手紙の末尾
便箋の束の最後に、さらにもう一枚だけ紙が挟まっていた、さっきまでよりも字が荒れていて、ところどころインクが滲んでいる、書き直した跡も多く、迷いながら書いたのが分かる。「さっきの続きだ、これで最後にするつもりだ、何度も書いてるけど、やっぱりこれを書かないと終われない、俺はやっていない、本当にやっていない、あの夜のことを何度思い出しても、俺の手はあいつに触れてすらいない、距離はあったし、押すなんて動きもしていない、これは記憶の問題じゃない、確信として言える、俺はやっていない」「お前はたぶん、俺が自分を守るために都合よく記憶を作り替えてると思ってるかもしれないけど、違う、むしろ逆で、何度も疑った、自分がやったんじゃないかって、気づいてないだけで手を出してたんじゃないかって、でも何回考えてもそこには飛躍がある、どうやっても繋がらない、だからやっぱり違うんだ」「それでも怖いんだよ、何が本当で何が違うのか分からなくなる感じが、あの場所のことを思い出すと、風の音とか、足音とか、そういう細かいものばかり鮮明で、一番大事なところが抜けてるみたいで、それが余計に疑われる理由になるんだろうけど」「お前に責められるのは、正直きつい、でもそれは仕方ないとも思ってる、お前にとっては知美のことが全部だろうし、その相手が俺だったってだけで十分理由になる」「ただ、それでも言わせてくれ、俺はやっていない」「これで最後だ、これ以上同じことを書いても意味がないのは分かってる、でも書かずにいられなかった」「あと、もう、俺をストーキングするのはやめてくれ」最後の一行だけ、妙に整った字で書かれていて、そこだけが不自然なくらい静かだった。
「始まったわ」
私は床に座りながら手紙を指で撫でる。
「吉介。あんたがあたしをストーキングしているのに、いつもあんたは自分が追いかけられていると言い出すんだ。そして、また、CIAとCNNが自分を狙っていると言い出すんだ。FOXニュースも追いかけているとね。何であんたをつけ回すんだよ。アメリカの二大ネットワークがっ。この自意識過剰っ!」
と呟いたところで、私の声を彼には届かないだろう。近いうち、警察に行ってことのことを述べないといけない。今度は私の番だ。死ぬことに後悔はないが、あいつには殺されたくない。あいつは死んだ私の身体を蹂躙して家を焼いて自分も死ぬつもりだ。




