第二十八話 帰ってきた星の魔法使い
王子ルカのギルド見学希望。
その手紙が届いてから、ひだまり孤児院では妙な空気が流れていた。
原因はもちろん、トトである。
トト「俺、王子様のギルド見学の先輩なんだよね」
ガル「昨日から何回言うんだよ」
トト「五回目!」
ユアン「自分で数えてる」
エル「調子に乗ってる」
ミリ「先輩」
リリィ「猫の後輩」
トト「なんで猫の方が先輩なの!?」
レオン・ガルディアは、食堂の端でスープを飲んでいた。
王城からの手紙を読んだあと、まだ眉間のしわが戻っていない。
セシリアは隣で記録板を開いている。
セシリア「王子殿下のギルド見学に関して、警備計画、見学経路、昼食時間、休憩場所、緊急時避難経路を再確認します」
レオン「昨日確認した」
セシリア「王族ですので」
レオン「三回目だ」
セシリア「王族ですので」
レオン「便利な言葉だな」
トトが胸を張る。
トト「俺も先輩として確認する!」
レオン「お前は調子に乗るな」
トト「はい!」
返事だけは早い。
だが、顔は完全に調子に乗っていた。
マーサ「トト」
トト「はい!」
マーサ「先輩なら、まず皿を運びな」
トト「先輩、皿運びます!」
ガル「ただの手伝いだろ」
ミリ「皿先輩」
リリィ「皿の王」
トト「なんか弱そう!」
そんな、いつも通りの朝だった。
本当に、いつも通りだった。
そのはずだった。
玄関の鐘が鳴るまでは。
からん。
澄んだ音が、孤児院の中に響いた。
ミナが立ち上がる。
ミナ「見てきますね」
少しして、ミナが戻ってきた。
だが、顔が少し赤い。
そして、少し困っている。
マーサ「どうしたんだい?」
ミナ「お客様です。えっと……レオンさんに」
レオン「俺に?」
セシリア「王城からですか?」
ミナ「いえ。女性の方です」
食堂の空気が、ぴたりと止まった。
フィリアの手が、健康管理表の上で止まる。
トトの目が輝く。
ガルがにやっとする。
ユアンとエルは、静かにレオンを見た。
レオン「女性?」
ミナ「はい。すごく綺麗な方で……その……」
ミナは少し言いにくそうにした。
「大人っぽい方です」
トト「大人っぽい?」
ガル「なんだそれ」
リリィ「大人」
ミリ「おとなすーぷ?」
セシリア「スープから離れてください」
その時、玄関の方からゆっくりと足音が近づいてきた。
こつ、こつ、こつ。
軽い音なのに、不思議と存在感がある。
食堂の入口に、その女性が現れた。
長い赤紫色の髪。
ゆるく波打つ髪が、肩から胸元へ流れている。
瞳は深い菫色。
身にまとっているのは、黒を基調にした魔法使いのローブ。
ただし、よくある地味な研究者のローブではない。
腰の細さが分かるように仕立てられ、胸元や肩の線も上品に整えられている。
露出が多いわけではない。
けれど、立っているだけで大人の色気があった。
背も高く、姿勢も綺麗。
そして、何よりも笑顔が余裕たっぷりだった。
女性「久しぶりね、レオン」
食堂の全員がレオンを見た。
レオンは珍しく、少しだけ目を丸くした。
レオン「……リュシア」
女性は楽しそうに笑った。
リュシア「覚えていてくれて嬉しいわ」
レオン「忘れるわけないだろう」
その一言で、食堂の空気がさらに止まった。
フィリアの笑顔が固まった。
セシリアの記録板が開いた。
トトの口が半分開いた。
ガルが小声で言う。
ガル「おい、なんか始まったぞ」
ユアン「何が?」
エル「大人のやつ」
ミリ「おとな」
リリィ「猫も見てる」
猫は机の下から、じっとリュシアを見ていた。
レオンは周囲の様子に気づかず、普通に紹介した。
レオン「昔の仲間だ。リュシア・アルヴェイン。元Sランク冒険者で、魔法使いだ」
トト「Sランク!?」
ガル「まじかよ」
ユアン「レオン兄ちゃんの昔の仲間……」
エル「すごい人」
