第十話 無期限ボランティア
ひだまり孤児院の朝は、いつも騒がしい。
小さな子どもが廊下を走る音。
食堂から聞こえる食器の音。
庭で洗濯物を干すミナの声。
井戸の近くでガルが水を汲む音。
そして、トトがマーサに叱られる声。
マーサ「トト! 顔を洗ったのかい?」
トト「洗った!」
マーサ「じゃあ、なぜ鼻の横に泥がついてるんだい?」
トト「これは……昨日の名残り?」
マーサ「今すぐ洗ってきな」
トト「はい!」
今日も、いつも通りの朝だった。
少なくとも、玄関の扉が勢いよく開くまでは。
フィリア「おはようございます、ひだまり孤児院の皆さん!」
食堂にいた全員が、ぴたりと動きを止めた。
玄関に立っていたのは、王都治療院所属の治癒師、フィリア・ローレンスだった。
淡い金色の髪をきれいにまとめ、白い治癒師服の上に作業用のエプロンをつけている。
背中には薬箱。
両手には大きな荷物。
顔には、朝日より明るい笑顔が浮かんでいた。
トト「フィリア姉ちゃん!」
フィリア「トトくん、おはようございます!」
トト「今日もレオン兄ちゃんに会いに来たの?」
フィリア「もちろんです!」
セシリア「そこは否定してください」
食堂の入口には、なぜかセシリアも立っていた。
フィリアの後ろから、疲れた顔で入ってくる。
マーサ「セシリアまで。朝早くからどうしたんだい?」
セシリア「フィリアさんが、王都治療院から大量の荷物を持ってこちらへ向かったと聞きまして。嫌な予感がしたので確認に来ました」
フィリア「嫌な予感ではありません。善意です!」
セシリア「善意ほど、手続きが必要です」
フィリア「手続きなら済ませました!」
セシリア「……それが一番嫌な予感です」
マーサはフィリアの荷物を見る。
中には包帯、薬瓶、消毒液、子ども用の甘い薬、乾燥薬草、体温を測る小さな魔道具まで入っていた。
マーサ「これはまた、ずいぶん持ってきたね」
フィリア「はい! 子どもたちの健康管理に必要なものを、治療院の許可を得て持参しました」
ミナ「健康管理?」
フィリア「はい。昨日、こちらの子どもたちを見て思いました。栄養不足、軽い風邪、古傷、疲労、不眠。すぐ治療が必要な子だけでなく、日常的な見守りが必要です」
マーサの表情が少しだけ真面目になる。
マーサ「……そこまで分かるのかい」
フィリア「治癒師ですから」
その声は、いつもの浮かれたものではなかった。
王都治療院の治癒師として、きちんと子どもたちを見ている声だった。
マーサはしばらくフィリアを見つめた。
そして、ゆっくりうなずく。
マーサ「それなら助かるよ。正直、手が足りていなかったからね」
フィリア「ありがとうございます!」
トト「じゃあ、フィリア姉ちゃん、今日は何するの?」
フィリア「まずは全員の健康確認です。その後、薬棚の整理、古い包帯の交換、食事内容の確認、寝具の確認、それから子どもたちの手洗い指導をします」
トト「手洗い指導……」
トトはそっと後ずさった。
フィリア「トトくん」
トト「はい」
フィリア「手を見せてください」
トト「今?」
フィリア「今です」
トトはゆっくり手を出した。
フィリアはにこにこしながら、その手を見た。
フィリア「爪の間に泥がありますね」
トト「少しだけ」
マーサ「やっぱりね」
フィリア「まずトトくんからです」
トト「なんで俺から!?」
セシリア「代表です」
ガル「問題児代表だな」
トト「ガルだって爪汚れてるだろ!」
ガル「俺は水汲みしてたからな」
フィリア「では、ガルくんも後で」
ガル「……俺もか」
ミナ「みんなちゃんとやろうね」
リリィ「手、きれいにするとスープおいしい?」
フィリア「はい。お腹を壊しにくくなります」
リリィ「じゃあ、やる」
トト「リリィが一番えらい……」
