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第二十話 石切り場の決戦


旧石切り場の下層に、黒い魔力が渦巻く。


黒角第三号が咆哮した。


岩壁が震え、足元の小石が跳ねる。

崩れかけた足場から、ぱらぱらと砂が落ちてきた。


黒角試験体・第三号。


巨大な四足獣。

岩のように厚い背中。

全身に生えた黒い結晶。

額には、無理やり埋め込まれた巨大な黒角。


そして胸の奥には、黒い中心核。


そこを壊せば、第三号は止まる。


レオン・ガルディアは剣を構えたまま、第三号の胸を見ていた。


セシリア「中心核は胸部! ただし、背中の補助結晶から魔力が流れ続けています!」


バルド「つまり、まず背中を削る!」


グレン「その間、突進を止める!」


レオン「ああ」


第三号の額の角が黒く光った。


セシリア「来ます!」


黒い衝撃波が放たれる。


グレンが盾を構えた。


真正面から受けるのではなく、斜めに構えて軌道を逸らす。


グレン「ぐっ……!」


それでも重い。


盾越しに腕が軋む。


バルドが横から踏み込む。


大斧に赤銅色のオーラが宿った。


第3段階、刃気纏装じんきてんそう


さらに、踏み込みの瞬間だけ全身のオーラが膨れ上がる。


第7段階、鬼神解放きじんかいほう


バルド「おおおおっ!」


大斧が第三号の前脚に叩き込まれた。


黒い結晶の鎧にひびが入る。


だが、深くは入らない。


バルド「硬ぇな!」


グレン「押さえる!」


グレンが盾で第三号の体を押す。


セシリアは封印札を五枚投げた。


札は空中で青白く光り、第三号の角、胸、前脚、背中へ貼りつく。


セシリア「封印、重ねます!」


第三号の動きが一瞬だけ鈍った。


レオン「開ける」


レオンが踏み込んだ。


第1段階、纏気覚醒てんきかくせい


筋力、反応、耐久を底上げする。


第2段階、戦気感応せんきかんのう


第三号の殺気、魔力の流れ、足場の揺れを読む。


第3段階、刃気纏装。


剣に灰色のオーラをまとわせる。


第4段階、裂空闘気れっくうとうき


オーラを薄い刃のように伸ばす。


レオンの剣が、第三号の胸を覆う黒い結晶の継ぎ目に入った。


力任せではない。


斬るべき場所だけを斬る。


細い線が走った。


次の瞬間、胸の黒い結晶が砕けた。


奥に、黒い中心核が見えた。


セシリア「中心核、露出!」


バルド「よし、終わらせろ!」


レオンがさらに踏み込もうとした、その時だった。


石切り場の空気が変わった。


第三号の魔力ではない。


もっと冷たい。

もっと細い。

もっと人間らしい悪意。


セシリア「新しい魔力反応! 上です!」


レオンが顔を上げる。


旧石切り場の上層。


崩れた石柱の上に、一人の男が立っていた。


黒い外套。

赤い角の紋章。

白い仮面。

手には、黒い結晶で作られた細い杖。


地下水路で逃げた黒外套とは違う。


だが、同じ組織の者だと分かる。


いや、格が違う。


その男の魔力は、明らかに黒晶獣を操る側のものだった。


???「第三号の核まで、ずいぶん早いな」


グレン「何者だ!」


男はゆっくりと仮面に手を当てた。


???「私は黒玻璃くろはりの使徒、幹部ラザル」


セシリア「黒玻璃の使徒……」


バルド「黒幕の幹部ってわけか」


ラザル「黒幕とは心外だ。我々は、世界の次の形を作っている」


レオン「子どもを材料にしてか」


ラザルは首をかしげた。


ラザル「材料? 違う。可能性だ」


その瞬間、レオンの目が冷えた。


怒鳴らない。

声を荒らげない。


ただ、低く言った。


レオン「黙れ」


ラザル「おお、怖い」


ラザルは笑った。


そして、杖を地面へ向ける。


かつん、と乾いた音が響いた。


次の瞬間、石切り場の地面が黒く光った。


セシリア「足元!」


レオン「全員、下がれ!」


だが、遅かった。


地面から黒い結晶の壁が一気に伸び上がる。


レオンと黒角第三号を囲むように、巨大な黒い壁が立ち上がった。


同時に、セシリア、バルド、グレンは外側へ切り離される。


戦場が、二つに分断された。


黒い壁の内側。


