恋文
『つまり、僕はあなたが好きなんですっ。後悔はさせませんよ。僕についてきてください。あなたを僕のものにしてください。僕のママになってください。戦争を止めてください。僕の姉になってください。与謝野晶子になってください。僕の妹でもいいです。なんでもいいです。待てよ。僕はあなたの女性性が好きになっているのかもしれない。いや、そんなことはないっ。なんなら性転換してください。僕は変わらずあなたのことを愛し続けます。………その際にペニスが欲しいというのなら、僕のをあげます……』
という激烈な文章で終わっていた。それから、圭子は、自分の周りに誰かの気配を常に感じるようになってしまったのだ。彼女の人生がそれだけ、あいつの方向に削られることになるのである。
圭子は身を避けたし姿をくらましたのであるが、吉介は、いつも追いかけてきて突き止めるのだった。ある日、明らかにドアの向こうに気配があったので、圭子が勢いよく開けると、彼は笑顔で遠ざかって街中に消えて行ったのであった。白いシャツにジーンズで特にモテないと言うこともなさそうなのに、貪欲そうな目で圭子を見つめているのであった。
電信柱の影からもよく圭子を見つめているのであった。友人の知美に、「もうこうなったら性転換しちゃおうか」というと、知美は「その前に警察を呼びましょうよ」と忠告してくれたのであった。何故、警察を呼ばないのか。
それに対応しての話なんだか、そうではないのだか、わからないのであるが、吉介はよく警官の後ろに立っていたりするのであった。それは明らかに、圭子を挑発しているのだ。その行動を見たら、圭子は「絶対に警察に呼ばないこと」に決めたのであった。どうしてだかはわからないが、これも彼の心理的なテクニックなのか。圭子の生活に、吉介はまとわりついてきたのである。
しかし、不思議なのは、吉介が現れたのは、高校を卒業して、四年後の大学を卒業して、圭子がオフィスレディになってからであった。オフィスレディという呼称も古いかもしれないが、圭子は、昭和の時代の本を読むのが好きなので、自分のことをオフィスレディと心の中で呼んでいた。
今、吉介は、やはり高校の同級生の知美の話によると、コンビニ夜勤のアルバイトをしているらしい。その店で、週五夜勤で働いて、ホラー小説の作家になろうとしているのらしい。
「無理に決まってるのにね」
というと、家の近所のマクドナルドの二階席で、知美はポテト片手に、笑い声をあげたのであった。圭子は、この言葉が吉介に届くのではないかとヒヤヒヤであった。




