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第三十話 空を駆ける白銀


翌朝。


ひだまり孤児院の庭には、いつもなら存在しないものがあった。


大きな翼。


白銀の羽。


鷲の頭。


獅子の体。


黄金の瞳。


レオンの古い相棒であり、ペットでもあるグリフォン。


アルトである。


アルトは庭の端で丸くなり、朝日を浴びながら目を閉じていた。


その周りには、子どもたちが集まっている。


ただし、レオンに言われているため、少し離れた場所から見ている。


トト「……かっこいい」


ガル「でかいな」


ユアン「昨日より大きく見える」


エル「寝てても強そう」


ミリ「もふ」


リリィ「猫、見て」


猫「……」


猫はリリィの後ろに隠れていた。


昨日からずっと、アルトとは一定の距離を保っている。


リリィ「猫、負けてない」


ガル「いや、完全に負けてる」


リリィ「距離を取ってるだけ」


ユアン「戦略的撤退?」


リリィ「そう」


トトは胸元から小さな木札を取り出した。


そこには、少し曲がった字でこう書かれている。


『アルト先輩』


ガル「お前、それ作ったのか」


トト「作った!」


ユアン「昨日、駄目って言われてなかった?」


トト「付けるのは駄目って言われた。作るのはまだ何も言われてない!」


エル「危ない考え」


リリィ「いつもの」


ミリ「先輩札」


トト「でも、今日は勝手に付けない。ちゃんと聞く」


ガル「おお」


ユアン「成長してる」


エル「少し」


トト「少しって何!?」


その時、食堂の扉が開いた。


レオン・ガルディアが出てくる。


いつもの黒い服の上に、外套を羽織っている。


腰には剣。


その後ろには、セシリア。


記録板を持っている。


さらに、フィリア。


健康管理表を持っている。


そして、リュシア。


今日も黒と紫を基調とした魔法使いのローブをまとっている。


朝の光を受けると、ローブに刺繍された星の模様が淡く光った。


トトが小声で言う。


トト「リュシアさん、朝でも大人っぽい」


ガル「分かる」


セシリア「また聞こえています」


リュシア「今日も褒め言葉として受け取っておくわ」


フィリア「朝から余裕ですね」


リュシア「ええ。空を飛ぶ日は、気分がいいの」


フィリア「空を飛ぶ前には、体調確認が必要です」


リュシア「もちろん。治癒師さんに逆らうほど愚かではないわ」


フィリア「よろしいです」


トトが小声で言った。


トト「今日は大人の戦い、ちょっと仲良し?」


ユアン「昨日より平和」


エル「でも少し怖い」


レオン「何を見ているんだ、お前たちは」


トト「大人の空気」


レオン「見るな」


セシリア「見えてしまうものです」


レオン「そうなのか?」


全員「そう」


レオン「……分からん」


リュシアはくすりと笑った。


「そこがレオンらしいのよ」


フィリア「本当に」


セシリア「鈍感記録、更新です」


レオン「朝から記録するな」


アルトが目を開けた。


そして、レオンを見つけると、低く鳴いた。


ぐるる。


レオンはアルトの前へ行き、その額に手を置く。


レオン「よく眠れたか」


アルト「……」


アルトは目を細めた。


それだけで、機嫌がいいことが分かる。


トトはそろそろと手を上げた。


トト「レオン兄ちゃん」


レオン「なんだ」


トト「アルト先輩に札を作りました」


レオン「駄目だ」


トト「まだ見せただけ!」


レオン「首に下げるな」


トト「分かってる! じゃあ、アルトの寝る場所の近くに置くのは?」


レオンは少しだけ考えた。


アルトを見る。


アルトは木札をじっと見ている。


レオン「アルトが嫌がらないなら、柵に掛けるだけならいい」


トト「やった!」


セシリア「許可を取った点は成長です」


マーサが食堂の入口から顔を出した。


マーサ「勝手に付けなかっただけ偉いじゃないか」


トト「俺、成長してる!」


ガル「調子に乗るなよ」


トト「はい!」


