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第十七話 旧石切り場の黒角


王城から支援物資が届いたのは、翌朝のことだった。


ひだまり孤児院の前に、大きな荷馬車が三台止まる。


小麦袋。

豆。

干し肉。

薬草。

毛布。

薪。

修理用の木材。

石材。

釘。

屋根板。

そして、布で丁寧に包まれた簡易防護魔道具が三基。


それを見たトトは、目を輝かせた。


トト「宝だ!」


ガル「食料と資材だろ」


トト「つまり宝じゃん!」


ユアン「食べ物は宝」


ミリ「すーぷのもと」


リリィ「毛布も宝」


エル「寒くない」


ミナ「これで屋根もちゃんと直せるね」


マーサは荷物を見ながら、深く息を吐いた。


マーサ「……ありがたいね」


レオン・ガルディアは、荷馬車の横に立っていた。


右腕にはまだ包帯が巻かれている。

だが、昨日よりは少し動きがよくなっている。


フィリア・ローレンスが、鋭い目でそれを見ていた。


フィリア「レオン様。今、木材を持とうとしましたね」


レオン「位置を確認しただけだ」


フィリア「手が伸びていました」


セシリア「伸びていました」


トト「伸びてた!」


ミリ「のびてた」


リリィ「猫も見てた」


レオン「猫は見ていないだろう」


リリィ「見てた」


猫は門の上で丸くなっていた。


本当に見ていたかどうかは分からない。


だが、レオンは諦めた。


フィリア「今日は荷運び禁止です」


レオン「軽い物なら」


セシリア「禁止です」


マーサ「座らされる前に言うことを聞きな」


レオン「……分かった」


バルド・ロックスは、大きな木材を肩に担ぎながら笑った。


バルド「昨日は王城で怒られて、今日は荷物も持てねぇのか。大変だな、ぴこん隊長」


レオン「バルド」


バルド「悪かった」


トト「でも、ぴこん隊長のおかげで食べ物いっぱい来た!」


レオン「その呼び名はやめろ」


ユアン「でも、助かった」


エル「ありがとう」


ミリ「すーぷ守れる」


リリィ「毛布も」


その言葉に、レオンは少しだけ表情をやわらげた。


レオン「ああ。これでしばらくは大丈夫だ」


セシリア「ただし、全部を孤児院だけで使うわけではありません」


トト「外の子にも分けるんだよね?」


レオン「ああ」


ミナ「ひだまりを分ける場所」


マーサ「そうだよ」


マーサはうなずいた。


かつて三代目院長アリア・ベルが残した約束。


どんな時でも、子どもに空腹のまま眠らせないこと。

そして、ひだまりを外の誰かにも分けること。


王城から届いた物資は、その約束を続けるためのものだった。


トトは胸を張った。


トト「じゃあ、俺も手伝う!」


セシリア「まずは荷物の数を確認します」


トト「数か……」


ガル「逃げるなよ」


トト「逃げない! たぶん!」


ユアン「数なら俺も手伝う」


ミナ「じゃあ、一緒に数えよう」


エル「私も」


ミリ「いち、に、すーぷ」


フィリア「ミリちゃん、数字の途中にすーぷを入れないでください」


リリィ「猫は魚を数える」


セシリア「猫の分は支援物資に含まれていません」


リリィ「猫、残念」


荷物の仕分けで、孤児院は朝から祭りのようになった。


しかし、レオンたちには別の仕事があった。


旧石切り場の魔物討伐依頼。


王都北東にある古い石切り場で、黒い角を持つ大型魔物が目撃された。


黒晶獣かどうかは不明。

だが、黒い結晶の事件と無関係とは思えない。


レオンは門の横で、セシリア、バルド、グレンと地図を確認していた。


グレン・アシュフォードは、騎士団の軽装鎧を着ている。


グレン「偵察隊の報告では、旧石切り場の下層で魔物の群れを確認した」


セシリア「数は?」


グレン「小型が十数体。中型が三体。大型は一体らしき影だけ確認した」


バルド「大型か。そいつが黒い角持ちか?」


グレン「ああ。ただし、奥へ引っ込んで姿ははっきり見えていない」


レオン「今回は調査と周辺の掃討だ」


バルド「ボスを見つけたら?」


レオン「無理に突っ込まない」


セシリアがレオンを見た。


セシリア「本当ですか?」


レオン「本当だ」


グレン「珍しいな」