その頃、レオン・ガルディアは王都冒険者ギルド本部で書類を片付けていた。
いや、片付けようとしていた。
机の上には、昨日から増え続けている書類が積まれている。
偽依頼書の調査。
黒い結晶の記録。
第七倉庫の子どもたちの受け入れ。
禁忌の森の追加報告。
孤児院への食糧支援の確認。
レオン「……今日は孤児院に早く寄る」
セシリアはいない。
普段なら、すぐ隣から「その前に書類です」と返ってくるはずだった。
だが今日は、その声がない。
レオンは少しだけ周囲を見た。
静かだった。
――珍しいな。
静かすぎる。
そう思った時、執務室の扉が開いた。
バルド「よう」
レオン「バルドか」
バルド「セシリアは?」
レオン「いない」
バルド「珍しいな。逃げたか?」
レオン「セシリアは逃げない」
バルド「じゃあ、お前を探しに孤児院か?」
レオン「なぜ孤児院」
バルド「さっき、治療院の嬢ちゃんが荷物抱えてそっちに向かったって聞いたぞ」
レオンの手が止まった。
レオン「フィリアが?」
バルド「ああ。で、セシリアが追いかけた」
レオン「……」
レオンは無言で立ち上がった。
バルド「おい、どこ行く」
レオン「孤児院だ」
バルド「書類は?」
レオン「緊急事態だ」
バルド「フィリア嬢が孤児院に行っただけだろ」
レオン「だから緊急事態だ」
バルドは笑いをこらえた。
バルド「魔紋大蜘蛛より怖ぇか?」
レオン「種類が違う」
レオンは外套を羽織り、早足でギルドを出た。
その顔は、禁忌の森へ向かった時よりも少し険しかった。
――なぜフィリアが孤児院へ。
治療のためならありがたい。
子どもたちにとっても助かる。
それは分かっている。
分かっているが、問題はそこではない。
フィリアはレオンに対する好意をまったく隠さない。
孤児院にはトトがいる。
トトは余計なことを聞く。
ガルは余計なことを言う。
マーサ先生は面白がる可能性がある。
そしてセシリアは、おそらく全部を冷静に記録する。
――まずい。
レオンは歩く速度を上げた。
ひだまり孤児院に着くと、庭ではすでに謎の光景が広がっていた。
トト、ガル、ユアンが井戸の前に並んでいる。
その前で、フィリアが真剣な顔で手洗いの説明をしていた。
フィリア「爪の間、指の間、手首まで洗います。特に食事の前と外から帰った後は必ずです」
トト「手首まで!?」
フィリア「はい」
ガル「面倒くせぇ」
フィリア「病気になる方が面倒です」
ガル「……それはそう」
ユアン「水、冷たい」
フィリア「冬は温めた水を使いましょう。今日は少し我慢してください」
ユアン「うん」
レオンは庭の入口で立ち止まった。
子どもたちは、意外にも素直にフィリアの言うことを聞いていた。
ミナは洗濯物を干しながら感心している。
リリィは手を洗い終えて、両手を太陽にかざしている。
エルはミリの隣で、静かにフィリアの説明を聞いていた。
フィリア「エルちゃん、傷のところは強くこすらないでくださいね」
エル「うん」
フィリア「ミリちゃんはまだ熱が下がりきっていないので、今日は外遊びは短めです」
ミリ「すーぷは?」
フィリア「食べられます」
ミリ「よかった」
フィリアは優しく笑った。
その笑顔に、レオンは少しだけ言葉を失う。
――ちゃんと見ている。
ただ子どもに優しいだけではない。
状態を観察し、必要な注意をし、子どもが怖がらない言葉を選んでいる。
治癒師として、確かに頼れる。
その時、トトがレオンに気づいた。
トト「あ! レオン兄ちゃん!」
全員が振り返る。
フィリアの顔が一瞬で明るくなった。
フィリア「レオン様!」
レオン「……来ていたのか」
フィリア「はい! お邪魔しております!」
セシリア「マスター。来ると思っていました」
マーサ「ちょうどいいところに来たね」
レオン「何がちょうどいいんだ」