返事は早かった。


だが、顔はやはり調子に乗っていた。


トトは庭の柵に『アルト先輩』の札を掛けた。


アルトはそれを見たあと、なぜかトトの髪をまた軽くつついた。


トト「また!?」


レオン「気に入られているな」


トト「俺、髪をつつかれる係なの!?」


ミリ「アルト先輩、トト好き」


リリィ「猫はつつかないで」


猫「……」


アルトは猫を見た。


猫はさらにリリィの後ろへ隠れた。


レオン「アルト、やめておけ。猫が固まっている」


アルトは少しだけ首をかしげた。


その仕草に、ミリが小さく拍手した。


ミリ「かわいい」


セシリア「巨大な魔獣に対する感想としては大胆ですね」


リュシア「でも、アルトは可愛いわよ」


フィリア「健康状態もよさそうです。羽艶も良いですね」


レオン「そこまで見るのか」


フィリア「健康管理対象ですので」


レオン「本当にアルトも対象になったのか」


フィリア「はい」


アルトはなぜか姿勢を正した。


トト「アルト先輩、健康診断受けるの?」


フィリア「必要なら」


トト「俺よりえらい」


ガル「お前は健康診断で逃げるもんな」


トト「逃げてない! 急いで歩いてるだけ!」


セシリア「逃走です」


朝食後、レオンは食堂で今日の予定を告げた。


レオン「今日は、アルトと空から王都の外を確認する」


食堂が静かになった。


トトのスプーンが止まる。


ガルも顔を上げる。


ユアンとエルも、少しだけ不安そうにした。


ミリは首をかしげる。


ミリ「そら?」


リリィ「飛ぶ?」


レオン「ああ」


トト「どれくらい?」


レオン「昼前に出て、夕方前には戻る」


トト「ほんと?」


レオン「ああ」


トト「また三日来ないとかじゃない?」


レオンはトトを見た。


前の事件を思い出したのだろう。


トトの顔には、少しだけ不安があった。


レオンは静かに答えた。


「夕飯までには戻る」


トト「約束?」


レオン「ああ。約束だ」


マーサ「なら、夕飯は多めに作っておこうかね」


レオン「助かる」


ミリ「アルトの肉も」


マーサ「ああ、アルトの分もね」


リリィ「猫の魚も」


マーサ「猫の分も少しだけだよ」


猫が少しだけ顔を上げた。


セシリア「本日の行動予定を確認します。同行者はマスター、リュシアさん。地上支援として私。治療支援としてフィリアさん。孤児院待機はマーサ先生と子どもたち」


トト「俺は?」


セシリア「待機です」


トト「えー!」


レオン「空の偵察に子どもは連れていかない」


トト「俺、アルト先輩に気に入られてるのに!」


レオン「気に入られているから連れていくわけではない」


ガル「空で髪つつかれたら落ちるぞ」


トト「怖っ!」


ユアン「やめた方がいい」


エル「地面がいい」


ミリ「地面すーぷ」


リリィ「空すーぷは危険」


セシリア「また新語が増えました」


リュシア「空すーぷ、少し綺麗ね」


レオン「綺麗にするな」


フィリアはレオンの前に立った。


フィリア「レオン様、空中移動中の注意です」


レオン「ああ」


フィリア「無理に高度を上げないこと」


レオン「ああ」


フィリア「魔力異常を感じたら、すぐリュシアさんに伝えること」


レオン「ああ」


フィリア「敵影を見つけても、単独で突っ込まないこと」


レオン「偵察だけだ」


フィリア「本当に?」


レオン「ああ」


セシリア「記録します。『本日は偵察のみ』」


リュシア「私も聞いたわ」


マーサ「私も聞いたよ」


トト「俺も!」


ミリ「聞いた」


リリィ「猫も」


猫「……」


レオン「猫まで証人にするな」


だが、証人は多い方がいい。


なぜなら、レオンは必要だと判断すれば、すぐ無理をするからだ。


昼前。


孤児院の庭で、出発準備が始まった。


アルトの背には、専用の鞍が取り付けられる。


普通の馬用とは違う。


グリフォンの翼の動きを邪魔しないように作られた、軽くて丈夫な鞍だ。


革には古い傷がいくつもある。


それだけで、長い旅を重ねてきたことが分かった。


トトは目を輝かせた。