レオン「俺はいつも無理をしているわけじゃない」


セシリア「昨日一人で王城へ行った人の言葉とは思えません」


バルド「説得力が迷子だな」


レオンは何も言えなかった。


今回は、旧石切り場の全体把握が目的だった。


大型魔物が本当に黒晶獣なら、討伐には準備がいる。


それに、レオンの傷もまだ完全ではない。


フィリアは孤児院に残ることになった。


子どもたちの健康確認と、支援物資の薬の整理。

さらに、もし外から避難民や戦災孤児が来た場合の対応。


フィリアは不満そうだったが、役目の重さは理解していた。


フィリア「レオン様」


レオン「なんだ」


フィリア「無茶をしないでください」


レオン「ああ」


フィリア「本当に?」


レオン「本当に」


フィリア「傷が開いたら、治療確認一日五回です」


レオン「増えている」


セシリア「妥当ですね」


バルド「俺は嫌だな」


フィリア「バルドさんも対象です」


バルド「俺もかよ」


ミリ「ぴこん」


リリィ「ぴこん隊」


トト「ぴこん討伐隊だ!」


レオン「やめろ」


ガル「弱そうだな」


バルド「いや、逆に油断させられるかもしれん」


セシリア「正式名称にはしません」


マーサがレオンの前に立った。


マーサ「レオン」


レオン「分かっている」


マーサ「まだ何も言ってないよ」


レオン「相談して動く。無理に突っ込まない。帰ってくる」


マーサ「よろしい」


トト「レオン兄ちゃん、俺も言う!」


レオン「なんだ」


トト「逃げた敵を一人で追いかけない!」


ガル「いいな、それ」


ユアン「大事」


エル「帰ってくる」


ミリ「すーぷまで」


リリィ「夕飯まで」


レオン「……分かった。夕飯までに帰る」


セシリア「時間を守る努力もしてください」


バルド「無茶言うなよ。魔物相手だぞ」


セシリア「あなたも守ってください」


バルド「はい」


旧石切り場までは、王都から馬で半刻ほどだった。


かつては王城や貴族の屋敷に使う石材を切り出していた場所だという。


今はほとんど使われていない。


山肌を削った巨大な段差。

崩れかけた石の道。

古い滑車。

朽ちた木の足場。

深く掘られた下層。


石切り場は、まるで巨大な傷跡のように山の中腹に口を開けていた。


バルド「足場が悪いな」


グレン「ああ。部隊を入れにくい理由が分かるだろう」


セシリア「上層、中層、下層の三段構造ですね。下に行くほど逃げ道が少ない」


レオン「魔物が潜むには都合がいい」


セシリアは魔力探知用の小さな魔道具を取り出した。


青白い針が揺れる。


セシリア「魔力反応あり。黒晶反応は弱めですが、確かにあります」


バルド「黒晶獣で当たりか?」


セシリア「少なくとも、近いものはいます」


グレン「偵察隊は上層までしか入っていない。ここから先は慎重に進む」


レオンは黙って石切り場の奥を見た。


風が冷たい。


ただの山風ではない。


奥から、嫌な気配が流れてくる。


レオンは静かに息を吸う。


第1段階、纏気覚醒てんきかくせい


体の奥にオーラを巡らせ、筋力と反応を整える。


次に、感覚を広げる。


第2段階、戦気感応せんきかんのう


殺気。

敵意。

気配。


石の影。

崩れた足場の下。

古い採掘小屋の奥。


いくつもの小さな敵意が、こちらを見ている。


レオン「いる」


バルド「どこだ」


レオン「右の崖下に二体。左の小屋に三体。正面の石積みの裏に四体」


グレン「囲む気か」


セシリア「先に気づけてよかったです」


バルドは大斧を構えた。


レオン「小型だ。黒晶鼠に近い」


バルド「なら俺が行く」


グレン「左を押さえる」


セシリア「封印札を準備します」


レオン「無理に倒し切らなくていい。結晶だけ砕け」


バルド「分かってる」


次の瞬間、石積みの裏から黒い影が飛び出した。


黒晶鼠より大きい。


山犬ほどの体。

背中に小さな黒い結晶。

爪は長く、口から黒い息を漏らしている。


セシリア「黒晶犬。小型ですが俊敏です!」


黒晶犬が四方から飛びかかる。


バルドが前へ出た。


第3段階、刃気纏装じんきてんそう


大斧に赤銅色のオーラが宿る。


バルド「おらぁ!」


大斧の柄が一体目を横から弾き飛ばす。


