトしてくれるかな、もしかしたら漫画とかのような人生を阻む強敵となって俺に向かってきたり…
なんて妄想が浮かぶぐらい楽しみだ。
と、そろそろシャーリーがやってくる時間だな。
あいつ、毎朝早い時間に来るから必然的に俺も早起きになってきてるんだよな。
たまにはこっちから出迎えてやろう。
そうして玄関を開けた俺の目に飛び込んできたのは、村の中央で大きな火災が起きている景色だった…
気づくとこちらに向かって息を切らしながら走ってくるシャーリーの姿が見えた。
「ハア…アル君…ハア…村が…村が…ハア」
「落ち着け、一旦息を整えてから喋るんだ」
「ハア…村が盗賊に襲われてる!」
「…はあ!?」
盗賊の襲撃、この村は今まで襲われたことなんてなかったのに。
緊急事態だ、どうする?王国に救援要請は…間に合うわけないだろ!現に襲撃の真っ最中だぞ!……そうだ!
「シャーリーまずは母さんたちを起こしてきてくれ、僕は先生に助けを求めてくる!」
「わかった!」
ヴィヴィなら何とかしてくれるかもしれない。
そう思い彼女の家に向かった。
家に着いてすぐにドアを叩いた。
ドンドンドン!
返事はない。
まだ早朝だから寝てるのか!
なら寝室直通の窓をたたく。
ダンダンダン!
窓を思い切り叩くと、寝ていたヴィヴィがビクッっと体を震わせて起きた。
すぐさま窓を開けた彼女。
「どうしたのアルケウス、こんな朝早くに」
「先生村が盗賊に襲われてる!」
そういった途端、彼女は察したかのように急いで部屋を出て行った。
それと同時に俺は玄関前に待機した。
少ししていつもの装備を着た彼女が出て来た。
「アルケウス、行くわよ」
そして俺たちは村の中央へ急いだ。
途中俺の家の前を通った時にシャーリーに呼び止められた。
「アル君まって!」
「先生ちょっと待って!」
「私も行く!」
「は?行くってお前が?冗談はやめろ」
「私だって、特訓してきたんだよ。アル君だって私の実力はわかるでしょ?」
「実際の戦いと訓練とでは全くの別物なんだぞ!」
「そんなの分かってる!」
言い争っていたら両親がこちらに向かってきた。
「アル、彼女なら大丈夫だ」
なにが大丈夫なんだ?まだ魔物との実戦すら経験させたことない子に、大丈夫なんて言えるのか?
「母さん、二人はまだ子供だ、ここはヴィヴィに任せておけば大丈夫だろ、それに王国に救援を呼びに行けば」
「それでは間に合わないだろう。私も一緒に行ければいいんだが、まだ産後の衰えがどうにも直らなくて力になれそうにない…」
たしかに、産後の期間は母親の体力が衰える時期だっていうのはよく聞く話だ。
カエルが参加できないとなると、ヴィヴィ一人では厳しい、だから俺もついていく予定だったんだが、シャーリーを連れて行くとなると話が変わってくる。
「大丈夫だアル、二人の剣の実力は、冒険者でいえばCランク相当になっている。二人を最も近くで見てきた私が言うんだ、間違いない」
「盗賊なんかやるような奴はろくな実力はない烏合の集団だ」
「そうね、今までも盗賊とかと対峙したことは何回かあるけど、そろいもそろって大した実力はなかったわね」
二人してそう言うなら…
「本当に一緒に行くのか?」
「当然でしょ!」
「ハア…分かったよ。じゃあ一緒に行くぞ」
「うん!」
そういって俺は自分の剣を取りに行った。
そういえばシャーリーは武器はどうするんだ?
「シャーリーお前武器は?」
「これよ!」
そういって突き出してきたのは、いつもの訓練で使っている木刀だった。
「お前…あほなの?」
「これで叩けば痛いでしょ?」
まじかと思いつつ、俺も一応木刀を持っていくことにしていた。人を殺したくはないからな。
「じゃあ二人と村を頼む、ヴィヴィ」
「ええ。任せておきなさい。ほら早くいくわよ二人とも」
「はい!」「はい!」
そうして俺たちは燃え盛る村の中央に向かった。
後ろの方でレイルが「一応救援を送ってくる」みたいな話が聞こえた気がするが今はいいか。
―――
村に着いた。
まずは村がどういう状態かの確認だ。
村の中央に村人が集められているな。
そこに見張りの人間が二人、周りの建物を物色しているやつらが、8…いや9人はいるか?