トト「かっこいい……!」


ガル「本当に冒険者って感じだな」


ユアン「これで空を飛ぶんだ」


エル「怖くないのかな」


リュシア「最初は怖いわよ」


トト「リュシアさんも怖かったの?」


リュシア「ええ。初めて乗った時は、レオンの背中をずっと掴んでいたわ」


トト「背中!」


ガル「また大人の話か?」


リュシア「残念。これは本当に落ちないためよ」


レオン「あの時は突風が強かった」


リュシア「でも、少しだけ安心もしていたわ」


レオン「アルトが安定していたからな」


リュシア「あなたがいたからよ」


食堂ではないのに、空気が止まった。


セシリアがすっと記録板を開く。


フィリアが静かにレオンを見る。


トトが口を開ける。


レオンはアルトの鞍を確認しながら言った。


「俺は何もしていない」


リュシア「そういうところよ」


セシリア「鈍感記録」


レオン「今のもか」


トト「今のもだよ!」


ガル「さすがに分かるだろ」


レオン「何がだ」


全員「……」


レオン「また黙る」


ミリ「恋すーぷ」


リリィ「空味」


レオン「味にするな」


準備が終わると、レオンが先にアルトへ乗った。


動作は自然だった。


まるで椅子に座るように、当然のように鞍へ収まる。


次にリュシアが乗る。


リュシアはレオンの後ろに座り、迷いなく腰に手を回した。


フィリアがぴくりと動いた。


セシリアが記録板を構えた。


トトが目を見開いた。


ガルが小声で言う。


ガル「これは……」


ユアン「必要?」


エル「落ちないため?」


リュシア「落ちないためよ」


トト「ほんとに?」


リュシア「半分は」


フィリア「半分?」


リュシア「安全のためです」


フィリア「残り半分は?」


リュシア「秘密」


トト「大人だ!」


レオン「しっかり掴まれ。離すな」


リュシア「ええ。離さないわ」


また空気が止まる。


レオンは本気で安全確認をしているだけだった。


リュシアは少しだけ楽しんでいた。


そして周囲は、全員それを分かっていた。


ただ一人、レオン以外は。


レオン「行ってくる」


マーサ「気をつけて行ってきな」


フィリア「偵察だけですからね」


セシリア「夕方前に帰還予定。記録済みです」


トト「レオン兄ちゃん!」


レオン「なんだ」


トト「約束だからね!」


レオン「ああ。夕飯までには帰る」


ミリ「すーぷ」


レオン「分かっている」


アルトが翼を広げた。


大きな影が庭に広がる。


風が巻き起こる。


子どもたちの髪が揺れる。


洗濯物が大きく膨らむ。


猫が完全にリリィの腕の中へ逃げ込んだ。


レオン「アルト」


アルト「――」


低く鳴く。


次の瞬間、アルトは地面を蹴った。


白銀の翼が空を打つ。


風が弾ける。


巨体がふわりと浮き上がり、そのまま空へ駆け上がった。


トト「飛んだあああ!」


ガル「すげぇ!」


ユアン「速い……!」


エル「本当に空へ……」


ミリ「そら」


リリィ「猫、飛ばない」


猫「……」


空へ上がると、王都が小さく見えた。


屋根の連なり。


王城の白い塔。


ギルド本部の大きな屋根。


そして、ひだまり孤児院の庭。


そこにいる子どもたちが、豆粒のように見える。


リュシアはレオンの背中越しに下を見た。


リュシア「久しぶりね、この景色」


レオン「ああ」


リュシア「あなたの背中も、久しぶり」


レオン「落ちるなよ」


リュシア「……本当に変わらないわね」


レオン「何がだ」


リュシア「何でもない」


アルトは風をつかみ、王都の外へ向かった。


空は広い。


地上を歩けば半日かかる距離も、アルトならすぐだ。


リュシアは魔力感知の小さな結晶を取り出した。


菫色の水晶。


その中に、淡い星の光が揺れている。


リュシア「西へ少し。黒い魔力の残滓があるわ」


レオン「西方魔導塔の方向か」


リュシア「ええ。でも、塔そのものではない。もっと手前ね」


アルトが翼を傾ける。


雲の下へ降りる。


森。


丘。


古い街道。


