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第三十五話 鬼神、追う


翌朝。


ひだまり孤児院の食堂には、昨日よりさらに大きくなった札が貼られていた。


『ひだまり防護九か条』


一、かってに外へ出ない。

二、知らない石をさわらない。

三、こわかったら大人に言う。

四、アルト先輩にかってに乗らない。

五、アルト先輩に変なものを食べさせない。

六、手を洗う。

七、すーぷを飲む。

八、地面がへんだったら大人に言う。

九、声が聞こえても、すぐ門を開けない。合言葉をたしかめる。


その下に、太い字で書かれている。


『どこへ帰る?』

『ひだまりへ帰る!』


トトは、その札の前で腕を組んでいた。


いつもより真剣な顔だ。


トト「九か条……」


ガル「昨日からずっと見てるな」


トト「だって大事だから」


ユアン「覚えた?」


トト「覚えた!」


エル「じゃあ、一つ目は?」


トト「かってに外へ出ない!」


エル「二つ目」


トト「知らない石をさわらない!」


エル「三つ目」


トト「こわかったら大人に言う!」


エル「うん」


トト「俺、完璧じゃない?」


リリィ「まだ三つ」


ミリ「あと六つ」


トト「多い!」


セシリアが記録板を開いた。


セシリア「覚えることも大事ですが、守ることの方が重要です」


トト「分かってる!」


レオンは、食堂の端でスープを飲んでいた。


その表情は普段通りに見える。


だが、目だけが少し鋭い。


昨夜の黒い声石。


子どもの声を真似て、門を開けさせようとした罠。


それは、レオンの中で静かな怒りとして残っていた。


リュシアも、水晶を手元に置いたまま朝食を取っている。


フィリアは子どもたちの顔色を見ていた。


マーサは鍋の前で、いつもより少しだけ多くスープをよそっている。


マーサ「今日は、みんな無理しないこと。昨日は怖い声を聞いたからね」


ミリ「こわかった」


リリィ「猫もこわかった」


猫「……」


ガル「猫は寝てたけどな」


リリィ「寝ながら怖かった」


ユアン「器用だね」


エルは静かにスープを飲んでいた。


いつも通りに見える。


けれど、昨日から少しだけ口数が少なかった。


トトはそれに気づいた。


トト「エル、大丈夫?」


エル「うん」


トト「昨日の声、怖かった?」


エル「少し」


トト「俺も」


エルはトトを見た。


そして、小さく笑った。


「でも、トトは門を開けなかった」


トト「うん」


エル「えらかった」


トトは照れたように鼻をこすった。


「レオン兄ちゃんにも褒められた」


エル「今日は二日目?」


トト「いや、気持ちは三日目」


エル「記録上は二日目」


トト「エルまで!」


レオンは二人のやり取りを見て、ほんの少しだけ目をやわらげた。


リュシアはその横顔を見て、静かに言った。


リュシア「今日は、空も地面も大きな動きはないわ」


セシリア「昨日の声石の次に、すぐ動くとは限りませんね」


リュシア「ええ。けれど、静かな時ほど怖い」


レオン「ああ」


トト「今日は何するの?」


レオン「いつも通りだ」


トト「いつも通り?」


レオン「掃除をして、手を洗って、昼を食べる。変なものがあれば大人を呼ぶ」


マーサ「それが一番大事だよ」


トト「……分かった」


朝食後。


孤児院では、いつも通りの仕事が始まった。


マーサは台所。


フィリアは小さい子たちの体調確認。


セシリアは防護札の点検。


リュシアは昨日の声石の解析結果を王城へ送るため、書類をまとめている。


レオンは門と外壁の確認。


アルトは庭の端で見張り。


子どもたちは、食堂と庭の掃除。


トトはガルと一緒に食堂の椅子を片づけていた。


ユアンは水を運ぶ。


ミリとリリィは小さい布巾を畳んでいる。


エルは洗濯物の籠を持って、庭へ向かった。


トト「エル、重くない?」


エル「大丈夫。軽い」


トト「手伝おうか?」


エル「トトは椅子」


ガル「そうだぞ、防護隊長」


トト「隊長って呼ぶなら、もっとかっこよく!」


リリィ「椅子隊長」


ミリ「すーぷ隊長」


トト「すーぷ隊長はちょっといいかも」


セシリア「よくありません」


庭では、アルトが静かに座っていた。


空はまだ重い。


翼を広げれば飛べるかもしれない。


だが、リュシアとフィリアから飛行禁止を言われている。


アルトは不満そうに見えたが、従っている。


エルは洗濯物を物干しにかけるため、庭の端へ向かった。


そこは門から少し離れている。


孤児院の敷地内。


結界の内側。


安全なはずだった。


エル「……?」


その時、足元の地面が、ほんの少しだけ柔らかくなった。


土が沈む。


エルは立ち止まる。


昨日の八か条を思い出した。


地面がへんだったら大人に言う。


エル「レオ――」


言いかけた瞬間。


物干し台の影から、黒い布のようなものが伸びた。


それは影だった。


本物の影ではない。


黒い魔力で作られた、薄い膜。


声もなく、風もなく、エルの足元を包む。


エル「っ……!」


声が出ない。


口元に黒い紐のようなものが巻きつく。


洗濯籠が落ちた。


ばさり、と布が地面に広がる。


アルトが反応した。


ぐるるっ!


