ニュース
翌日の朝、私は泣いている。親友だった知美が高い階段の上から突き落とされて死んだとのニュースを見て。テレビの画面はどこか現実感のない色をしていて、「事故か事件か不明」という言葉が繰り返されている。
映し出された階段は見覚えがあるようでないようで、輪郭がぼやけていた。「そんなはずないよ……」と声に出した瞬間、喉の奥がひりついた。知美はあんな場所に一人で行くような人じゃない。人混みが苦手で、暗いところも嫌いで、高いところなんてなおさらだった。なのにどうして、あんな場所で。
スマホが震え、同窓生たちのグループチャットの通知が次々と表示される。《見た?ニュース》《知美ってあの知美?》《昨日、誰かと一緒だったって話あるけど》その文字列を見た瞬間、指先が止まる。「誰かと?」私は昨日のことを思い出そうとする。最後に知美と話したのは一昨日の放課後で、いつも通りくだらない話をして笑って別れた、そのとき知美はほんの少しだけ何かを言いかけてやめた気がする。『ねえ、あのさ——やっぱいいや』その言葉が頭の中で何度も反響する。テレビの中の階段が急に現実味を帯びてくる。
あそこに知美はいた、そして突き落とされた。事故なんかじゃない。私はゆっくりとスマホを握りしめる。「……誰がやったの?」涙は止まらないのに、胸の奥には冷たいものが静かに広がっていく。悲しみの奥に、形を持たない疑いが確かに芽を出していた。
「あいつがやったに決まっている。マクドナルドの会話も盗聴されていたんだ。あいつはこれまで息を潜めていたけど、とうとう牙を剥き始めたんだわ。それもこれも、私が別れを決意したから……。でも、あいつと一緒に付き合い続けていたら、私は狂っていたと思う。あいつは、そんな危険な相手だった。そして、今、あいつは狂ってしまったんだわ」
そう考えると、何もかもが恐らしくなってしまって、仕事に行くこともできなくなってしまった。初めの一週間は、上司は色々言っていたが、私はずっと部屋の隅で体育座りをして、ブツブツ呟くのだった。あいつは、私を今度は狙っている。私を追い詰めて殺すつもりだ。わかっているんだ。あいつの手は……。このままだと、やられてしまう。何か手を考えなくてはならない。ふと、押し入れの戸を開けて、分厚い卒業アルバムに手を伸ばす。あいつの電話番号があったので、私はあいつに電話をしたのだった。




