夢
「いいよ」
と快諾すると、昼の光が溢れる廊下の向こうに真希は消えてゆくのだった。その姿が、まるで、天界へ帰ってゆく人間離れした、光り輝く天使のようだった。自分もその仲間になれるかもしれない、と思うと、夏美のハートは鼓動を打ったのだった。
「あははは。何それ」
彼女の相談役の保健室の先生、真藤麻衣子は、長身の眼鏡をかけた、三十路くらいのサバサバした大人の女であった。彼女からしたら、夏美のことなんかは、子供の遊びに思えたことだろう。
「で、LINE交換とか、そういうのもしなかったの」
「もう。声をかけるのが精一杯で、胸が詰まっちゃって」
「待ってよ。もう。おかしい」
麻衣子は、笑いが止まらないようだった。夏美は、そこまで話して少し恥ずかしかった。それと同時に、先生に自分の本当のことを伝えなくてはいけないような気がしてきたのだった。もし、知ってしまったらどんな反応をするだろう。
「でも、良かったじゃない」
「うん」
「きっと良いお友達になれるよ」
「もし、お友達になれたら、死んでもいいかも」
「そうなんだ」
ふと、 麻衣子の声のトーンが少し低くなる。もちろん、冗談だったけれども、それを重く受け止めるような仕草にも思えた。クツクツとした笑いも、少し嘲るような感じにもなっている。しかし、夏美はそんな怪しげな先生に対して警戒心をなくしていたのであった。
その沈黙はほんの一瞬のはずだったが、夏美にはやけに長く感じられた。窓の外では風が校庭の砂をさらい、カーテンがわずかに揺れている。麻衣子は視線を外し、何かを測るように机の上の書類を整えた。その仕草が、さっきまでの軽さとは違う種類の距離を生んでいた。夏美は胸の奥に小さなざわめきを覚えながらも、言葉を飲み込んだ。
「さて、今日は触診しますからね」
急に、悪魔のような冷たい表情になったが、夏美は医者の顔になったのだなと思って、上着を脱いでブラジャーをつけたまま胸を張ったのだった。
「これじゃあ。わかんないじゃない。ブラジャーも脱いで。ほら」
「え?そこまでするんですか」
「当たり前でしょ。触診なんだから。あなたの今の体調は、少し変なのよ。急に眩暈を起こしたりしてね。ちゃんと診断しないと」