鋭い鳴き声。


トトが食堂の窓から顔を上げる。


トト「アルト先輩?」


次の瞬間、トトは見た。


庭の端。


洗濯物の影。


黒い膜に包まれて、エルの姿が沈んでいく。


トトの頭の中で、九か条が一瞬浮かんだ。


一、かってに外へ出ない。


三、こわかったら大人に言う。


八、地面がへんだったら大人に言う。


九、声が聞こえても、すぐ門を開けない。


けれど。


エルが消えようとしていた。


トト「エル!!」


叫んだ。


今度は叫んだ。


椅子を放り出して、庭へ飛び出す。


ガル「トト!」


ユアン「待って!」


レオンも、リュシアも、セシリアも、一瞬遅れて反応した。


トトは走った。


線も、注意も、全部頭から飛んでいた。


エルの手が、黒い膜の隙間から一瞬だけ出る。


トトはその手を掴んだ。


トト「離すな!」


エルの目が見開かれる。


声は出ない。


けれど、トトの手を握り返した。


その瞬間。


黒い膜が、トトの腕にも巻きついた。


トト「うわっ!?」


ガル「トト!」


アルトが翼を広げ、地面を蹴ろうとした。


だが、空の黒い膜が反応する。


庭の上空で黒い火花が散った。


アルト「――ッ!」


アルトの翼が一瞬鈍る。


リュシア「アルト、飛ばないで!」


レオンはすでに走っていた。


だが、黒い膜は早い。


エルを包み、トトを巻き込み、地面の下へ沈むように消えていく。


トト「レオン兄ちゃ――!」


その声が途切れた。


庭に残ったのは、散らばった洗濯物。


倒れた籠。


そして、地面に残る赤黒いひび割れだけだった。


一瞬。


本当に一瞬。


誰も動けなかった。


次の瞬間。


レオンの声が落ちた。


低く、静かに。


「……エル」


誰も返事をしない。


「トト」


返事はない。


ミリが泣きそうな声を出した。


ミリ「トト……?」


リリィが猫を抱きしめる。


ユアンは真っ青になっている。


ガルは拳を握って震えていた。


マーサが食堂から飛び出してきた。


「何があったんだい!」


フィリアが子どもたちを庇うように前へ出る。


セシリアは記録板を落としかけた。


リュシアの水晶が、赤黒く濁っている。


レオンは、地面のひび割れを見ていた。


静かだった。


あまりにも静かだった。


その静けさが、怖かった。


リュシア「レオン」


レオン「どこへ行った」


リュシアは地面に膝をつき、水晶をかざす。


菫色の光がひび割れに触れる。


すぐに、黒い線が西へ伸びた。


だが、途中でいくつも枝分かれしている。


リュシア「誘拐用の転移膜……地中の根と繋げてある。追跡を散らすために、偽の経路が何本もあるわ」


セシリア「王城へ連絡を――」


レオン「間に合わない」


フィリア「レオン様」


レオンはゆっくり立ち上がった。


怒鳴らない。


剣を振り上げない。


ただ、周囲の空気が変わった。


重く。


冷たく。


鋭く。


レオン「リュシア」


リュシア「……何?」


レオン「エルの魔力は、普通か」


リュシアは答えようとして、止まった。


水晶の中に、かすかな光が残っている。


エルのいた場所。


そこに、黒い魔力ではない、別の光があった。


淡い金色。


あまりに大きい。


あまりに静か。


普段は深く眠っていて、誰にも気づかれなかったもの。


リュシアの顔色が変わった。


「……嘘」


セシリア「リュシアさん?」


リュシア「エルちゃんの魔力残滓……量が、桁違いよ」