続けて刃の腹で二体目の背中を叩く。


黒い結晶が砕けた。


グレンは盾を構え、左から来た二体を受け止める。


グレン「軽いが速い!」


セシリア「足元注意! 右下から来ます!」


封印札が飛ぶ。


黒晶犬の脚に絡むように青白い線が走り、動きが鈍る。


レオンは一歩だけ前へ出た。


剣を抜く。


灰色のオーラが刀身を包んだ。


黒晶犬が低く跳ぶ。


レオンの剣が静かに走る。


斬ったのは体ではない。


背中の結晶だけ。


結晶が割れ、黒晶犬は力を失って地面に転がった。


レオン「次」


崖下から二体が跳ね上がる。


石の壁を蹴り、レオンの背後へ回ろうとする。


だが、レオンは振り向く前に足を動かしていた。


戦気感応で、背後の殺気を読んでいる。


レオン「後ろだ」


振り返りざまの一閃。


一体の結晶が砕ける。


もう一体はグレンの盾に弾かれ、バルドの大斧の柄で押さえ込まれた。


セシリア「封印!」


札が貼りつき、黒い光が弱まる。


バルド「よし」


大斧が結晶を砕いた。


戦闘は短かった。


だが、石切り場にはまだ嫌な気配が残っている。


バルド「小手調べだな」


グレン「下層へ誘導されている気がする」


セシリア「同感です。小型がこちらを下へ追い込むように配置されています」


レオン「なら、誘導には乗らない」


バルド「どうする?」


レオン「横道を見る」


旧石切り場の中層には、古い作業坑道があった。


石材を運び出すための横穴だ。


入口は半分崩れているが、人一人なら通れる。


セシリアが魔道具を向ける。


セシリア「黒晶反応はこちらの方が強いです」


グレン「大型魔物は下層にいると思っていたが」


レオン「餌かもしれない」


バルド「下にでかいのを置いて、こっちを見逃させるってか」


セシリア「ありえます」


レオン「入るぞ。バルド、前。グレン、後ろ。セシリアは中央」


バルド「お前は?」


レオン「前寄り」


セシリア「傷が」


レオン「走らない」


バルド「信じられねぇな」


グレン「同感だ」


坑道の中は暗かった。


古い石の匂い。

湿った土。

そして、かすかに薬品の匂い。


地下水路で嗅いだものと似ていた。


セシリア「加工場と同じ匂いです」


レオン「ああ」


奥へ進むと、木箱がいくつか積まれていた。


黒い布で包まれている。


バルド「またか」


グレン「触るな。罠かもしれん」


セシリアが慎重に布をめくる。


中には、砕かれた黒い結晶の欠片が入っていた。


ただし、地下水路で見たものより小さい。


セシリア「試作品の残りか、失敗品ですね」


レオン「ここにも運び込んでいたか」


グレン「王都の近くに、いくつ拠点を作っているんだ」


バルド「胸くそ悪いな」


その時。


坑道の奥で、低い唸り声がした。


バルド「来るぞ」


暗闇の中から、二体の中型魔物が現れた。


山羊のような頭。

狼のような胴。

背中には黒い結晶。

そして、額には小さな黒い角が生えている。


セシリア「黒角獣。目撃された大型とは別個体です!」


グレン「中型でこれか」


黒角獣が地面を蹴った。


速さは黒晶犬以上。

重さもある。


狭い坑道では避けにくい。


バルド「俺が止める!」


バルドが前へ出る。


纏気覚醒で体を強化し、大斧を横に構える。


黒角獣の突進がぶつかった。


重い衝撃。


バルドの足が地面を削る。


バルド「ぐっ……!」


レオン「受けるな!」


バルド「受けちまった!」


グレンが横から盾で押し、黒角獣の体勢を崩す。


セシリア「角が魔力を集めています!」


黒角獣の額の角が黒く光る。


次の瞬間、黒い衝撃波が放たれた。


レオン「下がれ」


レオンが左手を前に出す。


第5段階、護天気壁ごてんきへき


灰色のオーラが壁のように広がる。


黒い衝撃波がそれにぶつかり、ばちんと音を立てた。


オーラの壁が揺れる。


レオンの肩に痛みが走る。


だが、壁は破れない。


セシリア「マスター!」


レオン「長くは受けない」


レオンは護天気壁を消し、すぐに踏み込んだ。


剣に刃気纏装。


さらにオーラを外へ流す。


第4段階、裂空闘気れっくうとうき