レオンと第三号。


黒い壁の外側。


セシリア、バルド、グレン。


そして、幹部ラザル。


セシリア「マスター!」


レオン「セシリア!」


声は届く。


だが、姿は見えない。


黒い壁は厚く、魔力を吸うようにうねっている。


ラザル「まずは分けよう。戦場を整えるのは基本だ」


バルド「てめぇ……!」


ラザル「レオン・ガルディアには第三号を。君たちには、私が相手をしよう」


グレン「セシリア、下がれ!」


セシリア「下がりません。支援します」


ラザル「いい判断だ。だが、判断がいいだけでは生き残れない」


ラザルが杖を振った。


空中に黒い結晶の刃が生まれる。


一本。

二本。

十本。

二十本。


それらが一斉に、セシリアたちへ飛んだ。


グレン「防ぐ!」


グレンが盾を前に出す。


結晶刃が盾に突き刺さる。


盾が大きく軋んだ。


バルドが大斧を振るい、横から飛んできた刃を叩き落とす。


バルド「数が多い!」


セシリアは封印札を投げた。


札が結晶刃に貼りつき、黒い魔力を弱める。


セシリア「黒晶獣より制御が細かいです! ただの魔物操作ではありません!」


ラザル「よく見えている。やはり副マスターは優秀だ」


セシリア「褒められても嬉しくありません」


ラザル「そうか。では、壊しがいがある」


ラザルの足元から、黒い結晶の鎖が伸びた。


鎖は地面を這い、セシリアの足元へ向かう。


バルド「させるか!」


バルドが大斧で鎖を断つ。


だが、切れた鎖はすぐに再生した。


バルド「再生すんのかよ!」


グレン「押さえる!」


グレンが盾を地面に叩きつけ、鎖の進行を止める。


セシリアは札を重ねた。


セシリア「封印、固定!」


青白い線が鎖に絡みつき、黒い動きを止める。


ラザル「ふむ。粘る」


バルド「まだまだだ!」


バルドの体から赤銅色のオーラが噴き上がる。


第7段階、鬼神解放。


バルドの場合、これは長く使える力ではない。


肉体に大きな反動が来る。


だから、踏み込みの一瞬だけ。


バルド「おらぁ!」


バルドがラザルへ突っ込む。


大斧が振り下ろされた。


ラザルは杖を横に構える。


黒い結晶の盾が生まれる。


大斧と結晶盾がぶつかった。


衝撃で空気が爆ぜる。


バルド「硬ぇ!」


ラザル「力はある。だが、荒い」


黒い結晶の槍が足元から突き上がる。


バルドは横へ飛んだ。


完全には避けきれず、腕に浅い傷が走る。


グレン「バルド!」


バルド「浅い!」


セシリア「無理に鬼神解放を続けないでください!」


バルド「分かってる!」


バルドは息を荒げた。


一瞬だけでも、反動はある。


それでも立っている。


一方、黒い壁の内側。


レオンは黒角第三号と向き合っていた。


第三号は暴走していた。


胸の核は露出している。


だが、ラザルが何かをしたのだろう。


全身の黒い結晶が異常に脈打ち、黒い霧が濃くなっている。


第三号は、もはや魔物というより、無理やり動かされている兵器だった。


レオン「捨て駒か」


第三号が突進する。


黒い角が正面から迫る。


レオンは横へ避けた。


第三号の角が石壁に突き刺さる。


岩壁が砕けた。


同時に、壁の向こうから音が聞こえる。


グレンの盾が軋む音。

バルドの大斧が結晶を叩く音。

セシリアの封印札が弾ける音。


そして、ラザルの余裕ある声。


レオンは目を細めた。


――まずい。


ラザルは強い。


セシリア、バルド、グレンの三人でも耐えている。

だが、長くは持たないだろう。


第三号に時間をかければ、向こうが崩れる。


レオンは剣を構え直した。


レオン「悪いが、すぐ終わらせる」


第三号が再び突進する。


黒い角が光る。


胸の核も脈打つ。


レオンは真正面に立った。


第1段階、纏気覚醒。


全身を強化。


第2段階、戦気感応。


第三号の突進の軌道、爪の動き、角に集まる魔力、胸の核の振動を読む。


第3段階、刃気纏装。


剣に灰色のオーラが宿る。


第4段階、裂空闘気。


刃の届く範囲が伸びる。


第5段階、護天気壁。


黒い霧を弾く薄い防壁を、自分の体の周囲に沿わせる。


そして。