マーサ「フィリアが、子どもたちの体を見てくれているんだよ。助かってる」
レオン「ああ。それは分かる」
フィリア「レオン様に分かっていただけて嬉しいです!」
セシリア「今のは業務上の理解です」
フィリア「それでも嬉しいです!」
レオンは頭が痛くなりそうだった。
だが、子どもたちは楽しそうだった。
トト「フィリア姉ちゃん、すごいんだよ! 薬もあるし、手洗いも教えてくれるし、ミリの熱も見てくれるし!」
ガル「ちょっと細かいけどな」
ミナ「でも助かるよ。私たちだけだと気づけないこともあるし」
リリィ「フィリア、手があったかい」
エル「……薬、苦くない」
ミリ「すーぷ、食べていいって」
ユアン「妹を見てくれるなら、助かる」
レオンは子どもたちの声を聞き、静かに息を吐いた。
誰も嫌がっていない。
むしろ、フィリアの存在は孤児院にとって明らかに助けになっている。
ならば、レオンが言うべきことは一つだった。
レオン「フィリア」
フィリア「はい!」
レオン「子どもたちを見てくれて助かる」
フィリアは固まった。
その顔がみるみる赤くなる。
フィリア「レ、レオン様に……助かると……」
セシリア「治癒師としてです」
フィリア「分かっています! でも嬉しいです!」
マーサ「素直な子だね」
セシリア「素直すぎます」
トト「フィリア姉ちゃん、レオン兄ちゃんのこと好きすぎじゃない?」
フィリア「はい!」
レオン「即答するな」
ガル「はっきりしてんな」
ミナ「すごいね……」
リリィ「好きは元気」
ミリ「すき?」
エル「……たぶん、あったかいやつ」
トト「エル、それたぶん違う」
庭に笑い声が広がった。
レオンはその中心で、何とも言えない顔をしていた。
その後、フィリアは食堂の薬棚を確認し始めた。
マーサが昔から使っていた薬草の瓶、包帯、消毒液、痛み止め。
どれも貴重だが、古いものも多い。
フィリア「この薬草は、もう効き目がかなり落ちています」
マーサ「やっぱりかい」
フィリア「こちらの包帯は煮沸すれば使えます。でも、傷口に直接使うのは避けた方がいいです」
ミナ「煮沸?」
フィリア「お湯でしっかり煮て、きれいにすることです。後で一緒にやりましょう」
ミナ「はい」
セシリア「記録しておきます」
レオン「なぜセシリアまで自然に手伝っている」
セシリア「来てしまった以上、何もしない方が落ち着きません」
レオン「そうか」
セシリア「それに、孤児院の健康管理表を作る必要があります」
レオン「健康管理表」
セシリア「名前、年齢、体調、持病、怪我、食事量、睡眠状態。最低限は必要です」
レオン「……書類が増えるな」
セシリア「子どもたちのためです」
レオン「やる」
セシリア「即答ですね」
レオン「子どもたちのためならな」
フィリア「レオン様……!」
セシリア「惚れ直さないでください」
フィリア「もう何度でも惚れ直します!」
レオン「作業を続けてくれ」
フィリア「はい!」
フィリアは本当に手際が良かった。
薬棚を整理し、ミナに包帯の扱いを教え、ガルに水桶の清掃を頼み、トトに手洗い表を貼らせる。
トト「俺、字ちょっと読めるよ!」
フィリア「では、この『食事の前』というところを読んでみてください」
トト「しょく……じ……の、まえ」
フィリア「正解です!」
トト「やった!」
レオン「読めたな」
トト「レオン兄ちゃん! 俺、読めた!」
レオン「ああ。偉いぞ」
トトは嬉しそうに胸を張った。
フィリアはその様子を見て、にこにこしている。
フィリア「レオン様は褒め方が優しいですね」
レオン「普通だ」
マーサ「この子は昔から、子どものことになると柔らかくなるんだよ」
レオン「マーサ先生」
マーサ「本当のことだろう」
フィリア「素敵です!」
レオン「……」
セシリア「逃げ場がありませんね」
