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安宿(やすやど)  作者: ウィリアム輝夫
或るストーカーの肖像
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終劇


 ビル風が渦を巻く、屋上の端で私はなおも空に浮かぶ三人と向き合い、知美は微笑み、精神科医は静かに首を振り、吉介は変わらず手を差し出している、その距離は曖昧で、声は届かないのに意味だけが直接流れ込んでくる、私は思わず応じるように口を開き、言葉を交わす、ここに来れば終わるのか、それとも始まるのか、問いは宙に溶ける、足が一歩前に出そうになる、その瞬間、ポケットの中の冷たい感触に触れる、現実の硬さが指先に戻る、私はそれを取り出し、ためらいなく振るう、空に浮かぶ三人の像は裂けるように歪み、音もなく崩れ、風だけが残る、視界が一気に澄み、ただの空と遠い街並みが広がる、私は息を吸う、初めて肺が機能したように重い空気が流れ込む、助かったのだと理解しかけた瞬間、背後で短く切れた音が走る、警官の叫びはもう言葉になっていない、引き金は既に引かれている、世界がまた一瞬で遠のき、私はその場に崩れ落ちる、驚くほどあっけなく、何の余韻もなく、ただ意識だけが薄く広がりながら、さっきまでそこにいた三人の気配を探す、だがもう何もいない、空はただ空として広がっているだけで、私はその下で静かに途切れていく。涙が出るほど悲しげに、重厚な淡い気を漂わせて、ただ死臭だけが薄く広がりながら、さっきまでそこにいた三人の気配を探す、だがもう何もいない、魂はただ雲として広がっているだけで、私はその下で静かに途切れていく、それでもなお思考の残滓のようなものが微かに揺れ、あの瞬間に選び取ったはずの現実が本当にこちら側だったのかと疑いが滲む、痛みすら遅れてやってくることなく、ただ温度だけが抜け落ちていき、指先から順に世界との接続が断たれていく、最後に残るのは音でも光でもなく、空白に近い感覚で、それがじわじわと内側から広がり、やがて何もかもを均していく、知美の笑顔も、精神科医の視線も、吉介の差し出した手も、現実だった警官の影さえも同じ濃度で溶け合い、区別のつかない薄い層になっていく、そしてその層すらも剥がれ落ちる寸前、私はようやく理解しかける、選んだのではなく、ただ流れに押し出されただけだったのだと、その認識が形を結ぶより早く、すべてが静かに閉じた。

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