レオンの全身から、灰色のオーラが一気に噴き上がった。


第7段階、鬼神解放きじんかいほう


普通の戦士なら、肉体の限界を無理やり超える危険な段階。


使えば反動が来る。

長く使えば体が壊れる。

バルドですら、一瞬ずつしか使えない。


だが、レオンは違う。


彼の特異体質は、鬼神解放の出力を受け止める。


筋肉が悲鳴を上げない。

骨が軋まない。

血管が裂けない。

呼吸も乱れない。


まるで、それが当たり前の段階であるかのように、レオンは第7段階を纏った。


レオン「行くぞ」


石切り場の空気が変わった。


第三号が突進するより早く、レオンが踏み込む。


足元の石が砕けた。


だが、レオンの体はぶれない。


第三号の爪が振り下ろされる。


レオンはそれを剣の腹で受け流す。


角が迫る。


半歩ずれる。


第三号の巨体が横を通り過ぎようとした瞬間、レオンはその腹下へ入った。


普通なら潰される距離。


だが、レオンの動きは迷いがない。


戦気感応で、第三号の動きはすべて読めている。


刃気纏装と裂空闘気を重ねた剣が、胸の核へ向かう。


第三号は黒い霧を噴き出し、レオンを弾こうとした。


だが、護天気壁がそれを弾く。


レオン「遅い」


剣が走った。


胸を覆う残りの結晶が、一息で斬り落とされる。


続けて、黒い核へ刃が入る。


力任せではない。


核を支える魔力の線を断つように。


一つ。

二つ。

三つ。


灰色の剣閃が、黒い中心核を刻んだ。


第三号が暴れようとする。


レオンは第7段階のまま、巨体の動きを押さえ込むように横へ回った。


反動はない。


焦りもない。


ただ、必要なことを最短で行う。


最後の一閃。


黒い核に、細い亀裂が走る。


レオン「終わりだ」


ぱきん、と音がした。


大きな爆発ではなかった。


ただ、小さな破裂音。


しかし、それだけで第三号の巨体から力が抜けた。


赤い目の光が消える。


黒い角から魔力が抜け、灰のように崩れていく。


第三号はゆっくりと傾き、地面へ倒れた。


石切り場全体が震える。


黒い霧が晴れていく。


レオンは剣を下ろした。


息は乱れていない。


肩の痛みも、戦闘に支障はない。


第7段階を使った反動は、やはりない。


レオンにとって、鬼神解放は切り札ではあっても、自滅技ではない。


壁の向こうから、セシリアの声が聞こえた。


セシリア「防ぎきれません!」


レオンの表情が変わる。


彼は黒い壁へ向き直った。


剣を構える。


鬼神解放はまだ解かない。


灰色のオーラが、静かに剣へ流れ込む。


レオン「どけ」


一閃。


黒い結晶の壁に線が入る。


二閃。


壁が大きくひび割れる。


三閃。


黒い壁が砕け散った。


その瞬間、レオンの目に映ったのは、絶体絶命の光景だった。


グレンの盾はひび割れている。


バルドは片膝をつき、腕から血を流している。


セシリアは最後の封印札を構えている。


その正面に、ラザル。


空中には、三十を超える黒い結晶刃。


ラザル「終わりだ」


結晶刃が一斉に放たれた。


セシリアは逃げない。


グレンが盾を上げる。


バルドが大斧を握る。


だが、防ぎきれない。


その時。


灰色の影が、三人の前に立った。


レオン「間に合ったな」


左手が前へ出る。


第5段階、護天気壁。


鬼神解放で高められたオーラが、巨大な壁となって広がる。


黒い結晶刃が次々と衝突した。


砕ける。


弾かれる。


消える。


セシリア「マスター……!」


バルド「遅ぇぞ」


グレン「いや、十分早い」


レオン「第三号は止めた」


ラザルの仮面の奥の目が、わずかに細くなる。


ラザル「……早すぎるな」


レオン「急いだからな」


ラザル「第三号を、あの短時間で処理したのか」


レオン「失敗作だったんだろう」


ラザルは少しだけ黙った。


それから、小さく笑う。


ラザル「なるほど。第7段階を反動なしで扱う肉体か。噂以上だ」


セシリアの目がレオンを見る。


レオン「お前の実験は終わりだ」


ラザル「終わり? いや、今日は始まりだ」


ラザルが杖を構える。


レオンは剣を構えた。