フィリア「桁違い?」


リュシア「今まで完全に内側へ閉じていた。外へ漏れていなかったから分からなかった。でも、黒い膜に触れた瞬間、少しだけ表に出た」


マーサ「つまり、エルは……」


リュシアは唇を噛んだ。


「膨大な魔力を持っている」


食堂の空気が凍る。


ガル「エルが……?」


ユアン「そんな……」


ミリ「エル……」


リリィ「知らなかった」


レオンは静かに言った。


「俺たちも知らなかった」


リュシア「ええ」


レオン「多分黒玻璃は知っていたのだろう…」


リュシアは水晶を見た。


黒い根が、エルの魔力残滓に反応している。


ただ誘拐したのではない。


最初から、エルを狙っていた。


トトは、それを見て追いかけた。


そして巻き込まれた。


リュシア「……狙いはエルちゃん。トトくんは予定外のはず」


セシリア「ですが、一緒に連れ去られた」


フィリア「早く追わないと」


レオンは目を閉じた。


一呼吸。


それだけだった。


次に目を開けた時、そこにいたのは、いつもの孤児院のレオンではなかった。


かつて魔境を踏破した男。


黒晶獣を斬り伏せた男。


静かに怒った、灰剣のレオンだった。


レオン「使う」


リュシアが息を呑んだ。


「レオン、まさか」


レオン「あれしかない」


リュシア「あなた、あの魔法は嫌っていたでしょう」


レオン「ああ」


セシリア「何の魔法ですか」


リュシアは低い声で答えた。


帰巣追印きそうついいん


フィリア「帰巣……?」


リュシア「帰る場所との繋がりを辿る追跡魔法よ。普通は家畜や使い魔に使う程度のもの。でも、レオンが使うと違う」


セシリア「違う?」


リュシアはレオンを見た。


「人の“帰りたい場所”を無理やり手繰る。本人の恐怖、声、記憶、匂い、約束。全部を拾って道にする魔法」


マーサ「……嫌な魔法だね」


リュシア「だからレオンは嫌っている。相手の心に土足で踏み込むようなものだから」


レオン「トトとエルは、ここへ帰ろうとしている」


リュシア「……ええ」


レオン「なら、辿れる」


フィリア「危険は?」


リュシア「魔法そのものより、拾うものが重い。恐怖や苦しさをそのまま感じることになる」


レオン「構わん」


リュシア「レオン」


レオン「構わん」


その声に、誰も反論できなかった。


だが、セシリアだけが震える声で言った。


「マスター、一人で行くつもりですか」


レオンはセシリアを見た。


「追跡は俺が先行する」


セシリア「それは、一人で背負うことです」


レオン「……」


セシリア「陛下にも、言われたはずです」


リュシアが前へ出た。


「私は魔力経路を読む。あなたの追跡を補助できる」


フィリア「私は残って子どもたちを守ります。でも、追跡隊には医療用の護符を持たせます」


マーサ「私はここを守る。帰ってくる場所を空にしない」


アルトが低く鳴いた。


ぐるる。


飛べない。


だが、行く気はある。


レオンはアルトを見た。


「空は使えない。地上で来い」


アルトは翼をたたみ、鋭い目でうなずくように頭を下げた。


ガルが震える声で言った。


「俺たちは……」


レオン「ここにいろ」


ガル「でも!」


レオン「ここを守れ」


ガルは唇を噛んだ。


ユアンが小さくうなずく。


「……小さい子を一人にしない」


リリィ「門を開けない」


ミリ「合言葉」


ガルは拳を握ったまま、うなずいた。


「分かった」