「先生、魔力探知は使わないんですか?」
「ええ、もし相手に魔術師が潜んでいたらこちらも場所がばれてしまうわ」
逆探知的なことをされる可能性があるのか。
奥が深いな。
って関心している場合じゃないな、集中集中。
「いい?作戦としては、まず村人の保護が優先よ、だから最初に私が魔法で村の人たちと見張りの間に壁を作るわ。驚いてる隙にまずその二人を無力化するわよ」
「そのあとは?」
「頑張って倒すしかないわね、作戦なんて開幕とどう締めるかしか機能しないものよ?」
「ええ…」
本当にそれで行くのか?こんな場面で?
「準備はいい?」
「はい」「はい」
「じゃあ…行くわよ」
「『アースウォール』」
集まった村人と見張りの間に土壁が出来上がった。
「なっなんだ?!」
「おい!まだ誰か」
予定通り驚いた二人の隙を、俺とシャーリーは見逃さなかった。
即座に後ろから近づき、首筋に木刀を叩き込む。
うっ!という声とともにまずは二人の無力化に成功した。
「敵襲だ!応戦しろ!」
その掛け声とともに、周りで物色していた奴らが一斉にこちらに向かってきた。
あれ?9人ぐらいかと思ったらそれ以上じゃね?
なんて思っていたらシャーリーが突っ込みやがった!
「ガキが調子に!」
シャーリーはそう言って攻撃してきた相手の攻撃を軽々受け流すと、正確にみぞおちと下あごに一発いれた。
こいつ強くないか?俺あんなに正確にはできないんだが。
続いてくる敵をシャーリーは次々に無力化していった。俺もそれに続いて彼女を援護するよう立ち回った。
戦ってて気づいたが、なんとなく体が軽いがおそらく先生が魔法で強化してくれていたんだろう。
そうして次々に無力化に成功していき、最後の一人を無力化した。
振り返るとヴィヴィがこちらに向かってきていた。
「二人とも怪我はない?思ったより多かったわね」
「12人ぐらいでしたか?」
「いいえ20人ね」
え?あと8人はどこに?と思ったら離れたところに拘束されていた。
「まさか先生一人で?」
「ええ。案の定よそで待機してた魔術師がいてね、魔法発動させたら位置がバレちゃって、こっちに来たからあなたたちの援護をかけながら邪魔をさせないようにしといたのよ」
流石だな、俺たち二人の援護をしながら8人相手を一人でやっていたとは…
ん?シャーリーが村のはずれを見ていた。
「どうしたシャーリー」
「ねえ、あっち」
「ん?」
そうして彼女が指を指した方を見ると、外れでも火災が起きていた。
あそこはいったい…
「家が燃えてる…」
「は?」
「なんですって?」
「パパとママが!」
そういってシャーリーが走り出した。
「アルケウス!先に彼女について行って!私はこいつらを拘束してから後を追うわ!」
「はい!」
そういって俺はシャーリーを追った。
―――
シャーリーの家に着いた。
家は激しく燃えていてとても近づけない。
「パパ!ママ!」
「待て!流石に炎が激しすぎる!」
叫びながら今にも家に突っ込んでいきそうだったシャーリーを俺は抑えた。
せめて火を消さなくては。
「うるせえなぁ、おい」
そう言いながら、炎の中から一人の男が現れた。
見た目からして明らかに盗賊なやつだ。
「あん?ガキがなんでこんな所にいやがんだ?あいつらは何やってんだ」
「パパとママをどうした!」
「ん?あの二人のガキか?」
「それならそこで寝てるぜ?ハハハ!」
そういって男のさすほうを見ると、見るも無残な二人が横たわっていた。
「かわいそうにな?抵抗せず大人しく金品を渡してれば死なずに済んだのにな?」
こいつイカれてやがるのか?どういう神経してたらあんな無残な殺し方ができる!