セシリア「リュシア・アルヴェイン……蒼星の魔導士、ですか?」
リュシア「あら、知ってくれているの?」
セシリア「広域魔法、結界術、魔力解析において王国上位。特に星属性魔法の使い手として有名です」
トト「星属性!?」
ミリ「ほし」
リリィ「猫、星好き」
リュシアは子どもたちへ、優雅に一礼した。
リュシア「はじめまして。リュシアよ。昔、レオンと一緒にいろんな場所を旅していたの」
トト「レオン兄ちゃんと!?」
リュシア「ええ。雪山も、魔境も、竜の巣も、地下迷宮も」
ガル「すげぇ……」
トト「じゃあ、レオン兄ちゃんの昔を知ってるの!?」
リュシア「もちろん。いっぱい知っているわ」
レオン「余計なことは言うな」
リュシア「余計なことほど面白いのに?」
レオン「言うな」
リュシアは口元に指を当てて笑った。
その仕草が妙に色っぽい。
トトは思わずガルに小声で言った。
トト「なんか、すごい大人の女の人だ」
ガル「分かる」
ユアン「声、大きい」
リュシア「褒め言葉として受け取っておくわ」
トト「聞こえてた!」
セシリア「この距離なら聞こえます」
フィリアが一歩前に出た。
フィリア「はじめまして。王都治療院の治癒師、フィリア・ローレンスです。現在、ひだまり孤児院で健康管理を担当しています」
リュシアはフィリアを見た。
フィリアもリュシアを見た。
二人とも笑っている。
だが、食堂の温度が少し下がった気がした。
リュシア「よろしく、フィリアさん。レオンの健康管理をしているのね」
フィリア「はい。レオン様は無茶をしがちなので」
リュシア「でしょうね。昔からよ」
フィリア「昔から、ですか」
リュシア「ええ。昔から」
フィリア「そうですか」
リュシア「そうなの」
トトが小声で言う。
トト「何これ」
ガル「分かんねぇけど怖い」
ユアン「戦闘じゃないのに怖い」
エル「魔法より怖い」
セシリア「記録します」
レオン「何をだ」
セシリア「大人の空気です」
レオン「空気を記録するな」
リュシアはレオンの方へ歩いた。
そして、当たり前のようにレオンの隣に立つ。
距離が近い。
かなり近い。
肩が触れそうなほど近い。
レオン「近いぞ」
リュシア「あら、昔はもっと近かったじゃない」
食堂がざわついた。
トト「もっと近い!?」
ガル「おい」
フィリア「……昔は?」
レオン「戦闘中の話だ。前衛と後衛で距離を詰める必要があった」
リュシア「そうね。あなたの背中、とても守りやすかったわ」
レオン「助かった」
リュシア「本当に、あなたって変わらないのね」
レオン「そうか?」
リュシア「ええ。鈍いところが特に」
レオン「鈍い?」
リュシア「そう」
セシリア「同意します」
フィリア「同意します」
マーサ「まあ、そうだね」
トト「俺も!」
レオン「なぜ全員同意する」
ミリ「にぶい」
リリィ「猫も」
猫「……」
レオン「猫は言っていない」
リュシアは楽しそうに笑った。
その笑顔は明るい。
けれど、レオンを見る目だけは少し特別だった。
優しくて、懐かしくて、少しだけ寂しそうで。
それに気づいていないのは、たぶんレオンだけだった。
マーサはリュシアを見て、少し目を細めた。
マーサ「それで、リュシアさん。今日はどうしてここへ?」
リュシア「ああ、そうだったわ」
リュシアは小さな鞄から、一通の封書を取り出した。
王城の紋章が入っている。
レオン「王城からか」
リュシア「ええ。王子殿下のギルド見学に関して、魔法面の安全確認を頼まれたの」
セシリア「なるほど。見学中に黒玻璃の使徒や黒晶獣関連の魔力反応が出た場合に備える、と」
リュシア「そういうこと。ついでに、王都周辺で出ている黒い結晶の解析も頼まれているわ」
レオン「王城経由で来たのか」
リュシア「正確には、王城に呼ばれたついでに、あなたに会いに来たの」