灰色の斬撃波が狭い坑道を走り、黒角獣の額の角をかすめる。


角にひびが入った。


バルド「今だな!」


バルドが大斧を振る。


一撃で角を砕いた。


黒角獣が悲鳴を上げる。


グレンが盾で押さえ、レオンが背中の結晶を斬る。


一体目が倒れた。


だが、二体目は壁を蹴って跳び、セシリアへ向かった。


セシリア「っ!」


グレンが間に合わない。


バルドも反応が遅れる。


レオンは地面を蹴った。


速い。


だが、転移のようなものではない。


ただ、鍛え上げた身体と戦気感応による先読み。


レオンはセシリアの前に滑り込み、黒角獣の爪を剣の腹で受け流した。


爪が石壁を削る。


レオン「セシリア、札を」


セシリア「はい!」


封印札が黒角獣の脚に貼りつく。


動きが鈍る。


レオン「バルド!」


バルド「おう!」


大斧の背が、黒角獣の角を叩き砕く。


続けてレオンの剣が背中の結晶を切り離す。


二体目も倒れた。


坑道に静けさが戻る。


セシリアは息を吐いた。


セシリア「助かりました」


レオン「ああ」


セシリア「ですが、肩に響きましたね?」


レオン「少しな」


セシリア「フィリアさんに報告します」


レオン「しなくていい」


セシリア「します」


バルド「諦めろ」


グレン「今回ばかりは言い逃れできん」


レオンは静かに目をそらした。


坑道の奥には、さらに小さな部屋があった。


元は作業員の休憩所だったのだろう。


朽ちた椅子。

割れた机。

古いランタン。


その中央に、新しい木箱が一つ置かれていた。


セシリアが慎重に近づく。


魔道具の針が強く揺れた。


セシリア「強い黒晶反応」


グレン「開けるぞ」


レオン「待て」


木箱の側面に、小さな印があった。


赤い角の紋章。


地下水路で逃げた男の外套にあったものと同じ。


バルド「当たりだな」


セシリア「開けます」


箱の中に入っていたのは、黒い角だった。


魔物の角ではない。


結晶を削って角の形にしたもの。


しかも、何本もある。


セシリア「これは……魔物の額に埋め込むための部品です」


グレン「黒い角の魔物を作っているということか」


レオン「旧石切り場は、実験場か」


セシリアはさらに箱の底を調べる。


そこに、折りたたまれた紙があった。


地図だ。


旧石切り場の下層が描かれている。


そして、最深部に赤い印。


その横に、短い文字。


『黒角試験体・第三号』


バルド「第三号ねぇ」


グレン「大型魔物のことか」


セシリア「おそらく」


レオンは地図を見た。


最深部。


狭い通路。

落石地帯。

逃げ道は少ない。


下手に踏み込めば危険だ。


レオン「今日はここまでだ」


バルド「いいのか?」


レオン「ああ。目的は調査だ。証拠も手に入った」


グレン「大型は放置するのか」


レオン「場所は分かった。準備してから行く」


セシリアは少しだけ驚いた顔をした。


セシリア「本当に無理をしないのですね」


レオン「約束した」


バルド「おお、成長してる」


グレン「マーサ殿の説教が効いたか」


レオン「……否定はしない」


その時。


坑道の外から、大きな咆哮が響いた。


石切り場全体が震える。


ばらばらと天井から砂が落ちた。


バルド「今のが第三号か?」


セシリア「大型反応、下層で活性化!」


グレン「こちらに気づいたか」


レオン「撤退する」


バルド「早いな」


レオン「ここで戦う場所じゃない」


セシリア「賛成です」


四人はすぐに坑道を出た。


外に出ると、石切り場の下層から黒い霧のようなものが上がっていた。


そして、その奥に影が見えた。


大きい。


黒い角。

厚い肩。

四足の獣。

岩のような背中。


はっきりした姿は見えない。


だが、ただの魔物ではないことは分かった。


その影が、こちらを見た。


赤い目が二つ、闇の中で光る。


空気が重くなる。


第6段階、覇圧領域に似た圧。


ただし、まだ距離がある。


それでも、普通の兵士なら膝をつくだろう。


バルド「……こいつは、準備してからだな」


グレン「ああ」


セシリア「下層の地形、結晶角、第三号。すべて報告が必要です」


レオンは影を見つめた。