小さな廃村。


そのあたりで、リュシアの水晶がかすかに黒く濁った。


リュシア「ここ」


レオン「見えるか?」


リュシア「下の古い見張り塔。屋根が崩れている場所」


レオンは目を細めた。


確かに、古い見張り塔があった。


今は使われていないようだ。


石壁には蔦が絡まり、周囲には人の気配がない。


だが。


塔の影に、黒いものが光った。


結晶。


小さい。


だが、間違いなく黒い結晶だった。


レオン「降りるか」


リュシア「待って」


リュシアはレオンの肩越しに、さらに魔力を探った。


水晶の中で、星の光が細く揺れる。


「罠の可能性があるわ。今は地上に降りない方がいい」


レオン「分かった」


リュシア「珍しいわね。すぐ従うなんて」


レオン「今日は偵察だけだと約束した」


リュシアは少し驚いたように目を瞬いた。


それから、柔らかく笑った。


「そう。約束したのね」


レオン「ああ」


リュシア「誰と?」


レオン「トトと。マーサ先生と。フィリアと。セシリアと。子どもたちと」


リュシア「たくさんね」


レオン「ああ」


リュシアは少しだけ、レオンの背中に額を寄せた。


「いいことだわ」


レオン「どうした」


リュシア「風が冷たいだけ」


レオン「外套を貸すか」


リュシア「……本当に、そういうところよ」


レオン「?」


リュシアは小さく笑いながら、水晶を掲げた。


「記録だけ取るわ。魔力の流れ、方角、濃度。これで十分」


レオン「任せる」


リュシアが短い詠唱を唱える。


星の光が水晶からこぼれ、空中に小さな魔法陣を描く。


その光が、廃塔の周囲をなぞる。


黒い結晶は反応した。


一瞬だけ、赤黒い光を放つ。


リュシアの表情が引き締まる。


「やっぱり。王都の黒角第三号と同じ系統。でも、これは中継点ね」


レオン「中継点?」


リュシア「魔力を集める石。大きな本体ではないわ」


レオン「では、近くに何かあるな」


リュシア「ええ。けれど今は近づかない」


レオン「ああ」


アルトが低く鳴いた。


まるで、危険を感じ取ったように。


レオンはアルトの首を軽く叩いた。


「分かっている。帰るぞ」


リュシア「ええ」


アルトは大きく旋回した。


その時、廃塔の影の黒い結晶が、わずかに震えた。


まるで、空を飛ぶレオンたちを見ていたかのように。


だが、追ってくるものはなかった。


戦闘はない。


今日は偵察だけ。


約束は守られた。


夕方前。


ひだまり孤児院の庭では、子どもたちがずっと空を見ていた。


トトは何度も門と空を行ったり来たりしている。


ガル「落ち着け」


トト「落ち着いてる!」


ユアン「歩きすぎ」


エル「地面、減る」


ミリ「そら、まだ」


リリィ「猫、眠い」


猫はすでに寝ていた。


マーサは夕飯の準備をしながら、時々外を見る。


フィリアは薬箱を確認している。


セシリアは予定時刻を見ている。


トト「遅くない?」


セシリア「予定より少し早いくらいです」


トト「早いのに遅く感じる!」


フィリア「待つ側はそういうものです」


マーサ「だから、帰ってきた時の準備をするんだよ」


トト「準備?」


マーサ「手を洗う。皿を並べる。スープを温める」


トトは少し黙った。


それから、うなずいた。


「分かった」


トトは食堂へ戻り、皿を並べ始めた。


ガルも手伝う。


ユアンとエルも続いた。


ミリはスプーンを並べる。


リリィは猫の皿をなぜか並べた。


セシリア「猫の皿は必要ですか?」


リリィ「猫も待ってた」


猫「……」


その時、外から風の音が聞こえた。


ばさり。


ばさり。


トトが顔を上げる。


「来た!」


全員が庭へ出る。


空から白銀の影が降りてくる。


アルトだ。


その背に、レオンとリュシアがいる。


アルトは庭に静かに着地した。


朝よりもずっと丁寧な着地だった。


まるで、子どもたちを驚かせないようにしているみたいに。


トト「おかえり!」


ミリ「おかえり」


リリィ「帰還」


ガル「本当に夕飯前だ」