バルド「レオン、気をつけろ」


レオン「ああ」


セシリア「幹部です。黒晶獣とは違います」


レオン「分かっている」


ラザルの周囲に黒い結晶が浮かぶ。


結晶刃。

結晶槍。

結晶鎖。


そのすべてが、レオンへ向いた。


ラザル「君は本当に面白い。守るものが多く、怒りも深い。だが、その肉体はさらに興味深い」


レオン「興味で人を傷つけるな」


ラザル「研究とはそういうものだ」


レオンの足元から、灰色のオーラが静かに広がる。


覇圧領域。


ラザルの周囲の黒い結晶がわずかに揺れた。


ラザル「……重いな」


レオン「逃がさない」


レオンが踏み込んだ。


鬼神解放をまとったまま。


灰色の残像が走る。


ラザルは結晶盾を三枚重ねて出した。


レオンの剣が一枚目を割る。


二枚目を斬る。


三枚目にひびを入れる。


ラザルの顔がわずかに動いた。


ラザル「速い」


バルド「おいおい、俺の鬼神解放と別物じゃねぇか」


セシリア「マスターは反動を受けていません」


グレン「規格外だな」


ラザルは後ろへ跳びながら、黒い結晶鎖を放つ。


レオンは鎖を斬る。


だが、鎖は切られた先から分かれ、蛇のように伸びた。


セシリア「再生します!」


レオン「見えている」


レオンは鎖そのものではなく、地面に伸びていた魔力の根を斬った。


鎖が一瞬で崩れる。


ラザル「そこを斬るか」


レオン「斬るべき場所はそこだった」


ラザルの笑みが消えた。


その瞬間、ラザルの足元に黒い魔法陣が広がった。


セシリア「転移陣!」


レオンが踏み込む。


「逃がすか」


ラザルは自分の前に黒い結晶壁を連続で生やした。


一枚。

二枚。

三枚。

五枚。


レオンはそれを斬り進む。


鬼神解放の出力は落ちない。


反動もない。


結晶壁が次々に砕ける。


だが、ラザルは時間を稼ぐためだけに壁を出していた。


黒い霧が足元から広がる。


ラザル「今日はここまでだ」


レオン「まだ終わっていない」


裂空闘気。


灰色の斬撃が飛んだ。


ラザルの仮面をかすめる。


白い仮面の端が砕けた。


その下から、片目だけが見えた。


赤黒い瞳。


ラザル「次は、もっと良い実験場で会おう」


レオン「次はない」


ラザル「あるさ。君が守るものを持つ限り」


黒い霧が濃くなる。


レオンの剣が届く。


だが、ほんのわずかに遅い。


ラザルの姿が、黒い霧に溶けて消えた。


転移陣は、レオンの斬撃で砕かれる。


しかし、ラザルの本体はもういなかった。


セシリア「……逃げられました」


バルド「ちっ」


グレン「だが、こちらは全員生きている」


レオンはしばらく、ラザルが消えた場所を見ていた。


追えば、痕跡を探せたかもしれない。


だが、セシリアたちは傷ついている。


バルドも、グレンも消耗している。


今、追うべきではない。


レオンは剣を下ろした。


鬼神解放を解く。


体に反動はない。


だが、心に重いものは残った。


レオン「全員、生きているな」


セシリア「はい」


グレン「ああ」


バルド「なんとかな」


レオン「ふ、、、なら、いい」


セシリアはレオンを見た。


いつもなら、無茶を責める場面だった。


だが、今回は違う。


レオンは第三号を瞬殺した。

壁を砕いた。

三人を救った。

そして、ラザルを追わずに戻った。


判断は正しかった。


セシリア「マスター」


レオン「なんだ」


セシリア「今回は!!、怒りません…」


レオンは少しだけ目を瞬かせた。


バルド「珍しいな」


グレン「記録に残るな」


セシリア「残します」


レオン「残すのか」


セシリア「はい。正しい判断だったので」


バルド「俺は?」


セシリア「バルドさんは怒ります」


バルド「なんでだよ!」


セシリア「鬼神解放を反動込みで無理に使いました」


バルド「一瞬だけだろ!」


セシリア「一瞬でも反動はあります」


バルド「レオンはいいのかよ!」


セシリア「マスターは反動を受けません」


バルド「ずるくねぇか!?」


レオン「俺に言われても困る」


グレン「体質の差だな」


バルド「納得いかねぇ……」