その言葉に、食堂の空気がまた止まった。
フィリアの笑顔がまた固まる。
セシリアの記録速度が上がる。
トトの目がさらに輝く。
レオンは普通にうなずいた。
レオン「そうか。わざわざ悪いな」
トト「そこ!?」
ガル「そこじゃねぇだろ」
ユアン「レオン兄ちゃん……」
エル「すごい」
リュシアは少しだけ肩を落とした。
リュシア「本当に変わってないわね」
レオン「何がだ」
リュシア「何でもないわ」
フィリア「本当に何でもないのでしょうか」
リュシア「さあ?」
フィリア「……」
セシリア「記録します」
レオン「もうやめろ」
マーサは手を叩いた。
ぱん、と乾いた音が食堂に響く。
マーサ「はいはい。立ち話はそこまで。来たなら座りなさい。スープを出すよ」
リュシア「まあ。噂のひだまりのスープ?」
トト「噂になってるの!?」
リュシア「王城で聞いたわ。親バカ疲れに効くとか」
レオン「陛下……」
マーサ「普通の野菜スープだけどね」
リュシア「普通が一番難しいのよ」
マーサ「いいこと言うね」
リュシアは食堂の椅子に座った。
自然な動作なのに、妙に絵になる。
トトはそれをじっと見ていた。
トト「……椅子に座るだけで強そう」
ガル「分かる」
ミリ「きらきら」
リリィ「大人魔法」
セシリア「大人魔法という分類はありません」
リュシアはスープを一口飲んだ。
その瞬間、少しだけ目を細めた。
リュシア「……おいしい」
マーサ「口に合ってよかった」
リュシア「懐かしい味がするわ」
レオン「マーサ先生のスープは昔からうまい」
リュシア「あなた、昔も同じ顔で食べていたわ」
レオン「どんな顔だ」
リュシア「安心した顔」
レオンは少しだけ黙った。
マーサも、静かに笑った。
リュシアは器を見つめる。
「昔のあなたは、どれだけ強くても、休むのが下手だったものね」
セシリア「今もです」
フィリア「今もです」
マーサ「今もだね」
トト「今も!」
レオン「……否定しづらいな」
リュシア「でも、ここでは少し休めているみたい」
その言葉は、からかいではなかった。
優しい声だった。
トトはそれを聞いて、少しだけリュシアを見る目を変えた。
この人は、ただ綺麗で強いだけではない。
レオンの昔を知っている。
そして、レオンのことを心配している。
たぶん、すごく。
トト「リュシアさん」
リュシア「なあに?」
トト「レオン兄ちゃんのこと、好きなの?」
食堂の時間が止まった。
完全に止まった。
ガル「お前っ!」
ユアン「早い」
エル「直球」
ミリ「すき?」
リリィ「猫も聞きたい」
フィリアの手がぴくりと動いた。
セシリアは無言で記録板を構えた。
マーサは「あらまあ」という顔をした。
レオンだけが、普通にスープを飲んでいる。
リュシアは、ほんの少し頬を赤くした。
だが、すぐに余裕の笑みに戻した。
リュシア「そうね。好きよ」
食堂がさらに止まった。
フィリアの笑顔が、明らかに固まった。
トト「言った!」
ガル「言ったな!」
セシリア「記録しました」
レオン「仲間としてだろう」
全員「……」
リュシアはスプーンを置いた。
そして、レオンをじっと見た。
リュシア「そういうことにしておきましょうか」
レオン「ああ」
トト「違うと思う!」
レオン「何がだ」
トト「違うと思う!」
レオン「二回言うな」
フィリア「リュシアさん」
リュシア「はい?」
フィリア「レオン様の健康管理は、私が担当しております」
リュシア「ええ。聞いたわ」
フィリア「無茶をした場合、治療と説教も私の担当です」
リュシア「では、魔力の異常があった場合は私が担当するわ」
フィリア「必要があれば」
リュシア「必要になると思うわ。あの人、どうせ自分の異常は隠すでしょう?」
フィリア「はい。隠します」
リュシア「でしょう?」