レオン「助けてくれ」
セシリア「業務外です」
昼になると、フィリアはそのまま食堂にいた。
マーサの手伝いをし、子どもたちの食事量を見て、ミリには少し柔らかいものを用意した。
レオンは食堂の隅で、それを眺めていた。
フィリア「ミリちゃんは今日は少しずつ。無理に全部食べなくていいです」
ミリ「すーぷ、ぜんぶ食べたい」
フィリア「ゆっくりなら大丈夫ですよ」
ユアン「俺の分、少しやる」
フィリア「ユアンくんは自分の分も食べてください。あなたも栄養が足りていません」
ユアン「……はい」
トト「フィリア姉ちゃん、マーサ先生みたい」
ガル「二人に怒られるのきついな」
マーサ「何か言ったかい?」
ガル「何も」
フィリア「ガルくん、あとで膝の古傷を見せてくださいね」
ガル「なんで分かった」
フィリア「歩き方が少しだけかばっています」
ガルは黙った。
レオンは少し驚いた。
ガルの古傷には、レオンも気づいていた。
だが、フィリアは半日も経たずにそれを見抜いた。
――腕は確かだな。
それは認めるしかない。
昼食後、子どもたちは少し休憩に入った。
フィリアは食堂の机に健康管理表を広げ、セシリアと一緒に記録をまとめている。
マーサは台所で食器を片付けていた。
レオンはようやく、フィリアに声をかけた。
レオン「フィリア」
フィリア「はい、レオン様!」
レオン「今日は助かった」
フィリア「はい!」
レオン「治療院の仕事もあるだろう。無理はするな」
フィリア「大丈夫です!」
レオン「大丈夫ではない時は、そう言うものだ」
フィリア「本当に大丈夫です。治療院には申請済みですから」
レオン「申請?」
セシリアの手が止まった。
マーサも台所から顔を出す。
フィリアはにこやかに言った。
フィリア「はい。私は今後、ひだまり孤児院の健康管理と治療支援を担当することになりました」
レオン「……今後?」
フィリア「はい!」
レオン「どれくらいの期間だ」
フィリア「今のところ、無期限です!」
食堂が静かになった。
トト「むきげん?」
ガル「ずっとってことだろ」
ミナ「ずっと?」
リリィ「フィリア、住む?」
フィリア「通いですが、必要なら泊まり込みも可能です!」
レオン「……」
レオンは動かなくなった。
まるで禁忌の森で巨大蜘蛛に囲まれた時よりも、深刻な顔をしていた。
セシリア「マスター?」
レオン「……無期限」
フィリア「はい!」
レオン「孤児院に」
フィリア「はい!」
レオン「フィリアが」
フィリア「はい!」
レオンはゆっくり椅子に座った。
その顔は、完全に絶望していた。
トト「レオン兄ちゃん?」
バルドがいれば腹を抱えて笑っていただろう。
セシリアは口元に手を当て、少しだけ視線を逸らした。
マーサは楽しそうに笑っている。
マーサ「よかったじゃないか、レオン。治癒師がいてくれるなんて、心強いよ」
レオン「それは、そうだが」
マーサ「子どもたちのためだよ」
レオン「……それは、そうだ」
フィリア「レオン様の大切な場所を、私も守りたいんです」
その言葉に、レオンは顔を上げた。
フィリアの表情は真剣だった。
浮かれた好意だけではない。
子どもたちを見て、孤児院を見て、ここに必要なことを考えた顔だった。
フィリア「もちろん、レオン様のおそばにいたい気持ちもあります!」
セシリア「最後の一言を我慢できませんか」
フィリア「できません!」
レオンはまた少し項垂れた。
――腕はいい。
子どもたちにも必要だ。
マーサ先生も助かる。
ミリやユアン、エルの体調も見てもらえる。
孤児院にとっては、間違いなくありがたい。
だが。
――俺の心が休まらない。
レオンは深く息を吐いた。
トト「レオン兄ちゃん、なんでそんな顔してるの?」
レオン「大人には、色々ある」
トト「フィリア姉ちゃんがいるの嫌なの?」