セシリア「帰ったらフィリアさんに診てもらってください」


バルド「俺だけ怒られる流れか?」


レオン「たぶんそうだな」


バルド「くそっ!」


旧石切り場の黒い霧は、少しずつ晴れていった。


黒角第三号は動かない。


中心核は砕け、額の黒角も灰のように崩れている。


黒玻璃の使徒。


幹部ラザル。


敵は逃げた。


だが、第三号は止めた。


仲間も守った。


今日は、それで十分だった。


夕方。


ひだまり孤児院の門が見えた時、トトが真っ先に走ってきた。


トト「帰ってきた!」


ガル「ほんとに帰ってきた!」


ユアン「大丈夫?」


エル「怪我は?」


ミリ「すーぷ、あるよ」


リリィ「猫も待ってた」


フィリアがレオンの前に立つ。


その目は真剣だった。


フィリア「レオン様」


レオン「ただいま」


フィリア「怪我は?」


レオン「増えていない」


セシリア「第三号を単独で短時間撃破しました」


フィリア「単独で!?」


トト「えっ、無双したの!?」


バルド「無双した」


グレン「無茶ではなかった」


セシリア「必要な判断でした。第7段階を使用しましたが、マスターに反動はありません」


フィリアはレオンを見た。


たしかに、疲労はある。


だが、普通の第7使用後のような肉体損傷はない。


呼吸も安定している。


フィリアは小さく息を吐いた。


フィリア「……今回は怒りません」


レオン「そうか」


フィリア「ただし、確認はします」


レオン「分かった」


マーサが玄関から出てきた。


マーサ「帰ってきたね」


レオン「ああ」


マーサ「約束は守ったかい?」


レオン「守った」


セシリア「守りました」


グレン「守りました」


バルド「俺はちょっと怒られるかもしれん」


マーサ「それはあとで聞くよ」


バルド「やっぱりか」


マーサはレオンを見た。


そして、静かにうなずく。


マーサ「なら、怒らないよ」


トト「今日は怒られない日だ!」


ミリ「怒らない日」


リリィ「記録」


セシリア「記録します」


レオン「本当に記録するのか」


セシリア「はい」


トトはレオンの懐を見る。


トト「俺の『帰』の札、持ってた?」


レオンは小さな紙を取り出した。


少しだけ折れ目がついている。


だが、ちゃんと残っている。


レオン「ああ。持っていた」


トト「役に立った?」


レオン「役に立った」


トトの顔が明るくなる。


トト「やった!」


エル「帰ってきた」


ユアン「約束、守った」


ミリ「すーぷ、間に合った」


リリィ「猫も安心」


マーサ「ほら、全員手を洗いな。夕飯だよ」


食堂には、温かいスープの匂いが満ちていた。


レオンは椅子に座る。


今日は、誰も彼を叱らなかった。


無茶をしたからではない。


守るために必要なことをして、ちゃんと帰ってきたからだ。


トト「レオン兄ちゃん」


レオン「なんだ」


トト「今日の無双、あとで聞かせて」


レオン「無双ではない」


バルド「いや、あれは無双だ」


グレン「私もそう思う」


セシリア「記録上は、単独による迅速な小型掃討および第三号撃破です」


トト「それ、無双ってことじゃん!」


レオン「……そうなのか?」


ミリ「むそう」


リリィ「すーぷ無双」


レオン「すーぷは関係ない」


マーサがスープをよそいながら笑った。


マーサ「今日はいいんじゃないかい。ちゃんと帰ってきたんだから」


フィリア「はい。今日は怒りません」


セシリア「今日は褒めてもよい日です」


トト「じゃあ、ぴこん隊長、えらい!」


レオン「その呼び名はやめろ」


食堂に笑い声が広がった。


黒角第三号は倒れた。


黒玻璃の使徒の幹部ラザルは逃げた。


戦いは、まだ続く。


けれど、今日のレオンは怒られなかった。


ただ、帰ってきたことを喜ばれた。


そして彼は、静かに二杯目のスープを受け取った。


ミリ「第0段階、成功」


リリィ「すーぷ覚醒」


トト「帰還成功!」


レオンは小さく笑った。


レオン「ああ。帰還成功だ」


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