レオンは地面のひび割れの前に膝をついた。


懐から、小さな札を取り出す。


それは、トトが以前くれた札だった。


『またかえる』


少し汚れている。


けれど、ずっと持っていた。


マーサが息を呑む。


セシリアの目が揺れる。


レオンは札を地面に置いた。


そして、右手の指先を軽く噛む。


血が一滴、札に落ちた。


フィリア「レオン様」


レオン「傷ではない」


フィリア「それでも後で確認します」


レオン「ああ」


レオンは低く唱えた。


「帰る場所を知る者よ」


札が淡く光る。


「戻る声を失った者よ」


ひび割れの奥で、黒い魔力が震える。


「道を閉ざされ、名を呼べぬ者よ」


トトの声が、かすかに聞こえた気がした。


――レオン兄ちゃん。


エルの息遣いも。


怖さを押し殺すような、小さな震えも。


レオンの目が細くなる。


怒りではない。


痛みに似たものを、奥へ沈めた目だった。


「ひだまりへ帰れ」


札から光が伸びた。


細い金色の糸。


それは地面のひび割れへ入り、黒い根の枝分かれを次々に切り分けていく。


偽物の道。


罠の道。


古い水路へ誘導する道。


廃塔へ続く道。


その中に一つだけ。


かすかに震える、本物の道があった。


レオン「見つけた」


同時に。


レオンの体から、闘気が噴き上がった。


第1段階ではない。


第2段階でもない。


段階を踏まない。


最初から。


全力で。


レオン「第7段階――」


空気が軋む。


庭の草が伏せる。


窓が震える。


子どもたちが息を呑む。


白銀のアルトが身を低くする。


リュシアの髪が、闘気の風に揺れた。


レオンの周囲に、鬼のような圧が立ち上がる。


だが、荒れていない。


怒りに任せた力ではない。


一点へ向けて研ぎ澄まされた、静かな鬼気。


レオン「鬼神解放きじんかいほう


庭の空気が、変わった。


フィリアが思わず言う。


「最初から第7……」


レオンは立ち上がった。


体に揺らぎはない。


息も乱れていない。


だが、全身から放たれる圧だけが、明らかに別物だった。


ガルが震えながら呟く。


「これが……レオン兄ちゃんの本気……?」


リュシアが首を振って言う。


リュシア「いいえ、まだまだ本気ではないけど怒りだけは本気よ」


レオンは地面に伸びる金色の糸を見た。


「リュシア、経路を固定しろ」


リュシア「分かったわ」


「セシリア、王城へ連絡。グレンに西水路跡の封鎖を変更させろ。本命は北西地下道だ」


セシリア「承知しました!」


「フィリア、ここを頼む」


フィリア「必ず守ります」


「マーサ先生」


マーサ「言わなくていい。ここは任せな」


レオンはうなずいた。


アルトが隣に来る。


空は使えない。


だが、グリフォンの脚力は馬より速い。


地上でも十分に追える。


リュシアがアルトの横へ立つ。


「私も行く」


レオン「危険だ」


リュシア「背中を守る魔法使いよ。忘れた?」


レオンは一瞬だけ黙った。


そして言った。


「頼む」


リュシアは微笑まなかった。


今は笑う時ではない。


ただ、真剣にうなずいた。


「ええ」


その時、ミリが震える声で言った。


ミリ「トト、エル、帰る?」


レオンは振り返った。


ミリは泣きそうだった。


リリィも、猫を抱きしめている。


ユアンは唇を噛んでいる。


ガルは涙をこらえている。


マーサは全員の肩を抱いていた。


レオンは静かに答えた。