フィリア「そこは同意します」
二人はレオンを見た。
レオン「なぜ俺を見る」
フィリア「自覚してください」
リュシア「昔から変わっていないから」
セシリア「この点では、二人の意見が一致していますね」
トト「仲良し?」
ガル「違う気がする」
ユアン「でも同じ敵を見てる」
エル「敵、レオン?」
ミリ「レオン、敵?」
レオン「俺を敵にするな」
昼食後。
リュシアは孤児院の庭に出た。
子どもたちもついてくる。
もちろん、レオン、セシリア、フィリアも一緒だ。
リュシア「せっかくだから、少しだけ魔法を見せてあげましょうか」
トト「見たい!」
ガル「攻撃魔法?」
ユアン「危なくない?」
エル「黒焦げになる?」
ミリ「ほし」
リリィ「猫、飛ぶ?」
リュシア「危ない魔法は使わないわ。今日は星の灯りだけ」
リュシアが指を鳴らした。
ぱちん。
その瞬間、庭の上に小さな光が浮かんだ。
一つ。
二つ。
三つ。
青白い星のような光が、昼の空気の中にふわふわと浮かぶ。
子どもたちが息を呑んだ。
ミリ「ほし……」
リリィ「昼の星」
トト「すげぇ!」
ガル「本物?」
リュシア「魔力で作った小さな星よ。熱くないから大丈夫」
星の光はゆっくりと降りてきて、子どもたちの周りをくるくる回った。
ミリが手を伸ばす。
星は、ミリの指先にそっと触れて弾けた。
小さな光の粒が広がる。
ミリ「きらきら」
リリィ「猫にも」
猫の前に小さな星が降りる。
猫は前足でちょい、と触った。
星が弾ける。
猫は少し驚いて後ろへ下がった。
リリィ「猫、負けた」
トト「星に負けた!」
リュシアは楽しそうに笑った。
「昔、レオンもこれを見て同じ顔をしたわ」
レオン「俺は驚いていない」
リュシア「驚いていたわ。ほんの少しだけ」
レオン「覚えていない」
リュシア「私は覚えている」
その言い方が、また少し甘かった。
フィリアが静かに見ている。
セシリアが記録している。
マーサが玄関からそれを見て、楽しそうに笑っていた。
トトは星を見ながら言った。
トト「リュシアさん」
リュシア「なあに?」
トト「レオン兄ちゃんの昔話、いっぱい聞きたい」
レオン「聞かなくていい」
リュシア「いっぱい話せるわ」
レオン「話すな」
リュシア「たとえば、レオンが若い頃、子どもに泣かれて落ち込んだ話とか」
トト「聞きたい!」
ガル「聞きたい!」
ユアン「少し聞きたい」
エル「私も」
ミリ「聞く」
リリィ「猫も聞く」
レオン「全員乗るな」
リュシア「魔物より子どもの涙の方が苦手だったのよ、この人」
マーサ「今もだね」
フィリア「今もです」
セシリア「今もですね」
レオン「……否定しない」
トト「じゃあ、昔からレオン兄ちゃんはレオン兄ちゃんなんだ」
リュシアは少しだけ目を細めた。
「ええ。強くて、怖い顔で、不器用で、優しくて、無茶をして、誰かを守ることばかり考えていたわ」
その言葉に、庭が少し静かになった。
リュシアはレオンを見た。
「だから、放っておけなかった」
レオン「世話をかけたな」
リュシア「そういう意味じゃないのだけれど」
レオン「?」
リュシア「……まあ、いいわ」
トトが両手を腰に当てた。
トト「レオン兄ちゃん、やっぱり鈍い!」
レオン「またそれか」
セシリア「本日の記録、鈍感発言三回目です」
レオン「数えるな」
フィリア「私は四回だと思います」
リュシア「私は昔から数えているから、もう分からないわ」
レオン「そんなにか」
全員「そんなに」
夕方前。
リュシアは王城へ向かうことになった。
王子ルカのギルド見学について、魔法防護の打ち合わせがあるらしい。
門の前で、リュシアは子どもたちに手を振った。
トト「また来る?」
リュシア「ええ。スープがおいしかったから」
ミリ「すーぷ仲間」
リリィ「星すーぷ」