手は剣にかかっている。


だが、抜かなかった。


トトと約束した。

マーサと約束した。

セシリアとも、フィリアとも約束した。


無理に突っ込まない。


帰ってくる。


レオン「戻るぞ」


黒い影が再び咆哮した。


それはまるで、挑発するような声だった。


だが、レオンは背を向けた。


バルドが少し笑う。


バルド「珍しいな。挑発に乗らないのか」


レオン「今日は夕飯までに帰る約束だ」


グレン「良い判断だ」


セシリア「非常に良い判断です。記録します」


レオン「記録しなくていい」


セシリア「します。これは貴重です」


四人は旧石切り場を離れた。


背後では、黒い角の大型魔物が下層の闇の中でうごめいている。


戦いはまだ終わっていない。


むしろ、本番はこれからだ。


夕方。


ひだまり孤児院に戻ると、子どもたちが門の前で待っていた。


トトが真っ先に走ってくる。


トト「帰ってきた!」


ガル「ほんとに夕飯前だ」


ユアン「約束守った」


エル「よかった」


ミリ「すーぷ、間に合った」


リリィ「猫も待ってた」


フィリアがレオンの肩を見る。


フィリア「怪我は?」


レオン「増えていない」


セシリア「肩に負担はかかりました」


フィリア「レオン様」


レオン「少しだけだ」


フィリア「後で見ます」


レオン「分かった」


マーサが食堂から顔を出す。


マーサ「ちゃんと帰ってきたね」


レオン「ああ」


マーサ「なら、まず手を洗って食べな」


バルド「俺もか?」


マーサ「全員だよ」


バルド「へいへい」


トトはレオンの横に並んだ。


トト「魔物、倒した?」


レオン「小さいのは倒した」


トト「大きいのは?」


レオン「今日は倒していない」


トト「なんで?」


レオン「準備が必要だったからだ」


トトは少しだけ驚いた顔をした。


それから、真面目にうなずく。


トト「無理に突っ込まなかったんだ」


レオン「ああ」


トト「えらい!」


レオン「俺が褒められるのか」


トト「約束守ったから!」


ガル「ぴこん隊長、成長したな」


ミリ「えらい」


リリィ「すーぷ隊長、帰還」


セシリア「確かに、今日は褒めてよいと思います」


フィリア「ただし治療確認はします」


マーサ「おかわりもあるよ」


レオンは少しだけ笑った。


レオン「ああ。今日は食べる」


トト「第0段階!」


ミリ「すーぷ覚醒」


バルド「明日のためにも食っとけ」


グレン「同感だ」


セシリア「明日は作戦会議です」


フィリア「その前に睡眠です」


マーサ「その前に夕飯だよ」


食堂に、いつもの声が戻る。


その夜。


机の上には、旧石切り場で見つかった地図が広げられていた。


『黒角試験体・第三号』


レオン、セシリア、バルド、グレンは、それを囲んでいた。


フィリアは少し離れた場所で、レオンの包帯を替えている。


トトたちは、遠くからちらちらと地図を見ていたが、マーサに寝るよう言われていた。


セシリア「第三号は、今までの黒晶獣より完成度が高い可能性があります」


グレン「地形も敵に有利だ」


バルド「真正面から行けば、こっちが不利だな」


レオン「ああ。だから作戦を立てる」


セシリア「本当に成長しましたね」


レオン「何度も言うな」


フィリア「良いことです」


マーサ「そうだよ。強いからって、毎回突っ込めばいいわけじゃない」


レオン「分かっている」


セシリアは地図の最深部を指した。


セシリア「次は、ここが戦場になります」


黒い角の大型魔物。


第三号。


旧石切り場の最深部で待つもの。


それは、今までの黒晶獣とは違う。


レオンは地図を見つめた。


今回は、まだ本気を出す時ではない。


だが、次は分からない。


彼は静かに息を吐いた。


レオン「次で止める」


その声は静かだった。


だが、そこに迷いはなかった。


外では、修理された看板が夜風に揺れていた。


ひだまり孤児院。


太陽。

猫。

スープ。


守るべき場所は、ここにある。


だからレオンは、次の戦いへ向かう。


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