「帰す」


その声に、迷いはなかった。


ミリ「ひだまりへ?」


レオン「ああ」


レオンは、トトの札を握った。


『またかえる』


その文字が、金色に光っている。


「ひだまりへ帰す」


アルトが低く吠えた。


ぐるる、ではない。


獣の咆哮だった。


庭の空気が震える。


レオンはアルトへ飛び乗った。


リュシアも後ろへ乗る。


今回は、いつものようなからかいはない。


ただ、しっかりとレオンの背に手を添えた。


セシリアが叫ぶ。


「マスター、追跡経路固定。北西地下道、旧排水門方面です!」


リュシア「黒い根の流れと一致するわ!」


レオン「行くぞ」


アルトが地面を蹴った。


飛ばない。


だが、白銀の体が矢のように走る。


門の外へ。


王都の路地へ。


黒玻璃の影を追って。


レオンは振り返らなかった。


振り返れば、子どもたちの顔が見える。


泣きそうな顔。祈る顔。待つ顔。


だから、前だけを見る。


金色の糸は、地面の下を走っている。


遠く。暗い場所へ。


トトとエルのいる場所へ。


一方、その頃。


暗い地下道。


冷たい石の床の上で、トトは目を覚ました。


腕が動かない。


黒い紐のようなものに縛られている。


隣には、エルがいた。


エル「……トト」


トト「エル!」


エルの口元の拘束は外れていた。


だが、顔色が悪い。


トト「大丈夫!?」


エル「うん……でも、体が変」


トト「変?」


エルは自分の胸元を押さえた。


そこから、淡い金色の光が漏れていた。


トトは目を見開く。


「エル、光ってる……」


エル「分からない。怖い」


トトは自分も怖かった。


でも、エルがもっと怖がっている。


だから、言った。


「大丈夫」


エル「……」


トト「レオン兄ちゃんが来る」


エル「分かるの?」


トトは少しだけ笑った。


「分かる」


黒い影が、二人の前で揺れた。


細い手足。


低い姿勢。


額の小さな黒い角。


第二号の欠片が、暗闇の奥から二人を見ていた。


その奥で、白い仮面の男の声が響く。


ラザル「目覚めかけているな。やはり、その少女は器だ」


トト「エルに何する気だ!」


ラザル「君は予定外だ、少年」


トト「予定外でもいる!」


ラザルは小さく笑った。


「そうか。ならば、君は餌になる」


トトは歯を食いしばった。


怖い。


ものすごく怖い。


でも、九か条を思い出す。


声が聞こえても、すぐ信じない。


怖かったら、大人に言う。


でも、今は大人がいない。


だから。


トトは、エルにだけ聞こえる声で言った。


「どこへ帰る?」


エルは泣きそうな顔で、でも、ちゃんと答えた。


「ひだまりへ帰る」


トトはうなずいた。


「うん。帰ろう」


暗い地下道の奥。


黒い結晶が赤黒く光る。


その光に、エルの金色の魔力がかすかに反応する。


ラザルは満足そうに笑った。


だが、その笑みは長く続かなかった。


遠くから。


地鳴りのような音が聞こえた。


それは、足音だった。


白銀の獣が、石畳を砕く勢いで駆けてくる音。


そして、その上に乗る男の気配。


ラザルの仮面の奥の目が、細くなる。


「……早いな」


暗闇の向こうから、鬼のような闘気が迫っていた。


第7段階。


最初から全力のレオンが、二人を取り戻すために迫っていた。


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