セシリア「また新語が」
リュシアはレオンの前に立った。
そして、少しだけ顔を近づける。
フィリアがぴくりと動く。
セシリアが記録板を構える。
トトが息を呑む。
レオンは普通に立っている。
リュシア「レオン」
レオン「なんだ」
リュシア「黒玻璃の使徒の件、私も手を貸すわ」
レオン「助かる」
リュシア「それと」
レオン「ああ」
リュシア「今度、ちゃんと二人で話しましょう」
また空気が止まる。
トトが小声で叫ぶ。
トト「二人で!」
ガル「おお」
フィリア「……二人で?」
リュシア「昔話と、これからの話をね」
レオン「黒晶獣の解析か」
リュシアは一瞬黙った。
それから、にっこり笑った。
「ええ。まずはそれでいいわ」
セシリア「まずは、ですか」
フィリア「まずは、ですね」
トト「やっぱり違うと思う!」
レオン「何がだ」
トト「もう!」
リュシアは楽しそうに笑いながら、門を出た。
その後ろ姿は綺麗で、強くて、少しだけ寂しそうだった。
レオンはその背中を見送る。
トトは隣に立って、じっと見ていた。
トト「レオン兄ちゃん」
レオン「なんだ」
トト「リュシアさん、レオン兄ちゃんのこと好きだよ」
レオン「仲間としてな」
トト「違うと思う!」
レオン「お前はそればかりだな」
トト「だって違うもん!」
レオンは首をかしげた。
本当に分かっていない顔だった。
セシリアが深く息を吐く。
フィリアは静かに笑っている。
マーサは楽しそうに肩を揺らしている。
ミリがぽつりと言った。
ミリ「恋すーぷ」
リリィ「始まった」
レオン「何が始まったんだ」
誰も答えなかった。
答えても、きっとレオンには伝わらないからだ。
その日の夕飯。
ひだまり孤児院では、リュシアの話でいっぱいになった。
トト「星の魔法、すごかった!」
ガル「昼なのに星が出たな」
ユアン「熱くなかった」
エル「綺麗だった」
ミリ「きらきら」
リリィ「猫、負けた」
マーサ「また賑やかな人が増えたね」
フィリア「そうですね。かなり」
セシリア「記録対象が増えました」
レオン「また記録か」
トト「レオン兄ちゃん、昔の仲間って他にもいるの?」
レオン「ああ」
ガル「みんな変わってる?」
レオン「普通だ」
セシリア「マスターの普通は信用できません」
全員「できません」
レオン「……」
トトはスープを飲みながら、にやにやしていた。
レオン「トト」
トト「なに?」
レオン「その顔は何だ」
トト「大人の話、面白いなって」
レオン「余計なことを考えるな」
トト「考えてないよ」
セシリア「考えている顔です」
ユアン「うん」
エル「考えてる」
ミリ「恋すーぷ」
リリィ「二杯目」
レオン「二杯目とは何だ」
マーサが笑いながら、レオンの器にスープをよそった。
マーサ「まあまあ。難しいことは置いておいて、食べな」
レオン「……ああ」
レオンはスープを飲んだ。
温かい。
いつもの味だ。
新しい仲間。
昔の仲間。
王城。
ギルド。
黒玻璃の使徒。
考えることは、また増えた。
けれど、今日のひだまり孤児院には、昼間の星の光がまだ残っているようだった。
トト「レオン兄ちゃん」
レオン「なんだ」
トト「リュシアさん、また来るかな?」
レオン「ああ。来るだろう」
トト「楽しみだね」
レオン「そうだな」
フィリア「……楽しみですね」
セシリア「記録します」
レオン「何をだ」
ミリ「恋すーぷ」
リリィ「星入り」
レオン「スープに星を入れるな」
食堂に笑い声が広がった。
こうして、ひだまり孤児院に新しい嵐がやって来た。
元Sランク魔法使い。
蒼星の魔導士、リュシア・アルヴェイン。
レオンの昔を知り、レオンを大切に想い、そしてその気持ちを周囲には隠せていない女性。
ただし。
肝心のレオンだけは、今日も何一つ気づいていなかった。