ユアン「約束守った」


エル「うん」


レオンはアルトから降りた。


リュシアも続く。


フィリアがすぐに近づく。


フィリア「怪我は?」


レオン「ない」


リュシア「私もないわ」


セシリア「戦闘は?」


レオン「していない」


セシリア「本当に?」


リュシア「本当よ。偵察だけ」


フィリア「魔力異常は?」


リュシア「少し見つけたわ。あとで報告する」


トトがレオンの前に立った。


「約束、守ったね」


レオン「ああ」


トト「偉い!」


レオン「俺が褒められるのか」


マーサ「約束を守ったなら褒められるよ」


ミリ「レオン、成長」


リリィ「猫より」


レオン「なぜ猫と比べる」


アルトが低く鳴いた。


まるで、レオンを褒めているようだった。


トト「アルト先輩も褒めてる!」


セシリア「記録します」


レオン「するな」


夕飯の時間。


食堂には、いつものようにスープの匂いが満ちていた。


レオンとリュシアは、偵察で見つけた黒い結晶の中継点について、大人たちに簡単に報告した。


廃塔。


黒い結晶。


魔力の中継点。


王都の外にも広がり始めている黒玻璃の使徒の痕跡。


話は重かった。


だが、今日のレオンは約束通り帰ってきた。


それだけで、子どもたちは少し安心していた。


トト「次も、偵察だけなら帰ってくる?」


レオン「ああ。約束すればな」


トト「じゃあ、毎回約束して」


レオンは少しだけ黙った。


そして、静かにうなずいた。


「分かった。できる限り、約束する」


マーサ「できる限り、じゃなくて、守る努力をするんだよ」


レオン「ああ」


リュシア「昔のあなたなら、そんな約束はしなかったわ」


レオン「そうか」


リュシア「ええ。今のあなたは、ちゃんと帰ることを考えている」


レオンはスープを見た。


湯気が上がっている。


子どもたちの声。


マーサの足音。


フィリアの視線。


セシリアの記録板。


リュシアの穏やかな笑み。


外では、アルトが肉を食べている。


レオン「帰る場所があるからな」


食堂が少し静かになった。


トトが嬉しそうに笑う。


「じゃあ、ここがレオン兄ちゃんの帰る場所?」


レオンは一瞬だけ考えた。


それから、少しだけ照れたように言った。


「……夕飯を食べる場所だ」


マーサ「そういうことにしておくよ」


リュシアはその横顔を見て、優しく微笑んだ。


「本当に、いい場所ね」


フィリア「はい」


セシリア「記録します。マスター、帰る場所を再確認」


レオン「記録するな」


トト「俺も書く!」


レオン「書かなくていい」


ミリ「帰るすーぷ」


リリィ「アルトも」


アルトが庭から、ぐるると鳴いた。


今度は本当に、同意しているように聞こえた。


その夜。


ひだまり孤児院では、新しい約束ができた。


レオンが空へ行く時は、帰る時間を伝えること。


偵察だけなら、偵察だけにすること。


帰ったら、ちゃんとスープを飲むこと。


そして、アルトの『第0段階』は肉であること。


セシリアは最後の一つを記録しようとして、少し迷った。


セシリア「……これは記録すべきでしょうか」


レオン「するな」


トト「して!」


マーサ「まあ、献立表には書いておこうかね」


フィリア「アルトの健康管理にも必要です」


リュシア「ふふ。アルトまでひだまりの一員ね」


庭の月明かりの下で、白銀のグリフォンが翼をたたんで眠り始める。


空を駆ける守り手は、今日も静かに孤児院を見守っていた。


黒玻璃の影は、確かに外で広がっている。


だが、ここには帰る場所がある。


温かいスープがある。


待っている声がある。


そして、空から戻ってくる翼がある。


トトは寝る前、窓から庭のアルトを見て、小さく言った。


トト「アルト先輩、明日もよろしくね」


アルトは目を閉じたまま、低く鳴いた。


ぐるる。


それはまるで。


「任せろ」


そう言っているようだった。


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