俺の頭には怒りが込み上げてきた。
しかしそれよりもシャーリーの方がもっと怒っていた。
フーフー!っと荒い息を立てながら、今にも突っ込みそうなほど。
「お前!」
「待ちなさい!」
そう言って突っ込みそうなシャーリーを、ヴィヴィが静止した。
「なんだ?ババアがもう一人いやがんのか、あいつらいったい何してるんだ?」
「あら?おなたのお仲間なら全員拘束済みよ?投降するなら拘束するだけで済むんだけど?」
「ほう?俺を捕まえるって?無理な話だ!」
「俺は元Bランクの冒険者だぞ?そんな俺に勝てるのか?」
元Bランク!てことは、実力はヴィヴィと同じレベルか。
「二人とも下がってなさい。ここからは私がやるわ」
いやそれは危険じゃないか?いくら現役の冒険者だからって、魔術師がこんな近い距離で戦えるのか?
「いいえ、私も戦います!」
シャーリーがそう言って前に出た。
は?俺ならまだしも、お前は木刀しかないんだぞ?くそっ!
「僕も戦います!一人より二人、二人より三人です!」
「バカ!ここは大人に」
と言い合っていたら、男が攻撃を仕掛けてきた。
それと同時にシャーリーが動いた。
「『フィジカルブースト』!」
ヴィヴィの強化魔法が3人に掛けられる。
次の瞬間、シャーリーの木刀と男の剣がぶつかり合った。
しかし、力で敵わないシャーリーが吹き飛ばされた。
その隙を俺は後ろから狙った。
男もその隙をを埋めるかの如く俺の方に振り向き攻撃してきた。
木刀と剣がぶつかった刹那。
俺の木刀はあっさり折れた…
は?なんで?シャーリーのは折れていないのに。
古いから?いやシャーリーのもカエルが使っていたやつだからそれは関係ない…
「まずは1人目」
男の剣が俺の首めがけて振られる。
「『フレアランス』」
炎の槍が俺の目の前を横切った。
しかし男はそれをぎりぎりで回避した。
「ふう、あぶねえあぶねえ」
なんてやつだ今の攻防ですべてを捌ききるのかよ。
元とはいえBランク、強くねえか?
「はあああ!」
シャーリーが攻撃を仕掛けた。
速い速度での打ち合い。
「へえガキ、なかなかやるじゃねえか。あの魔術師のサポートがあるとはいえ、その歳でここまでできるか」
まずい、俺も援護を。
?
なんだ?足が震えてる?
バキッ!!!
相手の剣を弾いたシャーリーの木刀もついに折れてしまった。
そしてシャーリーは腹にパンチを食らった。
「カハッ!」
吐血しながら吹っ飛ばされ彼女は動かなくなった。
「次はお前だ魔術師」
「シャーリーちゃん!」
「死ね『ツイン・フレアランス』」
「なめないで『ウォータウォール』」
激しい魔法の攻防が繰り広げられた。
「ちっ、やはり魔法の腕では敵わねえか」
男はそう言うと、剣での戦闘に再度切り替えた。
ヴィヴィもなんとか魔法で応戦する。
「すげえなお前、ほんとに魔術師か?近距離の戦いでここまで戦えるなんてな」
「こう見えても、ソロでBランク冒険者やってるのよ、なめないでもらえるかしら?」
とは言っているが明らかに限界が近そうだ。
そしてヴィヴィは岩に躓いて体勢を崩した。
男はいつの間にか彼女の足元を魔法で大きすぎない岩だらけにしていた。
「!、いつの間に!」
「これで二人目!」
まずい、ヴィヴィもやられる!
その瞬間、またも見たことのない記憶が流れてきた
―――
攻撃は一発
一撃で敵を屠れ
当てられないのなら、直接当てればいい
―――
俺はその記憶を見た瞬間反射で剣を振った。
すると遠くにいた男の首が飛んだのだ。
しかも俺の手には、何かを切った感触が残った。
首を失った男の体はそのまま倒れた。
死んだ。
目の前で人が死んだ。
しかも殺したのは俺か?
俺なのか…
「アルケウス!」
「え?」
「大丈夫?けがはない?」
「ええ…」
「また助けられたわね、ところで今のはどうやったの?あなたの攻撃だけ飛んできたように見えたけど、まさか転移魔術?」
何を言っているのかわからない。
俺は今何をしたんだ?
「まあとりあえずシャーリーちゃんの治療してくるからおとなしくしててね」
俺は…
俺は…
自分の手で殺したのか……?