レオン「嫌ではない」
フィリア「本当ですか!?」
レオン「治療師としては助かる」
フィリア「ヒロインとしては?」
レオン「……治療師としては助かる」
トト「また逃げた!」
セシリア「今のは生存戦略です」
マーサ「レオン、諦めな」
レオン「何を」
マーサ「子どもたちに必要な人なら、ここでは受け入れる。それがひだまり孤児院だよ」
レオンは何も言い返せなかった。
その言葉は正しい。
ひだまり孤児院は、必要な人を追い出す場所ではない。
助けを必要とする子どもを受け入れる場所であり、助けようとする人もまた受け入れる場所だ。
フィリアが本気で子どもたちを見てくれるなら、拒む理由はない。
レオン「……分かった」
フィリア「!」
レオン「無理はするな。治療院の仕事と両立できない時は、必ず言え」
フィリア「はい!」
レオン「子どもたちを不安にさせるようなことはするな」
フィリア「もちろんです!」
レオン「俺の仕事場に無断で突撃するな」
フィリア「努力します!」
セシリア「その返事は信用できません」
レオン「俺もだ」
フィリア「では、気をつけます!」
マーサ「よし。決まりだね」
トト「フィリア姉ちゃん、ひだまり孤児院の仲間?」
フィリアは少し驚いた顔をした。
それから、嬉しそうに笑った。
フィリア「はい。仲間にしてもらえるなら、とても嬉しいです」
トト「じゃあ仲間!」
リリィ「仲間」
ミナ「よろしくお願いします、フィリアさん」
ガル「細かいこと言いすぎなければな」
フィリア「健康のために必要なことは言います」
ガル「だよな」
ユアン「ミリ、見てくれるなら……ありがとう」
エル「薬、苦くないなら、いい」
ミリ「フィリア、すーぷ食べる?」
フィリア「いただいてもいいですか?」
マーサ「もちろんだよ。働くなら食べな」
フィリア「はい!」
食堂に、また賑やかな空気が戻る。
その中で、レオンだけが少し遠い目をしていた。
――無期限。
その言葉が頭の中で何度も響く。
魔王軍の将と戦った時も、竜と向き合った時も、禁忌の森の大蜘蛛を見た時も、ここまで心が重くなったことはなかったかもしれない。
セシリアがそっと近づく。
セシリア「マスター」
レオン「なんだ」
セシリア「子どもたちのためです」
レオン「ああ」
セシリア「治癒師としては優秀です」
レオン「ああ」
セシリア「諦めましょう」
レオン「……ああ」
トト「レオン兄ちゃん、負けたの?」
レオン「何にだ」
トト「フィリア姉ちゃんに」
フィリア「勝ちましたか!?」
レオン「勝っていない」
マーサ「負けてもいないよ。家族が少し増えただけさ」
レオンはマーサを見る。
家族。
その言葉に、少しだけ胸の奥が静かになる。
フィリアは騒がしい。
好意がまっすぐすぎる。
レオンにとっては扱いづらい。
だが、子どもたちに必要なら。
ひだまり孤児院にとって助けになるなら。
受け入れるしかない。
レオンはゆっくり立ち上がった。
レオン「俺はギルドに戻る」
セシリア「書類が残っています」
レオン「分かっている」
フィリア「レオン様、お気をつけて!」
レオン「ああ」
フィリア「夕方またお会いできますか?」
レオン「……孤児院には寄る」
フィリア「では、お待ちしています!」
レオンは一瞬だけ足を止めた。
そして、静かに深呼吸した。
――帰る場所に、待っている人が増えた。
そう考えれば悪くない。
悪くないはずだ。
たぶん。
レオンは外へ出た。
空はよく晴れていた。
ひだまり孤児院の中からは、子どもたちの笑い声と、フィリアの明るい声が聞こえてくる。
レオンは王都冒険者ギルドへ向かって歩きながら、ぽつりと呟いた。
レオン「……魔王軍より、日常の方が手強いな」
その声は、少しだけ絶望していて。
けれど、少しだけ笑っていた。




